さつじんげんば【短編ホラー】
人を殺してしまった。
私は父と二人暮しだ。
母はとうに亡くなり、人とコミュニケーションが上手く取れない私たち二人だけが残された。
最初はお互い傷心しながら気を使いながら暮らせたのだが、だんだんと、父の横柄な態度が鼻につくようになった。
だから頭を殴りつけ、父はそのまま動かなくなった。
最初はなんてことをしてしまったんだという後悔が押し寄せたが、それもそのうち慣れてしまった。
むしろ死んでいるだけで父は父なのだから心臓が動いているか動いていないかは大した問題では無いのかもと思うようになった。
そうしていると今度は父が私に話しかけてくるようになったのだ。
おい、飯はまだか?
私はぎょっとした。
「死んでるんだからご飯は要らないでしょ!」
死んでいるから飯くらいしか楽しみがないんだ、と父は言った。
私はそれも一理あるのかも、と思い自分と同じメニューを出すようになった。
うまい。うまい。
生きている時より、格段に父は優しく会話も増えた。
私は嬉しくなり料理を頑張るようになった。
肉じゃが、スパイスカレー、豚のしょうが焼き。
父はその度に喜んでくれた。それは私の生きる活力にもなった。
そのうち、私は同じ電車に乗る、麻美という女性と仲良くなった。
結婚の話も出るようになり父を紹介することになった。
麻美は最初驚いて恐怖していたが、それが貴方たちの家族の形ならば、と受け入れてくれた。
またしばらくして私たちに子供ができた。
男の子がいいよね、と話していたが希望通りになった。
私の趣味になった料理はまだ続いていた。
私の作った料理を家族で囲む。何より至福な時だ。
ピンポン。家のチャイムがなった。
「すみません、ご近所から異臭がするとのことでお話を伺いたいのですがー」
まあ怖いわね。
ぱぱ、なにかあったの?
最近物騒だからなぁ。
家族が次々に口を開いた。
「近所で行方不明事件が起きたってニュースでやってたもんなぁ。・・・出てくるからちょっと待ってて」
私は重い腰をあげながら玄関に向かった。