音楽旅行記⑨(ノーリッチ・Wild Fields Festival)Nubya Garcia.Ezra Collective
8/16
旅も終盤に差し掛かっている。
朝、6時過ぎに起きてLiverpool Street駅に向かった。Wild Field Festivalへ参加するためNorwichに移動する。駅でパイとコーヒーを買って電車に乗り込んだ。パイを食べまくっている。乗る電車は決められているが自由席になっている。この簡単な事実で帰りミスを犯すことになるが、それはあとで書く。
Norwichには、Greaterangliaという会社が運営する電車に乗って、2時間弱で着いた。電車のチケットは、あらかじめ予約していた。
地図を見てもらうと分かるが、Norwichは地方都市の田舎街である。私はサッカーに疎いので知らないが、弱小だが熱狂的なサポーターがいるサッカーチームが有名らしい。Norfolkの州都である。
駅には9時過ぎについた。荷物を預けにホテルに立ち寄った。ホテルはサッカーチームのNorwich City FCのホームグラウンドの真横にあり、私が泊まった部屋からは、コートが一望することができた。
ホテルに荷物を預けて早速会場に向かった。会場まではシャトルバスなどが運行しているわけでもなく、市内の路線バスを使って向かう。バスで30分くらいで着いた。途中、Norwichの市街地を通っていくのでちょっとした観光だった。Wild Fields Festivalの会場は、Earlham Parkという場所で、街外れの公園で開催される。East Anglia大学や運動施設もある総合公園である。
会場が公園のどこなのか、案内もなくよくわからず適当に歩いていたら、何となくたどり着いた。開場は12時からで、着いたのは11時過ぎだったが、観客と思われる人は数人いるだけだった。入口の近くにEarlham Park Cafeというカフェがあったので、そこで紅茶を飲んで時間を潰した。幸い今日は快晴だったので、心地良く、のんびりした。広大な芝生で、犬の散歩に訪れる人もいた。
12時過ぎると何人か入場しているのが、確認できたので、我々も入場した。数ヶ月も前からここに来ることを想像して楽しみにしていたので、無事に辿り着けて、感慨深いものがあった。
会場といってもそんなに大きなものではない。端から端まで歩いても、5分もかからないだろう。小ぢんまりとしたメインステージが一つと、二階建てバスをステージ代わりにした二つのステージがある。お店は、カレー、フライドチキン、アイス屋などがあり、お酒が買える大きなテントもあった。働いている人はみんな地元の人みたいで、ビールを買いに行ったら、辿々しくて慣れていないのが伝わってきた。
せっかくなので物販でこのフェスのTシャツを買おうと思っていったら、私が一人目の客だった。フェスTシャツ以外には、Ezra CollectiveのアーティストTシャツと、フェスを運営しているWildPathのトートバッグを買った。普段はグッズなどは買わないのだが、この土地で初めてのフェスなので、応援したい気持ちがあった。
Sam Eagle
12:30を大分過ぎてからトップバッターであるSam Eagleの演奏が始まった。おそらくあまりにも集客がなかったので、始められなかったのだろう。Sam Eagleはフォークをベースにしたシンガーソングライターで、観客が少なくかわいそうではあったが、ギターの音も歌声も心地良かった。
お昼は、フライドチキンサンドを買った。ビールが進む邪悪な味だった。ビールは、地元のブルワリーであるDuration west acre brewingのクラフトビールを飲んだ。このクラフトビールはフルーティーで美味しかった。
Nectar Woode
次に登場したのは、Nectar Woode。
Nectar Woodeは今年デビューしたばかりの女性ソウルシンガーだ。ガーナ系イギリス人で、父親もサックス演奏者らしい。ポップで耳触りの良い歌声を披露してくれた。天気が快晴なのもなお良い。ロック系を中心に聴いているのでめちゃくちゃ歌が上手く聴こえる。
どうでもいいが、予習で彼女のGood Vibrationsを気に入り、目覚ましに設定していたので、毎日聴いていた曲が聴けて嬉しかった。普段は、進んで聴くタイプの音楽ではないが、ここで出会ったのも何かの縁で、これからの活躍を期待したい。11月には新しいEPもリリースされるみたいなので楽しみだ。
徐々に人も集まってきた。
みんな芝生に座り込んでビールを飲みまくっている。夏休みで家族連れやカップルが来ている。子供も非常に多い。イギリスはフェスが日常なので、偏見なく家族で参加できるのかもしれない。日本のフェスは、若者が参加するもので、会場ではマリファナが売買されているような、とんでもない偏見を持っている人も一定数いるので、とてもじゃないが家族連れで参加するなど考えられない。小さな子供を親が連れていることはあっても、高校生くらいの子供と一緒に来ることはないだろう。イギリスではJazzを聴くために家族で参加している人もいる。
Yazmin Lacey
Yazmin Laceyは、去年傑作アルバム「Voice Notes」をリリースして話題になったので知っている人も多いだろう。去年、日本にも来日してBillboardでライヴを行っている。私は、Billboardには行けなかったので、ようやく観ることができた。ソウルやジャス、レゲエを吸収した音楽だが、独自の個性を持った彼女の声が特徴的だ。Ezra Collectiveの新作「God Gave Me Feet For Dancing」でも聴いたらすぐYazmin Laceyが歌っていると分かる特徴的な声の持ち主だ。本人の作品は、スローな曲が多く贅沢なチルアウト空間を作り上げていた。声がめちゃくちゃのんびりしていて、ダンストラックでもチルアウトになる。バックバンドメンバーがめちゃくちゃ上手かった。ステージ前では踊っている人も多数いた。
Jalen Ngonda
次に登場したのは、Jalen Ngonda。
日本で観るならBluenoteにいくら払えば良いんだってくらい贅沢なフェスである。Wildfieldsの参加費は、早割で約8,000円だったので、物価高のイギリスにおいても激安のフェスだ。Bluenoteで観るライヴの一回分である。イギリスで観れる人は羨ましい。
話を戻してJalen Ngondaである。去年リリースした『Come Around and Love Me』は大ヒットしたアルバムだ。マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドなどに代表される、70年代ソウルをダイレクトに影響を受けたアルバムである。このアルバムを聴いていると、今は何年代なのかと思わず思ってしまう。どの曲も初めて聴いた曲なのに、ずっと前から知っている名曲にも聴こえて来る。Jalen Ngonda は歌っている表情も良い。誰かに似ている。
Jalen Ngondaはとても人気もあり、会場で散り散りになっている観客も一目見ようとステージ周辺に集まっていた。これからどんな作品を作ってくるのか、とても楽しみだ。キャリアを積むほど味が出るタイプだと思う。9/26にリリースされた「Anyone in love」も甘いソウルバラードでとても良かった。
Nubya Garcia
まだまだ続く。
Nubya Garciaは、去年の10月に東京のBluenoteで観てからすっかりファンになってしまった。先月リリースしたアルバム「Odyssey」も素晴らしかった。音楽の探究者である姿勢も素晴らしいし、MCなどで見せる気さくさも魅力だ。
Nubya Garciaは、十代の頃、Ezra Collectiveのメンバーなどと一緒に、トゥモローズ・ウォリアーズで音楽を学んでいる。イギリスには、芸術を推進する学校があり、トゥモローズ・ウォリアーズやブリット・スクールなど、お金がなくても個性を磨くことができる場がある。こういうシステムが貢献して、イギリスの芸術を持続可能なものにしていることは間違いないだろう。
メンバーは、昨年来日した時と同じ。
UKJazzは、Jazzをベースにダブやファンク、ダンスミュージックを取り入れているのが面白い。Nubya Garciaも、ダブを取り入れた曲が特に好きだ。この日も一曲目から"Source"で始まって、ダブで会場を盛り上げた。Bluenoteは、音が良くて生音が映えるメリットがあるが、フェスだと踊りながら観れるのが良い。"The Message Continues"や"Fortify"で、ドラマーのサム・ジョーンズが魅せる超絶ドラムと、Nubya Garciaのサックスの掛け合いも良かった。"La cumbia me está llamando"で、アフロダンスミュージックを演奏して、最後は、新作の"Triumphance"で攻撃的なダブを披露して締めた。"Triumphance"は新作の中でも、壮大なダブで特に好きな曲だ。
夜が近づいてきており、ご飯を食べたいところだが、早くも売り切れになり店じまいしていており、ご飯を提供できるお店が限られていることから、長蛇の列が出来ている。フェスに来ると無性にカレーが食べたくなることがあり、カレーの屋台に並びたかったのだが諦めた。
Sampa the Great
いよいよ残すところ2組になった。
登場したのは、Sampa the Great。
Sampa the Great は、ザンビア出身のアーティストで、ラッパーである。オーストラリアを拠点に活動していたようだが、最近はザンビアに戻って活動しているらしい。Ezra Collectiveの"Life Goes On"や、The Avalachesの"We will always love you"でも、Denzel CurryやTrickyと共に参加して個性的なラップを披露している。いずれも名曲だ。
Sampa the Greatのステージは衝撃的だった。何というか、初めて体験するものだった。4人のダンサーとSampa The Greatのラップで構成されており、衣装は全身赤で統一されている(GEZAN!?) 。Sampa The Great自身も踊りながらラップを歌っているのだが、ドスの効いた声が迫力があり、圧倒的な存在感を放っている。曲のベースになっているのは、ヒップホップやR&Bで、USのスターラッパーたちとも近いのだが、怒りが強めで、またアフリカテイストが加わっていることが大きく違う。初めは圧倒されていたNorforkの民も、曲を重ねるうちに踊りだし、最終的には拍手喝采で終わった。なかなか見れる機会はそうそうないだろう。とても良い経験になった。
Sampa the Greatが終わる頃には、陽が落ちようとしていた。この日は天気が良くとても気持ちが良かった。
Ezra Collective
このフェスのトリでもあり、かつ旅行のトリでもあり、さらに7月から8月に渡って続いたライヴ三昧の最後のトリでもある、Ezra Collectiveのライヴがついに始まろうとしていた。
ステージのセットが終わる頃には、陽が落ちて夜になっていた。ステージ横のモニターには「Ezra Collective is dancing with Wild Fields」の文字が表示されており、気持ちが高まった。
ステージの前は人でいっぱいになり、メンバーがステージに登場すると大歓声が上がった。演奏を始める前にドラムのFemi Koleoso からMCがあったのだが、演奏を始める前に、まずは、周りの人とハグをしようと提案があり、観客のみんなが周りの人とハグをし合った。ハグになれない私たちは、もじもじしていたが、イギリス人からハグを求めてくれた。もうこの時点で、会場の空気が特別なものになっていた。
演奏が始まるとみんな踊りまくった。演奏したのは、前作の「Where I'm Meant To Be」 と先日リリースされた「Dance, No Ones Watching」からで、どの曲もブリブリのダンスミュージックだった。とにかくTJ Koleosoが弾くベースが音が大きくて、ファンキーで最高だった。Jazzはダンスだ!とEzra Collectiveは言っているが、まさにその通りだった。
途中のMCも、すべて英語を聞き取れたわけではないが、非常に熱く、Wild Fieldsに参加することをメンバーも楽しみにしていたことや、Norwichがいかに美しい場所であることや、Jazzはみんなのものであり自由であること、色々な人がいるのが当たり前で、それでも音楽の前では誰もが同じであり、同じパッションや夢を見ることができることを訴えていた。黒人メンバーが中心のEzra Collectiveが言うと、とてつもなく説得力があって、何度も胸が熱くなった。
"Life Goes On"では、Sampa The Greatが登場して、ドスの効いたラップを披露して盛り上げた。"God gave me feet for dancing"で、Yazmin Laceyも登場するんじゃないかと期待したが、それはなかった。それにしても、「神は、踊るために足を与えてくれた」というタイトルは何てEzra Collectiveらしいタイトルだろう。「Dance, No Ones Watching」は、1984のBig brotherとは逆のことを言っており、ダンスの前では誰もが自由で、なりたい自分になれることを意味している。
ライヴのハイライトは、"Here My Cry"でメンバーがステージから降りてきて、みんなと一緒になって演奏し、踊り狂った瞬間だ。あまりの祝福感に今思い出してもこみ上げるものがある。会場全体が飛び跳ねてダンスしていた。そのままVictory Danceへと繋がり、フロアは大興奮状態となった。
Ezra Collectiveは、1時間半近く演奏してくれた。間違いなくこの旅の中で、ベストアクトだったし、私の生涯においてもBest Liveの一つになり得るほど楽しくて、多幸感がある感動的なものだった。私は、今の時代において、Ezra Collectiveこそ、世界で最強のライヴバンドだと断言したい。
Wild Fields Festivalは、まだ一年目のフェスでなれないところや、物足りないところもあったが、ちょうど良いサイズのアットホームなフェスでとても良いフェスだった。地方都市における都市型フェスとしては、理想的だったんじゃないだろうか。何よりもみんなが音楽を愛していることや、Norwichが大好きなことがよく伝わってきた。また来ることができるかはわからないが、来年以降も継続することで、Norwichの音楽フェスとして根付いていって欲しいし、日本から応援したいと思う。
※Wild Fields Festivalは、UK Festival Award 2024で、Best New Festivalを受賞したようだ!おめでとう🎊
帰りもバスで駅まで戻った。
さすがにバスで帰る人も多く、一台目のバスに乗ることは出来なかったが、二台目のバスにすぐ乗れた。ほとんどの人は車や自転車で帰って行った。
ホテルに戻ってチェックインすると、お腹が空いていたので、フロントでカップラーメンを買って食べたのだが、これが衝撃の不味さだった。イギリスのカップヌードルで、「Pot Noodle」という商品だ。どうしたらこんなに不味いラーメンを作れるのかがわからない。麺は短くてボソボソだし、スープも味気ない。量も少ない。お腹が減っていたので、妻が怒り出す始末だった。イギリスに行ったらぜひ食べてみて欲しい。