横浜F・マリノス戦 (Away)
単純に、すごいことだと思った。
あの、F・マリノス相手に"堂々と"引き分けたことだ。
2017年以降、対F・マリノス戦は現地観戦含めてほぼ全て観てきたはずだが、2018シーズンより後に限れば、こんなにまもとな引き分けは初めてではないか。
2017シーズンは俊輔・アダ・川又の前線トリデンテが存分に個々の持ち味を発揮し、シーズン6位。F・マリノスは確か5位だったか。三ツ沢で行われた天皇杯の試合も観に行ったが、そのシーズンでの両チームの力関係はほぼ互角、という認識だったと思う、特に偏りのない一般的な視点では。
潮目が変わったのが、翌2018シーズン、あのギジェルメが狼藉を働いたことか。その試合ではジュビロのカウンターが面白いように決まって勝点3を獲得したものの、以降チーム状態は坂を転げ落ちるように後退していった一方、F・マリノスは降格の危機を辛くも逃れる雌伏の2018シーズンを経て、翌シーズン鮮やかな攻撃サッカーでリーグ優勝を達成、以来、J1においてトップレベルの強豪であり続けている。
それから今シーズンに至るまで、ジュビロがJ2にいた計3シーズンは当然ながらリーグ戦で相まみえることはなかったわけだが、その間の断続的な対戦は、基本、というか圧倒的な構図として、押されっぱなしの展開ばかりであった。ほとんどボールを保持できないのが当たり前。対F・マリノス戦ではそれがデフォルトとなってしまっていた。
中には、ほぼチャンスらしいチャンスも無いながら、古川の電光石火の突破からの一撃で勝利した2022シーズンAway戦なんかもあったが、どれも、内容を見ると中盤をそっくりそのままお渡しします、と言わんばかりの被支配を強いられてきた。極めつけは、降格した2019シーズンのAway戦(内容とマッチする結果、確か4-0か5-0の滅多打ち)と、2022年シーズンのHome戦(前半はボール支配率ほぼ0%かという程の圧倒のされよう)。どちらも現地観戦したが、後者では、稀代のボールプレーヤーのはずの遠藤保仁が全くと言っていいほどボールを触れずに後半早々交代を余儀なくされ、その後ろ姿に切なくなったのを鮮明に覚えている。
そんな悲哀を植え付けられた相手に、かなり立派な内容で、引き分けたのだ。個人的には、ものすごい進化を感じてしまう。藤田-横内体制への信頼を差し出したくなるのは、早計だろうか。
F・マリノスのキューウェル監督も言及の通り、実はジュビロの枠内シュートは虎の子の同点弾となったペイショットのヘディング1本のみだった。善戦という表現が適切で、互角と言うのは少々不遜だろう。とは言え、"あの"F・マリノス相手にベタ引きすることなくドローに持ち込んだのだ。自信にしていい。
過去数年にわたってチンチンにされてきたF・マリノスの総合力も、選手の入替もあって往時よりは落ちていることは事実だと思う。あの時のF・マリノスは本当に隙が無かった。チアゴ・マルチンスってJリーグ史上最高のCBだったかもしれないし、マテウス・エリキ・中川のスリートップって、それ反則だろ、と今でも思う。扇原・喜田のダブルボランチの安定感はまさに鉄板のようだったし、その後の渡辺浩太・藤田譲瑠チマのコンビの躍動感も、こりゃ敵わないと思わせるものがあった。
今は、上記メンバーで残っているのは喜田と渡辺だけで、ずいぶんと若手が増えている。ただそれでも、現・前線外国人トリオの怖さは言わずもがなだし、ジュビロにしたって、伊藤洋樹やルキアンが引き抜かれている。メンバーが徐々に入れ替わるのはどのチームも必定であることを踏まえた上で、対戦チームを基準に進捗を探ってみるのも、この順位予想がし難いJリーグにおいて有効な見方と、今思ったところである。
何度も恐縮だが、"あの"F・マリノス相手に、特に前半は素晴らしい守備で主導権を握り、アタッキングサードに何度も良い形で侵入できたのだ(良い形でシュートを打てた、とならなかったのは進化の余白が大いにあるということで)。横内監督のコメントの通り、もう少し崩しのフェーズでクオリティがあれば、複数得点での勝点奪取も現実的であろう。
とここまで書いてきて急に切り返しになってしまうのだが、ゴール前でのクオリティはそんなに短期間に向上するものでもない。プレーヤーが変わらない限り。前線の強みを最大限活かすという方向性は固まってきつつあるわけで、得点を増やすには、後は脇を固めるサイドプレーヤーの連携の向上と、いわゆる三人目の動きの活性化が鍵になろうかと。サイドハーフの面々の頑張りは認めるが、決定機を増やすためにサイドプレーヤーがポケットを取るシーンを増やしていく必要があると思われ、そのためにはケガから復帰した我がキャプテンのスキルが待ち遠しくなってくる。さて、どのようにスカッドに落とし込むか?
次は実に手堅い東京ヴェルディ戦。もしかしたらF・マリノスよりも守備は強力かも。次なるアイディアを期待したい。