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【東南アジア旅行記】#2. シンガポール到着 はじめてのカヤトーストを食べに行く

2022年11月8日 ①

深夜便の飛行機は、予定通り七時に到着した。朝早くにもかかわらず、チャンギ空港は、噂に違わずすごい熱気だった。飛行機を降りた瞬間からすぐにたくさんのストアが並んでおり、シンガポールのお土産なども出国することなく簡単に手に入る様だ。すでにお土産屋さんには多くのお客さんたちが次々に出入りを繰り返しており、こんなふうに充実した空間の中で行き交う人々を眺めていると、まるですでにシンガポールに入国しているかの様な錯覚にすら陥ってしまう。しかし、イミグレーションはまだ通過していない。

やましいことなどあるわけではないが、入国審査はいつも少し緊張する。特に今回は、シンガポールからの出国先は第三国となるマレーシアであり、日本への帰国便はベトナムからのものである。何か引っかかったりしなければ良いが。しかし、そんな心配は杞憂であり、特に何も聞かれることもなく、またTrace TogetherやSGカード(コロナウイルス対策のアプリや入国前の電子申請)の確認も一切ないまま通過することができた。パスポートをチェックした際にシステム上では確認されていたのだろうが、ここまで何もないと逆にこっちが面食らってしまう。せめて、スタンプは欲しかったな。ひまなときにパスポートをぺらぺらとめくって、巡った国々のスタンプを眺めるのがわたしは好きだった。

さて、無事に入国できたわたしがまずやらねばならないこと、それはこの広大なチャンギ空港の観光…ではなく、キャッシングである。幸い出国後すぐにいくつかのATMが並んでいる場所を見つけることができた。それぞれのATMは別の銀行により運営されているもののようだが、この国でどのATMがもっとも信用が高いのか、まるで検討もつかない。そこで、他の人が直前まで使用していたマシンを使い、まず無事に$50を手にすることに成功した。続いてEZ link(シンガポールの交通カード)を購入しようとインフォメーションカウンターへ向かったが、初めに向かったカウンターではカードでの決済ができないということで別のカウンターへ行くように指示された。$10でカードを購入すると、$5のチャージが付いていた。

街へ出るための電車(MRT)の乗り場は別のターミナルにあるらしく、無料のターミナル間移動電車”スカイトレイン”にてターミナル1からターミナル3へと移動する。途中、道を間違えて外に出てしまった。すると途端に感じる、東南アジアの気候。閉ざされていた空港の中とは全く異なる剥き出しの気候を浴びて、おもわずあっと驚いてしまう。さっきまでわたしは日本の冬にいたはずなのに、今はもうもうと押し寄せる重たい湿度の中一人立っている。朝だからか、これだけ湿度を感じてもまだそこまで暑くはない。そうだ、こういう空気だった。結局わたしも、この東南アジアの気候にどうしようもなく魅せられてしまった人間の一人なのかもしれない。なんの変哲もない、空港周辺のビルの風景をみながらぐっと迫ってくる説明のつかぬ感情に思いを寄せる。今、わたしはこの場所で一人、ただ自由に、どう生きることが自らにとっての平穏となりうるのかについて考えている。思考という宇宙が何にも邪魔されないように、守って大切にしていってあげたいと心から願う。ここからのわたしの旅路が、そういう時間になったらいい。

システムが非常にわかりやすく、迷うこともほとんどないままにMRTに乗り、最寄のLavender駅からホテルまで歩いて向かう。途中、いくつか食堂のような場所や小さなスーパーのようなものが見えたが、荷物が重たかったのでまた後で来ようと足早に通り過ぎた。ホテルはあらゆるお店の立ち並ぶ通りの中にあった。看板が出ていたのでわかりやすかったが、カフェなどとも見分けがつかず、気にしていなければ通り過ぎてしまっていただろう。街の中に埋もれるようにひっそりと構えるホステルへの滞在が、ふと楽しみになる。ローカルの生活にまぎれることが、今回の旅の密かな目的でもあった。チェックインまではまだ時間があったため、予約を確認してもらったのち荷物を置かせてもらう。荷物置き場は独立した部屋が存在しており、セキュリティがしっかりとしていて安心だった。わたしは念の為、すべてのかばんをバンドでまとめ、セキュリティロックでラックにくくりつけた。まだ朝も早く、ホテルのロビーで休みながら手記をつけ、本日の行き先についての思考をめぐらせる。BGMとしてカウンターのスタッフたちの会話が聞きこえてくるのが心地よい…聞いたことのない、英語ではない言語だ。そういえば、到着時に対応してくれたイスラム系の女性スタッフも、英語があまり得意そうではなかった。シンガポールといえば英語の国というイメージがあったため、ちょっと意外だな。

腹ごしらえに何かを食べようと考えていたところ、近くにCity Square Mallという大きなショッピングセンターがあることを知り、まずはここを目指してホテルから出発することに。しかもこの中にはシンガポールで有名なカヤトーストを食べることができるチェーン店、Ya Kun Kaya toastが入っているらしく、そこで「いかにもシンガポール人らしい」朝食を気楽にとってみたいと思い至ったのだ。少し歩くとすぐに到着し、冷房のきいた建物の中へと入っていく…そして目につくのはなんと、ドンキホーテにシャトレーゼ、サイゼリヤ…!一瞬、わたしはまだ日本にいるのか?と寝ぼけた気分にもなってしまう。看板も日本語のものが多く、それ以外だと英語、中国語、あとはマレー語だろうか…。しかし、ふとスーパーの前を通りかかった時に目に入る野菜やフルーツたちがわたしを正気に戻す。ドリアン、パパイヤ、スターフルーツ、そして名前もわからない不思議な形をしたものたち…ほとんど見たことのないそれらに興味を惹かれるが、これから色々な国を巡っていくにあたり、きっともっと安く食べることができるチャンスが巡ってくるだろうと願いながら、お店の前を通り過ぎた。わたしの今日の目的はフルーツじゃなくて、カヤトーストなんだ!だけど、はじめてかぐドリアンの匂い、わたし嫌いじゃないな。それだけで、これからの旅路が楽しいものになると確信する。シンガポールの物価は高い、と散々聞いていたけど、旅をする分にはそこまで恐れるほどではなさそうだし、マスクをしている人が多いのも、この国における衛生観念の高さを実感するようだった。

念の為、シンガポールに来る前に、この国でのコーヒーのマナーについては簡単に調べてきた。いわく、コピ・シーとか、コピ・オーとか、何を混ぜるかによって名前が異なっており、基本的には甘いコンデンスミルクをまぜたものをこれまた甘いカヤトーストと一緒に食べるのだとか。実のところ、わたしはコーヒーを飲まない。イギリスに住むようになってようやく温かな飲み物、つまり紅茶が好きになったのだが、コーヒーとは未だ和解できずにいた。嫌いなわけではないのだが、カフェインを取るのであればコーヒーよりもエナジードリンクという気持ちが強く、今までの人生の中でなんとなく触れる機会がなかった。しかしここはシンガポール、コーヒー文化の根付く国!ローカルの人々の中に自然と存在するものを口にすることこそが旅の醍醐味。Ya Kun Kaya Toastは朝にもかかわらず賑わっていてすぐに見つけることができた。やはり、シンガポール人は朝にカヤトーストを食べる人が多いのだろうか。レジにならび、すぐに自分の番が巡ってくる。緊張する。

「カヤトーストとバターのセット、コーヒーは何も入っていないブラックで」

通じなかった。オー?シー?と聞き返される。だけど、何も入っていないブラックコーヒーのことをこの国でなんて言うのか、わたしにはわからなかった。ブラックコーヒーで通じるのかと思い込んでいたが、甘かったようだ。店員さんが聞き返してくるコーヒーが、とにかく甘い何かだと言う情報だけしか持たないわたしは必死にブラック、と伝えるがやはり通じない。違う…これ以上糖分を摂りたいわけではないのだわたしは…!すると、後ろに並んでいたマレー系のお母さんが助けに入ってくれた!彼女は、10歳前後と思われる子供を連れてお店にやってきていた。

「ここにきたばっかりの人はみんなそうだよ!」

笑いながらわたしの望む「ブラックコーヒー」を注文してくれるお母さん。お盆に乗ったトーストとコーヒーを受け取り席に着くと、彼女はさらに醤油と胡椒を持ってテーブルに置いて行ってくれた。これらの調味料は、自由にとって使用したあと、元あった場所に戻す仕様になっていたらしい。

「それをたまごにかけて、トーストを浸して食べるんだよ」

旅の始まりから優しい出会いを経験できてとても嬉しくなった。幸先が良いな。

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