誰も信用しない利己主義者の独白
俺にとっての理想的な社会は、
「あらゆる人間が互いに不信感を募らせ、騙し合い・裏切り合いを行う社会」だ。
もし理想的な社会が実現したら、俺はきっと孤独から解放されるだろう。
なぜそう思うようになったのか。
きっかけは、俺が子供の頃に実の母親から受けたネグレクトだ。
母親がしてくれたことといえば、「冷射士(れいじ)」という名前の命名と、俺の耳にピアスの穴を開けたことだけだった。
世間一般が思い描く「子供の名前をキラキラネームにする親」のイメージ通りだといえる。
母親は、俺を安物のアクセサリーのように扱い、飽きたから捨てたのだ。
俺は叔父夫婦の家で育てられた。
子供を授からなかった叔父夫婦は、俺を我が子のように扱った。
俺に愛情を注いだのは叔父夫婦だけではない。
毎晩のように家に遊びに来る叔父の友人達は、宴会の輪の中に俺を入れた。
ほとんど毎回、俺を宴会の主役にしたと言ってもいいだろう。
俺は思春期に入ると自分が同性愛者であることに気付いた。
その頃にはすっかり叔父夫婦やその友達に心を許していたが、俺は中々打ち明けらなかった。
一人で思い悩むこと半年。
遂に耐え切れなくなった俺は、ある日の真夜中に叔父夫婦を起こしカミングアウトした。
すると叔父は、
「ゲイだろうと何だろうと冷射士は冷射士。人の道を踏み外さない限り、俺達の可愛い息子だ」
と俺を抱きしめた。
俺はホッとしつつも、叔父夫婦の友達には秘密にするように頼んだ。
すると叔父は言下に断った。
「皆を信じてやれ。絶対に受け入れてくれるから」
とのことだった。
俺は渋々、叔父夫婦の友達にも打ち明けた。
中にはギョッとする者もいたが、大半は「別に病気じゃないんだしねぇ」と呑気だった。
その後、部屋に籠りがちだった俺はまた毎晩のように開かれる宴会に参加した。
余りにもあっけなく日常に戻ったので、肩透かしを食らった気分だった。
ある日、叔父たちは宴会の最中に余興として相撲を取った。
俺は親父から相手をするように言われ意気揚々と組み合った。
これが間違いだった。
互いの腰を密着させている内に俺の陰茎が膨らんだのだ。
叔父は感触でそれに気づき反射的に俺を突き飛ばした。
決定的な出来事だった。
いや、当時の俺はまだ心の片隅で人を信じていた。
とどめを刺したのは家出同然で上京し向かった新宿二丁目のとあるゲイバーでの出来事だ。
俺はそこにいた客に性に関する悩みを打ち明けた。
俺は叔父に裏切られた辛さを吐露しながら勧められるまま酒を煽り、気づくと掘られていた。
以降、自慰行為できなくなるほど性に関係することがトラウマになった。
自分の性を受け入れられなければ人への不信感が拭えないのに、性に触れさせられない。
俺は人を信じる手段を失った。
明け方に夢精と切れ痔の出血で汚れたパンツを広げる度に、俺は世の中への復讐を誓い直す。
(皆を俺と同じ不幸の底に叩き落としてやる)と。
【登場人物】