音楽旅行記⑥(オックスフォード-ロンドン)The Orchestra For Now@Windmill Brixton
2024/8/13
涼しくなったとはいえクーラーがない部屋だったので、起きたら汗だくになっていた。
ホテルをチェックアウトすると、荷物を預けて、ホテルの向かいにあったお店Love Coffee Co.に朝食を食べに行った。イギリスと言えばイングリッシュ・ブレックファーストだろう。プレートに目玉焼き、カリカリベーコン、ウィンナー、豆のトマト煮、ハッシュポテト、マッシュルームとパンが乗っていて、朝から豪勢で嬉しくなるやつだ。このお店はすごくフレンドリーな店員さんのお店でとても良かった。妻が頼んだパイが先に来て、私のイングリッシュ・ブレイク・ファーストがなかなか来なかったので、注文がちゃんと通っているか心配だったが、ちゃんと通じていた。
オックスフォードは、言わずと知れた歴史ある学園都市だ。街全体が古い建物を残しており、見どころが多く散策しがいがあり、歩いているだけで楽しい。ハリーポッターの食堂シーンに使われたクライストチャーチや、ボトリアン図書館などがある。ただ、入館料は高い。クライストチャーチは一人4,200円くらいで、ハリーポッターファンでもないので、私は諦めた。ロンドン同様、オックスフォードの自然史博物館は建物も美しく、無料だったので行けば良かったと今さら後悔している。
アーケードになっている通りに、羊毛のお店があったので、マフラーと靴下を買った。前回もエディンバラでマフラーを買って愛用していたので、新調したいと思っていた。とても気に入っている。今年の冬は使いたい。
今日は、ロンドンに移動しなくてはならないので、街歩きは午前中で切り上げて、荷物をピックアップして駅に向かった。オックスフォードからロンドンまでは、GWRという会社の電車で約1時間程度。ロンドンでは、パディントンに着く。途中、レディングを通ったが、翌週末に開催されるレディングフェスティバルに向けて、ステージがすでに設置されているのが電車の中からも確認できた。いつかレディングにも行ってみたい。
ホテルは、イーストロンドンのアルドゲイト駅近くにある、Travelodge London Cityを予約した。3泊で62,000円。一人一万円ちょっとなので安いほうだろう。もともとロンドンのホテルはとても高くて有名だが、実は私が滞在していた期間に、テイラー・スウィフトが、ロンドンでライヴをやっており、ホテルの金額も高騰していたらしい。恐ろしいなテイラー。ちなみにテイラーのライヴがあった日には、号外の新聞が街で配られていた。
チェックインまで時間があったので、すぐ近くにあったThe Bellというパブで、ビールを飲んだ。昼間なのにサラリーマンが外でビールを飲んでいる。ビールは楽しげなガイコツがたくさん描かれたBeaverTown。このBeaverTownはどこのパブでも見かけて、安いのでたくさん飲んだ。パイント一杯1,200円くらいで、日本でクラフトビールを飲むのと変わらない。飲みやすくて美味い。HPを見るとガイコツのグッズもポップで面白い。ロンドンでは、どのパブでもあるなと思っていたら、どうやらハイネケンの資本が入ってるようだ。
クラフトビールは、日本でも流行ってきたが、DIYな感じがとても好きで、ブランドシールのデザインがすごくパンクっぽくて良い。地域性もあって地方でがんばっているのも良いし、何よりも美味しい。クラフトビールを作っている人たちのことを、私も応援している。これからもっと流行ると良いと思う。
ホテルは、コンパクトなビジネスホテルで部屋も綺麗で、寝泊まりには十分だったが、冷蔵庫がなかったり、リンスがなかったりところどころ足りないものがあった。近くのスーパーで補充したが、イギリスで買うと高くつくので、歯ブラシやシャンプーリンスなどは、日本から持参した方がいいかもしれない。
ホテルもairbnbを使って、安くイギリスらしい民家に泊まることも考えたが、オーナーとやりとりするのが面倒だったり、ライヴ帰りで遅く帰ったりするとトラブルになるかもしれないなどと考えてしまい、ホテルこそ快適だと思い直した。海外でのトラブルは思い出にはなるが、やはりない方が望ましい。
ホテルのチェックインでは、英語のできなさを露呈して恥をかいた。フロントの女の子は「Have you stayed at this hotel before?」と、これまでにこのホテルを利用したことがあるか?と聞いていたのだが、これが全く聞き取れなかった。文字で書くとあまりにも単純な質問で、中学生英語のレベルだが、少しでも想定外のことを質問されると、途端にわからなくなる。特にbeforeがまったくビフォアにきこえない。結局、フロントの子が気をきかせて、翻訳アプリを使って説明してくれた。
英語の音楽をたくさん聴いて、英語の映画やドラマを観たりしているのに、一向に覚えることが出来ないのは何とも悲しいものがある。帰国してこの時のことがあまりにも恥ずかしくて、リスニングの本を買って勉強を始めたが、仕事が始まるとグダグダすることを優先して、すでに頓挫しつつある。
ホテルをチェックインした後、コヴェントガーデンに行ってみたくて、地下鉄で移動して行ってみた。2012年にロンドンに滞在した時は、時間がなくてロンドンをあまり観光はできてなかったので、一度行ってみたかったのだ。しかし、もうここに来ることはないだろう。観光客で溢れかえっていた。ここで一番の見どころは、隣接するロンドン交通博物館だろう。ロンドンの乗り物のグッズも買える。私は、地下鉄オレンジラインの座席柄をしたクッションを購入した。家のソファにおいて使っており、とても気に入っている。よいお土産になった。
Windmill brixton
この日の夜は、ブリクストンにあるライヴハウスWindmill brixtonでThe Orchestra for nowを観に行く。
Windmillは、UKインディ好きは誰もが知るライヴハウスだ。ここ最近のサウスロンドンのUKロックシーンはここから始まった。 ShameやBlack Country,New Road、Black midi、Goat girl、初期のFontaine'sDCなどもここでライヴをやっていて、駆け出しの新人バンドを育成する場になっている。最近では、Fat DogやMary in the Junkyard、 Dead letterなどが常連となっている。私が、好きなバンドはWindmillで必ず演奏していると言っても過言ではなく、ここに行くこと自体が、今回のイギリス旅行の目的の一つだった。
アルドゲイドから地下鉄を乗り継いでブリクストンに18時くらいに着いた。ブリクストンは、黒人が多く住んでいる地域で、むかしは非常に治安も悪かったらしい。確かに駅にたどり着くと、持ち込んだスピーカーからダブステップをかけて、ラップする黒人がいたりして、怪しい雰囲気も多少あったが、人も多く、特段、治安が悪い感じはなかった。治安で言えば、ニューヨークで泊まったブルックリンの外れにある、Gate Aveあたりの方が夜中でも人がたむろしており、よっぽど悪そうだった。
Windmillでライヴを観るまで時間があったので、手前にあったパブに入った。広くて快適なパブだ。ここでは、Brixton BreweryとToast Brewingのビールを飲んだ。食べ物は、甘いビーフの煮込みが乗っているパイと、サンドウィッチを頼んだ。どっちもポテトが山盛りだった。
Windmillは、大きな通りから少し入った住宅街に唐突にある。建物には怪しげな悪魔の絵が描かれている。キャパは200人くらいか。ステージの作りが悪くてL字型になっており、決して観やすいライヴハウスではない。柱も邪魔である。他のライヴハウスでも同じだったが、出入りできるように入場の受付時に、手にスタンプを押してくれる。バンドの合間に、外でタバコを吸うためだろう。Windmillは熊の足跡のスタンプだった。日本のようにワンドリンクの制度はない。
Rabbittfoot
ライヴは20時くらいから始まり、まずはサポートのRabbittfootという5人組のバンドを観た。ボーカル、ギター、バイオリン、シンセ、ドラムで男女混合のバンドだ。ボーカルとバイオリンは女の子。まだ未熟で演奏も不安定なところもあるが、楽曲のリリースが楽しみなバンドである。ポストパンクをベースに、バイオリンの弦の響きが組み合わさって個性的な音を出していた。ボーカルも独特で攻撃的なところがあって、一筋縄ではいかない感じが良い。これからが楽しみなバンドだ。
The Orchestra for now
The Orchestra for nowは、7人組で、まだデビュー前で正式な楽曲もリリースしてないが、Black Country,New Road(BC,NR)以降のロンドンシーンを期待したくなるようなバンドである。11/13にはシングルをリリースする。
Green Manフェスティバルでは、毎年新人バンドをコンテストして、優勝バンドはメインステージで演奏できるイベントを企画しており、そのコンテストで、The Orchestra for nowが優勝するなど、周囲の期待は高まりつつある。 早耳でインディロックバンドを応援しているSo Youngでもすでに取り上げられている。今回は、Green Manフェスティバルで演奏する前のウォームアップショウとして開催されたライヴだった。
The Orchestra for nowは、21時過ぎくらいに始まった。YoutubeにWindmillで演奏したライヴが幾つか上がっているので、予習して挑んだ。ちなみにこの日のライヴもYoutubeで観ることが出来る。帰ってから、Youtubeで観ると演奏はまだまだ荒削りだし、ライヴ慣れしてない感じもあるが、実際に観るとボーカルの子はすでにカリスマの雰囲気があった。イケメンなので日本でも人気になるかもしれない。この日も、演奏と同時にモッシュが始まり、お馴染みの曲が始まると合唱が起こるなど、まだ200人を相手ではあるが、すでにファンが付いているバンドであることがわかった。あまりの盛り上がりに、私はモッシュを避けてあとずさりした。
The Orchestra for nowの音楽は、ポストパンクとハードコアに、チェロとシンセが入ってフォーク感もある変わった音楽で、一曲の中で何度も展開が変わり、物語性があり、聴き手を夢中にさせる魅力がある。ライヴを観て、私もすっかりファンになってしまった。この日は新曲も演奏して1時間近く演奏した。
11月にロンドンで予定されていたヘッドラインライヴは、すでに2日間がソールドアウトになっているらしい。このタイミングで観ることができて本当に良かった。BC,NRくらい人気のバンドになって、近い将来日本に来て欲しい。
ちなみに、10月に発売になったPOPEYEのバンドが大好き特集で、Windmillが紹介されていたが、Windmillのおすすめバンドが、EBBBとFatdogと並んで、The Orchestra for nowだったのは嬉しい限りだ。
Windmillは、若い子が多かった。高校生?から大学生くらいの人が9割で、他1割がWindmillに住みついているようなロックおじさんがいて、私よりも歳上に見えた。アジア人のおっさんがいたので、イギリスの若者もギョッとしたかもしれない。
観やすさという意味では、決していいライブハウスとは言えない。ただ会場にファンがたくさん付いているのを感じた。若くて良いバンドを育てて来た実績があるからだろう。
それでも、イギリスではコロナ渦以降、物価高もあって、フェスと同様に、ライヴハウスの運営が難しくなっていることが問題となっており、閉店に追いやられたライヴハウスも少なくないようだ。生き残りには工夫が必要で、Windmillはそのあり方が若いバンドを応援することなのだろう。So Youngと共鳴しているのもうなずける。
歳をとると、どうも若い人が多い場所にいくと気がひけるが、R.E.M.のピーター・バックが解散した時のコメントが私はとても頭に残っている。
「またみんなに会える時が来るはず。それは世界を変えようとしている19歳の若者たちの演奏を観ながら、クラブの後ろの方で突っ立っている時のことかもしれない」
このコメントは、これから登場する若いバンドへのメッセージでもあるし、ファンに対して、いつまでも音楽を好きでいて欲しいし、R.E.M.ではなくても、若いバンドを応援してあげようというメッセージでもある、と私は解釈している。私も、ピーター・バックに習って、ロックにたくさん助けられたのだから、いつまでも若いバンドをライヴハウスまで応援しにいきたいと思っている。それがロックの一番の楽しさだったりもするからだ。
モッシュの近くで観ていたので、ライヴが終わったら汗をかいていた。帰りもブリクストンから地下鉄を乗り継いでホテルに戻った。