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古典ノベルゲーム『カレイドスコープ』にノベルゲームの本質を見る。
人生は万華鏡のように。
フリーノベルゲーム『カレイドスコープ』を紹介。
よく使われる単語ですので、似た名前の別作品も多いです。古い作品ですし、ベクターさんあたりで落としてください。
本記事においてある程度のネタバレを含みます。
ですが、それは本作における布石であり、作品そのものの魅力を損なうものではないと判断しています。
完全に情報を遮断してプレイしたいかたはここで読むのをやめてDLしてください。
迷っている、もう一押しプレイ動機、掴みがほしいというかたは少しお付き合い頂ければとおもいます。
ご存知のかたには今更ですが、作者のNaGISA氏はフリーノベルゲーム界隈では20年以上の重鎮レビュアーであり、著名なかたです。
僕も純粋に自分の感想と比べて着眼点の違いを楽しんだり、作品プレイの参考にしたりします。ぜひ、経験に裏打ちされた氏のレビューを読んでみてください。NaGISA net検索!
色眼鏡を掛けて見るなら、レビューに確かな実績がある氏がどんな作品を作るのか?
そんなところも見どころとおもわれます。
ストーリー概要
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しかもセーラー服。
教えてくれウー○ェイ……
大学生である主人公梓は、幼なじみである高校生のめぐみと家族ぐるみの付き合いを10年以上続けている。
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母親もいいじゃないか。
主人公である梓は、好意を寄せるめぐみに直接的な想いを伝えないながらも、楽しく穏やかな日々に満たされていた。
今年の夏も海に遊びに行こう、と約束を交わす。
水着もあるよ!
(※ありません)
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眩しさに目を細めると美少女の水着姿。
ワクテカが止まらない。
梓は、こんな日常がいつまでも続くのだとおもっていたが……。
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話が違うじゃねえか。
序盤からプレイヤーの心を折ってくる。
ぼくが さきに すきだったのに!!!
なんということでしょう。
まさかのBSSです。(テレビ局ではありませんこの時代NTRという単語すらあったのかすら記憶に怪しいです。
時代を先取りしています。
テンプレ甘々恋愛ゲーかとおもいきや、まさかのトラップカード発動。
「なんだとおおお!」
属性持ちには棚ぼたでしょうが、当時の僕は悔しい気持ちと、プレイモチベーションをどう維持しようと悩んでいました。
しかし僕の動揺などおかいまいなしに、恋に恋する少女は変わっていきます。
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そして、梓の気持ちに気づかないめぐみは、無自覚に傷ついた梓のガラスのハートにナイフをグリグリと突き立てます。
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しかし、きあいのハチマキが発動。
なんとかあずもんは持ちこたえます。
オーバーキルです。
めぐみちゃんはレアドロップボーナスでも狙っているのでしょうか。
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知らないとはいえ、あまりに残酷。
やめたげてよお!
あずさちゃんのライフはもうゼロよ!!
しかし、梓は信じられないメンタルの強さでそれを表に出さず、めぐみの恋を応援します。聖人なの?
ちょっと人間出来すぎてんじゃない?
と思わなくもないが、そうする理由が彼にはある。後で描かれるが、納得できる理由付けがある。それがポイント高い。
君が幸せならそれでいい。
胸に痛みを覚えながらも、彼女の幸せを願う梓だったが……。
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ここから物語は急展開を迎える。
物語の大きな転換点は一本の電話から始まる。
ここからが本作のメインテーマであり、すべてはそのための布石だ。
ぜひプレイして物語の行く末を確めてみてほしい。
幼なじみという古典テンプレート属性と物語構造。そのセオリーとは。
本作のヒロインめぐみは、主人公である梓(あずさ)と幼少時からの長い付き合いがある。
最近の(恋愛)ギャルゲーがどうかはわからないが、少なくともかつては定番属性で数あるヒロインの一人はこの属性であることが多かった。
そして、必ずと言って良いほど過去回想エピソードが盛り込まれる。
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現在からエンディングに至るまでの強力な布石だ。
これは、多くの時間を共有したヒロインという設定を最大限に活かす定石パターンだ。
たいてい何かしらの約束をしているケースが多く、主人公とヒロインがくっつく理由付けとしてプレイヤーに共感や納得性を生む効果がある。シナリオの布石、伏線として使える。
序盤から梓はめぐみに甘く、物語の転換点以降は向き合う姿勢に強い意思が感じられる。
なぜそうなのか?
そこまでするのか?
というプレイヤーの疑問、行動原理の理由付けとして本作の過去回想は用いられている。
単に仲が良かったという話ではない。
後悔と誓いと大切な存在としての明確な原点があり、それが感情移入へと繋がっている。
幼なじみという設定とそれを活かす必然性のある過去回想はお手本のような作りだ。
専門的な描写によるリアリティー
フリーノベルゲーム『親愛なる孤独と苦悩へ』の記事でも書いたが特定の分野を描こうとすると造詣の深さが制作ハードルのネックになる。(故に貴重でもある)
ネットに出没する○○警察ではないが、よく知らずに書くとフルボッコにされたり嘘臭くなったり冷めたりするので詳しくないと専門的な分野を題材に扱いにくい。(だから多くの人が経験している学校や恋愛が使われやすい)
本作の題材は現実にあることなので、そこに嘘がある(正確にいえば嘘だと思われる)と途端に作品の魅力を損なうリスクがある。
氏はこの点において知見や経験則があるようで、世界観のリアリティーがある。
古い作品なので今見るともしかしたら実情が変わっていることもあるかもしれないが、一般人が見る分には違和感はなかった。
綿密なリサーチの賜物だろう。
突っ込みどころがないことは、シリアスなテーマの作品没入感に大事なことだ。
知らないものを書けることも才能かもしれないが、自身の体験を通して感じた世界はオリジナリティーにもなる。
ほかの誰でもない。その人だけの世界だ。
社会性の中で描かれるキャラクター
本作は恋愛描写はあるが、メインテーマではない。
一人の人間が生きていく上で、恋愛対象だけでなく多くの人間がいて、様々にお互い影響を与えあっている。
それを示すように、多くの登場人物が梓やめぐみに関わる。
そしてそれは、社会の中で生きていく一人の人間としての他者との関係性を描く。
立場が違えば事情も異なる。
それがキャラクターの多面性を生み、深みを与えてくれる。
めぐみの親友、和美もその中のひとりだ。
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一人の生きる姿に周りの人間が感化される。
多くの人間に影響を与え、与えられ生きているということを感じさせてくれる。
ノベルゲームとしての在り方
商業作品では言わずもがなであるが、絵と音とテキストで表現されるノベルゲームというジャンルは視覚的な訴求をする。
これはもちろんギャルゲー、エロゲーといわれる女の子の魅力を売りにした作品ではマスト的必要条件ではあるが、その他のジャンルでも『見た目としての華やかさ』というのは強力な購入(プレイ)動機となる。
逆に言えば、パっと見で魅力を感じなければ手に取ってすらもらえないということだ。
人は知覚情報の8割を視覚に依存するといわれる。
それは、言い換えれば物事を見た目で判断するということでもある。(少なくとも初見では。故に第一印象という言葉がある。)
フリーノベルゲーム界隈でもそれは当てはまり、3桁、4桁の作品数の中でキービジュアルなどが弱いとそれだけでプレイされず埋もれる。
いかに中身が名作級であろうと。
だから、制作者はサムネや紹介画像などの選出や見栄えに工夫を凝らす。
キャラがかわいい、カッコいい、世界観のイメージイラストがワクワクするなど、一目で惹き付ける、掴ませる、視覚に訴える魅力を作り出す。
だが本作、カレイドスコープはそういった点は感じられない。
失礼を承知で書くが、お世辞にも見た目に魅力があるとは言い難い。というより、
可愛らしい女の子も立ち絵も、見せ場の一枚絵も存在しないのである。なんで幼少時のヒロインの絵がねえんだよクソがっ!
これは制作コストや環境に制限のあるフリーノベルではさして珍しいことではない。
できればあったほうがいいけど、自作は難しいし、素材は他タイトルとカブるかもしれないし、外注すれば金がかかる…
理由は様々だが、それでも視覚にリソースを割かない大きな理由のひとつに『ノベルゲームであるから』というのがあるのではと推測される。
ノベルとは小説の意であり、その本質が『テキストによる物語、シナリオ』にあると制作者が考えているからではないだろうか。
他記事でもノベルゲームの特徴は絵や音などによる拡張性にあると述べたし、それらを否定する意図はない。
視覚による効果は物語の感動を大きく増幅するものであるし、作品のコンセプトやターゲットによっては主となることも当然あり得る。
が、不思議なことに本作をプレイしているとんぎゃわいい女の子の立ち絵がないとか、このシーンで一枚絵がないなどに対し不足を感じるということはなかった。
それはおそらく本作が読む物語としての魅力を十分に備えており、没入してプレイできたからだとおもう。
他作になるが、ミステリーサスペンスノベルゲームの名作『死に至る病』などプレイでも感じたことだが、展開や心理、造詣描写に味わいや面白さがあれば必ずしも視覚要素が作品の魅力に必須とは言えないということだ。
そしてそれは、本来ノベルゲームというものの根っこ、要と言える物語、シナリオ、描写といったものだったのだと改めて感じた。
作者であるNaGISA氏も、承知済みだろう。
本作においてシナリオと場面の感情を増幅させるBGMがあれば人の心を打つことができると示しているかのようでもある。
シンプルなタイトル画面も含め、飾らずに語る本作はキャッチーさとは決別したかのような潔さ、ライターの意思が感じられるかのようだ。
総評『人が生きる輝き』
本作は2004年リリースの作品であり、20年以上経過しているが、全く色あせることない感動を与えてくれた。
それは、人間の本質を描いているからだろう。
あとがきにある通り、現実は創作のように綺麗な終わりが約束されている訳ではない。
だから人は物語を求める。
そしてカタチが違おうとも、幸福でありたいと望み生きる姿はなんら変わりない。
流行り廃りにとらわれないヒューマンドラマはいつの時代でも人の心を打つ。
久しぶりにプレイして改めて感じた。
以前にも書いたが、公開停止になったりリンクが切れたままで更新されずプレイが困難になることがフリーゲーム界隈ではよくある。
おそらく作者のNaGISA氏は少なくともメインの活動であるフリーノベルゲームレビューを継続する限りはプレイ可能とおもわれる。
が、本作が示しているように人生や未来はどうなるかわからない。
レビュアーとして有名なNaGISA氏の貴重なゲームタイトルでもある。
ダウンロードしておいて損はない。
氏のレビューを読んでいてもそうだが、実際に制作された本作でも構成、演出、表現において完成度の高いノベルゲームを理解、実現していると感じる。
ノベルゲーム制作においてもお手本になるような作品なので、制作者のかたもプレイ専門のかたにもぜひオススメしたい。
氏が本作のために作曲されたBGMも合わせて味わってみてほしい。
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『その目を開いて』が好き。
余談『誰が為にレビューはある』
先述した通り、NaGISA氏は主な活動をフリーノベルゲームのレビューとしている。
レビュー界隈もかつてと様相が変わっているらしく、互いの関係からか消えていく、やめていくレビュアーや制作者もいたという。
フリーノベル黎明期においてはもっと活発であったのかもしれない。
今ではSNSが発達し、発信のハードルは下がってまさにこのnoteなどでもレビューを見かけることもある。
批判的な意見はなかなかつらいものだ。俺も折れちまったよ……
自分にとって都合の良い情報だけ見たいというのもひとつの在り方ではある。
しかし、プレイするかの参考にしたいひとからすれば良いことだけでは判断に困る。
制作者保護か人道倫理的観点からか配信サイトにあるレビュー投稿などではガイドラインが設けられている。夢現は割と魔界だが。匿名性って怖いよね。本音が聴けるともいえるが。
この辺りは考え方も人によるだろう。
作者に気を遣う必要などない。感じたことをありのままに書くのが感想であり、レビューとは明確な基準のもとに誰にとっても等しいものであるという者や批判的な意見は聞きたくないという制作者アンケート結果などもあった。批評家が勝手にやっていればいいという無関心もある。
ただ、レビューも表現形態のひとつであり作品ともいえる。
であるなら、同じように扱われるものではないだろうか?
その権利も責任、義務も。
時に誰かを傷つけ、救い、価値を提供する自己表現そのものだとおもうのだ。
※2025.1.25
初稿。