ヒットポイント4
彼との出会いは高校2年生の時。
同じクラスにいたけど、全く接点はなかった。
彼が歩くと、青い風が吹くようなさわやかな黒髪、スラっとした体系。
ピアノでもしていたかのような、しなやかな手指。
でも私はそんな見た目ではなく、違うところで彼のことが気になっていた。
HPの数字とは相反する、青い色が彼には見えていたから。
彼は決してモテていたわけではないと思うけど(だいぶ失礼)、彼女がいることは知っていた。
でも彼女の前でも、彼の色は青いままだった。
何かに憂いていたかのような『青』が私の記憶から離れなかった。
そんな彼と再会したのは、20代前半にたまたま地元に帰った時の駅でばったり出会った。
「あれ、長野じゃん」
びっくりした。彼の見た目は変わっておらず、スラっとした黒髪の青年だった。
スーツを着ていて、着こなしもきまっていた。
そして相変わらずの青。まっすぐわたしを見ているが、わたしではない誰かを見るような、そんな青い色。
「びっくりした、久しぶりだね、一ノ瀬君」
名前を覚えることが苦手なのに、一ノ瀬くんの名前がすんなり出てくるあたり、自分自身でも笑ってしまう。
「今何してんの?」とさほど仲もいいわけではなかったが、仲がよかったかのように話かけてくる一ノ瀬君。
「仕事が休みだからちょっと実家に帰ろうかなと思って。」
「そうなんだ。じゃあさ、明日も休みだよね?明日お茶でもしようよ。なんか懐かしいから話がしたくてさ。」
「え、い、いいけど・・・」
そんなこんなで連絡先を交換し、明日の予定も決められてしまった。
一ノ瀬君ってあんなかんじだったっけ?まぁ、いいか・・・。
そんなことを思いつつ、実家に帰った。
翌日。近くのカフェで待ち合わせして、ランチをしながら昔の話をした。
「〇〇先生、定年退職したらしいよ」
「今〇〇は実家に帰ってきているって」
一ノ瀬君は高校の時の話を楽しそうにしている。いや、楽しそうなのかな?
色はまだ青いまま。
そして大学の話、今の仕事の話もしてくれた。
「長野は今はなにしてるの?」
「普通だよ、普通のOL」
「へ~、でも実家はでてるんだろ?」
「そうそう、今は〇〇に住んでるよ」
「あ、自分も!僕は〇〇駅が最寄り~」
「私となりのとなり!一ノ瀬くんの駅快速止まるからいいなぁ」
なんてたわいもない話をして、すっかり夕方になった。
「じゃあ、またね。」
お互いの最寄り駅でさよならした。もうそんなに会うこともないだろうな、そんな風に感じていたが・・・。
なんだかんだで連絡を取り合い、しまいには付き合うことに。
そして・・・
「優さんと結婚させてください」
なんと、結婚まで進んだ。
自分でもびっくりだ。まさか結婚するとは。
新しい生活がスタートした。
「一ノ瀬君、これ」
「一ノ瀬君って、もう自分も一ノ瀬じゃん(笑)」
私がハンカチを渡そうとすると、笑う一ノ瀬君。
「あ、確かに。でも多分無理だから、ゆっくり気長に・・・」
「はいはい(笑)」
笑い皺をくしゃっとして笑う、私の一番好きな一ノ瀬君の顔になった。
あれ?そういえば・・・・
「一ノ瀬君、どうしてあの時声掛かけたの?」
「あの時って?」
「ほら、地元の駅で・・」
「あぁ、あの時ね」
不思議だった。さほど仲良くもない、私のことなんて覚えているはずもないと思っていた。
「ずっと見てたでしょ、僕のこと。高2の時。だから覚えてるんだよ。」
っっっっっ恥ずかしい!!!!!!ばれてた!!!!
「いやほら、なんていうか、その、なんていうのかなー!みんなHP気になってる年頃?みたいな!」
自分でも何を言っているかわからないくらい、顔から火がでそうになる。
「知ってるよ」
「え?」
「優が全部知ってるってしってるよ」
「え?それって…。」
「覚えてないかもしれないけど、卒業式の時に青って言ってたよね?見えてるんでしょ?色が。」
穏やかに笑う一ノ瀬くん。
そして、付き合っていくうちに、いつからか彼の色は青ではなく、穏やかなピンクのような色になっていた。
そして、私の好きな笑い皺がある笑顔になっていた。
「それって・・・一ノ瀬くんも?」
「さぁ?どうかなぁ?」
「なんでよー!教えてよー!」
「だって優は全部わかってるんでしょ?」
そう言って、彼はまた私の一番好きな笑い皺を作って、わらった。