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肺動脈瘤24例

AJR Am J Roentgenol. 2017 Jan;208(1):84-91.
PMID: 27656954.

【イントロダクション】
■ 肺動脈瘤(PAP)は, 破裂すれば致死的になりうる. 特発性, 外傷性, 感染, 原発性または転移性肺腫瘍, 肺高血圧症, 血管炎などに関連して生じる. 症状は, 咳嗽と喀血がある. PAPの破裂後に大量喀血が起こることがあり, 死亡率は50%にも達する.

■ 今回PAPの症例を集めて解析した. 

【方法】
■ 教育病院の放射線科データベースで, 2000年から2014年までの報告書で「肺動脈仮性動脈瘤」および「肺動脈瘤」の用語を検索し, 39件のCT検査が特定された.
■ PAPは, 肺動脈の局所的な嚢状の突出と定義し, 紡錘状拡張を示す患者は除外した.

【結果】
■ PAPに一致する24人の患者を集積した.
■ 男性12人, 女性12人, 年齢中央値55(25~85歳)
■ 合計35個のPAPがあった.
■ 最も多い症状は喀血(13人, うち3人は大量喀血)と呼吸困難(11人)であった.

■ 原因は以下の通り.

■ 感染症(33%), 腫瘍(12.5%), 外傷(17%)であった.
■ これらの原因のうち, 感染症は喀血を起こした割合が多かった(8例中6例, 75%).
■ PAPのレアな原因は, 肺塞栓症(4%), 牽引性気管支拡張症と肺線維症(4%)であった.
■ 原因不明の特発性は7例(29%)

■ 感染症の8例のうち, 5例は三尖弁のIE(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA]2例, メチシリン感受性黄色ブドウ球菌2例, Streptococcus mitis 1例)であった. 心内膜炎-PAPの診断の間隔は2週間から3ヶ月であった. 三尖弁心内膜炎の最多誘因は静脈内薬物乱用であった(5例中4例). これらの三尖弁心内膜炎の5例のうち3例は, 多発性空洞性病変で発症した. これらの5例で合計15個のPAPが同定され, そのほとんどは正常な肺実質に囲まれていた. PAPのうち1個のみが空洞性病変に, 1個が隣接する浸潤影に, 1個が既存の浸潤影に, 1個がスリガラス陰影に接していた.

■ 他の3例は, 局所性肺炎に続発するPAPを有していた(MRSA 1例, 嚢胞性線維症におけるBurkholderia cepacia 1例, 慢性Mycobacterium avium complex[MAC]肺炎におけるPseudomonas の二次感染1例). これらの3例で合計3個のPAPが同定され, そのうち2個は浸潤影に, 残りの1個は慢性MAC感染による空洞性結節に接していた.

■ 感染症の8例のうち3例では, 外科処置なしで抗菌薬治療後のみ受けた. フォローアップCTで, いずれもPAPが消失または縮小していた.

■ 他の5例は,3例は外科的介を受け治療できた. 1例はフォローアップに来ず, 1例は手技する前に亡くなられた.

■ 腫瘍が原因と考えられた仮性動脈瘤は, 3人(肺扁平上皮癌2人, 転移性肉腫1人)で合計4個のPAPを認めた. 肺腫瘍とPAPの診断の間隔は5~9ヶ月であった. この間, 3人全員が化学療法を受け, 1人は肺への放射線治療も受けた. これらの患者は全員,結節または腫瘤に隣接してPAPを認めていた.

■ 外傷性の肺血管損傷によるPAPは合計4例であった(肺動脈カテーテル留置1例, 肺葉切除術1例, 胸部への急性穿通性外傷1例, 胸部への陳旧性穿通性外傷1例).
■ 肺動脈カテーテル留置と急性穿通性外傷による仮性動脈瘤は, 外傷直後に診断され, いずれも隣接する浸潤影とスリガラス陰影を伴っていた. これらは局所的な出血を表していると考えられた.
■ 肺葉切除術に関連したPAPは, 転倒後に行われたCT検査で手術の3週間後に偶然発見された.

■ 急性刺創の患者と肺葉切除術を受けた患者では, 同側の血胸が認められた. 陳旧性刺創に関連した仮性動脈瘤も偶発的所見であり, 浸潤影, スリガラス陰影, 血胸のいずれも伴っていなかった.

■ PAPは, 喀血を起こした13例のうち始めからPAPが疑われたのは23%(13例中3例)で, PAP全患者の13%(24例中3例)であった.
■ 35個のPAPのうち16個(46%)は, 初回のCTスキャンで放射線科医が見落としていた.
■ これらはすべて造影CTであり, 後ろ向きに見直すと可視化でき, 後の見直しまたはフォローアップ検査で検出された.
■ 喀血があるからといって, 初回CT検査での適切にPAPを指摘できた割合に影響はなかった.

■ PAPのサイズと分布は以下の通り.

■ 仮性動脈瘤のサイズは0.6~6.0 cm, 中央値は1.2 cmであった. PAPは末梢の肺動脈枝に好発し, 仮性動脈瘤の83%は区域または亜区域の肺動脈に存在した.

■ 大半(24例中20例, 83%)は単発であった. 多発性は4例(24例中4例, 17%)のみで, そのうち3例は心内膜炎, 1例は転移性疾患が原因であった. PAPが多発する場合, 両側肺にランダムに分布していた.

■ 35個の仮性動脈瘤のうち, スリガラス陰影を伴っていたのは3個のみで, そのうち2個は急性外傷性損傷に, 1個は感染症に続発するものであった.

■ 12人の患者に対して合計14個の仮性動脈瘤に対する血管内治療が行われた. 11個の仮性動脈瘤に直接コイル塞栓術が行われ, 2個はカバードステントで閉鎖され, 1個は栄養血管のコイル塞栓術によって閉鎖された. 手技が成功したにもかかわらず, 3人の患者が治療後数日以内に死亡した(1人は大量喀血, 2人は基礎疾患). 1人の患者は,塞栓術後の喀血に対してカテーテル治療前に死亡した. で, 肺動脈造影と治療が試みられる前に大量喀血で死亡した. 1人の患者は, 仮性動脈瘤のコイル塞栓術後に喀血のエピソードがあり, 後に併存疾患で死亡した. 結果的に2人が死亡の要因として喀血が関連していた. 仮性動脈瘤の治療のために外科的切除を受けた患者はいなかった.

■ 11人の患者では血管内治療が行われなかったが, フォローできた期間では喀血はなかった. このうち3人は基礎疾患のため1年以内に死亡し, 5人はフォローアップで経過良好であり, 3人はフォローアップ中止されていた.

【考察】
■ PAPは, 肺動脈の破裂を伴う稀な合併症であり, 迅速な診断が重要である. 治療されないと致死的な喀血の可能性があるからである. MDCT血管造影は, 喀血とPAPの評価のために行われる.

■ 喀血で発症し気管支動脈造影または肺動脈造影(あるいはその両方)を受けた患者におけるPAPの有病率は5%から11%とされている. おそらくその低い有病率のため, 本研究でも喀血のある患者13人のうち, 臨床的に疑われたのは3人(23%)のみであった.

■ 放射線科医の間でも仮性動脈瘤への疑いは低く, 本研究の仮性動脈瘤のほぼ半数が初回CT検査で報告医によって見落とされ, 後ろ向きまたはフォローアップ検査で検出された. PAPの診断の見落としは, 潜在的に生命を救う治療の遅れや, 不適切な治療につながる可能性がある. PAPが気管支内病変や肺腫瘤として発症し, 不必要な生検や手術が行われた症例が報告されている.

■ 本研究では, PAPは末梢の肺動脈枝に好発し, PAPの83%が区域または亜区域の枝に認められた. PAPは単発性である傾向があった. 多発性の仮性動脈瘤は, 心内膜炎と肺転移に認められた.

■ 感染症は後天性PAPの最多原因であった. 歴史的には, 結核と梅毒が主要な病原体であったが, 抗菌薬によって両者の有病率は劇的に減少した. 実際, 本シリーズでは, 結核や梅毒によるPAPの患者はいなかった. 結核に関連したPAP(ラスムッセン動脈瘤とも呼ばれる)は, 結核性空洞からの連続性の広がりによって引き起こされると考えられており, 血管壁の外側から内腔に向かって組織破壊が起こる. 影響を受けた血管壁は破壊されやすく, 仮性動脈瘤形成や破裂につながる. 感染性肺炎に続発するPAPの発生機序は同様で炎症のある浸潤影の部位から広がり, 外側の血管壁から内腔に向かって血管壁が破壊される. 病原体は, 化膿性細菌(黄色ブドウ球菌, レンサ球菌, クレブシエラ菌, 放線菌など), 結核菌(結核), 真菌(ムーコル, アスペルギルス属, カンジダ・アルビカンスなど)が含まれる. 本シリーズでは, 局所性肺炎に続発する3個の仮性動脈瘤のすべてが, 隣接する浸潤影または空洞性病変と隣接していた.

■ 心内膜炎に関連する真菌性PAPの形成の推定機序は, 敗血症性塞栓による肺動脈内腔の血管内播種である. 血管壁の破壊は内腔から始まり, 外側の壁に進行する. したがって, 心内膜炎に続発するPAPは, 必ずしも肺の浸潤影に関連しない. 我々の観察結果は, この推定機序と一致している. 本シリーズでは, 心内膜炎に続発する15個の仮性動脈瘤のうち, 隣接または既存の浸潤影や空洞性病変に関連していたのは3個(20%)のみであった. 本シリーズでは, 3人の患者の真菌性仮性動脈瘤は, 基礎疾患の感染症に対する抗菌薬治療後のフォローアップ胸部CT検査で消失または縮小していた. この観察結果は, 文献ではほとんど報告されていない. 真菌性仮性動脈瘤の介入的治療対内科的治療の指針となる画像基準は, まだ確立されていない.

■ 肺癌や転移性癌に関連したPAPは稀である. 肺の原発性扁平上皮癌, 原発性肉腫, 転移性肉腫が仮性動脈瘤形成の原因になることが報告されている. 本シリーズでは, PAPの腫瘍性原因は肺扁平上皮癌(2例)と転移性肉腫(1例)であった. 腫瘍に続発する4個の仮性動脈瘤はすべて, CTで肺動脈を包囲する結節または腫瘤として発症しており, これは文献の既報告と一致している. 悪性腫瘍に関連したPAP形成の推定機序は, 腫瘍の直接浸潤と血管壁の浸食による仮性動脈瘤形成である.

■ 外傷性または医原性の肺血管への直接損傷は他の主要な原因の一つである. 本シリーズでは, 4人の患者で肺動脈損傷によって仮性動脈瘤が生じたことがわかった(肺動脈カテーテル留置1例, 肺葉切除術1例, 胸部への急性穿通性外傷1例, 胸部への陳旧性穿通性外傷1例). 胸腔ドレーン留置や従来の血管造影による医原性損傷も, 仮性動脈瘤形成の原因になることが報告されている.  肺腫瘍のラジオ波焼灼術によるPAPが報告されている. 急性穿通性外傷と肺動脈カテーテル留置による損傷による仮性動脈瘤は, 外傷直後に診断され, いずれも隣接する浸潤影とスリガラス陰影を伴っていた. これらは局所的な出血を表していると考えられる. 肺葉切除術に関連したPAPは, 転倒後のCT検査で手術の3週間後に偶然発見された. 急性刺創の患者と肺葉切除術を受けた患者では, 同側の血胸が認められた. 陳旧性刺創に関連した仮性動脈瘤も偶発的所見であり, 浸潤影, スリガラス陰影, 血胸のいずれも伴っていなかった. 本研究の非外傷性仮性動脈瘤31個のうち, スリガラス陰影を伴っていたのは1個のみで, 非外傷性仮性動脈瘤の患者で血胸を有していた者はいなかった. 我々の結果から, 急性外傷性損傷がない場合, PAPにスリガラス陰影や血胸などの急性出血のCT所見を伴うことはほとんどないことが示唆される.

■ 肺塞栓症は, 局所的な肺動脈壁の損傷を引き起こし, 稀に仮性動脈瘤形成の原因となることがある. 本シリーズの1例では, 右下葉肺動脈の肺塞栓症のすぐ末梢にPAPを認めた. この症例では, PAPの形成には2つの可能性がある. 1つは前述の塞栓による動脈壁損傷であり, もう1つは血栓塞栓症に関連した狭窄後拡張である.

■ 1例では, 肺線維症に伴う牽引性気管支拡張症に関連したPAPを認めた. 牽引性気管支拡張症に関連したPAPは非常に稀で機序はよく分かっていない.

■ 最後に, 7例ではPAPの原因が特定されなかった. これらの症例は, PAPがCTで偶発的に発見される可能性があること, 喀血や関連する基礎疾患がない場合, 十分精査されない可能性がある.

■ 直接コイル塞栓術, ステント留置, 栄養血管の塞栓術による血管内治療は, 仮性動脈瘤の閉鎖に有効であることが報告されており, 治療法の第一選択と考えられている. PAPに対する手術的修復はほとんど必要とされない. 報告されている症例から, 手術は一般に, 胸腔内出血の制御, 治まらない喀血, あるいはムーコル症などの内科的治療に抵抗性である可能性が高い感染症の治療のために行われることがわかる. 手術的治療には, 肺切除または肺動脈形成術がある.

■ 結核, 結合組織疾患, ラジオ波焼灼術によるPAPなどの報告の多い原因は,本研究では認められなかった. ベーチェット病の患者は, 肺動脈拡張の紡錘状の形状とを呈することがあり除外されている可能性がある. 本研究のコホートは過去の研究と比較して比較的大規模であるが, PAPが稀であるため, 絶対症例数が少ないという限界がある.

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