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脚本解説『PHENOMENA』
この世で起きる事故・事件の元凶であり概念―「フェノメナ」。かつてフェノメナの事故によって、一度にして家族を失った大学生・諸星弥瑠(もろほしわたる)は、その時に手に入れたフェノメナの力で、今日も人知れず戦い、巻き込まれた人々を救っていた。
「全ての事故を防ぐことが出来なように、全てのフェノメナを倒すことなんてできない。だから俺は、出来るだけ多くの人を救いたい……」
しかし、そんな弥瑠の願いとは裏腹に、各地で事件を起こすフェノメナ。大勢を助けても、たった一人の大切な人を助けることが出来ないジレンマに、弥瑠はこの力の意味を問い始める。そして、自分とは相反する意思を以って力を振るうもう一人の能力者と相対した時、究極の選択が弥瑠の前に立ちはだかる―。
【作品リンク】
https://drive.google.com/file1mfqbazxuRhQN6h1RCcY8AD4vYDhT5eRU/view?usp=sharing
*以下、解説になりますが、ネタバレを過分に含んでおりますので、ぜひシナリオの方をご一読してからご覧くださいませ
1. 概要
・作成日:7月30日
・ページ数:90ページ
・文字数:40028文字
・所要期間:およそ1ヶ月
アニメ脚本(90分)を想定したオリジナル作品となります。また、『原作工房TMSLab(トムスラボ)』様にて、持ち込みさせていただきました。
2. タイトルの秘密
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本作のタイトルは『PHENOMENA』と書いて『フェノメナ』と読みます。英語で「現象」「事象」「驚異」「事件」などを意味する単語phenomenonの複数形phenomenaが由来となっています。
タイトルが表している通り、作中では様々な事故や事件が勃発します。正直、単数形でもよかったのですが、やはり事故事件は複数起きるものであるのと、複数形になると語尾が「a」になる英単語の響きが好きでこちらを採用しました(criterion→criteria然り、memorabile→memorabilia然り)。
また、PHENOMENAは作中に登場する事故・事件の概念「フェノメナ」のことも表しています。沢山の「○○のフェノメナ」が登場するので、やはり複数形にしたのは正しい選択でした。シンプルかつ、コンセプトを一言で表すことが出来るタイトルになっています。
タイトルロゴでは、シンプルな書体に、それぞれのアルファベットがフェノメナの被害を受けている様子を描いてみました。(左から『粉砕』、『崩壊』、『切断』、『折損』、『襲来』)
3. 着想
「鍛冶場の馬鹿力」という言葉はご存じだと思います。ただ、馬鹿力を奮って解決するだけじゃつまらないと思い、そこから、何かしらの事故・事件に巻き込まれ、大切なものを失ってから立ち上がる主人公、という設定に至りました。
また、敵と戦う際、主人公も敵と同様の力を持っていて欲しいと思い、そこから巻き込まれた事故・事件と同じ現象、そしてフェノメナが生まれました。本作のメインキャラである諸星弥瑠・東間龍仁・花奏剣丸の三人は、それぞれ大切な人を失ってから、フェノメナの力を得ています。
4. 描きたかった物
テーマとして、「大切なものをすぐに失ってしまう現実の理不尽さ」というものがあります。
生きていれば、誰かしら、または何かしら自分の大切な物やお気に入りの物を失う機会というのはあると思います。結局、人は死ねばすべて失うわけですし。
主人公たちも、家族や恋人などの大切な人を失った経験があります。しかも、一度や二度ではありません。フェノメナと戦う中で、助けられなかった人がいたり、あるいは再び大切な人を失ってしまいます。
むやみやたらに殺すのは好みませんが、出会い、友達になり、もしかしたら読者の皆様にとってもお気に入りのキャラクターが簡単に死んでしまう、という展開はこの「理不尽さ」というテーマをうまく表現できているのではないかと思います。
あともう一つ、これはテーマではなく作風の話になりますが、『呪術廻戦』『怪獣8号』『チェンソーマン』などのような現代バトルものを書いてみたいと思い、本作の案を練っていきました。主人公たちの住む街に具体的な言及はありませんが、秋葉原はちゃんと秋葉原です(?)
5. 個人的推しキャラ
私の推しキャラは、主人公の親友ポジであり全ての黒幕である東間龍仁です。彼こそ、テーマにある「理不尽さ」というものを体現していると思います。
彼は、かつて義理の妹であり恋人・東間岬綺を事故で失っています。ただ、凄惨な事故で劇的に散ったわけでは全くないのです。むしろ、本人の不注意ともとれるような死に方をしました。また、龍仁と岬綺は幸せになることが約束されていたのに、そんな矢先の死だったのです。
龍仁はそんな岬綺の死を「呆気ない死」「惨めな死」「みっともない死」と評しています。そして、やっと巡り合えた大切な人をこんな簡単に失ってしまうこの世界の理不尽さに絶望し、全てを諦めてしまいます。
ここで、彼の目的、フェノメナの力を使う理由が明確になるのです。主人公である弥瑠と龍仁は、同じ力を有していながら、全く異なる使い方をします。弥瑠は人間を守り、龍仁は人間を殺す……。同じ大切な人を失った者同士、同じ力を手に入れたもの同士のはずが、環境や考え方一つでこうも対照的な物になるのです。さらにこの二人に親友設定を付け加えることで、最後の最後にどんでん返しと、良い対照性を持って来れたと思います。
6. フェノメナについて
事故・事件を起こす元凶であり、概念です。そして、普通の人間にはそれを視認することは出来ません。なので、「あの時起きたあの事件もこの事件も、実はフェノメナの仕業だった!?」みたいに思ってくれればいいと思います(妖怪の仕業、みたいな感じです)。
作中には、様々なフェノメナが登場します。
『崩壊』『切断』『襲来』『爆発』『貫通』『粉砕』『焼失』『衝突』『折損』『横転』くらいでしょうか……?これらフェノメナの名前は、事故が起きた結果の様子や見た目などが由来になっています(火事が起きた後は焼け焦げて何もなくなる→『焼失』みたいなノリです)。
また、作中で起きる事故や事件は、全て規模が大きく映像にしたときに迫力があり見ていて飽きないようなものにしようと考えました。リアリティを追求しても良かったのですが、そうなるとしょぼくなるかなと思い……。なので最後は隕石まで降らせちゃったりして。初期は、龍仁が津波を『襲来』させるという構想もありました。
因みに見た目ですが、脚本内では言及していません。特に私の中で定まったものがあるわけでもありません。強いて言うならば、真っ黒なランプの魔人……、みたいな感じですかね?取り敢えず人型はしていると思います、腕とかト書きに書いてあるので。
逆に『衝突のフェノメナ』は人型ではなく、巨大なコマみたいな形をした物体が宙に浮いてるイメージでした。この違いは何なんでしょう(笑)
7. 小話
花奏剣丸の「花奏」は、楽器を奏でるところからきています。初期は、苗字ではなく名前が「かなで」だったりもしました。
そんな剣丸がピアノを弾くことになったきっかけですが、それは当時私が見ていたアニメの影響です。そうです、『四月は君の嘘』にどっぷりハマっておりました(以前noteで感想をまとめた記事も書きました)
仏頂面で口調も堅くガタイもいい人が、ピアノで繊細な音を奏でている……、ギャップを感じ採用しました。しかも戦う時は「ござる口調」になる……、いつの間にかギャップの塊みたいなキャラクターになっていました。
この作品は、6月くらいから書き始めました。「製作期間1ヶ月じゃないじゃん!」と思う方もいるかもしれませんが、これには深い事情が……。
丁度、「弥瑠が灯里とデートしている時に、『焼失のフェノメナ』の襲撃に遭う』当たりの展開を書いている時に、別でシナリオのコンクールが開かれていることを知りました。期限まで一ヶ月とちょっと……、折角なら挑戦してみよう!とのことで、一度『PHENOMENA』の執筆を中断して、他作品の執筆を行っていました。
ですので、弥瑠が『焼失のフェノメナ』を倒して灯里と交際を始めてから、一条と斉藤に驚かれるまでかなりのブランクがあります。弥瑠と灯里はその1ヶ月間何をしていたんでしょうね(笑)
なので、期間だけ見れば2か月くらいですが、実際の執筆期間はおおよそ1ヶ月という事になります。因みに、コンクール応募作品についても、ポートフォリオに載せることが出来るようになったら、こんな感じで解説書きたいと思ってます!
8. 終わりに
以上、『PHENOMENA』の解説でした。
大切な人を失い、それでも尚立ち上がった弥瑠たちの苦悩、そして選択を、最後まで見守ってあげてください。
《了》