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臨床推論 Case152

Respirol Case Rep. 2023 Sep 26;11(10):e01229.
PMID: 37771848

【症例】
40歳 男性

【既往/治療歴】
2型糖尿病 末期腎不全(HD) 高血圧 肥満 虚血性心疾患

【現病歴】
■ 3回のワクチン接種を受けている.
■ 発症日は2022年12月19日(day 0)にCOVID19にかかった.
■ Day1に発熱と呼吸困難を主訴に救急外来を受診し, 酸素の低下なく, 聴診上も異常所見なし. 胸部X線で右下肺野に浸潤影あり. 鼻咽頭・咽頭スワブでコロナPCRで陽性となり, COVID-19の診断となった.
■ モルヌピラビルとアモキシシリン/クラブラン酸を開始された. Day2に1型呼吸不全を発症し、経鼻高流量酸素(FiO2 0.4)を要した. 胸部X線で右中肺野に新たな浸潤影が出現した. 白血球13300/μL, CRP 2.75mg/dL.
■ デキサメタゾン6mg/日の静注とレムデシビル, ピペラシリン/タゾバクタムに変更した. Day7には回復し, 胸部X線で右肺野の浸潤影は消失した. 酸素は外せたため退院となった.

■ Day15に呼吸困難で再入院された. 酸素2L投与を要した. 胸部X線で両側浸潤影あり, 白血球12700/μL, CRP 1.91mg/dL. 細菌性肺炎としてセフォペラゾン/スルバクタムで治療開始し, 後にメロペネムに変更したが改善は乏しかった.
■ Day28になっても酸素2Lを要しており, 白血球8900/μL, CRP 2.09mg/dL. 胸部CTで両側にスリガラス影, 浸潤影, 逆halo signを認めた.

■ Day31に気管支鏡検査を施行し, 右中葉と下葉から経気管支生検を行ったところ,以下の通り.

What's your diagnosis ?







【診断】
COVID19後の器質化肺炎
Post COVID-19 organizing pneumonia (PCOP)

【経過】
■ 病理は器質化肺炎の所見を認めた. 右B4からの気管支肺胞洗浄液ではニューモシスチス, 抗酸菌, 一般細菌の培養は陰性で, サイトメガロウイルス抗原陰性, 悪性細胞も認めなかった.
■ day28からプレドニゾロン40mgを開始し, 94日かけて漸減していった. プレドニゾロン開始後速やかに酸素を離脱できた. ステロイドの重大な副作用は認めず.
■ ステロイド治療終了時の胸部X線では両側浸潤影は消失し, 炎症マーカーは正常化していた. 呼吸困難の残存は認めなかった.

【他の症例】
①72歳男性 長時間酸素必要と認めステロイド治療したと改善.

③73歳男性 これも同様の経過

【考察】
■ COVID-19後の持続的な呼吸器症状は, 筋症と体力低下, 血栓塞栓症, 心臓障害, 人工呼吸器関連肺損傷, ARDS, PCOPなど様々な要因が単独あるいは複合的に関与していると考えられる.
■ 器質化肺炎には様々な原因があり特発性のこともあれば, 感染症, 薬剤, 放射線治療, 膠原病, 炎症性腸疾患, びまん性肺胞障害, 血液悪性腫瘍, 骨髄移植後, 肺悪性腫瘍, 肺梗塞などが原因となることもある.
■ 感染症はインフルエンザ, パラインフルエンザ , サイトメガロウイルス, アデノウイルス, HIV, 単純ヘルペスウイルス, MERSコロナウイルス, SARSコロナウイルスなど様々なウイルスが原因として報告されている.
■ PCOPは通常呼吸困難と乾性咳嗽で発症し, しばしば発熱と倦怠感を伴う.

■ PCOPの疫学は不明で小規模な研究からのデータしかない.
▫️BazdyrevらはCOVID-19入院後3カ月以内にPCOPを発症する確率は約5%と報告している.
▫️重症COVID-19で入院した患者でPCOPの有病率が高いことが研究で明らかになっている.
▫️高流量鼻カニュラ, CPAP, 非侵襲的換気のいずれかを要した呼吸器中等症治療室に入院したCOVID-19患者では有病率は58%にも上る
■ 報告される有病率は研究によってばらつきがあるが, それは画像診断によるPCOPから組織学的に証明されたPCOPまで, 定義が異なるためである.

■ HRCTは器質化肺炎の診断に重要な検査である. 器質化肺炎の画像所見としては末梢および気管支血管周囲の浸潤影, 帯状浸潤影, 逆halo signなどがある.

Diagnostics (Basel). 2020 May; 10(5): 262.

■ ただしこれらの所見は器質化肺炎に特異的ではなく, 胸膜下すりガラス影, 浸潤影, crazy paving patternなど急性期COVID-19の画像所見とも重複することが多いことに留意が必要である.
■ したがってPCOPの診断には気管支鏡検査による組織学的検証が重要であり, 同時に肺真菌症やサイトメガロウイルス肺炎などの他の診断を除外することが大事である.

■ PCOPの主な治療はステロイドであるが至適投与期間と用量についてのコンセンサスはない.
▫️Myallらはプレドニゾロン0.5mg/kg/日を3週間かけて急速に漸減する方法を提案しており, これにより肺拡散能と努力性肺活量が改善し, 症状と画像所見が著明に改善したと報告している
▫️Dhooriaらはプレドニゾロン10mg/日を6週間投与することでCOVID-19後のびまん性肺実質異常による呼吸困難と画像所見が改善したと報告した.
▫️ただし両研究とも対照群がないためPCOPがステロイド治療なしに自然軽快した可能性を証明することはできない.

■ 2020年7月にNEJMに発表されたRECOVERY試験は急性COVID-19の治療を一変させた. COVID-19で入院し人工呼吸管理または酸素投与を受けた患者において, デキサメタゾンの使用により28日死亡率が低下した. ただし急性COVID-19に対するデキサメタゾン治療がPCOPの発生率や臨床転帰に影響を与えるかどうかは証明されていない.

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