変なミドルネームを入れる前に【HONEY BOY】
映画『ハニーボーイ/Honey Boy』を観ました。『トランスフォーマー』のサム役でお馴染みの俳優シャイア・ラブーフの半生を描いた自伝的作品です。最近だと『フューリー』の”バイブル”役としても印象深いです。本作が数ある自伝映画とひと味違うのは、シャイアが本人役ではなく父親役としてがっつり出演していることと、この脚本がシャイア自身によって、しかもアルコール依存症に対する治療の一環として書かれた記録から始まったことです。そう聞くと何とも重そうですが、若きアルマ・ハレル監督の手腕によって、スタイリッシュで現代的な仕上がりとなっています。
物語は、若くして成功したオーティス(シャイアをモデルとした少年)と、オーティスの稼ぎを頼りに生活をする父親ジェームズ(シャイアが演じている)の二人を中心に展開します。子役で成功して人生のハイウェイに乗った役者が、後々に事故ってしまうのは、マコーレ・カルキンから続く王道パターンですが、オーティスも漏れることなく、この死の「マコーレ・ロード」にジャンクションしてしまいます。精神的に不安定な父と早熟な子という歪な関係がトラウマとなり、オーティスは大人になってPTSDに苦しみます。設定は確かに在り来たりですが、トラウマの「元」である父親をシャイアが演じることで生まれるリアリティと、彼が苦しみながらも記憶を掘って書いたストーリーにより、マコーレ的ステレオタイプから脱却しています。
特に父親を演じたシャイアが見事で、その繊細な演技から目が離せませんでした。子供時代のオーティスを演じたノア・ジュプの貢献も欠かせません。まさにHONEY BOYなフェイスで煙草をふかすノアは、「早く大人になりすぎた子供」を堂々と演じています。そして、近所のお姉さん役でFKA TWIGSが出演しています。FKA TWIGSは知る人ぞ知るイギリスのアートポップシンガーで、独特の雰囲気を持った若き天才です。この映画のもつモダンな雰囲気と彼女の存在は絶妙にマッチしていました。
本作を通して、シャイアは過去の父親と対面し、当時は気づけなかった父親の想いに触れます。この映画が最高のセラピーとなり、シャイア・ラブーフが「シャイア・シャイア・ラブーフ・ラブーフ」に改名する前に、マコーレ・ロードから無事に降りることを切に願います。
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