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スティーヴン・キング非推薦『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか』
なぜこの本を購入しようと思ったのだろうか。たぶん本の紹介文に「スティーヴン・キング非推薦」とあったからです。それ以外はなんの前情報もなく読み始めました。
マイクル・ビショップ著
小和田和子訳
『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』
1984年にマイクル・ビショップがこの小説を出版した。当時はスティーヴン・キングが『クージョ』を出版した頃だ、マイクル・ビッショップは押しも押されぬ大ベストセラー作家に対する皮肉をこめて主人公の名前を名付けたらしい、同じ作家としてねたみのような感情があったのかもしれません。40年近くたってみるとそのような感情には何の意味もなく、ただ面白いホラー小説として読むことができました。
主人公のスティーヴンソン・クライ、通称スティーヴィはジョージア州バークレイに住むシングルマザー。二人の子供をそだてながら、コラムなどを執筆するフリーのライターとして収入を得て生活をしている。子供は中学生の男の子と小学生の女の子だ、二人はまだまだ子育てに手がかかり、夫が死亡してからまだ数年なので精神的にも不安定なところがあるのだろう。
物語はスティーヴィの商売道具であるエクセルライター製電動タイプライターが故障するところから始まる。メーカーにぼったくられるのを嫌がったスティーヴィは隣町コロンバスにある事務用品店に助けを求める、ここから恐怖がはじまります。修理対応したシートン・ベネックという若い男が恐怖の始まりとなってきます。
これから4つの恐怖がスティーヴィを襲います。第一はシートン・ベネックの修理したタイプライターが自動で恐ろしい文章を印刷していきます、その内容がスティーヴィに若干見に覚えがあるので真実とフェイクの境界線があやふやになっていきます。第二にシートン・ベネックがカプチン・モンキーのクレッツをつれて家にやってきます、徐々に不気味な存在になってくるシートンを追い払うことができない怖さが伝わってきます。第三はシスター・セレスティアルとの出会い、彼女も自動で文章を印刷する電動タイプライターの使い手です。このころになるとスティーヴィには誰が仲間で誰が敵か判断がつかなくなっています、ちなみにシスターのタイプライターはレミントン製です。さいごはアトランタのブライアー・パッチ・プレス社の編集長からの電話、これまでの経緯もありスティーヴィは彼にたいしてかなり警戒しています。編集長のまわりくどい話し方でいらいらするのですが、その会話のなかに彼女を正当に評価するようなところもあり、物語のラストにむかってのヒントになるようなことも言っています。
これらの恐怖はスティーヴンの精神状態からくる悪夢が呼び寄せているところも少しはある思います。夫の死、子育てのプレッシャー、仕事に対する不安などです。ですが一番の原因はシートン・ベネックの改造した悪魔のタイプライターです、でないとホラー小説とは言えないですから。
ブライアー・パッチ・プレス社の編集長ディビットの言葉「もし仕事面で行き詰まりを感じているようなら、短編小説を書いてみるといい。自分自身の経験を材にとって、それを核にして空想をひろげる。タイプライターをうまく使うといい。潜在意識を開放するんです」そのままに短編小説『猿の花嫁』を無意識のうちに執筆するスティーヴィ。悪夢から開放されたあとは、自動タイプライターとカプチンモンキーを操ってベストセラー作家になっていくスティーヴィの未来が見えています。まさに希望しかないみごとなラストでした。