臨床推論 Case118
CEN Case Rep (2014) 3:80–85
PMID:28509248
【症例】
69歳 女性
【現病歴/現症】
⚫︎ 7月5日に低K、代謝性アルカローシス、高血圧で入院(1回目)された
⚫︎ 症状は失神、抑うつ、脱力、両下腿浮腫を認めていた
⚫︎ 同様のエピソードを数週間おきに繰り返している
⚫︎ これ以外の大きな既往はない
⚫︎ 身長140cm 体重40kg
⚫︎ 血圧177/100mmHg
⚫︎ 両下腿に著明なpitting edemaあり 爪周囲に色素沈着あり
⚫︎ ラボはWBC高値(リンパ球↓好酸球は0%)A1c7%
尿検査はK排泄56.2mEq/dayと非常に多い
⚫︎ 内分泌検査ではレニン・アルドステロンはともに正常以下
⚫︎ 7月14日にに実施したホルモン検査は以下の通り
ACTH:66.2
コルチゾール:28.5
23時コルチゾール:18.8
⚫︎ その後高圧薬やK補充して改善したため退院となった
⚫︎ しかし同様の症状で7月17日に入院(2回目)された
少量デキサ(1mg)抑制負荷試験でコルチゾールは24.3と抑制されず
高容量デキサ(8mg)抑制負荷試験では13と若干抑制傾向がみられた
⚫︎ CRH負荷試験ではbasal/peak 27.9/41.4と1.5倍以上にはなっていない
⚫︎ MRIでは下垂体に明らかな異常所見は認めず
⚫︎ これらの結果からACTH依存性クッシングはありそうだがクッシング病なのか異所性ACTH産生腫瘍なのかははっきりしなかった
⚫︎ 身体診察でクッシング徴候は認めず
⚫︎ 8月28日低K血症2.1mEq/Lで入院(3回目)された
ACTH119.4 コルチゾール42.1であった
⚫︎ 満月様顔貌、バッファローハンプ、紫斑とクッシング徴候を認めた
下腿浮腫と色素沈着は悪化していた
What’s your diagnosis ?
【診断】
周期性クッシング症候群(cyclic cushing syndrome;CCS)
【経過】
⚫︎ 以下は分泌期と非分泌期の両方で検査を行った
・ CRH負荷試験なしでの静脈洞サンプリングでは中枢/末梢ACTHで有意差を認めず
・ CRH負荷試験ありでも中枢/末梢ACTHでの有意差を認めず
⚫︎ 異所性ACTHと判断し全身検索したが、産生していると考えられる病変は認めなかった
⚫︎ メチラポンでコルチゾール合成を阻害し、デキサメタゾン補充で対応する方針となった
⚫︎ 4ヶ月後、高圧薬なしで血圧は安定し、血糖値、K値も安定している
【考察】
⚫︎ CCSは12時間-86日のコルチゾール過剰分泌期と数日から数年のコルチゾール分泌正常期の周期の繰り返しによって特徴づけられるCSのまれなタイプである
⚫︎ 診断するには少なくとも3つの分泌期と2つの非分泌期の交代が確認される必要がある
⚫︎ CCSをきたすのはクッシング病54% 異所性ACTH産生症候群26% クッシング症候群11%であった
⚫︎ 今回のようにACTH依存型クッシングにおけるCCSは正確な診断が極めてむずい
・ 周期的な変動によりACTHとコルチゾールの検査値が正確にでない
本症例はデキサメタゾン8mg負荷試験でACTH低下していたが、周期的な分泌の問題であったのかもしれない
・ ACTHやコルチゾールのホルモン値だけでは診断精度が非常に低い
そのため複数の内分泌検査や画像検査を組み合わせる必要がある
⚫︎ 海綿静脈洞サンプリングはクッシング病か異所性かの鑑別に役立つ
感度・特異度ほぼ100%であるが今回の周期性にはどうなのか難しい
⚫︎ 1回目は非分泌期に行われ、中枢/末梢の上昇は認めなかった
これは分泌されていなかっただけなのかもしれない
⚫︎ 2回目は分泌期に行われていた しかし中枢/末梢の上昇を認めなかった
⚫︎ よって上記結果を踏まえ今回は異所性ACTH産生症候群と判断した
⚫︎ 異所性ACTH産生の原因を特定するのも難渋する
⚫︎ 約15%には病変を認められないと言われている
⚫︎ 異所性ACTHの産生部位は単施設での報告が多いが胸部に病変があるのは半数である
⚫︎ 気管支カルチノイド、小細胞癌、胸腺カルチノイドである
⚫︎ 他に甲状腺髄様癌、NET、卵巣癌、前立腺癌などである
⚫︎ 医科歯科大学の報告16例(Endocrine Journal 2010, 57 (12), 1061-1069 )
⚫︎ 治療は今回実施したように周期性に関係なくメチラポンでコルチゾールを完全に押さえ込んで、内服でステロイドを補充するのがよいのかもしれない