「昭和のバタークリームケーキ」エッセイ
先日、昭和を思い起こすバタークリームケーキを食べた。ベタッとした口あたりが子どもの頃は苦手だったのだが今はそれも懷しい。
昔ケーキと言えばバターだったのだが初めて生クリームに身を包んだものに出会った時は衝撃だった。見た目は真っ白いフワフワとした雪のように滑らかなコーティング。明らかに軽い重力。スポンジも柔らか仕立てに改良。口に入れるとほんのり甘く広がるクリーミーな味。溶けてなくなる感覚は夢見心地な気分にさせてくれた。その後も日本におけるケーキの進化は加速していく。イチゴ、メロン、オレンジ…なじみの果物がたっぷり。ゴロゴロした果実からジューシーな果汁が容赦なくスポンジに染入る。ケーキというものに初めて夢中になった。
ちょうど20数年前、韓国旅行へ行った時、ソウル市内のカフェに一人で立ち寄ったことを思い出す。二階のテラス席に座り、明洞の街並みを眺めていると注文をしたケーキが運ばれてきた。日本とは違うデコレーションに心が躍る。しかし一口食べた瞬間、思ったものとは違う違和感を覚えた。それは子どもの頃に食べたバタークリームだったからだ。その頃、韓国ではまだ生クリームは主流ではなかったことを後で知る。保存がきくバタークリームとは違って生クリームは食品技術の進歩、冷蔵庫の普及などが必要。その点では韓国は日本よりも20年ほど遅れていたのだった。歴史、文化、流行、宗教観などのカルチャーショックを次々に受けつつもそれもまた新鮮で楽しかった記憶が蘇る。近年ではドラマ、コスメ、アイドルなど韓国の発展は著しい。もう一度訪れてみたい国の一つである。
昭和のバタークリームケーキを食べると韓国の旅先を思い出す。そして大人になった私はそれを美味しく感じる。バターが口の中で練り込むように主張しつつ、ゆっくりと唾液と絡まってなくなっていく感覚も味わい深い。