
あの感覚が忘れられない
『スロットに沈む』
翔太は自分がスロットにハマっていることを自覚していた。
最初はただの暇つぶし。友達に誘われて、軽い気持ちで行っただけ。だが、それが間違いだった。
「今日は絶対に勝てる気がする」
その日、翔太は不思議と勝ち続けていた。初めての大当たりが来た瞬間、脳内に快感が広がった。まるで自分が世界の中心になったかのような気分だった。
そしてその日から、翔太の世界はスロットに支配され始めた。
最初は少額で楽しんでいた。月に数回、友達と気軽に遊ぶ程度。だが、**次第にその「楽しみ」が「必要」**に変わっていった。翔太は気づいた時には、スロットを打たない日など一日もなかった。
それでも、最初はまだ余裕があった。少し負けても、取り返せると思っていたから。
だが、翔太は次第にその「取り返し」の罠に嵌まっていった。
財布の中のお金が無くなれば、クレジットカードでメダルを買う。
「勝って取り返す」「もう一回だけ」「あと少しで大当たり」
その言葉が翔太の頭の中で何度も繰り返され、ついには仕事を休んで、何日も店に通い詰めるようになった。
ある日、翔太は完全に崩壊していた。
仕事を無断欠勤し、家族に嘘をつき、借金を重ね、何もかもを失っていた。
それでも、スロットをやめることができなかった。負けても、次こそはと心の中で誓いながら、メダルを投入していた。
だが、その日は全てが終わった瞬間だった。
大きな負けが続き、ついに財布の中身も尽き、借金をしてまでスロットを打ったその瞬間、翔太は何かに気づいた。
「これ以上はもう無理だ」と。
その瞬間、翔太の中で何かが壊れた。心が、完全に折れた。
翔太はその後、家に帰ることができなかった。
家族に連絡するのも怖くて、逃げるように街を歩き続けた。夜の街灯がぼんやりと照らす中、翔太はただ、歩き続けた。
途中で足を止めた。駅前に、あのスロット店が見える。
翔太の目の前に、もう一度だけ「チャンス」が訪れるような気がした。
「最後に一度だけ、行ってみよう」
その言葉が、翔太の脳裏に浮かんだ瞬間、再び足を踏み出した。
だが、その一歩が、翔太を地獄のさらに深い場所へと引き込んでいった。
借金をしてでも行くその店で、翔太はただの一度の「勝ち」に賭けていた。そして、再び負ける。
転機:決断の瞬間
だが、最も絶望的な時に、翔太は自分を見つめ直すことができた。
街を歩きながら、ふと立ち止まり、気づいた。
「このままじゃ、自分が死ぬ」と。
翔太はその日から、完全にスロットを断つことを決意した。
もちろん簡単ではない。何度も誘惑に負けそうになり、何度も店に足を運びそうになった。
だが、一歩一歩、やめる勇気を持つことが、確実に自分を取り戻していくことを感じ始めた。
そして、少しずつであったが、彼は再び立ち上がり、家族との関係も修復していった。
勝ちや負けのない、普通の平穏な日常を取り戻すことができた。
最後に
翔太がスロットをやめた理由は、ただひとつ。
「自分が壊れる前に、全てを取り戻さなければならなかった」
それだけだった。
彼の中で、スロットの台に向かう欲望は、確かに強かった。しかし、それに勝る強さを持つことができたのは、彼が自分を愛し、守ることを決めたからだ。