臨床推論 Case124
Intern Med. 2024 Feb 15;63(4):577-582.
PMID:37407451
【症例】
83歳 女性
【主訴】
右上肢不随意運動
【既往歴】
症候性右頸動脈狭窄:4年前にステント留置後
高血圧症:ロサルタン
腎硬化症 慢性腎障害 :Cr1.3
糖尿病:A1c 6.0%
【現病歴】
⚫︎ 3ヶ月前から数分間の不随意運動を自覚されている
⚫︎ その時の血管造影で右内頸動脈から前交通動脈を経て左前大脳動脈ACAへ側副血行路が発達し、左ACAは尾状核と淡蒼球に穿通枝を伸ばして大脳皮質への血流を維持していた
⚫︎ 病院受診してお菓子を食べた1時間後に失語と右半身麻痺が出現しTAIとして入院となった
【現症】
⚫︎ 右上肢の付随運動はクネクネする舞踏様運動であったりバリズムを認めた
他に神経学的異常はない
⚫︎ 右BP129/109mmHg 左188/49mmHg
血圧は臥位➡︎立位で30mmHg以上低下する
しかし起立性低血圧は持続性ではなく、立位で不随意運動が誘発されることはなかった
⚫︎ MRI:新規の脳梗塞病変なし 左内頸動脈と中大脳動脈は描出なし
造影CT:大血管の石灰化が強い
⚫︎ 24時間血圧測定では食事後に血圧が40も低下することが判明した
⚫︎ 心電図R-R間隔変動は2%未満に低下していた
What’s your diagnosis ?
【診断】
⚫︎ 内頸動脈狭窄と食後低血圧症による低灌流によるHemichorea-hemiballism(HCHB)
【経過】
⚫︎ 頸動脈狭窄に対して石灰化が強すぎるため外科的処置は対応困難であった
⚫︎ 食後低血圧症は分割食に変更しボグリボースを導入したところ低下値が40→20に改善した
⚫︎ ベースの高血圧に対して少量アムロジピン開始した
⚫︎ 2.5年のフォローで不随意運動は一度も認めず経過できている
【考察】
⚫︎ 高度の大動脈石灰化および左内頸動脈狭窄と中大脳動脈閉塞に食後低血圧症が合わさって左大脳半球への血流が落ちて不随意運動を起こしていた
⚫︎ TIAによる不随意運動はレア ただしもやもや病では起きやすい
⚫︎ 頸動脈狭窄によるTIAによるHCBCの報告はレアである
⚫︎ HCBCは視床下核の病変による間接経路の破綻で生じるとされている
しかし被殻、運動皮質などの他の経路の病変も原因となりうる
⚫︎ 食後低血圧症によるTIAは自律神経障害でおきる
背景疾患はDM、神経変性疾患、他に内頸動脈狭窄である
⚫︎ ここでも起立性低血圧のある神経変性疾患や自律神経障害をきたす疾患、胃摘出後によって生じる
⚫︎ 胃摘出後も食後低血圧をきたす
⚫︎ 本症例はA1c6.0%で75gOGTTを実施したがDMの診断は至らず
⚫︎ 自律神経障害は加齢性変化や全身の動脈の強い石灰化による影響と考える
⚫︎ 食後低血圧症は起立性低血圧が合わさって悪化することがあるが、本例は臥位でも立位でも食後の血圧の変動に差はなく低下した
⚫︎ 高齢者は食事に伴う生理的な血流低下に対して交感神経が活性化しにくい
⚫︎ そのためαGIによって糖分の吸収を抑え、消化管に血流が取られるのをおさえた
⚫︎ 繰り返すHCHBは食後低血圧症や自律神経障害を検討すべし
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