
『生成AI×クラウド』新インフラエンジニアのキャリア戦略
生成AIとクラウドの登場によってインフラエンジニアのキャリアプランがどのように変化していくのか考察する記事です。※エンジニアを引退した身ですので、そのくらいの精度ってことでひとつお願いします。
生成AIは開発工程のうち『構築と運用』に影響を及ぼす
近年ではエンジニアの職がAIに奪われるという議論も盛んですが、実際のところ、生成AIが担当できる開発工程は限定的です。
その理由について解説します。
ジャッジには人が必要
生成AIとは会話を通してテキスト、画像、動画等を生み出すAIです。有名なものにChatGPTがあります。
細かい仕組みについては触れませんが、生成AIはインターネット上の大量のデータを取り込み、確率論を使ってそれらを組み合わせることで、ユーザーの求めるものを推測・生成します。
一方で生成AIでは確実性は担保できません。
生成AIは過去のデータからパターンを学習し、新しい情報を生成するわけですが、生成される情報は元のデータに基づいており、元のデータがそもそも間違っている場合にはアウトプットも正確ではなくなります。
間違っていないにしても、データの偏りが考慮されていない場合や、複雑なデータや文脈を正しくインプットできない場合があり、トレーニングが適切に行われていない可能性があります。
考えてみると、生成AIはインターネットの情報だけで知ったかぶりをしている奴って感じがしちゃいますね。
ともあれ、生成AIで生成されるものは確実なものにはなり得ません。『正解である場合もある』という理解が正しいです。
従って、生成AIは万能ではなく、アウトプットのジャッジには有識者が必要ということになります。
影響範囲は限定的(今のところ)
それでは実際の業務に当てはめてみます。
まず要件定義や設計といった上流工程では影響が小さいです。要件定義や基本設計では顧客とのコミュニケーションが多く発生しますし、そもそも各社の政治的な都合や企業文化等、合理性から外れたところで設計が行われることもしばしば。そんなわけで、生成AIで対応できる領域ではありません。
一方で、構築や運用といった下流工程では影響が大きいです。構築工程のコード(config)の生成や投入は人の手で行うよりもずっと早く・正確に行うことができます。また、運用工程ではパターン化されたメンテナンス作業や障害対応は自動化できます。統計情報を活用した分析・ドキュメント生成から、ユーザサポート等も対応可能です。
ただし、生成AIによるアウトプットは確実ではないため、これまで通りコード(config)のレビューや構築後のテストは発生します。運用工程の中でもデータ活用(=データに基づいた提案活動)は相変わらず人の手が必要です。
また、インフラエンジニアのうち、ネットワークエンジニアの場合は状況が特殊です。日本のネットワーク環境のうちの7割程度はマルチベンダーと言われています。ルータとスイッチはCisco、ファイヤーウォールはFortigate、ロードバランサーはF5といった具合です。
このようなマルチベンダー環境では、自動化ソリューションによってネットワーク全体を統合管理することは難しく、生成AIを使ってIaCを実装するような場面も限定的です。どちらかというと各ベンダーごとのコマンドを覚えることが大事という世界観です。(そもそもサーバに触れたことがない・スクリプト書けないみたいなネットワークエンジニアも多いです。)
まとめると下図になります。

クラウドはインフラエンジニアの業務領域を再編する
クラウドの登場による一番の影響はインフラエンジニアの業務領域がクラウドに集約しつつあるということです。
どういうことか解説する前にそもそもインフラエンジニアの業務領域についておさらいします。
インフラエンジニアの業務領域のおさらい
種別と業務領域を下図にまとめました。

インフラエンジニアは大きく分けると『ネットワーク』『サーバ』『データベース』に分かれます。それぞれのエンジニアが分担をして、システムのインフラ部分を構築します。
システムとは、狭義ではサーバコンピュータ上にOS、ミドルウェア、アプリケーションがインストールされたものです。以下のイメージです。

で、サーバエンジニアはこのうちのサーバ、OS、ミドルウェアを担当します。データベースエンジニアはミドルウェアの中のデータベース領域を担当します。

ネットワークエンジニアはユーザーがシステムにアクセスできるように環境を整えます。

クラウドではインフラ全般を構築できる
それぞれ業務領域が分かれていたインフラエンジニアでしたが、クラウドエンジニアの登場によって変化がありました。業務領域の変化です。
AWSをはじめとしたパブリッククラウドでは実に多様なサービスが容易されており、前述したような『ネットワーク』『サーバ』『データベース』の領域のほとんどはクラウド上で構築することができます。
例えばAWSの場合、下記のようなサービスがあります。
ネットワーク領域

サーバ領域

データベース領域

従来のインフラエンジニアがデータセンターに構築してきたようなシステムは全てクラウド上に再現できると言っても過言ではありません。
IaC×生成AIの相性が良い
前述の通りクラウド上ではインフラエンジニアがこれまで担当してきたような業務領域のほとんどを実現できます。
更に、クラウドではコードを使ったインフラ構築(Infrastructure as Code)が可能です。つまり、プログラミング言語を用いて、インフラ構築が出来ます。
下表はIaC(Infrastructure as Code)のツールをまとめたものです。他にも沢山ありますが、有名どころだけピックアップしました。

インフラ構築のためのコードにHCLを使用します。
このように、クラウドはインフラ構築における主要な機能を抑えているだけでなく、IaCを使ってこれまで手作業で行っていた構築を自動化できます。更に、生成AIとも相性がよく、IaCで扱う定義ファイルをAIに生成させることで効率を高めることができます。なかなか驚異的です。
クラウドに業務領域が集約する流れ
クラウドネイティブな時代が到来したとしてもオンプレは無くならないでしょう。しかし、時代の流れとしては、多くのインフラエンジニアはクラウドを扱うようになります。
インフラエンジニアの中でも、とりわけサーバエンジニアはクラウドを扱う上で親和性が高く、これまで弊社でのキャリアチェンジの実績においても、オンプレミスのサーバエンジニアがクラウドエンジニアに転じたパターンが最も多いです。
また、IaCによる構築や運用自動化の恩恵で余った工数を使って、ネットワーク領域やデータベース領域の基礎的な部分についてもクラウドエンジニア(旧サーバエンジニア)が設計構築を担当するケースも増えています。
つまり、インフラエンジニアの業務領域は再編が起きており、従来でいうところのネットワークエンジニアやデータベースエンジニアの業務領域は少しずつクラウドエンジニアに浸食されているといえます。

新インフラエンジニアのキャリア戦略
さて、新しい時代のインフラエンジニアはどうキャリアを形成すれば良いのでしょうか。
考え方として、以下の2つは外せません。
・生成AIに代わる領域を避けること
・クラウドエンジニアの業務領域を考慮すること
図に整理してみます。

まず第一に生成AIと相性の良い赤色の領域を避けることが大事です。それ以外の領域において、自身の現在のスキルを鑑みてどこを狙っていくのか考えると良いでしょう。
クラウドエンジニアを目指す

言わずもがなですが。クラウドエンジニアを目指すことは王道の選択肢と言えそうです。ただし、クラウドエンジニアは特定の分野というより、ネットワーク、サーバ、セキュリティ、あるいはIaCによるコーディング等、いろいろな領域を担当出来なければなりません。
大変そうですが、今後のクラウドエンジニアはインフラエンジニアの主役になることは間違いありません。
インフラ全般の知識・技術を習得して要件定義・基本設計を行い、詳細設計以降の作業は生成AIでアウトプットする、というような働き方になりそうです。
また、クラウドエンジニアの中でも、これまでの経歴を背景とした得意領域のグラデーションが生じることが考えられます。ネットワークに強いクラウドエンジニアとか、セキュリティに強いクラウドエンジニアとか。
自身の武器を携えてクラウドの戦場へ乗り込むのは面白そうですね。
上流工程の担当者を目指す

生成AIに置き換わることのない領域としては要件定義や基本設計といった顧客とのコミュニケーションが前提となるポジションがあります。PM(プロジェクトマネージャー)といった管理職もこれに該当します。
また図の中の、ネットワークやデータベース領域でかつクラウドに浸食されていないゾーンにおいては、専門性が強く、より高度な技術が必要とされるポジションといえます。
共通して言えるのは生成AIを積極活用するというよりは、生成AIが変わることの出来ない領域を狙っていくという戦略ですね。
物理寄りのネットワークエンジニアを目指す

ネットワークエンジニアというのは泥臭い仕事でして。私も現役の頃はヘルメットを被って、安全靴を履いて、竹〇工務店様に怒鳴られながら建設前のビルでネットワーク機器の設置工事の統括をしておりました。
こういった工事絡みの作業はAIやクラウドからは遠い存在ですので、今後もなくなることはありません。
同様に無線LANの設計もまた、拠点の建物の構造やオフィスレイアウトによる影響が大きく、自動化が難しい領域と考えられます。
物理寄りのネットワークエンジニアは隙間としては広く、割と多くのネットワークエンジニアの受け皿になりそうです。
【その他】セキュリティエンジニアを目指す
その他の選択肢としてセキュリティエンジニアもお勧めします。
セキュリティエンジニアは通信の安全性を考える職業なのですが、『どの程度安全であれば良いのか』『安全を担保するためにどのような手段を取るのか』という基準が顧客によって様々であることからコミュニケーションを前提とする業務になります。そのため、生成AIに代わりづらい領域です。
セキュリティというものは利便性を差し出す代わりに堅牢性を高められるという、いわばシーソーのようなバランス構造を有しています。
例えばリモートワークを導入している企業の場合、社員が自宅から社内のサーバへアクセスするシーンが考えられます。あるいはカフェで仕事をすることも考えられます。家庭用LANやFreeWi-fiの利用、あるいは周りの人からPCの画面をのぞき込まれるリスク、PC自体を盗まれるリスク等が存在します。
これは利便性を優先する代わりに情報の堅牢性を犠牲にしているといえます。
複数社に対して、リモートワークの是非・仕事をする場所の是非を問うた場合にどのような結果になるでしょうか。
・リモートワークはOKだが、カフェで仕事をすることはNG
・リモートワークも、カフェで仕事をすることもNG
・指定の端末であればリモートワークOK
・特定の業務であればカフェでの作業OK
このようにいろいろなパターンが考えられます。
つまり、セキュリティというものは会社の考え方によって最適な形が変わるわけです。こういった会社の考え方やストーリーに合わせて、セキュリティの形を考えていく作業は極めて抽象的です。
生成AIは大量のデータを学習し、確率論を使ってユーザの求めるものを推測・生成します。これは、過去の実績が多いものをアウトプットすることを意味します。
実績の多いものが特定の企業にとって最適であるとは限らず、それどころか事情を考慮した最適解は合理的ではない場合も多いため、生成AIとしては苦手分野となるわけです。
また、セキュリティ上の安全性を担保した業務フローの立案や、社員へのセキュリティ教育等の事務方寄りの作業なんかもあります。
通信ポリシーや認証の設定・導入部分は生成AIやクラウドによって簡略化されたとしても、そもそものセキュリティ要件を固めていくコミュニケーションは生成AIに置き換わりづらい領域だといえます。
まとめ
生成AIは開発工程のうち、『構築』と『運用』に大きな影響を与える。また、生成AIのアウトプットでは確実性が担保できないため、有識者のジャッジが不可欠である。
クラウドはインフラエンジニアの技術領域のうち、サーバ領域の全て、ネットワークとデータベース領域の一部に大きな影響を与える。クラウドエンジニアの業務領域がネットワーク・データベースエンジニアの業務領域を侵食している。
以上の理由から、新インフラエンジニアのキャリアは生成AIの苦手分野である『コミュニケーションを前提とした仕事』『物理寄りの仕事』や、『クラウドエンジニアとして生成AIを積極活用していく仕事』がオススメである。
この記事ですが、いろいろと怪しいなと自分で思うところもあるんです。なので特定分野の有識者の方が見て「ん?」と思ったら、たぶんその違和感は正しいです。指摘があればコメントやXのDMでお願いしやす。
修正を重ねて、多くのインフラエンジニアが参照できる地図のようになればいいなと思っている次第です。(保険がすごい)
ここまで読んで下さりありがとうございました!
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