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臨床推論 Case111
Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2021; 2021: 21-0086.
PMID:34612208
【症例】
18歳 男性
【精査目的】
入院中の高Ca血症の原因
【経過①】
⚫︎ 既往のない男性がお腹を銃で撃たれ入院された
⚫︎ 手術で両側腎臓摘出、腸管切除、脾臓摘出を施行した
⚫︎ 腎臓摘出後は透析を開始した
⚫︎ その後は腸管からの出血、呼吸不全、後腹膜膿瘍、無石性胆嚢炎、心嚢液貯留し開窓術を実施するなど色々な合併症を認めた
⚫︎ 入院時はCa正常だったが2ヶ月ほど経ってから徐々に上昇し初めて、4ヶ月目にはCa 16.3g/dLまでになったため精査した
⚫︎ ラボ
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➡︎PTHrPは既往に悪性腫瘍はなく、今回のCTでも認めていない
高値になっているのは腎障害の影響で異常ではないと判断している
What causes this hypercalsemia ?
【診断】
不動 immobilization induced hypercalcemia
【経過②】
⚫︎ 治療にデノスズマブを使用した
⚫︎ 急激に低下しnadirはCa7.3、P0.9までになった
⚫︎ ビタミンD製剤とカルシウム製剤を補充して対応した
⚫︎ その後はデータは安定しリハビリ病院に転院となった
【考察】
⚫︎ 過去の文献では様々な疾患で不動による高Ca血症を呈している
脊損、骨折後、ギランバレーなど
⚫︎ だいたい入院して1,2ヶ月後で発症しているが入院してすぐに発症している報告もある
⚫︎ あくまで除外診断であり副腎不全、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症、栄養、薬剤性などワークアップが必要である(日内会誌 2022;109:740-745.)
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⚫︎ 以下は機序についての考察(日病総診誌 2021:17(4) )
・ 骨への物理的刺激の減少により骨形成が減少し、骨吸収が優位となることで生じる
・ 物理的刺激の感知は骨細胞が担っており、RANKLやスクレロスチンを発現することで骨代謝を制御している
・ 不動により骨細胞でのRANKLの活性化、スクレロスチンの分泌亢進が起こると骨形成が低下する
・ もともと骨代謝回転が亢進しているような成長期の小児、甲状腺機能亢進症、骨Paget 病などで発症しやすい
・ また一般的に不動による高Ca血症は骨量の多い若年男性に発症しやすい
・ しかし高齢者でも起きうる
・ これは筋肉の減少や廃用が関連する
・ 機械的刺激の減少は骨から分泌されるオステオカイン、筋肉から分泌されるマイオカインを調整し、骨破壊の促進や筋肉の減少に働く
・ 別の機序としてストレスによる交感神経が亢進すると、破骨細胞のカテコラミンβ1受容体を介して骨吸収促進をもたらす
⚫︎ 治療はケースレポートによってまちまちだがビスホスホネート、デノスズマブが使用されている