秋風

友達が私の住む町に訪れた。2日程滞在したのち、ついさっき休日の控えめな朝の喧騒の中彼女は自分の住む町へと帰って行った。

別れ際、私たちは改札前で最高の挨拶をして、それから不慣れにハグをした。

その後私は、彼女がエスカレーターに乗って地下プラットフォームに吸い込まれていくのを見送った。私たちはお互い最後まで手を振り合っていたから、彼女の顔が見えなくなったあとも、エスカレーターから彼女の手がにょっきり生えているのを見ることができた。なんとなく、私たちの手には独立した意志があるように思えて、この瞬間はお互い振りかざした手同士の別れの時間なんだろうなと思った。

2人(手)の別れを充分見届けたあと、構内に迷い込んだ2匹の鳩が右往左往したのちに外に出て行くのをぼんやり眺めながら駅を出た。見知った町の曇り空と湿った朝の空気が少しそっけなく思われた。つまらないな。

大切な友人と離れてしまった。彼女と過ごした身の程知らずな楽しい思い出に浸る。心とお財布に秋風が吹いている。そんな私にとっての唯一の慰めは、まだ朝がはやいということ。今日のタスクをこなしていくその前に、自分の心を味わうことにしようとnoteをひらいた。

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