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コート

おしゃれだった母のお気に入りのコート。

こんみりした、焦げ茶色のバックスキンは本物で、首にファーがついている。

品の良いすらっとした、オーソドックスな形のロングコートは、いかにも秋の色だ。同じバックスキンのベルトもたっぷりとして、豊かな気持ちになる。

ずいぶん昔に、母が私にくれたそのコートは、私には大げさ過ぎて似合わないのではないかと、あまり日の目を見ない。

一度、おしゃれな友人の所に来ていったら、それは大切にした方が良いわよ、と褒められたのに。


私には、こんなに素敵で高価なコートは買えないし、審美眼もないから大切にしなきゃ、と思っているうちに、何十年も経ってしまった。


でも、パリの人は、おしゃれだけれどたくさんの服を持たず、古くてもしっかりとしたものを、大切に着ているという。いつも、同じ服装だから、街で会ってもすぐにわかると、辻仁成さんが言っておられた。

こう聞いて、やはりそうだよね、と思った。

古臭いから、時代遅れは駄目だからと思い込ませていたけれど、本当に良いものなら、そして自分がいいと思うのなら、人がどう言おうと構わないのかもしれない。

私のスタイルなのだから。


そう思うと、私も母の、このおしゃれなコートを着てみようかな、という気持ちになった。



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