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3歳男子と母の攻防戦

息子のなっとくんは最近キッチンが好きだ
私が夕食を作っているとトコトコ可愛く顔を覗いてくる

「ママ、お手伝いしましゅ」

いや、大丈夫です
なぜなら母は今忙しいので。

そんなコトバは返せない、ニコニコとした空気感を纏う彼
この時点でもう勝てる気はしない

でもまだ望みはあるのだ
なぜなら3歳児は気分屋もいいところ

ちょろっと料理を見ていなくなる日もあるし
ねーねの漫画の笑い声につられてリビングに向かう日もある
今日も何かしらがおこることを願おう

フライパンで炒め物をしていると、彼専用の踏み台を準備して
戦闘態勢万全の3歳児
リビングの笑い声は全くの無視、キラキラした目で私を見ている

そうか、今日はそんな感じかw

どうしようかなーと思いながら気づいていないふりをしていると
彼は目の前の蛇口をいじりだした
機械的に水が流れ出し、シンク内のフライパンにあたって水が跳ねる
そこそこの勢いではねる

「なっとくん、止めてー」
私が言うと、彼は何を言うでもなく水道を止める

水が止まったことを確認してフライパンに目を戻した私
その私を確認して蛇口をひねるなっとくん

「なっとくーん、水びちゃびちゃになるーとめてー」
そこでまた彼は止める
そして私の目線を確認して、また出すことを繰り返す

はじめはお手伝い作戦の攻防戦だったはずが
互いにどうやって水道問題を解決するか?に神経を注ぐ

そのうち料理が一通り落ち着き、ふと見るとまた水が出ていた

(まぁいいかな、明日も休みだし)
怒るのもなんかなと思ったので
流れている水ではなくなっとくんの観察をすることにした

じーっと水を見つめる彼
じーっと水を見つめる彼を見つめる私

ただ無機質に流れる水の跳ね返りを、キラキラした目で見つめる彼
触るでもなくただ観察しているだけなのに、楽しく集中しているのがわかる
興味のないこちらからしたら、何にそんなに歓喜してるのかわからない

ただ、そのまなざしに動物的な猟奇感を感じて
思わず「なっとくんって、きれいだね」と言葉をこぼした
聞こえていないのか、反応はなかったけど。

「止められても止まらない自分の中の何か」を満たしているときの人の顔が
私はとても素敵だなと感じる
どうしようもなくあふれる好奇心みたいなものに取りつかれている人からは
パワーを感じる
小さい子供が口を半開きにして夢中に泥団子を作っている姿は
たまらない
私の目を盗んでまで水を流したかった、なっとくんの小さい脳みそに
キスをしたい気分だった

こんなにかわいいなっとくんをみられるから
キッチン立ち入り禁止ができないんだよな
この勝負、はじめから母の負けは確定だった
ビショビショのキッチンを見ながらそう思う平日の午後7時








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