星の瞬きとともに


⭐️第1章あらすじ⭐️
炭鉱で働く貧しい少年アレン13歳。
弟との二人暮らしの中、毎夜行われるお月様とのお喋りが日課。
そんなある日、アレンは炭鉱の仕事を続けることが難しくなりお月様に懇願する。
これは夢見がちな少年アレンの夢のような現実のお話し。

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沢山ファンアート待ってます🫶
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以上。

上演時間 約70分

⭐️役説明⭐️ 不問7 (兼役有)
《五星天》
以下五名其々の国を持つ星々の長。
お月様の部下的存在

【聖天星】
・人々を清く正しい道に導く星,
→アレン曰く『太陽のような人』らしい。物怖じせずにズバッと言い切る。

【冥導星】
・人々を冥界へと導く星,
→陰気暗くねちねち嫌味を言う。人が嫌い

【幸願星】
・人々の願いを叶える星,
→丁寧で優しいがそれだけ。狐のような人。

【満天星】
・人々にとっての幸せを運ぶ星,
→元気で活発。いつもニコニコしてる。声がでかい

【光明星】
・1番光輝いている道標の星,
→月華の付き人。聡明で美しい。物静かで怒らせると怖い。けれど誰よりも優しい。

『月』→別名:月華
・(星々の中で1番輝く偉い星) 

『アレン』  13歳
・貧しい家の育ちで幼い頃から工場で働いている。
・毎日小さな幸せを見つけることが趣味
・誰かの笑顔が自分の幸せ
・弱音は吐かないように心掛けている。

『親分』
・捻くれている
・嫌味がましく声が大きい

以下本文。


【星の瞬きとともに】

第1章『明星を超えて』

アレン:幸せを願うことは罪なこと。小さい頃からそう教えられてきた。

アレン:同時に、誰かの為に努力することは、とっても勇気のいることで尊いものだと教わった。僕の努力は、頑張りは、誰かの為に役に立ってるんだと。誰かが笑顔になる為に僕は頑張らなくちゃならない。僕の時間を、みんなのために使うんだ。

アレン:でも、時々考える。じゃあ、僕の幸せは、笑顔は、誰から貰えるの?僕は、僕の為だけに生きることはできないの?

ータイトルコールー

月:星の瞬きとともに

アレン:明星を超えて

.

アレン:今日も働く。明日も働く。毎日毎日、同じことの繰り返し。小さい時からずっとこの毎日。飽きることもなければ嫌になることもない。だって僕にはこれしかないんだから。

アレン「今日も仕事かぁ」

アレン:朝早くから夜遅くまで、僕は地下に潜って石を掘る。今日も明日も明後日も、生きるために石を掘る。

アレン「今日も頑張ろう」

アレン:すぐ側で静かな寝息を立てる弟の頭を撫でて身支度をする。

アレン「行ってきます」

アレン:まだ青白い空の中、鳥たちの囀りも聞こえないこの時間。胸いっぱいに澄んだ空気を取り込む。

親分「ダメだダメだ!話にならん!」

アレン「で、でも親分!よく見てください!小さいけどちゃんと綺麗な物が…」

親分「小さくっちゃ話になんねぇんだよ!あのなぁ、向こうさんが求めてんのはデカくて質の良い物なんだよ。分かるか?」

アレン「で、でも…」

親分「でもでもでもでも…それしか言えねぇのかてめぇは!」

アレン「…それでもちゃんとしたものが…」

親分「あのなぁアレン、俺ァお前の仕事に対する熱意も努力もよぉーくわかってるつもりだ。真面目に仕事もしてくれるしこっちとしては助かってんだ」

アレン「じゃ、じゃあ」

親分「だがな」

親分「それとこれとは話が別だ。お前がどんだけ真面目だろうが熱意があろうが、物がしっかりしてなきゃ意味ねェんだよ。」

アレン「た、確かにそれは…もっともですけど…」

親分「お前がここにきてから挙げた功績はなんだ?クズみてぇな鉱石もってくるわ部品壊すわろくなことしてねぇじゃねぇか」

アレン「…」

親分「こっちも良い加減迷惑なんだよ。明日中にいいモン持って来なかったらお前…わかってるな」

アレン「えっ、そんな!急にそんなの…!そんなのあんまりです…!」

親分「あんまりなのはこっちだってんだよ!!こっちはお前ェみてぇなお荷物いらねぇってのに、お前ェの親に頼まれちまったもんだから仕方なく抱えてやってるんだよ!」

アレン「ぁ…」

親分「いいか?一つ言っておくが、お前ェみてぇなやつは俺みたいに碌な仕事になんかつけやしねぇ!何にもできねぇでこんなゴミ溜めみてぇな街で一生を過ごして終わるんだ!お前ェも!俺も!どこにもいけやしねぇんだよ!!」

アレン「そんな…そんなことない!!」

親分「あぁ!?このっ…!口答えするな!」

0:親分、アレンを殴る

アレン「うっ…!」

親分「お前ェが今暮らせてんのは誰のおかげだと思っていやがる!俺がお前ェみてぇな役立たずにも賃金を振り分けてやってるからだろうが!!そうじゃなきゃお前ェも!お前ェの弟も!今頃このクソみてぇな街で野垂れ死んでたろうよ!そんなお前ェ等を拾ってやった俺に、口答えするんじゃねぇ!!」

アレン「うっ…ち、ちがう…!この街は…この街はゴミ溜めなんかじゃない!この仕事だって、誰かの役に立ってるんだ!僕はそれでいい!!でも、でも絶対、僕はここじゃないどこかで僕のやりたいことをやるんだ!!」

親分「ハッ!そうかよ。そう言っていられるのも今の内だけだ。明日で全てが決まるからな!」

アレン:鼻を鳴らしてドスドスと奥へと消えていった親分を一瞥して、今日の仕事を終える。

アレン「…明日…」

アレン:1人になって、親分の言っていたことが脳内を反響する。

親分『明日中にいいモン持って来なかったらお前…わかってるな』

アレン「……」

アレン:大丈夫、大丈夫さ。きっとなんとかなる

親分『お前ェみてぇなやつは俺みたいに碌な仕事になんかつけやしねぇ!』

アレン:そんなことない

親分『何にもできねぇでこんなゴミ溜めみてぇな街で一生を過ごして終わるんだ!』

アレン:違う!

親分『お前ェも!俺も!どこにもいけやしねぇんだよ!!』

アレン:そんなこと…!

アレン「……そんなこと…ないよね…」

アレン:返事は返って来なかった。

.

アレン「お月様お月様、今日のお話を聞いてください」

アレン:毎晩、月の光が辺りを照らす頃、僕はお月様に日々の出来事をお話しする。

アレン「今日は親分にすっごく怒られちゃった…」

アレン:別に、お月様が本当に話を聞いてくれてるとは思ってない。けど、僕の中でこうして話を聞いてもらえてると思うと、それだけで少しだけ救われるんだ。

アレン「明日、僕が結果を残せなかったら、僕、仕事をクビになっちゃうかもしれないんだ。」

アレン:母さんも父さんも、2人とももうこの世にはいないから、僕が弟の面倒を見なくちゃいけない。

アレン「でも弟のためにも僕がしっかりしなくちゃいけないんだ。」

アレン:少ない給料だけど、、なんとか弟を学校に通わせてあげたいし、栄養のあるものを食べさせてあげたい…だから今クビになんかなるわけにはいかないんだ

アレン「でも、でもさ」
アレン「お月様、僕だって少しくらい…弱音を言ったっていいよね…?」

アレン:炭鉱の出来損ないのアレンでも、頼れる自慢の兄ちゃんでも、いつも明るい街の子供のアレンでもない、僕。ただのアレンで居たっていいよね…?

アレン「僕、時々このままでいいのかなって思うんだ」
アレン「親分がね、今日言ってたんだ。僕みたいなのは碌な仕事にもつけないまま、一生ここで過ごすんだって。」

アレン:お月様は静かに話を聞いてくれる

アレン「僕…僕そんなの嫌だよ。まだもっといろんな世界を見たいし、色んなところに行きたいよ。…まだ早いかもしれないけど…恋だってしたいしさ」
アレン「…でも、、そんなの無理なのかな」

アレン:お月様は何も言わない

アレン「…もう嫌だな」

アレン「…」

アレン:そもそもお月様はただの月なんだから。

アレン「…お月様が僕を空まで連れてってくれればいいのに。」

アレン:ありえないけど、そんなことが本当に起こったならどれだけよかったか。

アレン「…なんてね。もう寝なくちゃ。おやすみなさいお月様」
アレン「明日もいい日でありますように。」

アレン:いつも見ているお月様が、今日は何故だかいつもより輝いているような気がした。

.

アレン:次の日、僕はいつもより随分早く炭鉱に入った。普段は会わない当直の人達と挨拶して、ただひたすら石を掘った。掘って掘って掘り続けた。

アレン:暫くすると親分がやってきて、良いのは取れたか。今日中だぞって脅かしてきたけど、僕は無我夢中で掘り続けた。

漸く納得のいく物が掘れた時には、もう辺りは薄暗くなっていて、うっすらとお月様がこちらを見つめていた。

アレン「親分!」

親分「おうアレン、良いのは取れたのか?」

アレン「えっ…と…」

親分「取れたのか。取れなかったのか。」

アレン「と、とと取れました!…たぶん」

親分「…見せてみろ」

アレン「は、はいっ!」

アレン:僕は自分の中で1番質がいいと思ったものを親分に渡した。

親分「……」

アレン「……」

親分「……」

アレン「…ど、どうですか…?」

親分「…まぁ…及第点ってとこだな」

アレン「じゃ、じゃあ!!」

親分「でも駄目だ。」

アレン「えっ」

親分「及第点つったが、そりゃあくまでモノが及第点ってだけだ。お前の腕が良けりゃ余裕で合格点まで行けたはずだ。」

アレン「えっと…」

親分「要するにだ。お前には才能がねぇってことだよ。」

アレン「そ、そんな!!困るよ親分…!」

親分「困ってんのはこっちだこの役立たずが!!」

アレン「っ…」

親分「勿論だが炭鉱にも良し悪しはある。日によっちゃあ出がよかったり悪かったりもする。そりゃ仕方ねぇことだ。俺も文句は言わん。」

アレン「なら…」

親分「だがお前ェの掘ってくる石はそういう問題じゃねぇ。石の質はいいのに掘り手のお前ェ自身に技術がねぇから石の価値が下がる。サイズも小せぇし、どこもかしこも欠けてばっかりじゃねぇか!
巷じゃ石炭も石も価値が上がってきてるって話だ。それなのにこんな欠けっぱし持ってってどうする?需要が上がってどこもかしこも炭鉱は気に入られようと必死なんだ。こんなモンもってったらここの信用はガタ落ちなんだよ!わかるか!?」

アレン「……」

親分「俺ァお前の事情もよぉく知ってる。知っているがこっちも給料出す相手は選ばにゃいかん。申し訳ねぇが、お前はただの役ただずだ。給料は出せねぇ。」

アレン「そっ、そんな!!そんなのあんまりだよ…!」

親分「仕方ねぇだろうが」

アレン「ぼく、僕頑張るから!朝から晩まで…当直だってやるよ!!だからお願いだよ…!」

親分「無理なもんは無理だ。諦めろ。」

アレン「そんな…それじゃあこれから先…僕らはどうしたら…」

親分「知ったこっちゃねぇな。お前ェはもう俺んとこのもんじゃねぇ。」
親分「…ほら、これは今日までの給料だ。それ持って出てけ。」

アレン「……ぁぁ…」

親分「精々どっかで元気にやれよ」

アレン:その後の記憶はふわふわと曖昧だ。厚くもない給料袋を握りしめて、これからどうしようとか、新しい仕事先は見つかるかなとか、頭の中がぐちゃぐちゃになって過呼吸になった僕を、街の人が介抱してくれた。そのままぼんやりとした頭でふらふらと家に帰って、扉を開けた先に嬉しそうな声でおかえりと笑う弟に、僕はちゃんと笑ってただいまを言えただろうか。

アレン:食事を食べる元気もないまま、寝床に早足に向かう僕を、弟が不安げに見つめていたことだけは覚えている。

アレン「…疲れたなぁ」

アレン:硬い床に寝そべりながら、ただ天井を眺めた。ふと窓に目をやると、いつもの様に街を照らすお月様が見えた。

アレン「お月様…」
アレン「……お月様、僕どうしたらいいのかな?僕…僕もう疲れちゃったよ。」

アレン:返事は返ってこない。

アレン「…お月様が僕のこと、こんなところから連れ去ってくれたらいいのに。」

アレン:なんだか最近、こんなことばかり言っている気がする。

アレン「そうしたら、朝から晩まで辛い仕事をしなくて良くなるし、これからのこととか考えなくても良くなるんだもん。面倒なことぜーんぶ放ってさ、お月様とずーっとお喋りするんだ。すっごく楽しいよ」

アレン「…こんなとこよりも…ずっと……全部…僕の妄想だけど。」

アレン「……」

アレン「…じゃあもう僕寝るよ。おやすみ、お月様」

アレン:なんだか居た堪れなくなって、布団を被ろうとした時だった。お月様が物凄い光を放って輝いた。僕は咄嗟に目をギュッと瞑った。

アレン:そうして暫くしたあと、僕の肩をトントンと誰かが叩いた。

アレン「えっ」

アレン:驚いて目を開けると、そこには見たこともないくらい綺麗な人がいて、静かに僕のことを見ていた。

アレン「あ、貴方は…?」

月「こんばんは。アレン。」

アレン「えっ、僕の名前…」

月「ふふ、知っているよ。驚いたかな?」

アレン:僕の名前を知っているその人は、くすくすと和やかに笑う。

アレン「えっと、あの…貴方は…誰…?」

月「あぁ失礼。自己紹介がまだだったね。」

月「私は月華。君達が言うお月様だね。」

アレン「お、お月様…?」

月「そうだよ。」

アレン「ほ、ほんとに…?」

月「本当さ」

アレン:信じられない。まさかあのお月様が僕の前にいるなんて。でも、お月様ならこんなに綺麗なのもわかるかも…

アレン「ほんとのほんとに…?」

月「ほんとの本当。信じられない?」

アレン「し、信じられないよ…!だってお月様はお空にいるもん…!」

月「いないよ。今はね。」

アレン「えっ…?」

月「空をご覧。月はどこにもいないだろう?」

アレン:そう言われて空を見れば、確かにお月様はどこにもいなかった。さっきまであそこで輝いていたのに…。

アレン「…じゃあ…本当に…」

月「そう。私はお月様だよ」

アレン「な、なんで…?」

月「?なんで…?」

アレン「なんで僕の前に…?」

月「君が言ったんじゃないか」

アレン「え?」

月「ここから連れ去ってほしいって。私に願っただろう?」

アレン「あっ…」

アレン:そうだ…さっき僕そんなこと…。

月「だから、君を攫いにきたんだよ。」

アレン「攫いに…?」

月「さぁ、私の手を取りなさい。一緒に星界へ行こう。」

アレン「星界…?」

月「私達星々が住んでいるところさ。」

アレン「…」

月「アレン。さぁ。」

アレン:僕の前に綺麗な手が差し出される。僕の願いを叶えるために来てくれたお月様。僕は迷うことなく、差し出された手を取った。

アレン:お月様は嬉しそうに微笑んだ後、胸元の綺麗な宝石に触れた。すると、僕とお月様は真っ白い光に包まれて、眩しくなって目を閉じた。

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月「アレン、アレン。目を開けてご覧。」

アレン「ん…うわ…わぁあ…!」

アレン:呼ばれて目を開ければ、そこはもう僕の部屋ではなくて、見たこともないくらい美しい景色が広がっていた。

アレン「こ、ここは…?」

月「ここは星界だよ。」

アレン「ここが…」

月「星界へようこそ。アレン。私達星々は君を歓迎するよ。」

アレン:そう言って嬉しそうに笑うお月様は、僕の手を引いて歩き出した。僕の街とは全く違う風景に、本当にお月様の世界に来てしまったのだと実感する。

月「アレン、これから君は私の宮で過ごすことになるけれど、不自由なことや分からないことがあったら何でも聞きなさい。」

アレン「あっ、は、はい!」

月「…そう固くならなくても大丈夫だよ。ありのままの君でいなさい。」

アレン「は、はい…」

アレン:街を抜けると真っ白で大きなお城…?に着いた。お月様が扉の前に立つと、大きな扉がゆっくり開いて、綺麗な人が僕たちにお辞儀をした。

光明星「おかえりなさいませ月華様。」

月「あぁ。今帰った。」

光明星「…して、そちらのお方は…?」

アレン:綺麗な金色の髪をした…お姉さん…?なのか…お兄さん…?は、僕のことを見て不思議そうにお月様に聞いた。

月「この子は私の巡り人(めぐりびと)だ。丁重にもてなしなさい。」

光明星「畏まりました。」

アレン「…ねぇお月様、巡り人って何?」

月「…アレンは私の好きな人、ということだよ。」

アレン「好きな人…?」

月「そうだよ。」

アレン「僕もお月様好きだよ。」

月「…そうか。」

月「光明星、私はまた照らしを続ける。アレンのことを頼む。」

光明星「畏まりました。行ってらっしゃいませ。」

アレン:お月様は僕の頭を撫でた後、照らし?に行くと言って出ていってしまった。残った僕はどうしたらいいのか分からなくて、綺麗な人に聞いた。

アレン「えっと、、僕はどうしたら…」

光明星「アレン様」

アレン「へっ…?」

光明星「私は光明星と申します。月華様の付き人兼アレン様の世話役としての任を賜りました。」

アレン「は、はい…」

光明星「これからアレン様は、月華様の巡り人として衣服を着替えて頂き、ご入浴とお食事を済ませて頂きます。その後月華様の直属にあたる星下(せいか)をご紹介させて頂きますので、五星会議にご参加頂きます。」

アレン「え、えっと…」

光明星「何かご不明な点はございますか?」

アレン「な、何が何だか…」

アレン:星下…?五星会議…?僕は一体何をされるんだろう…

光明星「…詳しいことはまた後ほどご説明させて頂きます。先ずはご入浴を済ませて頂きますので、こちらへ。」

アレン「あ…は、はい」

アレン:光明星さんに連れられて、長い長い廊下を歩く。壁も床も天井も、全部真っ白でうっすら光ってて…何だか天国みたい。

アレン「…あの、光明星さん。ここは一体…」

満天星「どぅーーん!!!」

アレン「うわぁ!?」

光明星「アレン様!!!」

SE:倒れる音

アレン「いっててて…」

アレン:前から勢いよく倒れたせいか鼻が痛い…突然、後ろから誰かが僕に飛びついてきたみたいだ。

光明星「アレン様、お怪我はございませんか?」

アレン「だ、大丈夫です…」

満天星「ねぇねぇ君!」

アレン「え!?…えっと」

満天星「君、アレン君だよね!?」

アレン:僕に突進してきた人は、淡いピンク色の髪をした可愛らしい人で、目をキラキラとさせながら僕の肩を掴んで矢継ぎ早に話し始める。

満天星「そうだそうだ!アレン君だよ!やっぱりそう!!!月華様がよくお話してくれるからいつ来るんだろうなぁって思ってたんだぁ〜!やっときてくれたんだね!!あのね僕は」

光明星「こら満天星」

満天星「いでぇ!!」

アレン:ゴチンッと鈍い音がピンクの人から鳴った。

満天星「何すんだよ光明星!!」

光明星「それはこちらのセリフですよ満天星。アレン様に飛びついたかと思えば名乗りもせずにペラペラと…もっと五星天としての自覚を持ちなさい。」

満天星「うぅ、ごめんなさい…」

アレン「あ、あの…僕気にしてませんから…」

光明星「ですがアレン様、私達は(貴方様の」

満天星「うわああんごめんねアレン君〜!!でもでも月華様の言ってた通り、君は優しい子だねぇ〜!いい子いい子ぉ!!」

光明星「満天星!!!」

満天星「ひゃわぁ!?」

アレン:ニコニコと僕の頭をぐしゃぐしゃにしながらいい子だいい子だと褒めてくる満天星さん…?に、光明星さんが声を荒げた。今まで優しかった光明星さんがいきなり…光明星さんは怒らせちゃいけない人だ…

光明星「無礼な態度は慎みなさい。アレン様に対する馴れ馴れしい言動は目に余ります。常日頃から所作、言動には気を使うようにと言っているでしょう。それから、アレン様のことをそのように気安く呼ぶことは許されません。」

満天星「だ、だってぇ…」

光明星「だって…なんですか?」

満天星「うっ…ご、ごめんなさい…」

光明星「…アレン様にも謝罪なさい」

満天星「…アレンく…様。無礼な態度をお赦しください…」

アレン「え、えっと…」

満天星「アレン様…怒ってる…?」

アレン「あ、いや…僕、全然気にしてないというか…」

満天星「本当…?…ですか?」

アレン「うん…むしろなんか距離が近くて友達みたいで…何だか嬉しかったよ」

満天星「へ?」

光明星「…」

アレン「だから…もし光明星さんがいいって言ってくれたら、またさっきみたいに…友達みたいにして欲しいな…」

満天星「あ、アレン様…!」

アレン「だめかな、光明星さん…」

光明星「…」

光明星「…私達はアレン様の決定事項や願いに関して否定することは許されておりません。」

アレン「…つまり?」

光明星「つまり、只今のアレン様の願いは(受理されました。)」

満天星「いいよーってことだよアレン君!!!!」

光明星「満天星…!」

アレン「本当!?わぁ…!ありがとうございます!光明星さん…!」

光明星「…いえ」

アレン:嬉しそうな満天星さんと違い、光明星さんはふいとそっぽを向いてしまった。
…光明星さんはルールに厳しい人なのかな…

満天星「それじゃあアレン君!改めて僕の自己紹介をするね!!」

アレン「あっ、はっ、はい!」

満天星「あ、敬語は禁止ね〜?僕達もう友達なんだから!」

アレン「え、僕達…友達…?」

満天星「うん!友達みたいじゃなくて、友達になっちゃおうよ!」

光明星「満天星…!」

アレン「なりたい!!僕、君と友達になりたい!」

光明星「アレン様…」

アレン:嬉しい…嬉しいなぁ!僕初めて友達ができちゃった…!しかもこんなに…可愛い人と…

満天星「決まり!僕達は今日から友達だ!」

アレン「うん!!」

満天星「じゃあ友達になったことだし、お互い敬語は禁止!僕は満天星って言うんだけど、気軽に満天って呼んでよ!」

アレン:そう言った満天は、恥ずかしそうにへへへ…と笑った。僕が『勿論!』と言うと、満天はまた嬉しそうに笑った後、何かを思い出したかのようにあたふたとし始めた。

アレン「?どうしたの満天?」

満天星「あ…いやぁ〜…僕ちょっと呼ばれてたの思い出して…」

アレン「誰かに呼ばれてるの…?」

光明星「…まさか満天星、貴方会議を…」

満天星「ああああいやいやいや!!これから!これから行くところだから!」

光明星「そうやって…毎度毎度貴方は(何度遅刻すれば気が済むんですか)」

満天星「あーあーあー!!わかったわかった!もう行くよ!!!!」

満天星「てことだからアレン君!僕もう行くね!!また後で!!!!」

アレン「あっ!満天待って!!」

満天星「んぁ〜!?」

アレン「僕のこと!!君のこと満天って呼ぶから、満天も僕のことをアレンって呼んでよ…!!」

アレン:駆けていく満天を呼び止める。友達だから…とちょっとしたわがままを言えば、満天は僕に満面の笑みを向けて、ピースをしながら答えてくれた。

満天星「もっちろん!!じゃーアレン!また後で!」

アレン:そう言うと、満天はすぐに走っていって見えなくなった。

アレン「…」

光明星「…全く、忙しないやつですね。」

アレン「あはは…そうですね」

アレン:光明星さんは、小さくため息をついた後、そのまま僕をお風呂まで連れて行ってくれた。
暖かいお湯に浸かると、無意識に張っていた緊張が解れていく気がする。その内に白いお面をつけた人が沢山来て、何も言わずに僕の体を洗って服を着せては、僕を光明星さんの所まで連れていってくれた。

光明星「良くお似合いです。」

アレン「あ、ありがとう…ございます。」

アレン:白いお面の人たちに着せられた、真っ白い綺麗な服。こんな綺麗な服…初めて着たなぁ。

光明星「それではアレン様、お腹もお空きでしょう。お食事をご用意しておりますので、どうぞこちらへ。」

アレン「は、はい!」

アレン:光明星さんに食堂…みたいなところに連れられると、白いテーブルクロスの上には美味しそうなご飯が用意されていた。

アレン「わぁ…美味しそう…!」

光明星「どれも全てアレン様の為にご用意させて頂きました。よく噛んでお召し上がりください。」

アレン「は、はい!いただきます…!」

アレン「っ!んん〜っ!」

アレン:口に入れた瞬間にほろほろと溢れるお肉に、じゅわっと弾ける肉汁…優しい甘さの野菜に温かいスープ。どれも全部、すごく美味しい。

光明星「お口に合いますでしょうか?」

アレン「ふぁ、ふぁい!…すっごく美味しいです!こんなに美味しいの、僕、食べたことないです…」

光明星「…ふふっ、それは光栄です。」

アレン「…こんなにしっかりした暖かいご飯なんて、いつぶりだろう」

光明星「アレン様…」

アレン:おいしい…おいしいなぁ。そう思ってパクパクと食べていると、いつのまにか目の前にあった山盛りの食事は無くなっていて、僕のお腹は少しだけのぽっこりと膨らんでいた。

アレン「ごちそうさまでした!」

光明星「はい。お粗末様でした。」

アレン「…光明星さん!とっても美味しかったです…!」

光明星「…そうですか。それは何よりです。…お食事が終わって直ぐ且つ、状況の整理がついていない中大変恐縮ですが、このままアレン様は五星会議に出席頂きます。」

アレン「ご、五星会議…?」

光明星「はい。」

アレン「な、なにするの?」

光明星「主に月華様直属の部下、五星天の紹介と今後の流れ、現在に至るまでの経緯などをご説明致します。」

アレン「う〜ん…?」

光明星「…まぁ、行けば分かることです。さぁこちらへ」

アレン:そう言われて光明星さんについていくと、細かい装飾があしらわれた銀色の扉の前についた。

アレン「わぁ…すごいや…」

光明星「この先に、月華様直属部下の五星天がアレン様をお待ちです。」

アレン「は、はい…」

光明星「満天星の時でお分かりかとは思いますが、あれらは口が減りません。…もし、少しでも不安などを感じましたら私の側に。」

アレン「わ、わかりました。」

光明星「…では。」

アレン:そう言って光明星さんが重そうな扉を開けると、中にいた人達の視線が一気に集中する。

光明星「アレン様がいらっしゃい(ました。」

満天星「アレーーン!!待ってたよー!!!!」

アレン「満天星…!」

アレン:扉を開けてすぐに、とびきり大きな声で僕に手を振って笑いかけてくれた満天星。すぐにでも椅子から飛び降りて僕にハグをしてきそうな勢いだ…

冥導星「うるせぇな…デケェ声で騒ぐなよ」

聖天星「満天星、光明星がまだ話していただろ。途中で遮るのは良くないぞ」

満天星「あぅ、、ごめん…」

幸願星「まぁまぁ〜、満天星がこうなのはいつものことじゃないですかぁ」

満天星「ん!?」

聖天星「ふむ、確かにそれはそうだな」

満天星「ちょっと!?」

冥導星「一々騒ぐな満天」

満天星「これ僕が悪いの!?」

聖天星「まぁそれは置いといて、とりあえず光明星の話を聞こうじゃないか」

光明星「…助かります聖天星。」

満天星「置いとかないでぇ!?」

アレン:…ギャグかな?

光明星「えー、煩い満天星のことは放って置いて、話を進めます。」

満天星「うっうっ、、いいもんいいもん、僕のことなんか放って置いてよ…ぐすん。」

アレン:…なんだか可哀想になってきた…

光明星「皆さん、もうご存知だとは思いますが、ここにいらっしゃるは月華様の巡り人アレン様です。」

アレン「あ、アレンです…お月様の巡り人…?らしいです…」

幸願星「らしい…?」

聖天星「なんだはっきり分かっていないのか?」

光明星「アレン様は先程こちらに着いたばかりです。その為まだ状況の整理が付いていないのです。」

冥導星「なんだよ只のバカじゃねぇか」

光明星「冥導星!無礼な発言は慎みなさい。」

冥導星「…チッ」

アレン「ご、ごめんなさい…」

光明星「いえ、アレン様が謝る必要はございません。悪いのは彼奴ですので。」

冥導星「ハッ!あーあー悪ぅございましたァ」

光明星「…はぁ。ではアレン様、切り替えまして、早速ですが五星天の紹介をさせて頂きます。各々奥から順に自己紹介を。」

聖天星「うむ」

アレン:最初に立ち上がったのは、燃え上がる様な真っ赤な髪をした褐色肌の人。

聖天星「私は聖天星!五星天の中で君達人間の住む地球に最も近く存在する星だ。人々を清く正しい道に導く役割を担っている。アレン様も何か迷い事があれば私に相談するといい。私が導いてやろう。」

アレン「あっ、えっと…お、おねがいします…?」

聖天星「うむ!任された。…しかし…アレン様はもっと年相応に元気にはしゃがれて良いと思うぞ。モゴモゴと話していては聞き取りづらいしな!もっと元気よくいこう!ほら笑いたまえ!わっはっはっはっは!!」

アレン「えっ…!?あ…えーっと…わ、わーっはっは…は…?」

聖天星「ふーむ…ぎこちないが、まぁいいだろう。次はもっと腹から声を出して笑いたまえ!」

アレン「は、はぁ…」

幸願星「こぉら〜聖天〜、アレン様を困らせちゃダメですよぉ〜?」

聖天星「何っ、困らせてしまっていたのか…!?それはすまない事をした。」

アレン「い、いえ!気にしてません…」

幸願星「まったくぅ〜、押し付けは良くないですよぉ聖天〜。…よいしょっとぉ」

アレン:次に立ったのは、光明星さんよりも少し薄いブロンドの髪をしている、仲裁に入ってくれた優しそうな人。

幸願星「初めましてぇアレン様。私は幸願星と申しますぅ。私の主なお仕事は皆様のお願い事を叶えるお手伝いをしていますぅ。叶えたい願いがあれば私に仰ってくださいねぇ〜。私がすぐに叶えて差し上げますよぉ〜。アレン様は特別ですからぁ。」

アレン「は、はぃ…ありがとうございます…?」

アレン:ニコニコと笑顔を絶やさない幸願星さんの次に立ち上がったのは、深い青色をしたボサボサの髪を一括りにまとめた…なんだか暗そうな人。

冥導星「俺は冥導星だ。お前と話す気なんかこれっぽいもねぇんだけど、光明星はうるせぇし、何故かお前は月華様の巡り人だし…仕方ねぇから自己紹介してやる」

アレン「は、はい…」

光明星「冥導星、いい加減その態度を改めなさい。」

冥導星「うるせぇよ光明星。俺の勝手だろ好きにさせろ」

光明星「そういう訳には(いきません。」

冥導星「あーあーあー。うるせぇうるせぇ。んでぇ?アレン様ァだったか?」

アレン「あ、はい!」

冥導星「初めに言っておくが俺は人間が嫌いだ。だからお前のことも嫌いだ。俺に近寄るな。話しかけるな。
…そんで俺の役割は傲慢で性根が腐った意地汚いお前ら人間を冥界へと導くことだ。もしお前が俺に触れでもしてみろ。お前のことを冥界へ放り投げてやるからな。」

アレン「ひっ…」

光明星「冥導星…貴方はまたどうしてそんなに…」

満天星「そうだよぉ!冥導星!アレンをいじめるな!」

アレン「ま、満天…」

冥導星「はぁ?いじめてねぇけど。」

満天星「虐めてるじゃん…!やめなよアレンが怯えてる!」

冥導星「耳ついてんのかてめぇ。俺は忠告をしてやっただけだ。」

満天星「忠告の仕方が脅しだよ!さいってぇ!」

冥導星「ぎゃーぎゃーうるせぇなァ…騒ぐ暇があんならとっとと自己紹介でもしたらどうですかァ??満天星さァん」

満天星「…もうっ!冥導星なんて嫌い!」

冥導星「はんっ。俺だってお前みたいなウルセェ奴嫌いだよ」

満天星「…ふんだ!!」

アレン「ま、満天…」

満天星「…ごめんねアレン、ヤなとこ見せちゃった…」

アレン「だっ大丈夫だよ!僕気にしてないから…!」

満天星「…えへへ、アレンは優しいね。ってことで気を取り直して!!」

アレン:はーい!とジャンプをしながらニコニコと自己紹介を始める満天。

満天星「もう知ってると思うけど、僕は満天星!もうアレンとは友達だもんねー!」

アレン:ねー!とこちらに満面の笑みを見せる満天に、僕も笑顔でねー!と返す

満天星「僕の主なお仕事わぁ、みんなに幸せを届けること!!小さい幸せからおっきな幸せまで、ちょっとずつみんなに届けてるんだ!!どう?すごいでしょ!」

冥導星「はいはいすごいすごーい」

満天星「むっ…!」

幸願星「満天星はいつも幸せそうに過ごしていますからねぇ」

聖天星「ああ。幸せを届ける…我々には出来ない事だ。満天は凄いぞ。」

満天星「え、えへ、えへへへ…褒められちゃった」

満天星「あ!だからね!えっと、うんと……みんなが言ってたけど、アレンも落ち込んだりした時は僕に言ってね。僕がアレンを幸せにしてあげる!」

アレン「満天…ありがとう。」

満天星「えっへへ〜」

冥導星「んあァそうだ満天〜、そんなに幸せを届けてぇんならよォ〜…お前ェのお得意のやつやってやれよ」

満天星「えっ?」

聖天星「おお!確かにそれはいい考えだな!見せてくれ満天!」

満天星「え、えぇ〜…!?」

幸願星「私も久々に見たいですねぇ。」

アレン「えっ…?な、何が始まるの?」

聖天星「まぁいいからいいから」

アレン:そう言われて照れくさそうに頭を掻く満天を他所に、周りの皆は満天を囃し立てる

冥導星「おらおらァ早くやれよ満天」

光明星「…はぁ…」

満天星「う、うぅ…わ、わかったよぉ…」

満天星「んっんん"〜!…あー…アレン!」

アレン「な、何?満天?」

満天星「あ〜…そのぉ…今簡単にだけど、アレンに幸せをあげる魔法をかけるね」

アレン「え!?ま、魔法!?」

満天星「そ、そう!魔法!……うぅ…」

満天星「じ、準備はいい!?いくよ!?」

アレン「う、うん!」

満天星「…にこにこー!にこにこー!君に笑顔をにっこにこー!!幸せフォーユー!ハピネス注入!君は今からぁ〜?幸せになぁ〜〜るっ!!幸せエナジーキラキラ〜!!!」

アレン「…」

満天星「…」

アレン「わ、わぁ…」

冥導星「ブフッ…ギャハハハハハハ!!!!」

満天星「うぅぅぅぅ…!!笑うな!!!!笑うな冥導星!!」

冥導星「ヒッヒッ…イヒヒヒハハハ…!!だ、だってよぉ!!お前そんな…『わ、わぁ…』だってよォ!!ゲハハハ!!』

満天星「おまっ!お前ぇえ!!!絶対許さないからなぁ!!!!」

光明星「まったく…笑いすぎですよ冥導星。満天星も落ち着きなさい。」

満天星「だっ、だってだってぇ!!」

アレン「ま、満天!凄かったよ!魔法使えるなんて凄いよ…!僕本当に幸せになれたよ!!本当だよ!?だ、だから…」

満天星「や、やめてよぉ!!アレンまで僕の傷抉らないでよぉ…!!うえーん!!」

アレン「え、えぐってなんて…」

アレン:えぐえぐと泣いてしまった満天の側でケタケタと笑っている冥導星さん。そんな僕のそばでちょいちょいと僕に手招きをして、コソコソと内緒話をし始める聖天星さんと幸願星さん。

聖天星「アレン様、今のは満天星のよくある持ちネタみたいなものなんだ。」

アレン「も、持ちネタ…?」

幸願星「そうそう〜、満天星が子供達や人間達に元気になって貰おうとして自分で作ったんですぅ。可愛いですよねぇ〜。」

アレン「満天が…」

聖天星「冥導も、あぁやって笑って馬鹿にしているように見えるが、実際は良いアイデアだと褒めていたんだ。まぁあとは、今までの張り詰めた空気を和ませようとしてくれていたのかもな。…あ、これは私たちだけの秘密にしておいてくれ。後でタコ殴りにされるのは御免だからな。」

アレン「は、はい!」

アレン:…そっか、僕にあんなこと言ってたけど、冥導星さんもきっといい人なんだろうな…案外怖い人じゃないのかも…

幸願星「まぁでもぉ〜、満天が私たち五星天の中の可愛いアイドルなのは言わずもがなですけどねぇ〜」

聖天星「ははっ、それはそうだな。」

アレン:そ、そうなんだ…なんだか意外なことを知ってしまった…

冥導星「ハァ〜…中々面白いもん見してもらったぜェ……ブフッ」

満天星「冥導星ぃぃ…後で覚えてろよ…」

光明星「はぁ…まったく…みなさん気持ちを切り替えてください。あー…自己紹介も終わったことですし…」

聖天星「いいや、まだ終わっていないぞ」

光明星「え?」

聖天星「アレン様の自己紹介がまだではないか」

アレン「あっ」

幸願星「あぁ〜」

満天星「んあ!確かに確かに!!」

冥導星「あ?別にいらねぇだろ」

満天星「なっ!ちょっと冥導星!」

冥導星「そんなん前回の五星会議で資料回ってきてわかってんだろ。今更知る必要性あんのかよ」

幸願星「ん〜、私は興味がありますねぇ〜」

冥導星「ハァ?マジかよ幸願星」

聖天星「珍しいな、幸願星が興味を持つなんて」

幸願星「紙面だけでは知り得ない情報もありますからぁ〜。」

満天星「うんうん、そうだよね!!じゃあアレン!自己紹介しちゃってしちゃって!」

冥導星「…チッ、あーあ。めんどくせぇ」

アレン「…あー、えっと…」

光明星「アレン様、無理に仰らなくても大丈夫です。自己紹介といっても簡単ですから、気負わずありのままをお話し下さい。」

アレン「は、はい。」

アレン「…えーっと、、僕はアレンです。13です。弟が一人いて、二人で暮らしてます。街の炭鉱で石を掘る仕事をしてて…でもつい最近それもクビになっちゃって…それで、毎晩お月様にお祈りをしてたら、お月様が現れて僕をここまで連れてきてくれました。僕、あんまりよくわからないんですけど、お月様の巡り…人?みたいです。」

アレン「…えっ…と。よろしくお願いします…」

アレン:みんなの視線が集まる中、僕は本当に簡単なことしか話せていなかったように思う。正直、ちゃんと伝わってるのかもわからなかった。
でも、五星天のみんなが、ちゃんと僕の話を聞いてくれたのが伝わった。それだけで、なんだか嬉しかった。

満天星「うんうん!よろしくアレン!!」

聖天星「困ったとがあったらなんでも聞きなさい」

冥導星「俺には関わんなァ」

アレン「は、はい!」

光明星「…ではアレン様、そろそろ月華様がお戻りになられますので、お席の方にお座り下さい。」

アレン「席…?」

幸願星「アレン様ぁ、こちらですよぉ〜」

アレン:ちょいちょいと手招きをして僕を呼んだのは幸願星さん。中央の空いている席と幸願星さんの間の席を指さす。近くまで行くと、光明星さんが椅子を引いてくれて、『アレン様はまだ椅子まで届かないでしょう。』って僕を抱え上げて座らせた。

アレン:…僕、そんなに子供に見えるのかな

アレン:僕を座らせた後、光明星さんはまた扉の方まで行ってしまって、そのまま僕はどうしたらいいのかわからなくなった。

アレン「…」

幸願星「アレン様ぁ」

アレン:下を向いていたら、幸願星さんが僕の名前を呼んだ。

幸願星「アレン様ぁ?」

アレン「あ、はい、なんですか幸願星…さん?」

幸願星「あははぁ、私の事は幸願星でいいですよぉ〜。呼びにくいでしょぉ?」

アレン「あぁ…はぁ…」

アレン:ニコニコとした顔を僕の方に向けて話しかける幸願星さん。

幸願星「ところでぇ」

幸願星「アレン様には、叶えたい願い事はありますかぁ?」

アレン「ね、願い事…?」

幸願星「はいぃ、どうですかぁ?ありますかぁ?」

アレン「えっと…」

アレン:幸願星さんの弧を描いた目がゆっくり開いて、綺麗なエメラルドが僕のことを見定めるようにじっと見つめている。

アレン「今は…まだない、です。」

幸願星「…」

アレン「…」

幸願星「…そうですかぁ。残念ですぅ」

アレン:興味がなくなったのか、幸願星さんはフイとそっぽを向いてしまった。
僕はなんだか問い詰められたような気分になって、居た堪れずにまた下を向こうとしたその時、大きな音を立ててゆっくりと扉が開いた。

光明星「月華様のお戻りです!」

五星天『おかえりなさいませ、月華様』

アレン:扉の先にはお月様がいて、みんな一斉に立ち上がる。

月「みんなご苦労様。今戻ったよ。」

アレン:穏やかに笑いながら歩いてくるお月様。そうして僕の方まで歩いてくると、僕の頬に手が添えられて、お月様の水晶みたいに綺麗な白い瞳と視線が絡まる。

月「アレンも、待たせてしまってすまないね。」

アレン「あっ、えっと、大丈夫です…!」

月「そうか。」

月「五星の皆と話はできたかな?」

アレン「できました…!」

月「それは何よりだ。光明星もアレンをありがとう。」

光明星「いいえ、とんでもございません。月華様も本日のお勤めご苦労様でした。」

月「うん、ありがとう。…では。」

アレン:そう言うと、お月様は僕の隣、中央の椅子に座って静かに話し始めた。

月「これより五星会議を始める。皆、それぞれの星の現状を報告しておくれ」

五星天『御意』

聖天星「では、まずは私から。我が聖国の民は皆しっかりと己の責務を全うしております。然し乍ら、最近民の中で不安や迷いを感じるものが多く、自らの責務に疑いを持ち抗議するものが現れるようになりました。私はこの状況が人間界からの負の感情の増幅により起こっているのではないかと推測しております。」

月「ふむ。なるほど。ありがとう聖天星。その問題は早急に解決しなければならないね。皆の状況を確認次第また改めて話そう。」

満天星「はいはいはーい!じゃあ次は僕が!」

月「満天はいつも元気だね。」

満天星「ふふん!元気が僕の取り柄ですからっ!!」

月「うんうん、素晴らしいことだ。じゃあ報告を頼むよ。」

満天星「はーい!えーっと、僕の満星国はいつも通りみんな元気いっぱい!…って言いたいところなんですけどぉ…この頃皆んな何だか元気がなくって…幸せって気持ちが無くなってきちゃってるんです…。
僕はみんなの笑顔が見たいのに…どうしたらいいんだろうって考えて、まだ解決策が見つからない感じです…」

月「そうか…満天の方も同じか。となると他の皆の国も同じような状況だろう。同じような状況であれば簡潔に説明を頼むよ。」

幸願星「はぁい。幸国(コウコク)も同じですぅ。今までは私が民の願いも一括して叶えてきましたがぁ、それも今では滅多に起こらなくなりましたぁ〜。同様に人間界からも願いの力が弱まっているみたいですぅ〜。」

冥導星「こっちは逆に冥界に連れて行く際に駄々を捏ねたり横柄な態度を取る者が増えてきましたねェ。まぁ今までもそういう輩は多かったですけど、最近は比にならないぐらい増えてきて困ったもんっスねェ。こちとら手ェ上げるなんざできないんで、働いてる奴らもいつにも増して辛気臭い顔して仕事してますわ。」

光明星「私の国も同様です。民の活気が無く、更には人間界と星界とを繋ぐ道標の光が消えかけています。このままでは星界と人間界との天秤が崩れ、我々の星々に何らかの影響が及ぶ可能性がございます。」

月「…そうか」

月「どうやら、人間界全体で何か良くないことが起こっているようだね。だからこちら側の世界にも負の影響が出てきてしまっているのだろう。
…一先ず、我々が今できるのは現状をしっかりと把握すること、責務を全うしながら各々国民との関わりを深めること。そして最悪の状況を考え、万が一にも腐星が発見された場合、一早く私に報告し腐星地域の封鎖を行うこと。皆しっかり連携を取ることを忘れずに。良いね。」

五聖天『御意』

月「何かあれば私か光明星に報せを送りなさい。光明星、頼んだよ」

光明星「畏まりました。」

月「ではアレン」

アレン「は、はい!」

月「会議は終わった。私の宮へ行こう。」

アレン「き、宮…?」

月「あぁ、私の家だよ」

アレン「えっ、こ、ここはその…宮じゃないんですか…?」

月「ん?あぁ、ここは五星の間だよ。会議をしたり、食事をとったり、五星の皆が休息を取ったりする場所なんだ。」

アレン「そ、そうだったん…ですね…」

月「そう、だから今から宮の方に移動するんだよ」

満天星「えぇ〜!アレン月華様の宮に行くのー!?いいないいなぁ!!僕も行きたいぃ!!」

冥導星「一々騒ぐな満天。俺らとアレン様は身分が違ェんだよ。」

満天星「そっ、そんなのわかってるよっ!只いいなって言っただけじゃないか!」

幸願星「それが満天の願いなら、私が叶えてあげるよぉ?」

満天星「幸願!い、いや…!遠慮しとくよ…!」

聖天星「ほら皆静かにしないか。月華様は照らしで、アレン様は長旅で疲れているんだ。休息をとってもらわなければ。」

幸願星「確かにそうですねぇ〜。アレン様も心無しか草臥れているように見えますぅ」

アレン「く、草臥れ…」

冥導星「人間はすぐに顔に出るんだなァ。貧弱すぎて見てられねぇよ。そんなんで月華様の巡り人になるなんて100万年早ェっての」

光明星「冥導星…!お前はまた!」

アレン:会議が始まった時はまるで違う、始まる前のわいわいとした雰囲気にまた包まれて、みんなが思い思いに喋り始める。草臥れた顔…って言われたのは何だか嬉しくないけど…僕そんなに疲れた顔してるかな…?

アレン「ぼ、僕…そんなに顔に出てますか…?」

幸願星「ん〜…まぁ〜多少なりともぉ〜?」

アレン「そ、そうですか…」

光明星「アレン様は此方に来たばかりな上に情報を処理しきれていないのでしょう。余りご無理をなさらず月華様と急ぎ宮へお向かいください。此処は私が何とか致しますので。」

アレン「は、はい…すみません」

アレン:そんなに顔に出てたなんて…とがっかりして謝ると、お月様がそっと僕の手を取って優しく笑いかける。

月「アレン、君は何も悪くないのだから謝らなくて良いんだよ。きっと緊張の糸が解けて疲れが出てしまっただけさ。」

アレン「そ、そうなんですかね…」

月「うん、そうさ。今日はゆっくり休んで、また明日五星に会えば良い。時間はいくらでもあるのだから。」

アレン「あ、明日も皆に会えるんですか?」

月「勿論。君が望むならね。」

満天星「僕も僕も!僕もアレンに会いたいよ!」

アレン「満天!」

満天星「アレンがいいなら明日一緒に遊びに行こう!星界を見て回って、お茶しておしゃべりして…きっとものすごーーっく楽しいよ!!」

アレン「わぁ…!楽しそう…!」

満天星「でしょでしょ!?じゃあ決まり!明日も会おう!」

聖天星「それなら私も是非参加させて頂こう!」

アレン「せ、聖天星さん!?」

幸願星「おやぁ意外ですねぇ。貴方が名乗り出るだなんてぇ」

冥導星「人間に興味は無ェんだと思ってたがなァ」

聖天星「月華様の巡り人だからな。多少なりとも興味はあるさ。それに満天と二人だけでは何かと心配だしな。アレン様、私もご一緒しても構わないだろうか。」

アレン「えっ、あ!勿論…です!」

聖天星「そうか!ありがとう。」

満天星「じゃあ僕の方から月華様の宮の者に報せを送るね!遅刻しないでよアレン!」

アレン:そう言う満天に、僕はガッツポーズをしてみせる。

アレン「が、頑張る…!」

アレン:それに嬉しそうにピースをする満天。僕と満天のやりとりを、隣にいるお月様は優しく笑って見ているようだった。

光明星「…月華様、そろそろ」

月「そうだね」

月「アレン」

アレン「?何ですかお月様?」

アレン:不意に名前を呼ばれて隣を見ると、お月様はまた優しく僕の手を取って扉の方に歩いて行く。

月「そろそろ宮へ行こう。」

アレン「えっ!ぼ、僕はまだ元気ですよ!」

月「いいや、私の方が眠たくなってきてしまってね。五星には悪いが、一足先に休ませてもらおう。」

アレン「そ、そうですか…じゃあ…」

アレン:少し残念だけど、お月様が眠たいならしょうがないか…

光明星「月華様、アレン様がお帰りです!」

五星天『おやすみなさいませ』

月「あぁ。君達もね。」

満天星「月華様おやすみなさい!!アレンも!また明日ねー!!!」

幸願星「今度は私とも沢山お話ししてくださいねぇ〜」

聖天星「ゆっくり休むといい!また明日会えるのを楽しみにしている!」

冥導星「俺には会いに来るんじゃねェ」

光明星「…最後まで煩くて申し訳御座いません。アレン様、どうぞごゆっくりお休みください。」

アレン「い、いえ!!光明星さん1日ありがとうございました…!満天と聖天星さんはまた明日!!皆さんもおやすみなさい!」

SE:扉の閉まる音

アレン:最後の方は扉の音で聞こえていないかもしれないけれど、皆が手を振ってくれたのがしっかりと見えて、それだけで何だか嬉しくなった。

アレン:それから暫く長い廊下を歩いて、歩いて。建物の中から外に出て、薄暗くなった白い町を歩くと、その先にまた真っ白く大きな建物が見えて来た。僕はそのすごく立派な建物がお月様の住んでいるお家だってことがすぐにわかった。なんでかって?それは歩いてる時にお月様が教えてくれたから。

アレン:中に入ると、お風呂の時にいた白い人達が僕を囲んで、一瞬の内に僕は服を着替えさせられて、お月様の部屋に案内された。

アレン:そうして気づけば、僕は見たこともないくらい大きくてフカフカなベッドに寝かしつけられていた。

アレン「え、えっと…」

月「今日は疲れただろう。何も考えず、今はただ眠りなさい。」

アレン「ね、眠かったのはお月様じゃないんですか…?」

月「うん?…あー、何だか頭が冴えてしまってね。もう少ししたら私も眠るから、アレンは先に眠っておいてくれるかな。」

アレン「そ、そうですか…」

アレン:ベッドの淵に座って僕を見ているお月様。僕は何だか居た堪れなくなって、何とか会話を続けようと話かける。

アレン「…あの」

月「皆と随分仲良くなったみたいだね」

アレン「えっ?」

月「満天とはもう友達になったみたいじゃないか」

アレン「あ、は、はい」

月「…君は私の巡り人なのだから、そう固くならないで。…そうだなぁ、満天の時のように砕けた話し方で話してはくれないかい?」
 
アレン「え…えぇ…!?」

アレン:急なお願いに僕は凄く驚いた。だってお月様はお月様で…神様みたいな…でも凄く近い存在で…うーーん…。
巡り人のことはまだよくわかってないけれど、確かに僕とお月様は好き同士ってことだから…満天と同じってこと…なのかな?けど…

アレン「けど…」

月「…だめかな」

アレン:困ったように笑うお月様に、僕はすぐ根負けしてしまった。そんなふうに笑うのは何だかずるいと思う。

アレン「わ、わかりまし…わかっ…た。」

月「…ふふっ、ありがとうアレン」

アレン:優しく笑いながら僕の頭をよしよしと撫でてくる。それが何だか、凄く心地いい。

月「いきなり連れて来てしまって悪かったね。明日またゆっくり話そう。…それまでは、ゆっくりおやすみ。」

アレン:優しく撫でる心地いい手と、落ち着いた静かな声にフカフカのベッド。抗えない気持ちよさに、気づけば僕は意識を手放していた。

月「…おやすみ。可愛くて可哀想な、私のアレン。」

アレン:そうして意識が現実に戻った頃には、時計の針はてっぺんを指していて、時計の針がチクタクと鳴る部屋に、僕が一人いるだけだった。

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