君の特技、わたしの特技。
寝る前に、どうでもいいこと聞いていい?
へとへとになりながら、寝る前の飲み物を淹れて、「さあ自分の時間だ」と2階にあがろうとする夫を、呼び止めた。
片手にホットラテを持った夫。
虚な目で「なに?」と返す。
「自分の特技って、なに?」
「‥とくぎ?( ˙-˙ )」
「なんでもええねん、なんかある?」
夫は、3秒ほど立ち尽くした。
顔が( ˙-˙ )になっているので、考えているのだろう。
一生懸命、自分の特技を探している。
まわらない頭で。
「‥なわとび」
「なわとび!?!?」
そうなん!?
得意なん!?
わたしが驚愕して聞き返すと、夫はうーん、と曖昧に返事をした。
「まあ、こんな重くなっても、三重跳びとかまだまだできるし、あとは__」
「三重も跳べるの!?すごいね!!」
わたしがまた大きな声を出すと、夫は困ったように俯いた。
べつに、三重跳びなんて、みんなできるでしょ。
そんな声が、全身から聞こえてくる。
いやいや。
二重跳びすら上手くできない縄跳びポンコツのわたしからすれば、三重跳びができる人は、みんな超人だ。
へーすごいなあ、とひとしきり感心してから、もうひとつ尋ねることにした。
「じゃあ、わたしの特技って、なんやと思う?」
「お絵描きと、ピアノ」
こちらは、即答だった。
そうかー、それかー、やっぱりかー。
これら二つは、わたしが小学生のときからずっとプロフィール帳に書いている「特技」だ。
30年、更新なし。
もう馴染みすぎて,特技だと認識できなくなっていた。
ネットを見ていたら、わたしより絵が上手い人も、ピアノが上手い人もたくさんいるから。
でも、そんなこと言ってたら、何も特技になり得ない。
世界ナンバーワンじゃなくても、オンリーワンじゃなくても、「特技」だと名乗っていいのだ。
だから、まあわたしの特技はやっぱり、お絵描きとピアノ、なのかもしれない。
即席で、パパッと描けるのがすごいよ。
ピアノも、聴いただけで弾けるじゃん。
夫は大真面目な顔で、うんうんと頷きながら、そう続けた。
そっか、ありがとね。
話はそれだけです、ほな、おやすみ。
わたしは、早くこの話を切り上げたくて、そそくさと挨拶をして、逃げた。
ちょっと、照れ臭かったのだ。
◇◇◇
なぜ、急に夫の特技を探っていたか。
それは、珈琲次郎さんの企画「仲良し夫婦サークル」のテーマが「パートナーの特技」だったから。
はじめは、自分ひとりで、夫の特技を思い浮かべてながら、書いていた。
でも、どうもしっくり来ない。
夫の特技が、よく分からない。
夫の好きなところ、すてきなところは、十二分に理解している。
でも、特技と言われると、ある程度のワザや目に見えるカタチが求められる気がする。
すると、「ヤツは一体、何が得意なんだ?」と分からなくなる。
そんなとき、珈琲次郎さん自身が、テーマの記事を投稿されていた。
かわいい奥さまとのやりとりを、そのまんま載せる形式。
お互いが、お互いの特技を聞くスタイル。
それを見て、「そうか、わたしも夫に聞いてみよう」と思い立った。
その方がきっと、夫のことがもっとよく分かるだろうから。
まさか、「なわとび」が出てくるとは。
せいぜい、ギターとか、素潜りとか、長距離を走ることとか、そういうのかと思っていたから。
わたしから見れば、ギターもランニングもじゅうぶん「特技」に見えるのに。
彼の口からそれが出ないということは、彼にとっては、特技じゃないんだろう。
わたしはわたしで、お絵描きとピアノももちろん「特技」に挙げてもいいのだが。
やっぱりそこに、「書くこと」も並べたい。
夫はわたしの文章を読んでいないので、「書くこと」については、知るよしもない。
だから、これはわたしの心のうちで、ひっそりと並べておく特技なのだ。
珈琲次郎さんを真似してまとめてみると、こんな感じ。
なんだか、とても新鮮な気持ち。
分かっていたようで、知らなかった、夫の新たな一面に出会えた気がする。
今度、夫に頼んでみよう。
__ねえねえ、三重跳び、見せてよ。
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