しくじり先生の解きなおしー中小企業診断士二次試験 令和5年度事例Ⅰ
中小企業診断士 さた です。
この記事を書いている日(10月14日)は、既に二次筆記試験の2週間前を切っています。一部の余裕のある方を除き、多くの方々はまだ手ごたえがつかめないまま過去問等の演習をされているのではないかと思います。
前回投稿した「中小企業診断士二次試験受験者の方へのメッセージ(令和4年度事例Ⅲの分析)」につき、何人かの方からご連絡をいただけました。それに味をしめて、、というわけではないですが、自分自身が昨年受験し、一番悪い点(54点)だった令和5年度事例Ⅰにつき、前回示したCrossSWOTを活用した解き方で再度解きなおしができないかと考えました。。
あえてこの事例を選んだのは、これまでにない長文問題であり、かつA社の先代経営者と現経営者、そして統合先のX社と3つの経営環境をそれぞれ把握・分析する必要がある難問であるからです。
近年の事例Ⅰは単なる組織・人事の問題だけではなく、経営戦略に関する助言も問われる事例となりつつあること、長文・複雑な与件文を短時間で適格に把握する能力が問われていると感じます。
一方高得点の方の回答(AAS社のみんなの再現答案参考)を見る限り、あくまで与件文・設問文に忠実に解答すれば特別な知識は限定的なもので良いと感じました。
・バーナードの組織3要素
組織の成立には「コミュニケーション」「協働の意欲(貢献意欲)」「共通の目標(目的)」が不可欠
・ポーターの競争戦略
「3つの基本戦略」、すなわち「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」(中小企業の場合、差別化・集中戦略、またはいずれか)
・アンゾフの成長マトリクス(成長戦略)
「市場浸透戦略」「新市場開拓戦略」「新商品開発戦略」「多角化」
ではまず与件文の分析からです
A社(先代経営者時代)のSWOT
S)老舗蕎麦屋での修行経験、のれんとしてのブランド力
自前で打った、コシの強い蕎麦
出前によるリピート客獲得
多彩なメニュー
規模拡大した店舗
W)鉄道最寄り駅から距離がある立地、
正社員離職が相次ぐ
サービスの質の低下(接客ービス粗雑)
新規メニュー開発量弱い
O)高度経済成長による自家用車の普及(マイカー来店客増加)
付近に飲食店の競合少なかった(過去)
周辺の宅地化進展、地域人口の増加
T)チェーン店やコンビニ等競合の増加
バブル経済崩壊
A社(現経営者)のSWOT
S)蕎麦への資源集中、オペレーション見直しによる売上改善
標的をファミリー層顧客に絞り込み(個室・BOX席中心の店舗)
オリジナルメニューの開発 商品・サービスの質差別化
リーダー社員による相互互助の職場風土、従業員定着
価格値上げ可能
厳選された原材料、自前で打った、コシの強い蕎麦(★)
W)鉄道最寄り駅から距離がある立地(★)
新規顧客層取り込みできていない
O)X社との経営統合の機会ができたこと
T)仕入れ業者高齢化、原材料仕入れ不安定化
原材料高騰
地元顧客の高齢化
(★)は、先代経営者時代から引き継がれた強み・弱みです。
現経営者の想い
X社との経営統合による売上成長
現経営者のSWOTのO(機会)は現経営者の想いの通り、X社の強み(S)、機会(O)を取り込んで自らの機会(O)としたいのではないかと思います。
X社のSWOT
S)駅前の立地、
高品質な原材料を扱う食品卸との繋がり
W)接客・サービスが省力化(省力化自体は悪くないですが、ここではおざなりになっている、弱いという意味に解釈しました)
従業員の連携弱い(社長自らが補完)
価格競争に巻き込まれている事(差別化できていない)
離職率高い
O)地域の食べ歩きを目的とした外国人観光客や若者増加
SNSやグルメアプリを頼りに公共交通機関を利用する来訪者の増加
T)近隣のファストフード店、蕎麦チェーン店との競争
さて3つもSWOTを行ってしまいましたが、80分の中の前半20分程度(次の20分で骨子作成、最後の40分で解答作成)の中、全部できるわけはなく、かつ各設問の対象者は「現経営者であるA社社長」なので、現社長のSWOTを行い、先代経営者時代の分析は現社長時代ののSWOTの補足情報、X社のSWOTはA社の「機会」と捉えるぐらいで良いのではと思います。(ここまで全部真面目に読んだ方、ごめんなさい)
A社(現経営者)のCross SWOT
与件文から読める範囲でCross SWOTを作ってみました。A社の弱みは立地と原材料仕入れ先の不安定さ、地元顧客の高齢化で新顧客取り込みが必要だができていないことなのでX社との統合で駅前の立地や高品質な地元産原材料卸との関係を手に入れ、公共交通機関を使い新趣向を持つ外国人観光客や若者を取り込みたい=新規顧客開拓 となるという考えです。
設問の解釈:一言で言うと何を聞いているのか(上記の「出題の趣旨」も参考にしましょう)
第1問 統合前のA社の強みと弱み(内部環境)⇒つまり今(まだX社と統合前なので)
第2問 先代経営者と現経営者の違い。どう戦略を変化させてきたのかと、その狙い(理由)
第3問 A社とX社では立地・オペレーションが違っている中、どのような点に留意(注意)すればよいのか
第4問
設問1 経営統合を進めるにあたり、どのように方向性の共通化・意思疎通を図るのか
設問2 A社とX社の相互の強みを活かし、弱みを補う競争戦略(ポーター:差別化)とシナジーによる成長戦略(アンゾフ:売上増加)を助言する
よって上記の3社のSWOTやCross SWOTなどから下記の趣旨を解答に盛り込めばよいのではないかと思います
解答骨子(解答そのものではありません)
第1問 ①強み 自社で作るコシの強い蕎麦や相互互助の組織風土②弱み 立地の悪さや原材料仕入が不安定で新規顧客層開拓が不十分なこと
あたりが書ければ良いと思います。第4問や第2問と整合性を取る配慮も必要かもしれません。(ここで顧客の高齢化や原材料の高騰を書くと外部環境(脅威)になるので注意)
第2問 第5段落~第8段落までの内容をまとめる形で、標的顧客をファミリー層に絞り込み、総花的メニューをそばに限定、出前を廃止する等で、経営資源を集中化し差別化・高付加価値化する事で価格競争を回避し売上・収益を向上させたといった内容を要約して書ければよいのではと思います
第3問 本番の際は「留意点」の意味が分からず混乱しました。この場合、気を付ける事、注意すること、ぐらいの意味でよかったのですね。X社で直すべき点(弱み)から抽出して①接客・サービス力が弱く②従業員間の連携が不足し③離職率が高く常に人手不足状態、正社員やアルバイトに退職リスクがある という中から盛り込めばよいと思います
第4問
設問1)上記のバーナードの組織の3要素から解答できると思います。
この「コミュニケーション」を促進し「共通目標」を共有し、「貢献意欲」を引き出せるのは与件文からすると、現経営者のA社社長または接客リーダと思われます(与件の「A社経営者は、接客リーダーとともに会社として目指す方向性を明確にし、目的意識の共有や意思の統一を図るチームづくりを行った。」から)
接客リーダに独立志向があるということで、X社の代表として派遣し任せてもよいですし、逆に統合先はA社長自らが建直すので、元のA社は接客リーダに任せる、のいずれもありかと思います(安全なのは後者かな)。接客リーダを繋ぎとめておく対策にもなりますしね。この考えができていれば、どちらかが間違いというのはないと思います。
進め方としては①A社を接客リーダに任せor接客リーダをX社へ駐在させ②従業員との交流を促進し、目的意識共有や意思の統一を図り③従業員同士の連携や貢献意欲を向上させ経営統合を図る という内容を80字でまとめるという感じでしょうか
設問2)上記のポータの競争戦略とアンゾフの成長マトリクスを思い出し、設問の問いと、与件文に当てはめていけば
競争戦略はX社より引き継ぐ卸の高品質な地元産原材料と、A社のオリジナルメニュー開発力+接客力で差別化戦略
成長戦略はX社の立地を生かし、公共交通機関を使う外国人観光客や若者を取り込む新市場開拓戦略
「戦略の観点」を問われている以上、まとめ方も競争(成長)戦略は〇〇戦略とする というのが出るようにしましょう
上記を盛り込んで100字以内にまとめる(以外と字数少ない)ことではないでしょうか(なお高品質素材を使ったオリジナルメニューを新商品開発戦略に結び付ける解答も、誤りではないと思います。与件文も基本的な理論もわかっているよという事が伝えれられれば良いと思います。)
さていかがでしょうか。80分だけで上記の考え方をまとめるのはなかなか難しいかと思います。もしこのような形で出題されたならば
①現A社のSWOTをしっかり押さえる ②設問で聞かれたことを解答する(助言問題は効果を、戦略の観点とでたら○○戦略を記載する ③基本的な一次知識は押さえる。「茶化」や「雨の日も毛深い猫」も大事だが、バーナードの組織の3要素、ポータの競争戦略、アンゾフの成長戦略はすぐ使えるようにしておくべし、という点を昨年の自分にアドバイスしたいと思います。
私は昨年、バーナードの組織の3要素だけは意識して解答できたのでB判定とはいえギリギリ総合で合格に持ち込めました(これも知らなかったら足切りになっていたかもしれません)。これを読まれた方へは一次試験の基本的な知識と与件文・設問の正しい理解をすればなんとか60点はもぎ取れるよ という事をお伝えしたいと思います。
筆記合格後に、各事例を題材にした口述試験を受けた感想を言うと、与件の内容と一次試験の知識をおさえ、設問で問われたことの回答ができれば、どんな回答でも間違いにはならない(読み違えや空想、問われた事と異なる解答を除く)ということです。この点も皆さんにお伝えしておきたいです。
皆さんのご検討をお祈りいたします。(10月14日 タキプロ2次試験直前相談会の前にこの記事を書きました)(了)