音楽旅行記③(ヘルシンキ Flow Festival二日目)PJ Harvey. Fred Again..
2024/8/10(Flow Festival 二日目)
ホテルは、Bulevardi という通りにあるホテル 「インディゴ ヘルシンキ ブルバード」に泊まった。2人で3泊朝食付きで71,000円。一泊あたり1人12,000円くらいなので、ヘルシンキにしては安い方だろう。部屋も綺麗だった。朝食は野菜や果物、パン、サラミ、ハム、カリカリベーコン、サーモンなど種類が豊富なブュッフェで、メニューから一皿選んで卵料理などを提供してくれる。もちろんコーヒーも付く。すいかが甘くて極めて美味しく、日本人は何でも日本のものが一番美味しいと思いがちだが、すいかについてはフィンランドの方が美味しかった。フィンランドですいかを作っているとは思えないので、輸入品だろうけども。
Bulevardiは、並木道が続く落ち着いた通りで、散歩するととても気持ちが良い通りだった。治安は極めて良く、日本人に人気があるのも分かる。おしゃれなカフェや雑貨屋や古着屋などが並んでいて飽きない。
flowは、主なアクトが夕方くらいから始まるのでホテルでゆっくりして、15時くらいまでは街中を観光できるのも良い。この日は港まで歩いてオールドマーケットを見たり、ヘルシンキ大聖堂を見た。朝食でお腹がいっぱいだったので食べなかったが、マーケットには美味しそうな食べ物もたくさんあった。北欧はサーモンやニシンをよく食べる。キャビアやトナカイの肉もあった。もちろんミートボールも。
この日は晴れていたので、会場に入る前にスーパーでビールを買い、ビーフジャーキーをツマミに公園で飲んだ。
flowの会場はHELENというフィンランドの電力会社の敷地で行われているのだが、このHELENの建物が実に迫力があって趣きがあり、カッコ良すぎて何度も写真を撮ってしまった。でも、この建物、解体途中なのだ。解体が進むとこの場所で開催できなくなるのかもしれない。
ちなみに気になって調べてみたが、会場にあるのは火力発電所だったが、フィンランドは原発先進国と言われるくらい原発とうまく付き合っている国である。
flowの魅力は都市型であることが大きい。
ヘルシンキの街と一体になったイベントであり、街の若者や音楽好きが集まる夏のお祭りなのだ。夕方に集まって、夜まで騒いで家に帰る。歩く人や自転車、トラム、バスなど公共交通で家に帰る。Luupみたいな電動自転車もすごく普及している。
お祭りなのでみんなおしゃれをして来ている。フジロックは山の中で開催しているので、アウトドアスタイルになってしまうが、ここでは普段着な格好の人が多い。若い女の子などは、そんなに露出して寒くないのかなと思うくらいだが、お祭りなのでここは出会いの場でもある。クラブ系のダンスアーティストが多いのも納得できる。ラインナップは音楽好きを意識したものだが、客層は老若男女がいる。もちろん音楽を楽しみに来ているのだろうが、若者の多くはお祭りに参加しているといった方が正しいように感じた。入場料も、3日で40,000円くらいなのでそこまで高くない。
あまり他国のことを憶測で語るのは良くないが、フィンランドで、ヨーロッパで人気があるアーティストを呼んでフェスを開催することには、多くの意味があるはずだ。
今日観る予定は以下
Verneri Pohjola:Mokey Mind
Jimi Tenor & Jori Hulkkonen
Yves Tumor
PJ Harvey
Overmono
Fred Again..
Aurora
Verneri Pohjola
Balloon360° でVerneri Pohjolaを観るところから始まった。Verneri Pohjolaはヘルシンキを代表するトランペット演奏者らしい。スペーシーなスピリチュアルジャズで、落ち着いた雰囲気がとても良かった。最後に演奏した"Space Diamonds"は、有名な曲のカバーだと思うのだが、誰の曲なか分からず今でもモヤモヤしている。
Jimi Tenor & Jori Hulkkonen
次は、BlackTentというフジロックでいうところのレッドマーキーを一回りくらい小さくしたサイズ感のステージに向かう。Jimi Tenorは地元を代表するアーティストだが、Ron Trentの代役で急遽出演することになった。懐かしい。
イメージは、Warpから1997年にリリースしたIntervisionの貴公子っぽい感じだが、もう白髪で、白衣みたいな衣装を着ており、教授みたいな佇まいだった。フルートを吹いたり、サックス吹いたり、歌ったりと奇才っぷりは変わらなかった。直近リリースしたJimi Tenorのアルバム「Is there love in outer space」は、アフロファンクな作品だったが、この日は即席での参加だったので、バンドセットじゃなかったのはちょっと残念。しかも、朝方に降った雨がたまり、ステージ前には大きな水たまりができており、みんなが、水たまりを避けて空いた空間ができてしまっていたのはかわいそうだった。
flowは、3万くらいが集まるフェスの規模だが、あまり混雑しているという感じはしない。適度な距離感を持ってライヴを観れるのは良い。ステージも高いため後方からでも良く見える。ただ海外あるあるだが、時おりとてつもなく背が高い巨人がいるので、背の低い日本人にはツラい時があるのは避けられない。
メインステージ、Silver Area、BlackTent、Balloon360°の他にも、DJが演奏しているフロアスペースが2つと、アヴァンギャルドなアーティストが演奏するステージがある。タイミングが合わなくて観れなかったが、アヴァンギャルドなアーティストが集まるステージ「The Other Sound」には、LankumのIan LynchのソロプロジェクトであるOne Leg One Eyeや、ビブラフォン演奏者である藤田正嘉 なども出演しており、音楽の幅が極めて広いのも特徴だ。
この日は会場でご飯を食べなかった。BlackTentの近くに地元のクラフトビールを提供しているお店があり、そこのビールばかり飲んでいた。
Silver Areaに移動してYves Tumorを観る。
Yves Tumor
Yves Tumorは変わったロックバンドだ。「Safe In The Hands Of Love」までのエキセントリックなエレクトロアーティストというイメージをぶち破り、グラムロックを取り入れて、突然王道のロックバンドを始めた。映像で彼らのライヴを観た時には、想像していたのとあまりにも違ったので、別なアーティストと勘違いしたかなと思ったくらいだった。今では完全に新しいロックの形として聴いている。
この日もYves Tumorはロックスターだった。あえて言えば高い声がプリンスを連想させるが、プリンスほど完成されたファンクサウンドではなく、ノイズ混じりのパンクだったり、ハードロックだったりする。彼が黒人にも関わらず、白人の得意とするスタイルを吸収して見せていることで、その違和感に聴き手は戸惑うのだが、Yves Tumorの存在感がその偏見を圧倒するところが面白さでもある。ロックという音楽は、違和感を新たな魅力に変えることができる音楽なのだから、Yves Tumorがロックをやることは理にかなっている。ボウイは宇宙人だったのだから。
PJ Harvey
PJ Harveyを観るためにメインステージに移動した。PJ Harveyは、このフェスの大本命で、参加する最大の理由でもあった。特に今年は5月にスティーブ・アルビニが亡くなったこともあって、PJ Harveyをよく聴いた。
ライヴは最新作である「I Inside the Old Year Dying」の曲から始まった。このアルバムは、PJ Harveyが2022年に書いた物語詩「Orlam」を音楽にしたもので、PJ Harveyの地元であるドーセットというイギリスの地方で使われていた、忘れられた方言を用いて、物語とともに蘇らせたものらしい。そのためかステージのセットも簡素で中世的だし、フォークっぽさがある。PJ Harveyも伝承者のような佇まいをしている。
PJ Harveyバンドは、PJ Harveyを長年支えてきたメンバーで、みんな超絶演奏がうまく、味があり個性的だ。その中でもPJ Harveyは役者だった。ステージでの動きや姿勢をすごく意識していたし、表情も含めて全ての動きが演劇のようだった。
ライヴの後半は、各アルバムから代表曲を選んで演奏してくれた。あまり過去曲をやるのは好きではないみたいだが、The Desperate Kingdom of Love 、Man-Size、Dress、Down by the Water、To Bring You My Loveの流れは涎ものだった。乾いてささくれだったという表現は、アルビニの音だし、いい音楽の例えだと思うがPJ Harveyにこそ合うと思う。2025年3月には来日する。
次はSilver Areaに移動してOvermonoを眺めていたが、あまり心に響かずビールを飲みに移動した。ロック熱が再燃してから電子音楽が聴けなくなった。フジロックでもFloating Pointsを観た時には盛り上がっていたし、決して嫌いなわけではないが、生演奏ではないものには魅力を感じなくなってしまった。
Fred Again..
この日のトリはメインステージでFred again..だったが、ものすごい人だった。メインステージが人でぎっしり埋まっていて、ヨーロッパでの人気ぷりを伺うことができた。ヘルシンキの若者達もほとんどがFred Again..を観に来ていたし、Flowの中でもぶっちぎりに盛り上がったのは間違いなくFred Again..だったと言える。ここまで盛り上がっているライヴの経験も、そうはないくらいではあった。
それなのに、盛り上がっているからといって感動したかというとそうでもない。音だけ聴くとJamie XXは大好きなのに、Fred Again..がダメな理由は特にないのだが、私はFred Again..に感じるあざとさがどうも好きになれないでいる。
でも偏見なくFred again..を聴ける人にとっては、最高のライヴだったのは間違いない。ヘルシンキの人たちも大満足だったハズだ。
Fred Again..は、演奏の途中で、メインステージの真ん中に作られた臨時のステージに移動して演奏したり、その一挙一動に大きな歓声が上がった。
この日の最後は、SilverAreaで Auroraを観る予定だったが、寒いのもあってか疲れもあり、一曲だけ聴いて退散した。
この日は会場の最寄からトラムでホテルまで戻った。