臨床推論 Case51
Cureus 16(1): e52924.
【症例】
73歳 女性
【既往】
高血圧 脂質異常症 膵嚢胞 糖尿病 線維筋痛症
【現病歴/現症】
⚫︎ 全身症状、腹痛、下痢のため受診し入院となっている
⚫︎ 以前に膵臓の嚢胞を穿刺されており単に漿液性の嚢胞であった
⚫︎ 今回の入院前に上下部内視鏡検査を受けており、腫瘍マーカーは正常である
⚫︎ 腹水貯留を認めた
⚫︎ CTでは小網膜に腹膜癌腫症のサインを認め、付属機は2次性に腫脹していた
⚫︎ 腹水は経皮的にはさせず、診断的腹腔鏡は実施せず
⚫︎ 乳房エコーでは特に異常なく、腹部エコーでも腹疾患を特定できず
⚫︎ PETでは腹部-骨盤リンパ節と腹膜に密に集積を認め、腹膜癌腫症が疑われた
⚫︎ 精査を進めていたが状態は悪化し、腹水は増えて腹痛は悪化、体重減少、嘔気がひどくなった
⚫︎ 婦人科の精査は異常なし
⚫︎ 腹膜生検を実施した
⚫︎ 病理
・中皮上皮様細胞の浸潤性増殖を認める
・好酸性細胞質と卵状の角をもつ中皮上皮様細胞を認める
・免疫染色でCK7、calretinin、D2-40、CK5/6の発現あり
What’s your diagnosis ?
【診断】
腹膜中皮腫
【経過】
⚫︎ ポルトガルの腫瘍研究所に紹介となった
⚫︎ 腫瘍細胞減量手術および温熱腹腔内化学療法を施行した
⚫︎ しかし病状は進行し緩和の方針となった
【考察】
⚫︎ 腹膜中皮腫は腹部膨満を伴う腹痛、嘔気、食欲低下、体重減少など
⚫︎ 進行すれば腸閉塞を認めることがある
⚫︎ 診断は難しい
⚫︎ 腹水細胞診は結論は出ないことが多く、悪性か良性か判断が困難になることが多い
⚫︎ 組織型は3タイプあり 類上皮型・肉腫型・混合型
⚫︎ 最も一般的な上皮様悪性中皮腫は正常な中皮細胞に類似した細胞で構成されている
⚫︎ 組織浸潤が悪性か良性の鑑別を決定づける
⚫︎ アスベストがリスクであるが、この患者は暴露歴はなかった
⚫︎ 遺伝的な要因も示唆されている
⚫︎ 中皮腫は胸膜、心膜、腹膜、膣など漿膜のいずれにも浸潤する可能性があり、腹膜は胸膜についで二番目に多い(N Engl J Med.2021 Sep 23;385(13):1207-1218.)