現場が微妙と思っても1年は続けた方が良い理由
開発エンジニアは短期案件も多い印象なのでインフラエンジニア界隈の常識とちょっとズレているところもあるかもです。そのくらいの精度のつもりで読んでいただけると幸いです。
SES人事や営業が嫌がるエンジニアの経歴書
これは断然『1年未満の経歴がずらっと並んでいる経歴書』です。
以下はエンジニアのひとつの経歴年数に対して、人事や営業が抱くイメージをまとめたものです。お取引のある企業様にも意見を伺いましたため、大きくはズレていないかと思います。
1年未満の経歴が続いているようであれば、環境要因のトラブルというよりはエンジニア要因のトラブルを疑います。そのため、人事や営業は勤怠不良や早期退場のリスクを感じます。
SES企業は待機が怖い
SES企業ではエンジニアが客先に常駐することで初めて売上が発生します。待機中は給与だけ支払っている状態なので企業にとっては痛手です。
待機が発生してしまうと、やむにやまれぬ事情でなければ、人事や営業は責任を問われることになります。彼らもまた会社員であるため、リスクの高いエンジニアと一緒に仕事をすることは怖いと考えるものです。
当然、やむを得ない事情の場合もあります。とはいえ、リスクが高いという事実はどうしてもエンジニアに付きまとってしまいます。
リスクが高いと認定されたエンジニアの不幸
・会社の中で優先順位が落ちる
良いポジション(=良い経験が積める案件)に配属される可能性は低いと考えられます。
良いポジションとは、良い経験が積める、チームで参画できる、残業が少ない、人間関係が良い、テレワークがある等、エンジニアにとって魅力的な要素が多い案件です。
このような案件は会社とエンジニアが大事に育ててきた案件です。リスクが高いエンジニアがアサインされることで、お客様からの信頼が揺らぐ可能性があり、それは即ち案件の消失を意味します。
そのため良いポジションには、会社が期待しているエンジニアが充てられることが多いです。
逆に、リスクが高いと認定されてしまったエンジニアは、消失しても損失が少ないような会社の中でも優先度の低い案件を充てられてしまう可能性が高いです。
このような案件は、学びが少ない、勤務地が遠い、残業や夜勤がある等、エンジニアに不人気な要素が多い案件です。
依怙贔屓(えこひいき)だろうと感じるかもしれませんが、会社が優秀な人材に良い機会を用意することは会社の成長にとって大事なことです。どのような会社でも普通に行われています。
・選べる案件の幅が狭くなっていく
SESエンジニアの案件選びは椅子取りゲームの構造に近く、ひとつの案件の席を複数企業・複数エンジニアが奪い合います。
つまり良い案件は競争率が高いということです。リスクが高いと認定されてしまったエンジニアはここでも競争に敗れてしまいます。
結果、競争率の低い案件しか選べない可能性が高くなります。
・負のループに陥る
引き合いを受ける案件数が減り、競争に敗れ、頼みの綱でもある社内で抱えている面談不要で参画できるような案件においても優先順位が低いとなれば、条件の悪い案件で妥協せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
ですが、条件の悪い案件でエンジニアがモチベーションを保つことは難しいです。エンジニアの中では不満が膨らんでいき『環境が悪い』と考えて転職することでしょう。
しかし、そもそも経歴書が汚れてしまっているため他社の人事からも避けられてしまうことになります。ここでも競争に敗れ、条件の悪い企業への入社を余儀なくされます。
結果、転職を繰り返してしまいます。
過ちの始まりはどこにあったのか
一番最初に1年未満の経歴を作ってしまった際に、その次のアクションで経歴書の信頼を回復できなかったことが問題と言えるでしょう。
1年未満の経歴がひとつ出来た途端、負のループに片足を踏み入れてしまったわけですが、とはいえ1回であれば大きな問題にはなりません。
案件が縮小・消失する、病気を患う、技術力が追い付かない、お客様との相性が極端に悪かった、事前に聞いていた話と業務内容が違った等、こういったことは誰にでも起こり得るからです。
そのため、一番最初に1年未満の経歴を作ってしまった際に、次に参画する案件で1年以上の経歴を作り、経歴書の信頼を回復させることが出来れば大きな問題にはなりません。
2回・3回と1年未満の経歴が続いてしまうと負のループに迷い込んでしまいます。
仮に早期退場の理由が持病や家庭事情等、やむにやまれぬ事情である場合は会社と相談しつつ働き方を見直すことが大切です。
ずるずると経歴を汚してしまうと、そこに正当な理由があったとしても復帰が困難になります。
また、既に2回・3回と1年未満の経歴が続いてしまっている場合は、目標設定を『成長』ではなく『経歴書の信頼の回復』に変更することが大切です。まずはどんな案件であっても1年間は継続して参画して、経歴書の信頼を回復することで次にまたステップアップを望むことができます。
エンジニアとの感覚のズレ
エンジニアと話していて感覚のズレを感じるポイントがあります。
それはエンジニアが『技術力がつかない案件に1年居ることはマイナスである』と考えていることです。
この感覚はよく分かります。実は私自身も駆け出しの頃に入場半年で現場異動を直談判したことがあるためです。(却下されましたが。)
しかし、経営を通して営業という立場で仕事をするようになってから、この考え方の落とし穴に気づきました。
今では『技術力がつかない案件に1年居ることよりも、案件を1年未満で抜けることの方がマイナスが大きい』という風に考えています。その理由を解説していきます。
スキルシートは『経験』がベース
SES事業とはお客様からすると『エンジニアのサブスク』のようなものです。作りたいシステムに対してエンジニアが足りない時に、足りないエンジニアを月にいくらという形で借りるわけです。
借りるエンジニアのスペックが書かれたものがスキルシートということになります。人の事を物のような言い方をするなという批判がありそうですが構造の比喩ですのでお許しください。
スキルシートには経験年数、経験のある技術領域、経験したポジションが記載されます。コミュニケーション能力、地頭の良さ、呑み込みの早さ、独学など、パーソナリティに関わる点は記載されません。
つまりスキルシートは『経験』をベースに作成されています。
例えば、あなたが案件の責任者だったら、どちらの人物を案件に招きますか。
Aさん(26歳)
・Javaの開発経験1年
・手順書ベースの開発が中心
・成果物の期限を守らない、遅刻癖がある
・プライベートでは勉強しない
・勤怠不良で1年で退場
Bさん(35歳)
・Javaの開発経験6か月
・手順書は無し
・地頭がよくキャッチアップが早い
・プライベートで毎日勉強する習慣がある
・案件が縮小し6か月で退場
極端な例ですが、多くの方はAさんよりもBさんと仕事がしたいと感じるはずです。一方でスキルシートに載る情報(=経験)だけで整理すると以下になります。
Aさん(26歳)
・Javaの開発経験1年
Bさん(35歳)
・Javaの開発経験6か月
いかがでしょうか。
Aさんは若くて素直だから1年間続けられた。Bさんは前職の経験を引きずって少々頭が固いのか、トラブルで早期退場となった可能性がある。こんな風に邪推する方が居ても不思議ではありません。
背景情報がそぎ落とされたことでBさんよりもAさんの方が一緒に働きたい人物に見えてしまうわけです。
つまり、スキルシートは経験をベースに記載するため、パーソナリティが見えづらいというデメリットがあると言えます。
面談は足切りの後に行われる
パーソナリティの確認は面談で行われますが、お客様としても通常業務の傍らで何度も面談することは骨が折れるものです。そのため、営業にある程度の判断をお任せして候補となるエンジニアの人数を絞った後に面談を実施します。
つまり、先ほどのAさんとBさんの例の場合、Aさんにのみ面談の機会があるということです。
また、案件の募集についてもお客様の希望が存在します。下記は実際の案件詳細を特定できない形に加工したものです。
案件:管理システム再構築
期間:4月~長期
場所:千葉県某所
時間:9:00~18:00
■作業内容
・管理システム要件定義~製造・テスト工程までの作業。
■必須スキル:
・上流工程経験 2年以上
・Java開発経験 2年以上
■尚可スキル:
・リーダー経験
単価:65万円程度(スキル見合い)
精算:140-190h
外国籍:不可
年齢:30代~50代前半まで
面談:2回(1回目Web、2回目対面予定)
商流:貴社社員
備考:無し
案件詳細にはお客様の要望が細かく記載されています。
営業は案件詳細とエンジニアのスキルシートを必ず比較します。仮にミスマッチがある場合には面談は見送られます。
たとえ、この案件で活躍できる実力があっても、それを証明できる手段がないために足切りにあってしまうのです。
経歴は料理で言うと盛り付け
スキルシートは経験をベースに作られており、面談においても足切りがあることから、経歴に書かれた経験こそが良質な案件を掴む切符になるといえます。
つまりSESエンジニアはスキルシートに書けるような『客観的な事実』でしか戦えないということです。
どんなに絶品の料理があったとしても、安物の皿に適当に盛り付けてあれば魅力は薄れるものです。逆に、平凡な料理でも高級な皿に綺麗に盛り付けてあれば美味しそうに見えるものです。
お客様にとって、エンジニアの技術力は料理の”味”であり、経歴は”盛り付け”なのです。食べてもらわないことには美味しさが伝わることはありません。
技術力は当然に大事なのですが、チャンスを得るフェーズにおいては、まず相手から選ばれる必要があり、即ち綺麗な経歴が必要ということです。
早期退場するくらいなら1年続けた方がマシ、重要なのは案件を選択する際に道を間違えないコト
先述の通り、案件を早期退場すると事態が悪化する可能性が高いため、少なくとも1年間は継続して参画した方が良いです。
1年間続けることで『1年間真面目に働ける』という客観的事実がスキルシートに記載されます。逆に、1年未満の経歴が並んでしまうと、リスクの高い人材と捉えられてしまい、いかに技術力が高くても勝負の土俵にすら上がれない可能性が高まります。
これは案件に入ってから軌道修正を試みるのでは遅いという意味でもあります。
参画する案件を選択する段階で、自身の要望を自社とすり合わせていくことが重要です。
弊社ケルンの場合
ケルンの場合は以下を徹底しています。
希望する案件のすり合わせ
入った以上は1年継続する
希望する案件のすり合わせ
案件イメージのギャップを事前に埋めます。
まず採用面接の段階でエンジニアの目標やケルンに期待していることをお聞きします。それを踏まえて、内定時に5年間のキャリアアッププランをお伝えしています。
・どのようなエンジニアを目指すか
・そのために1年目~5年目までどのような案件を狙うか
・どのようなタイミングで現場異動するか
・年収がどのように上がっていくか
・ケルンに出来ること/出来ないこと
上記をお伝えして、エンジニアと会社とで目標までの道筋を共有します。エンジニアとしてはケルンで叶えられることが明確に分かるため、入社後にギャップを感じることはありません。
また、案件を選ぶフェーズでは以下を相談します。
・この案件で得られるもの/得られないもの
・この案件で大変なところ/退屈なところ
・退場のタイミングはどのような基準とするか
・次に狙える案件はどのような案件か
案件参画を決定する前に参画する目的を明確にしておき、参画中の1年間に迷ったり・悩んだりしなくて済むようにしています。
入った以上は1年継続する
ケルンでは入社前・案件参画前にギャップを埋める作業を行いますので、ほとんどのエンジニアは1年間を納得して過ごします。
『この経験を得るために参画したものの、やっぱり大変/退屈だな』といったような覚悟の上の我慢が発生することはありますが、目的がハッキリとしているため少なくとも迷い・悩むことはありません。
とはいえ例外もあります。
ひとつは案件に参画してみたら実態が想定と違った場合です。案件は結局のところ入ってみるまでは分からないものです。だからこそ、事前の想定が大事です。想定とは譲れない条件や、案件に参画して叶えたいことです。
これらは参画前に会社間で認識合わせをしているため、参画してみて実態が違った際には、『事前の合意と違いますよね』という形でギャップを埋めるような交渉を図ることが出来ます。
それでもギャップが埋まらない場合は、リスクを覚悟の上で退場するのか、運が悪かったと1年間は続けるのか、どっちが良いのか相談をして決めることになります。
とはいえ、お客様としてもエンジニアに早期退場されてしまうことはリスクであることから事前の案件詳細にはウソをつかないものです。そのため、このような事態に陥ることは極めて稀です。
たいていのギャップはエンジニアとのすり合わせが出来ていないことが原因で発生します。
もうひとつの例外はエンジニア自身の価値観が変化していくことです。
エンジニアもまた、日々業務をしていく中で向いている業務や向いていない業務を自覚します。また、外部から得る新しい情報によって興味も変わっていくものです。
この場合には改めて作戦会議が必要です。案件の参画中に再度、キャリアプランについて相談します。
エンジニアの価値観の変化が案件を継続する上で致命的なレベルであればリスクを覚悟の上で退場となりますが、よほどのことが無い限りは、キャリアプランの修正は1年経過後(=2年目)の参画案件から実行していきます。
意見を言える会社・言えない会社
昨今ではエンジニアファーストを掲げる会社が多く、会社がエンジニアに気遣い過ぎた結果、かえってエンジニアのキャリアを潰してしまっているケースをときどき見かけます。※以下記事もよければ。
でもこれは、実は気遣いではなく辞められたくないだけです。つまり、エンジニアのためではなく会社のための行為です。
本当にエンジニアのことを想うならば会社としては現実を伝えないといけない場面は必ず出てきます。
会社に出来ないこと、エンジニアが間違っていること、現場からのネガティブな評価、これらは本当に伝えにくいものです。
でも、こういったネガティブな話も、まともなエンジニアであれば聞きたいと思うものですし、受け止めて下さいます。
エンジニアの機嫌を損ねたくない、辞められたくないという利己的な理由でエンジニアの案件選択や案件離脱にまともな意見も言えず、結果としてエンジニアのキャリアを潰してしまうようであれば、そんな会社には存在意義がありません。
こうした理由から、ケルンでは会社の意見を伝えます。でも絶対的な意見ではなく、あくまでも情報提供という位置づけです。最後決めるのはいつだってエンジニア自身であることが大事です。
また、エンジニアという専門職の方に意見を伝えるためには、会社側にも広い技術的な知見が必要です。そのためケルンでは採用するエンジニアをインフラエンジニアに限定することで、会社がサポートしなければならない領域を絞り、その代わりにサポートを手厚くしています。
まとめ
SESエンジニアは1年未満の経歴が続くことで早期退場のリスクを疑われ、その後のキャリア形成において不利な状況に陥る。
案件に参画した以上は1年間は継続する必要があり、1年間続けるためにも事前の案件詳細のすり合わせを行うことが重要である。
以上です。
今日はいつもより2,000字くらい短め。もっともっと端的にビシッと書きたいところです。すんません。
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