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臨床推論 Case147

Case Rep Endocrinol. 2018; 2018: 2170484.
PMID: 29568655

【症例】
63歳 男性

【主訴】
吐血 食欲低下

【既往/治療歴】
2型糖尿病:メトホルミン内服中
関節リウマチ:経口ステロイド治療なし
慢性腰痛
C型肝炎
慢性骨髄単球性白血病(CMML):デシタビンによる化学療法中

【現病歴】
■ 慢性的な脱力感、悪心、食欲低下があり、入院2-3週間前から急激に悪化しており入院となった
■ 入院2日前に外来の腫瘍内科医の診察を受けた時に気分不良と脱水、倦怠感があると訴えた
■ 症状は真菌予防目的でポサコナゾール300mg/日が開始された頃から始まったという
■ 腫瘍内科医はポサコナゾールを中止して経過を見ていた

【現症】
■ バイタル:血圧125/60mmHgと正常範囲内であった。
■ ラボ:K3.1 Ca8.5mg/dL Naや血糖値は正常
■ 朝のコルチゾール、ACTHおよびACTH負荷試験の結果は以下の通り

■ CT:両側副腎の肥厚を認め、過形成に一致する所見であった

What's your diagnosis ?







【診断】
ポサコナゾールによる一次性副腎不全

【経過】
■ 診断時レニンは測定されなかった
■ コートリルを朝15mg、夕10mgとフロリネフ0.1mgを開始されて退院となった

■ 1ヶ月後に内分泌外来を受診された
■ カルテに皮膚の色素沈着が記載されていたが、患者は数年前からあったと述べた
■ 治療開始後、食欲増加や頭痛・悪心の消失など症状は改善した

■ ポサコナゾール中止1年後、再度ACTH負荷試験を行った
■ 投与前コルチゾール値5mcg/dLでACTH250μgを静注したところ、1時間後に18.5mcg/dLに上昇した
■ 負荷試験前のACTH値は34.1pg/mL、レニン活性は0.176 ng/mL/hr
■ 今回の結果から薬は不要と考え、薬をやめたが問題なく経過した

【考察】
■ 原発性副腎不全はまれ
■ 原因は自己免疫性副腎炎、結核、播種性真菌感染症、HIV、出血性梗塞、副腎への癌転移浸潤、薬剤などがある
■ ケトコナゾールとポサコナゾールはともにアゾール系抗真菌薬に属する
■ アゾール系抗真菌薬は、ラノステロールをエルゴステロールに変換するのに必要な酵素であるチトクロームP450依存性酵素ラノステロール14α-脱メチル化酵素を阻害することで作用する
■ エルゴステロールは真菌の細胞膜の重要な構成成分であり、この酵素は哺乳類細胞には存在しない

■ ケトコナゾールはステロイド合成を阻害することが知られている
■ コレステロール側鎖切断酵素複合体、17,20-リアーゼ、11β-水酸化酵素、17α-水酸化酵素を含むヒトのチトクロームP450酵素を阻害することで、ステロイド産生を抑制する

■ ステロイド合成阻害作用により、ケトコナゾールはクッシング症候群の治療に用いることができる
■ クッシング症候群患者の尿中遊離コルチゾールを効果的に減少させることが示されている
■ そのため逆に副作用として副腎不全がある
■ 2013年に米国食品医薬品局は肝毒性と副腎不全の副作用のため、ニゾラール経口錠の使用を制限した

■ ケトコナゾールはイミダゾール誘導体で、アゾール環に2つの窒素原子がある
■ トリアゾールはアゾール環に3つの窒素原子を有する
■ 第1世代トリアゾールにはフルコナゾールとイトラコナゾールがあり、第2世代トリアゾールにはポサコナゾールとボリコナゾールがある
■ 侵襲性アスペルギルス症と侵襲性ムーコル症に対して2015年に承認されたアゾール系薬剤はイサブコナゾールである

■ ポサコナゾールは、侵襲性真菌感染症の予防と治療にFDAの承認を受けている
■ 第I相、II相、III相臨床試験において、ポサコナゾールは安全で忍容性が高いことがわかった
■ 第I相試験で最も多くみられた副作用は、消化器症状、頭痛、口渇、傾眠、めまい、便秘で、これらの副作用は軽度で一過性であった

■ アゾール系薬剤による副腎不全の症例報告はいくつかある
■ 一般的にアゾール系薬剤とステロイドを併用した際の薬物相互作用の状況で起こっている
■ フルコナゾールは真菌感染の治療や予防投与で副腎不全の報告はちらほらある

■ 中枢性副腎不全をきたしたイトラコナゾールの症例報告もあるが、全て吸入ステロイドとの薬物相互作用によるものと考えられている
■ イトラコナゾールによって吸入ステロイドの代謝が低下し、血中ステロイド濃度上昇➡︎ステロイド暴露が多くなり副腎不全をきたしている
■ ボリコナゾールも同様の機序で吸入ステロイドの併用によって中枢性副腎不全の症例報告が1例あり

■ ポサコナゾール誘発性副腎不全の症例報告は1例のみである
▫️1型糖尿病の既往があり、糖尿病ケトアシドーシスで入院されていた
▫️ムーコル症を発症し、ポサコナゾールを10日目から開始し、55日目の退院時まで継続した
▫️インスリン必要量の低下と進行性の低血圧が認められた
▫️さらなる精査でACTH負荷試験の反応不良から、著者らはポサコナゾールが患者の副腎不全の原因であると結論づけた

■ 今回の症例はACTHを追跡し、ポサコナゾール中止後にACTH負荷試験を再検することで副腎機能の改善を示すことができた
■ イサブコナゾール誘発性副腎不全の症例報告はない

■ 患者の原発性副腎不全の他の病因に関しては、21-水酸化酵素抗体陰性から自己免疫疾患は除外され、画像検査で副腎出血は認められなかった
■ ACTH上昇とACTH負荷試験の反応不良から、原発性副腎不と診断した
■ この診断を裏付ける所見として腹部CTで認めた両側副腎過形成である
■ 本症例の副腎過形成の病態生理は、21-水酸化酵素欠損症によるものが多いが、コルチゾール合成が障害される先天性副腎過形成と類似している可能性がある
■ 両者ともコルチゾール産生低下がACTH分泌亢進を引き起こし、過剰なACTH産生によって副腎の過形成をもたらす

AJR Am J Roentgenol. 1999 Apr;172(4):997-1002


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