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三つ子の魂
昭和八年生まれの父は、9人兄弟の末っ子六男でした。
故郷では末っ子のことを「バッチ」「バッツ」「バッツッコ」などと称して、甘えん坊であるとか、我が儘であるとかそういったニュアンスを含んだ呼び方をします。
父(テルちゃん)とすぐ上の兄(ノンちゃん)の間には、二歳で亡くなった男の子があったそうです。幼子を亡くしたショックから、テルちゃんは必要以上に甘やかされ、真綿にくるむように大切にされたそうです。
祖母曰く、これほど気難しく、手のかかる子はなかったそうです。何をしてもグヤグヤ不平たらたらで、口が奢っていて、何を食べさせても良しということなく文句ばかり言う。身体が弱くて心配ばかりさせる。9歳まで、懐に潜り込んでおっぱいを吸っていたそうです。出ない乳の分は、毎日、コンデンスミルクの缶を買ってもらい、吸ったそうです。
そんなテルちゃんですから、当然のように、日中の家人が商売で忙しい時刻は、ノンちゃんが面倒をみます。ノンちゃんが学校に行くときは、テルちゃんもくっついて行くのです。昔はそんな登校風景が良くあったとのことです。テルちゃんは字も読めて、計算も出来て、小生意気で、しばしば授業を妨害して有名だったそうです。
ある日、テルちゃんは机の上の棚を探索していました。四歳だったそうです。何となく手に取ったおもちゃが、実はノンちゃんの貯金箱でした。何だろうといじっていると、パカッと壊れて中からお金がジャラジャラ出てくるではありませんか。それから何日か、駄菓子屋に通ってまんじゅうを食った食った食った。ある日、それが露見して、表のドブに逆さづりのお仕置きされたそうです。テルちゃんは、勝手にお金を使うのが悪いことだとは、知らなかったんだそうです。以来、何かモノがなくなったりして、不都合なことがあると、泥棒はテルちゃんの専売特許として、疑われてばかりいたそうです。
語り草になっているのは、テルちゃんとノンちゃんが喧嘩して、四歳も離れているから何をやってもかなうわけもなく、悔し紛れに叫んだテルちゃん。「俺が大人になって、ノンちゃんがお爺さんになったら仕返ししてやる!」こんな話を、いい加減、爺さんになってもされるんだから、たまりませんよね。
父は、60代で脳梗塞で倒れ、闘病が10年ほど続きました。母がお世話を頑張っていましたが、いつも不平たらたらで、口が奢っていて、手がかかりました。手がかかるのは、脳梗塞の後遺症ばかりではありません。生まれつきです。
父と母の結婚が決まったとき、祖母は母に「あんたのような天使のような人に、あんな悪い男が亭主になるとは気の毒だ。あの子をあんなに我が儘に育ててしまった母を許してけろ」と、手をさすって謝ったそうです。
謝ることはありません。
生まれつきです。