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迷う女



登場人物:
実花(28)…高校教師
知子(28)…実花の友人

○居酒屋・中・夜
客で賑わう店内。
テーブル席で実花(28)と知子(28)が二人で飲んでいる。

知子「生徒から告白された!?」
実花「うん」
知子「詳しく話してよ」
実花「この間、うちの高校で卒業式があったでしょ」
知子「あったね」
実花「その次の日に、学校から帰宅するときに駅で私が顧問をしている部活の卒業生で、平岡君っていう男の子から声をかけられたの」
知子「なにそれ、実花のことを待ち伏せていたってこと?」
実花「そうみたい」
知子「その子ってどんな子なの?」
実花「うーん、大人しくって控えめな子だったな」
知子「その子とよく話したりしてたの?」
実花「一応顧問だからちょっと絵の描き方とかアドバイスしたりしてたけど、すごくよく話していたわけではないよ」
知子「そうなんだ。で、どうなったの?」
実花「これ読んでもらえますかって手紙を渡された」
知子「うわあ~、なんて書いてあったの?」
実花「密かに先生のことが好きだったって書いてあった」
知子「うわあ、うわ、うわ、うわあ~!!」
実花「知子、興奮しすぎ」
知子「その手紙、持ってきてる?」
実花「一応持ってきているけど」
知子「見せて!」

実花、バッグから手紙を取り出す。
知子、実花から手紙を受け取り中身を取り出し読む。

知子「ほんと『先生のことが好き』って書かれてるわ。いいねぇ。今の時代にこんなアナログな愛の告白を受けるなんてね。しかも、連絡先まで書いてあるじゃん」
実花「うん」
知子「もしかして実花ちょっとときめいちゃった?」
実花「ときめいたというか…この気持ちには応えられないし」
知子「だよね、実花にはもう決まった人がいるんだもんね」
実花「うん、まあね」
知子「もう両方の親との顔合わせも済んじゃっているわけだしね。平岡君残念だったね」
実花「…」
知子「平岡君にはもう返事したの?」
実花「メールで一応したよ」
知子「どんな返事?」
実花「『平岡君が大学を卒業してからも、まだ先生を好きならば会いに来てくださいね』って」
知子「ん? なんか曖昧な返事じゃない? もっとスパッと言っちゃった方がいいんじゃないの? もう結婚するって」
実花「でも、そんなはっきりいっちゃうと平岡君を傷つけちゃうかなって思って」
知子「いやいや、そんなことないでしょ。はっきり言ったら言ったで、次に行くでしょ」
実花「やっぱり…そんなもんだよね」
知子「そんなもんだよ。もしかして実花、ちょっと期待してた? 平岡君がずっと自分を思い続けてくれて、大学を卒業したら迎えに来てくれるって?」
実花「いや…そんなことはないけど…」
知子「なんだかときめいちゃう気持ちもわかるけど、相手はまだ思春期の男の子だからね。思春期の不安定な時期にちょっと母性がありそうな年上の女性に憧れるのはあるあるでしょ」
実花「…そうだね」
知子「はっきりいうね。その平岡君だって大学に入ったら、同い年のかわいい女の子との出会いで、すぐに新たな恋愛を見つけるよ。大学卒業までずっと思い続けることなんてないから」
実花「本当にはっきりいうね…」
知子「だから、平岡君のことはもう気にしない。スマホにある平岡君の連絡先も残すのはやめなさい。それとも、徹平との関係を終わりにする?」
実花「そんなことはしないよ。でも、実を言うとね、ちょっと最近マリッジブルーていうか、本当に徹平とこのまま結婚していいのかなって気分にはなっていたんだよね」
知子「…そうだったの?」
実花「向こうの親がうちと違って微妙に厳しそうな感じの人だったし、ちゃんとうまくやっていけるのか不安になってね」
知子「…心配しすぎだと思うよ」
実花「そうだとは思うけどね。そんな感じだったから、正直、平岡君の告白にはちょっと心が揺らいではいたんだよね。でも、知子がはっきり言ってくれたおかげで吹っ切れたわ。平岡君の連絡先も消すし、手紙も処分する。ありがとう」
知子「役に立てて良かったよ」
実花「なんかちょっと飲み過ぎちゃったな。久しぶりにカラオケ行かない?」
知子「いいよ、行こう」
実花「うん」

知子、席を立つ。
実花、スマホが通知を受信したので画面を見る。
スマホにラインが1件来ている。
平岡からのラインで「卒業するまで待っていてください」という内容が書かれている。
実花、じっと画面を見る。

知子「どうしたの?」
実花「ううん、なんでもないよ」

実花、スマホを急いでバッグの中にしまう。

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