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子宝をあきらめて、犬を飼うことにした


結婚して12年。
家を建てて、落ち着いたころ。
ご縁があって犬をもらうことにしました。

いい加減、不妊治療にも嫌気が差して
夫とも医師とも相談して
排卵を促すような治療を止めました。
犬をもらったことと
子宝を諦めたことは
リンクしているように感じていました。
医師にホルモンの治療をやめると
更年期が始まると告げられました。

もらった犬は
扱いにくい7ヶ月のビーグルの子犬でした。
力が強すぎて散歩に連れ出すことができず、
つなぎっぱなしだったということでした。
吠えてうるさくて捨てたというのが実情のようでした。

私たち夫婦はこれまで行き場のなかった
感情がどっとあふれ出たみたいに
犬を可愛がりました。

元の飼い主が付けた名前がありましたが
私たちがその名前を呼んでも
振り向いてくれませんでした。
それでキルトと名付けることにしました。

名前を呼んで振り向いてもらえるようになるまで
かなり時間がかかりました。
撫でられたことも
抱っこされたこともなかったようでした。
撫でれば興奮して
人の手をガブガブ噛むような子でした。
噛み癖を直すために、苦労しました。

ビーグル犬の吠え声には特徴があります。
遠くまで響き渡る大音声。
それを美しいと感じるのだけど
団地の明け方、新聞配達のおじさんを嫌って
吠え狂うとなるとそれは問題で
それより前にキルト君を連れて
団地を抜け出さねばなりませんでした。

昼寝と散歩しかしていないような日々が続きました。
キルト君は元の飼い主を探し求めて
全力で歩き続けていたようでした。
あまりにも強く犬に引かれるために
(しつけの努力は報われませんでした)
手綱を握る手も肘もすぐに悲鳴を上げました。
両手がパンパンに張って
針を持つことも出来なくなりました。
実際、針を持つ時間さえろくにないのでした。
身体に巻き付けるベルトを用意し
それに手綱をつなぎ
腕の負担を減らすようにしました。

家の中にこもりっきりで
足腰の衰えを感じるような暮らしに比べれば
良いような気がしました。

半年以上過ぎて、気づいたら
歩くことがちっとも億劫ではなくなりました。
10キロくらい平気で歩くようになっていました。
いつしかキルト君は
名前を呼ばれれば振り向くようになりました。
グイグイ私を引っ張りながら歩き、
時々嬉しそうな顔をして私を振り仰いでいました。
おかあさん、お散歩楽しいねと言っているようでした。

そうなった頃に
左の脇腹にチカチカと弾けるような
ささやかな痛みがありました。
排卵痛です。
ホルモン治療に頼らず、
自力で排卵することが出来たなんて
本当に驚きました。
もしかしたら
これが最後の排卵かも知れないと思うと
涙がこぼれました。






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