小説 神様日記(現代版陰陽師)4

 スパッ!
「もう少し。それじゃ早いだけだ。震脚で足を叩きつける瞬間のように」 翌日、早朝。私は一通りの修練を終えて公園の片隅で、勇麻さんの言葉を待っていた
「うん。いい感じで仕上がってる。震脚も型は出来てるね。裡門頂肘と連環腿。ゲームで見て覚えてると思うけど、力の流れがあるからね。震脚と連動させる感じで。悪いとこあったら指導するよ。まず裡門頂肘から。10回馴らしながらやってみて」
「はい」
 私は目を瞑り、ゲームで覚えた型をイメージする。そして裡門頂肘のイメージを肉体で解き放つ
「ん、悪くない。だけどゲームのままだね。自分流に力の流れをイメージして。肘で突き抜く感じ」
「はい」
 私は最も体が動きやすいようにアレンジする。肘で突き抜く。微妙に足が乱れる
「んん、そうじゃなくて。体を大砲の土台として肘が弾丸と思う」
 私は言われた通りにイメージしてもう一度こなす
「そ、その感じ。左右一日10本」
 私は10本繰り返し。左右を反転させて同じように繰り返す。利き腕と逆なのでな上手くいかない。だけど勇麻さんは何も言わなかった。2本、3本、改良を重ねる。7本目には何とか型になった。8~10本目で完成した。勇麻さんはこれを分かってたんだ
「はい。お疲れ様。次連環腿。これは体の柔軟性もないと型通りに出来ないから。イメージを持ってのダブルキックだね。
左足の震脚から、跳ね上げた足の踵の震脚を相手にぶつける感じ、目を瞑って」
「はい」
私は目を瞑る
「相手をイメージしてダブルキック」
私の中で敵のイメージが浮かぶ。影のような相手
「そ、それが所謂シャドウボクシングの原型。慣れればリアルな仮想敵とシャドウ組み手を出来るようになる。ゲームで敵の姿を連想しやすくなってる。強くなってるんだよ」
「はい!」
 私は左右の足を連続で影に向かって蹴り上げる。こけた!
「ん、十日くらいじゃまだバランスが上手くないか。これは左右5本ずつ」
 了解です
 私は、連環腿改めダブルキックの練習をする。徐々にバランスの取り方と力の入れ方が分かってくる
「そ、最初は意識して。そのうち途中経過の表層意識も飛ばせるようになる。そうなると「打つ」とか「叩く」とかいう意識もなくなり、意識が走った瞬間にはそこに手や足があるようになる。これが所謂「瞬の動き」。高次元体になった時には瞬間移動の認識となるんだが、それはまた今度だな」
『瞬間移動!』そんな事も出来るんだ
 私は左右でダブルキックをやった。一本一本丁寧に。体の固さのせいか連環腿には完全にはならない
「ほい。休憩。10分かな。長息で呼吸を整えて。終わったら寸勁の修養に入るから」
「スー」「ハー」私は長息で呼吸を整え回復に努める
「筋がいいと楽だね。教える内容もちょっとでいい。はあ、これが「天才」ってやつか、嫌になるなあ」
 私は少し笑った。緊張感の弛緩が、これ程回復に効果があるなんて
「そそ、地球人はさ。色んな物持ってるんだけど使い方知らないんだよ。なんかもったいないよね。時空分裂期には色んな時空の人達が地球から学んでいったんだ。親父の「嫁」の自信作が地球だったって話」
「そうなの?」
 私は地球を褒められた事が嬉しかった
「でもね、反面当時の地球の人間は過渡期故に迷い苦しみ出口のない世界を構築してしまった。支配欲、金欲、承認欲求そんな物に支配されてしまっていたんだ」
 私は長息を続けたまま尋ねた
「ここは助かった地球なんでしょ?」
「その時はね。だけどサタンがいる。分からなくなってきた」
勇麻さんは悩まし気な顔をした
「そう言えばサタンさん来ませんね」
「何か謀略を巡らしているんだろうね。天帝のおじさんとか他の天界の住人の邪魔が入ればサタンは苦しい。その辺をどうにかしようと思ってるんじゃないかな?」
「うわ。前より厄介って事?」
「どんな手を使ってくるかは分からない」
……考えられるパターンが多過ぎて対処案は限定的です。他の時空へ逃げ込んでいるかも知れません
 砕奈が言った
「なんだよね。この期間に10日かせげたのは大きい。君に現代版陰陽師の基礎の基礎は叩き込めた」
 どこが陰陽師だ。どう考えても武術家とか武道家だろ
「いや、基礎は学ばないと。認識戦の強さも肉体と全くの無関係じゃない」
「認識戦?」
「僕がやったような戦いさ。さ、無駄口終わらせて寸勁の修養に入るよ」
「はい」
私はまたシュタッと敬礼した
勇麻さんは垂れ下がったタペストリーのような布を私に見せた
その布には美しい宇宙が描かれている。煌めく星々が幻想的に描かれ、太陽と地球が描かれている
「この布は君にしか見えず、君と僕らにしか触れられない」
何をやるんだろう
「正拳中段突きの構えをして。そう両手とも下げる構えだ」
目の前にタペストリーが近付き、丁度太陽の部分が右拳にあたった
「その状態から、その太陽の部分を打ち抜く。今まで覚えた事を全て集約して、触れてる太陽にインパクトをぶつける。震脚ができるようになってるから、インパクトは分かるね。ゼロ距離でインパクトを出す。理論的に説明するとゼロ距離で打ち込みを最大に開放する練習。やってみて」
 スパン!
 そんな音が聞こえた気がした
「初めてにしては悪くない。だけど、まだ。ゼロ距離で押すような感じを含めて打ち抜くの。目を瞑って」
 私は目を瞑る
「そう、目の前にあるのは壁だ。その壁を渾身の力で打ち抜く!」
爆発させるようなイメージ」
 私は言われるままにイメージした
 ドンッ!
 聞こえない音はそんな音に変わった
「よっし、出来た。それ左右五本ずつ隔日で。これも「瞬の動き」に関係してくるんだよね。「爆発」と「寸勁」マスターだね」
 私は右手で5回やる。そして左手で5回
「はい。合格!ここまでが基礎練習ね。後はこれ自然体で出来るようになるまで修練して。まあ、全くセンスいいよ」
「教え方が上手いんです!」
 私はそう言って笑った
「ま、5次元人だからね。それを身につけたら、あのゲームで覚えた技は好きに身につけていいよ。好みに合わせて基礎練習に加える。鍛錬部位は隔日で鍛える。休息もちゃんと取って超回復に努める」
「了解しました!」
 私は元気に敬礼した
 
 基礎練習をする。そして、ゲームで覚えた動きをトレースしようとする。出来る。エルボーは裡門頂肘の横回転、更に肘を当てるのでなく拳を当てるつもりなら、フック。その動きを模倣して足で表現すれば、回し蹴り。ダブルキックの呼吸で突きをやれば二段突き。あの基礎の練習の中に殆どの武的動きの基礎が入っているのだ。ビックリするなあ。もう
「そそ、教えた基礎の動きの延長があらゆる技の型になる。基礎修練のみじゃ、出来ない技もあるけど大抵の技はコツを掴んで出来るようになるよ。でも、まだ今は基礎の練習中だから基礎の練習を主にやって。小技は軽くやる程度で。李 書文のいうところの「絶対の一」を身に付けるのが先。一つ一つを丁寧にやってね。そうすれば無駄に数をこなす必要はない」
「はい」
 うわ。神様教えるのも神様だ
「君の筋がいいんだよ」
「でも、鉄山靠出来ません」
「ん。あれは難しいよ。親父も覇王真王拳開眼前にようやく習得したらしい。あの技は体全体を拳に見立て、背中を拳面にして打ち抜く技。初心者には難しいから。体全体の動きが一つに纏まらないと出来ない。後の目標にしときなよ」
「了解です」
 教わって三日目の朝、私は呼吸法からの基礎の練習を行う。一つ一つの技を丁寧に行う。私武術の達人になっっちゃうんじゃないだろうか。私は密かにそんな事を思う
頭に軽い衝撃が走る
「はい。調子に乗らない。そんなに甘くはないよ」
 勇麻さんはそう言った
 てへ。怒られちゃった
 私はそんな事を思い基礎練習を行う。その最中、急に空が消え、世界が真っ黒になった
「来たか」
 勇麻さんがそう言った
 ああ、サタンさんが来たのか
……敵、魔王クラス。来ます
 砕奈が言った

第4話 了
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