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臨床推論 Case101

CEN Case Rep (2014) 3:75–79
PMID:28509250


【症例】
81歳 男性

【既往】
慢性腎不全 高血圧 不整脈

【内服】
Ca拮抗薬 ワーファリン ARB

【現病歴/現症】
⚫︎ 6月初めにCre2.9mg/dL K5.7mEq/L
⚫︎ 気分不良と粘液性の下痢が出現し6月末に食欲不振、倦怠感、嘔吐のため受診された
⚫︎ 熱はなくバイタルは安定
⚫︎ 受診時ラボは以下の通り

⚫︎ 頻回な下痢による脱水症の診断となった
⚫︎ HCO3を含む点滴と透析で対応した
⚫︎ 少量の下痢は残っていたがラボは安定し退院となった

⚫︎ しかし退院4日目に倦怠感と食欲不振のため救急搬送された
⚫︎ 体重は4日間で4.5kg減少した
⚫︎ 血圧は85/54mmHg Hb14.2g/dL BUN150mg/dL Cre11mg/dLまで悪化した
⚫︎ その時の採血でCEA9.2ng/mLと上昇していた
⚫︎ ゼリー状の便が続いていた
⚫︎ 大腸内視鏡検査を施行したろ直腸に円形の腫瘍を認めた

⚫︎ CTでは不整でほぼ全周性の病変あり リンパ節や転移病変はない


What’s your diagnosis ?







【診断】
絨毛腺腫

【経過】
⚫︎ 病理では管状腺腫(3群)であった


⚫︎ 支持療法で電解質改善した
⚫︎ 年齢や背景から手術は厳しいためESDを計画されて慶應義塾大学に転院となった
⚫︎ 転院後部分的にESD施行したところ絨毛腺腫(5群)の診断となった
⚫︎ 1回のESDで下痢の頻度が減少した
⚫︎ 合計3回ESDを施行し、その後は悪化なく経過している

全経過

【考察】
⚫︎ 大腸腺腫による体液・電解質異常をきたすのをMckittrick-Wheelock症候群と言われている
⚫︎ 一般に大腸からの下痢はKとHCO3の喪失によりAG正常代謝性アシドーシスをきたす
⚫︎ しかし臨床像は様々で代謝性アシドーシス、アルカローシス、呼吸アルカローシスなどきたす
⚫︎ 下痢の量よって過換気や腎不全を呈し、それによって酸塩基平衡が乱れてしまう
⚫︎ 今回の症例はAG上昇代謝性アシドーシスを認めたが、顕著な腎不全と食欲低下によるケトン体蓄積などにより生じた可能性あり

⚫︎ 大腸腺腫全体の1.3-5.6%とまれで、全例が電解質異常を伴うわけではない
⚫︎ 好発部位は直腸78.4-83.3% S状結腸5.6-16.2% である
⚫︎ 特徴は以下の通り
①高齢者に多い 
②診断までに時間を要する 
③腫瘍が10cm以上 
④直腸・S状結腸に多い 
⑤多量の下痢と電解質異常を認める

⚫︎ 医中誌で集めた32例 (日消誌 2019;116:576―582 )
  年齢:70.8歳(55-83)
  病脳期間:平均36.6ヶ月(0.25-240ヶ月)
  部位:直腸 31/32例
     S状結腸 1/32例
  サイズ:癌あり14.9±4.3cm 癌なし14.9±3.0cm

⚫︎ 絨毛腺腫による分泌については様々なメカニズムが提唱されている
・ 重度の下痢がおきるのはコレラ毒素と似ている
・ プロスタグランジン合成およびアデニル酸シクラーゼ活性が通常の粘膜より高い
・ これらにより水・電解質の放出が多いとされている
⚫︎ 症例によってプロスタグランジンを阻害するインドメタシンが効いた報告あり

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