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ぼくの人生で唯一、正しくセフレだったR子さんへ捧ぐ(その5 再会・海鮮居酒屋で①)

↓前回

ぼくは、家のトイレに入り、ドアを閉め鍵をかける。
スマホの画面ロックを解除し、LINEを開ける。


「元気?」の文字。

この数ヶ月間、「R子からもし返信が来たら、その文面はどんなか」について。
シミュレーションというか妄想は、脳内で続けてきた。

「既婚者のくせにナンパとか、やっぱあり得んわ」
という否定。

「彼氏とのことは心配いらないので!今後はブロックするね」
という拒絶。

この辺りの、世間的にごく普通の反応が頭をよぎりつづけた数ヶ月間だった。
(ばかりか、2回ぐらい、夢にも出てきたほどだ。)

でも、とも思う。
R子は、ルックスはまあわかりやすいとして、彼女の内面というか思考パターンとしても、「世間的にごく普通」という枠を多少はみ出ていると、あの3時間余りの中でぼくは見積もっていた、読み取っていた。

「元気?」

というメッセージを見て、ぼくの口から自然に、フウッと息を吐くような笑いがこぼれた。

なかなか良い返信じゃないか?

時は2019年年末。一週間前に観たM-1のぺこぱに衝撃を受け、大好きになっていた時期。とくれば、よぎった感情はやっぱり↓


(ぺこぱ、いまでも好き。応援してるぜ)

そう、悪くない。
悪くなさすぎる。
これは、「ある」……!
ぼくの内なる蛇が、頭をもたげる。

今の時刻は、13時01分。
くれたのが11時57分だから、今返しても即レスには当たらない。

というか、もしリアタイで気づいていても、例外的に即レスしていたと思う。

「嬉しくて、舞い上がって」からではない。

「長く未読にすると、ぼくが彼女をブロックしたんじゃ?と勘違いされるかもな、という懸念からだ。
もちろんその懸念が正解かなんてぼくは知らない。
いつでも、答えは、相手、ぼくなら女性側の、心で吹く風の中にあるから。

「元気だよー R子はどう?」

シンプルに返す。
飲みに行こうよ、とかは、まだだ。
おそらく、ラリーができるという確信と安心感からだ。

片付け物などをした後、スマホを見る。返信が来ていた。

「元気をわけてくれ」だと……!?

そうは書いていないけど。これはR子の「会おう」のメッセージだと解釈して、間違っていないはず。

こう来られたらもう、遠慮もためらいも、どっかへとバシルーラすべきだ。

「じゃ、飲むかね」

「なんなら今夜でも
別に今からでも、ぼくはいける
日時も場所も、あわせるんで任す〜」

2件ポンポンと送る。
ここはアクセルをグッと「踏む」ところだ。
この文脈なら、ウザくはないはず。
というか、これが求められているものに思えるまである。

その日の18時大宮に決まった。
店は、ぼくが任された。半個室の海鮮居酒屋を予約。
妻には、「Oが東京来てるって急に連絡があって、飲んでくる」
と嘘をつく。
(Oは学生時代から続く友人で、メディア関係で働いている。日本のどこかの地方支局勤務のことが多い。なので、この嘘がまかりとおってしまう。)

メジャーな待ち合わせ場所は避けたかったので、店内待ち合わせにする。
17時40分には着くように、早めに家を出た甲斐あって、その通り着く。
おお、すごい。半個室というけど、ほぼ個室だ。
「なるべく奥まった場所がいい」と、予約時に伝えてはいたが。
この店には職場の人たちとも来たことがあるけど、こんなおあつらえの席というか空間はこれまで知らなかった。店員さん、実にグッジョブ。

待っている時間、メニューを見たりしているふりをしつつ、もちろん内心はソワソワとして落ち着かない。
もう先に飲んでようかな?とか一瞬よぎるが、それはやめておく。
ふたりで再会を祝して乾杯している、今夜のハイライトともいうべきその画が心にある。
先に飲んじゃったら、その場面のマイナスにしかならない。

(どんな話の展開になるんだろうな……)
「今日のおすすめ」を眺めながら、考えていた。

俺軍司令官のぼくは、実は、結構流れまかせ派だ。
あまり強引に、ルートを踏んだり(会話の流れを方向づけたり)は、しない。
会話ってジャムセッション、相手のリズムありきだ、そう思ってるからだ。


ぼくからどっかの時間、どっかの会話の流れで、抑えたい点は2つだけ。

①「やれるって思った?」へのぼくの返答へのノーリアクション、そのココロ

②「元気を分けてくれ」発言のココロ

①も②も、自分なりの予想はある。

①は、「特段ぼくを必要としてなかったから」で、
②は、「多分彼氏関係」と踏んでいた。

でも、そうじゃないかもしれない。聞きたいは聞きたい。


ぼくの脳内の俺軍、夕闇に乗じて、R子城の陥落を再び企て、進軍中だ。
野営地で、武将や智将が、計略を検討し、準備を進めている。
7月の戦いの時よりも、あらゆる条件は良好といえる。
この戦地に立てる幸運を、司令官であるぼくはかみしめている。
傍目には、テーブルにひとりでいてメニュー眺めてるだけ、の感じで……。

R子からLINEが来て、
「いま向かってる!」
「駅の混雑すごい💦」
「23分遅れるかも」

これに「全然ゆっくりで!席は、入って左に進んだ奥地」と返す。
到着が2、3分遅れだろうが23分だろうが、無問題だ。
もう彼女が大宮のこの辺りにいるのかと考えると、そんだけで胸が高まる。

「おまたせ〜」
R子が現れる。
相変わらず綺麗な顔。
ぼく好みの体型。
髪は夏よりも伸びていて、色も明るくなっている。真ん中あたりからウェーブがかかっている。
ベージュの襟大きめPコートにマフラー、スキニージーンズ、ベージュ系のショルダーバッグを斜め掛けしている。

「お〜〜〜〜ひさびさ〜〜ってか、かわいい!おしゃれ。冬のR子お初〜〜」

「ちょっとやめて、家にあったのテキトーに来てきただけ」、マフラーを解きコートを脱ぐと、タイトな黒のVネックセーター。
Vの形は鈍角で、谷間は見えていないがデコルテは見えている。
体のラインも綺麗、と感じるけど、それはこの場では発しない。

7月のPRONTOでみたいに、ふたりともビールで乾杯。
刺身5点盛り、枝豆やエイヒレに冷やしトマト。そしてお約束として
「おしんこ盛り合わせ」
もチョイスして、R子と笑い合う。
雰囲気がガラっと変わっているとかはなくて。
ここまでのところ、7月の時から変わりないように、感じられる。

注文を終えると、まずは仕事が忙しかったかの話になる。
お互いのいる業界や職種については、前回も伝え合っていて、職場の人間関係の(同僚社員、後輩、上司ほかに対する)悩みも結構出てもいた。
ぼくの職場での立ち位置を引き合いに、経験からのアドバイスを、当時していた。
「その後どうなったのか、たまに気になってたよ」と、気遣い発言。

職場の人間関係は、その後マシになったこともあるし、相変わらずとかますますひどくなっていることなど、いろんなパターンがあるようだ。

うんうんと誠実げな顔をしてR子の訴えを聞きながら、ぼくは彼女の綺麗な顔を見て、ひとり楽しんでいた。

この場が実現したことへの、安堵感や幸福感にも包まれていた。
そして、

「この後、このセーター、脱がしちゃうかのかな……」

R子の言葉に相槌を打ち、うんうんと自然にうなづきつつも。
エロ・ガイ(タフ・ガイ風で)としては、当然ながら、悪い蛇みたく脳内で
「居酒屋の後」
の妄想が、ぐるぐるうごめいているのだった。

(つづく)

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