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夢なんか捨ててしまえと義母が言う

まだ息子が小学校に上がったばかりで
私の左手が麻痺していたころのこと
義母が突然訪ねてきて
私の左腕を心配していきました

なにしろいきなりだったので
居間のソファの前の
小さなテーブルを見られてしまいました

やりかけのネット企画のミニタペのアップリケ..…
手がけ始めたばかりだったシェットランドレース
お道具や素材や資料が山積みになっていました
手が使い物にならないなら
そんなのは片付けておけばよいものを
未練がましくというか
片付けるのも辛くて放置中でありましてね

義母はそれを見て怒り始めました

こたなものは見えなぐしてまれっ!!
こたなごどばりしてっから
首も痛める、腕も痛める
手術だの入院だのとなったら
子どもはなんとすんのっ!!
ワが元気だら泊まって助けるったって
どもなんね
おめほうの親だって
介護だれなんだれどもなんねすけな
こんな机のものはぶっつらがして捨ててしまれっ!
延々と続く..…

ごめんなさい
毎日遊んで暮らして
勝手に病気になってしまいました
心配だというのなら
どうか放っておいて下さい
口を開けば私はきっと
言わなくてもいいことまで吐き出してしまう
だから私は黙ってる
でも忘れない
その怒りを何十年もこね回している

情愛の濃さが、義母に言わせていると
わかっているのだけど
愛しているから殴ってもいいんだと
言われているようで
思考停止する
考えたら憎んでしまう


子どもが生まれたとき
喜々としてやってきた義母は

いや~、いがったなぁ
子どもを授がって、しかも男の子だして
あんたは夢があったかも知れねけど
もういいべ
そんなものは捨ててしまれ
子どもより大事なモノなんかねぇしてな

私の夢のはなしなんかしたことないですけど
一度だけ
壁に掛けていた私の絵をみた義母に
なぜ美大に進学しなかったか
聞かれたことがあっただけ
以来、義母は
私が夢を育て続けていると決めたらしい


もう少しさかのぼって..…
結婚して5年目くらいだったかな
義母には亭主に添わせたい人があったらしく
亭主がいきなり私を連れてきたもんで
その話はなくなり
その方は別の家に嫁ぎ次々に男の子を生んだとか
あの人と息子が結婚していたらと....…
笑い話にしようとしているけど
無理です
笑えません
それなら離縁をお申し出になればいいのに
そうは言わずにネチネチと
亭主のいないところでこぼすこぼすこぼす
それで気が晴れるんですかね

そうして、その辺にあった
私のキルトの巾着を手に取り
眺めに眺め
中身を取り出して
にこにこ愛想笑いして持って行ってしまう
それを友だちに自慢して
握って離さない人にそれを譲り
私にもっと作ってくれという

そもそもそれは
あなたのために作ったものではなかったし
小物はむしり取られるだけと知っているから
滅多に作らない
あなたに贈ったものはみんな
誰かにあげちゃったという
それは自由だけど
あまりいい気持にはならない
そんな時間なんてないんだから
手が麻痺して嬉しかったのは
その時だけだったかも知れない

言わせて頂けるなら
夢に近づくために手仕事をしていて
夢を捨てるなら
そもそも針仕事なんかしません


義母を見送って数年過ぎました
強烈な人で
好きなんだか嫌いなんだか
強いんだか弱いんだか
憎いんだか愛してるんだか
良くわからない人で
私はいつも困っていたけど
AB型だったって聞いて
なんだか腑に落ちたのでした


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