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高還元SES企業の比較方法を考察する

さいきんは高還元SES企業が増えてきましたね。

「高還元SES企業に転職を決めたけど、似たような企業ばかりで全部一緒に見えるぜぇ……。」

そんなエンジニアの声が聞こえた気がするので、比較するための基準をいくつか用意してみました。


【1】額面の還元率/マージン率を比べる

そもそも還元率/マージン率とは何か、簡単に触れておきます。

・還元率
単価のうち何パーセントがエンジニアの報酬に還ってくるか

・マージン率
単価のうち何パーセントが会社の取り分となっているか

高還元SESは単価に応じて給与が決定する仕組みです。そのため、還元率を比べるというのは一番最初に思いつく発想です。還元率には還元率を算出するための計算式に決まりがないため、正確に比較するのであれば額面の還元率かマージン率を比べるのが良いです。

”還元率に決まった計算式が無い”という問題についても補足としてこの章の一番下に記載しています。流れぶったぎるから一旦は次に進んでください。

まず、額面還元率とは額面(=総支給額)で言うところの還元率を指します。単価のうち何パーセントが総支給額となるのか、という値です。これは分かりやすいですね。高ければ高いほど総支給額が多いということです。

額面還元率の他では、マージン率で比較することもオススメします。
マージン率は厚生労働省が計算式を発表しているので、各社が勝手に計算式を考えたりはできません。そのため正確な比較ができます。低ければ低いほど総支給額が多いということです。(会社の取り分が少ないということなので。)

この額面還元率とマージン率は表裏一体の関係にあります。

100%(単価) ー マージン率 = 額面還元率
100%(単価) ー 額面還元率 = マージン率

マージン率の求め方は以下がソースです。

■厚生労働省が発表するマージン率の計算式(リンク)
派遣会社のマージン率等について

[マージン率の計算式の抜粋]
(派遣料金 ー 賃金) ÷ 派遣料金 × 100 = マージン率

[単価100万円で総支給額が60万円の場合](例)
(100万円(派遣料金) ー 60万円(賃金))÷ 100万円(派遣料金)× 100 = 40%

上記では会社の取り分であるマージン率が40%で、エンジニアの額面(総支給額)の還元率が60%ということになります。
こんな感じで、各社を面接した際にアホ面している面接官に対して「御社のマージン率はいくつでしょうかッ!(キリッ)」ってやると、面接官も飛び起きて答えてくれるだろうと思います。

ちなみにマージン率の業界平均は39%

厚生労働省の令和2年の統計では情報処理・情報通信技術者の平均マージン率は39%でした。下記はソース。

令和2年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)

なので、転職しようとしている会社にマージン率確認して、40%以上(額面還元率60%以下)だった場合はそもそも高還元どころか平均以下の賃金となるため注意が必要です。

※補足1 :還元率に決まった計算式がないという罠

これね。そろそろ還元率って表現やめようぜ?と言いたくなる。
還元率には統一された計算式がなく企業によっていろんな費用を含めて”還元”としていることがあります。その最たる例が会社負担分の社会保険料を含めているケースです。

下記では単価65万円のエンジニアに75%還元した場合に、会社負担分の社会保険料を還元率の中に含めるか否かシミュレーションしてみました。

【ケース1】額面給与以外に何も含めない場合
65万円 × 0.75 = 48.75万円
☆給与:48.75万円 ⇒下記のケース2よりも約7万円高い

【ケース2】会社負担分の社会保険16%を含めた場合
(65万円 × 0.75) ÷ 1.16 = 42万円
☆給与:42万円 ⇒ケース1よりも約7万円低い

と、このように同じ還元率であっても、企業によって何を社員への還元と定義するのかによって金額が大きく変わるというわけです。

酷い会社だと税金の計算の手数料だとか、有給休暇日数×日給だとか、そんなものまで計算式に含めて、還元率90%超えとか謳ってるトコもあります。ふたを開けてみたら額面還元率は55%だったみたいな……。

ウチも含めて、各社”還元率”という曖昧な表現を使わなければならないのは、上記のような誇大広告を打ってる会社に全部持っていかれないために仕方なく還元率も載せているパターンだろうと推察します。額面還元率やマージン率で比較することが一般化すると良いですね。

で、閑話休題。
高還元SES企業の比較方法としてまずマージン率で比べる方法を紹介しました。次にもうちょっと踏み込んだ内容を紹介します。

【2】40歳以降のキャリアデザインで比べる

高還元SES企業では『エンジニアの要望に最大限に応える』ことをミッションにしており、案件を自由に選択できる会社が多い印象です。しかし、”自由”というのは良いことばかりではなく、エンジニア側からするとキャリア形成を自分で考えないといけないということでもあります。

自身のキャリアを自身で決められるという考え方からは矛盾するかもしれませんが、応募する高還元SES企業がエンジニアのキャリアを会社としてどう考えているのか、あるいは、どうサポートしてくれるのか調べることは重要です。具体的には基本設計やマネジメントスキルといった、付加価値の高い上流フェーズをいかに経験できるか、というのが判断指標になります。

なぜ上記のような経験が必要なのでしょうか。

エンジニアには ”35歳定年説” というものがあります。『エンジニアは40歳を迎えた辺りから需要が急激に低下する』とされる説です。高還元SES企業は単価に連動して給与を決定しているため、40歳以降の単価が低下するのであれば、必然的に年収も低下することになります。これを避けるために、単価が下がらないように手を打っていく必要があります。

その方法こそが、基本設計やマネジメントスキルを学ぶということです。

40歳を超えてきたエンジニアに求められるのは、詳細設計や構築(開発)といった正解が用意された作業ではなく、基本設計や技術経験を生かしたマネジメントなど、『正解の無い状態からそれらしいものを作っていく』スキルです。

例えば、営業に同行してのヒアリング、それに基づいた要件定義や基本設計、プロジェクトの管理、部下の育成とか。こういったスキルは技術だけでなく対人経験に伴う引き出しの数が勝負になるため若手には追随不可能です。つまり、技術経験+マネジメント経験があれば50代でも60代でも活躍の場があるというわけです。

で、そのためにエンジニアはなにをすべきか。

体制参画でSIerチックな業務を経験する

体制参画というのは個人ではなくチームで客先に参画することを言います。チームで客先に参画すると仕事の形が変化します。

・個人での仕事
細切れにされたタスクが降ってくる。どこどこの詳細設計とか、どこどこの構築(開発)とか。

・チームでの仕事
小規模な案件が丸ごと降ってくる。基本設計~構築までする。その過程で顧客折衝や、チームマネジメントが発生。

顧客からすると、チームの頭に大雑把に仕事を投げられるので、外注メンバーを管理する労力を大幅に削減できます。逆にいうとチームは裁量を持って働けるわけです。(裁量とは責任であり、責任が発生するポジションで仕事をした経験というのは重要なのですよね。)

このような理由から、体制参画を多く計画している高還元SES企業では基本設計やマネジメントを経験できる可能性が比較的高いと言えるでしょう。

一方で、触れておきたいことがあります。
それは高還元SES企業に限らず多くのSES企業では、上記のような業務や、更に上流であるコンサルに近いフェーズの経験を積むのがそれなりに難しいということです。

SES企業は大手SIerからの外注の需要に応えているわけで、つまりは傭兵ということです。会社の利益を大きく左右するような重要な業務は傭兵に降ってくる可能性が低くく、どちらかというと、工数の見積もりが終わった後の付加価値の低い構築(開発)作業のマンパワーとしての需要が大きいです。

プロジェクトマネジメントを中心に経験したい、もっと顧客と近い位置で仕事をしたいという希望が強いのであれば、SIer、自社開発企業、あるいはそれらを目指す企業を選ぶと良いと思います。

ワタクシ個人の意見に過ぎませんが、SES企業はエンジニアにとってのキャリアのゴールにはなりづらいと考えています。かなり暴論ですが。(なので当社はSESから徐々に脱却しつつSIerを目指す企業だったりします。)

より元請けに近い、より顧客に近い位置で仕事が出来るように会社を成長させていこうという意思のないSES企業では、エンジニアとしてはキャリア形成をしづらいだろうと思います。かなり暴論ですが。

【3】商流で比べる

商流とは元請けからの契約関係のことを言います。例えば、エンド→元請け→2次請け→自社であれば、自社は3次請けということになります。

結論からいうと、2次請けの多いSES企業を選ぶと良いです。

2次請け企業というのは元請け(大手SIer)と取引関係にあるため、大手と取引が出来るレベルの安定した企業である可能性が高いです。こういった企業では元請けである大手SIer内部に自社のチームを抱えている場合が多く、【2】にも通ずる話ですが、プロジェクトマネジメントや基本設計といった上流フェーズの経験が積みやすいということになります。

当然、SES企業なので浅い商流でチーム参画をしている現場もあれば、そうじゃない深い商流の現場もあるので、こういった企業に入社したからといって、自分の希望が全て通るとは思わないことです。あくまでも可能性が高いよという話ですな。

若手エンジニアは商流に拘り過ぎないことも大事

それと、若手エンジニアに限っては商流よりも目先の案件でどんなスキルを得られそうかという部分に注目した方が良いかと。具体的には構築(開発)や詳細設計といったフェーズを担当できるのであれば、商流が深くてもなんでも2年くらい飛び込んでみることをオススメします。

構築や詳細設計が分かることで、上流フェーズである基本設計やマネジメントへの道が開かれます。逆にいうと、ここを経験していないといつまで経ってもエンジニアとして希少価値の高い技術は得られず、単価も上がらないということになります。

一般に商流が浅いことで得られるメリットである『単価が高い』『上流フェーズが経験しやすい』というのは、構築や詳細設計といった基礎スキルがあってこそ。商流が浅くても、そもそもエンジニアのスキルが低ければ単価も低いですし、上流フェーズの仕事も振られることはありません。つまり商流はベターな条件であり、マストな条件では無いということですね。

高還元SESは商流が深くなりがちって話について

この論者は多いし、実際そういう側面もあるなあと感じます。
なんで商流が深くなるのかというのは、すごく大雑把にいうと『エンジニアの希望を優先するほど、会社は組織的に動けなくなるから』ということになります。

元請けや2次請けとして動く場合は営業とエンジニアが緻密な連携を図りながら組織的に、戦略的に動く必要があります。

↑のような会社では、チーム体制で仕事をすることが多く、その会社に振られる仕事も細分化されたタスクではなく、ある程度のボリューム感で「良い感じにやっといてね」というような仕事の振られ方になるので、裁量が大きく、それを完遂する責任も負います。

なので、納期に間に合わなければ過度な残業をしなければならなかったり、どっかのチームで人が足りなくなれば自分が望まない仕事内容であっても手伝わなければならなかったりします。チーム戦をするということは、全体の利益のために個を捨てるということに他なりません。

こういうチームプレイをしようとするときに、『エンジニアの要望を最大限叶えます』っていう高還元SES的な思想はすごく邪魔になるわけです。高還元SESではエンジニアの個別最適解に従って案件を探すために、商流なんぞに拘ってられないという本音があります。

……これだけで終わると、界隈から怒られそうなので。

ちなみに高還元SESであっても浅い商流の案件はあるし、チーム戦をしている場合も多々あります。ウチもそうなのですが、高還元SES内部ではなんとなく2つの勢力があります。

・フリーランス的に自由に働きたい派
・チームプレイも厭わない派

意外かもしれませんが、後者のような会社に対して帰属意識の強い層もきちんと存在しているのですよね。(うちだと2~3割くらいだろうか。)
後者の勢力で浅い商流を狙ってチーム戦をしかけることは大いに期待できます。

とくに高還元SES企業は採用に強いので、人数が多い(=供給力が高い&売上が大きい)ことや、未経験者の育成コストがなく財務状況が健全である場合が多いです。これはすなわち、大手SIerとの取引が行いやすいということでもあります。

なので、高還元SES企業だからといって商流が深い案件にアサインされる可能性が高いというのは間違いであり、けっきょくは会社が顧客と近い位置で仕事が出来るような戦略を持っているのかということと、エンジニア自身がその考えに共感できるかということが大事です。

自由に働きたいエンジニアには浅い商流の案件はそもそも向かないですしね。

※沢山給料欲しいし、自由に働きたいし、顧客に近い位置で働いてキャリアもしっかり積みたいし、みたいな、そんな全て叶うような環境はどのみちないヨ。

【4】その他

あと細かいところだと以下のような比較基準がありそう。

・財務健全性
割と重要。決算情報を公開している会社に限っては財務の健全性を確かめることが出来る。安全性の高い企業であれば、仮に突発的な不景気で待機が発生しても給与を保証してくれるだろうし、かんたんに倒産してしまうこともないはず。

財務書の分析ツールはこちら
https://k-sindan.smrj.go.jp/


・社宅や家賃補助等の福利厚生
必要ない。社宅や家賃補助、あるいは出産祝い金とか、一部の人しか利用しない福利厚生にお金をかけることは高還元SES的な思想にマッチしない。そこに使うなら最初から全体に還元してくれとエンジニアは思うはず。

・リーダー手当
あっても良い。還元率がベテランと若手と一緒の場合だと、若手の面倒を見ることに不公平感を覚えるベテランは多いはず。手当をつけることで、若手も遠慮なく教えてもらえるしね。

・資格手当
あっても良い。会社にとってもエンジニアにとってもメリットしかない。

・待機保証
あっても良い。が、時と場合による。例えば、エンジニアの責(遅刻や欠勤が多い等)によって退場、待機になった場合であれば、そこの給与の保証は最低限にとどめるべきと思う。不真面目なエンジニアの給与を他の真面目なエンジニアの利益から持ってくるのは、これまた高還元SES的な思想にそぐわないと思われる。

・下限保証
あっても良い。下限保証がないと実質的に有休休暇が取れないとか、特別休暇が取れないとかになりがち。ただし、下限保証されずに単価が落ちて、給与がその分落ちたところで、せいぜい数日分の時給なので特段生活に大きな影響はない。ゆえにマストな条件にはなり得ないかと。

まとめ

(1)額面の還元率/マージン率で比べる
(2)所属エンジニアの40歳以降のキャリア形成で比べる
(3)商流で比べる
(4)その他の条件で比べる

以上でした。

書いてみたら、意外とありきたりになっちゃいました。

この辺りのバランスを探っていけば自分にとって最適な高還元SES企業が見つかるのではないでしょうか。
ではまた。

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筆者が代表を務める株式会社CAIRN(ケルン)はインフラエンジニアに特化した高還元SES企業です。

・ 契約単価に連動した報酬体系なので評価基準が明確です。
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