子どものにおい。それは焼きたてのパンのにおい。【子育てエッセイ】
朝、子どもを抱き上げると、髪の毛あたりからふんわりと漂うあのにおい。
エアコンをかけていても少し汗ばんだ肌、まだ一度も切ったことのない寝ぐせでふわふわになった髪。いつも思う。焼きたてのパンのにおいみたいだなぁって。
ふっくらとして、ほんのり甘い。朝のにおい。
私が最初にこの「子どものにおい」を強く感じたのは、第一子が生まれて数ヶ月が経った頃だったと思う。もう3年近く前なことに驚く。
新生児の時期を過ぎ、寝返りができるようになり、おすわりをする前あたりかな。肌というか、ほとんど生えていない髪というか頭から、ふと甘いにおいが漂ってきた。ミルクとは別のにおい。パンのにおいだった。
毎日のお世話で忙しいけれど、抱っこすると感じるそのにおいが、私にとって特別な瞬間になっていた。
朝の忙しい時間、パンを焼いていると、立ち上る香ばしいにおいが家中に広がる。思わず「いいにおい!」と笑顔がこぼれる。
同じように、子どもたちを抱っこした時のにおいも、ふと心を和ませてくれる。
どちらも、温かくてほっとする。ふとした瞬間に感じる小さな幸せ。
子どもたちを見つめながら、「いつかこのにおいも消えてしまうのかな」と思うことがある。
成長とともに、においもたぶん変わるし、においを感じることも少なくなるだろう。子どもたちはいつか自立して、抱っこする機会も減るからなおのこと。
そう思うと、今この瞬間がとても愛おしくて、私はまた子どもたちをぎゅ~っと抱きしめて、肺いっぱいにパンのにおいを吸い込んだ。
何か特別なことがなくても、「今日も幸せ」と感じられる。そして、焼きたてのパンのように温かく、柔らかく、私の心を満たしてくれる。
「ママ、だっこ!」と言われるとき、実はちょっぴり面倒に感じることもある。けれども、抱きしめたあとに、ふんわりとパンのにおいが香ってくると、疲れやイライラやその他のネガティブな感情たちがすーっと消える。不思議なことに。
何気ない日々の中にある、特別な香り。それを感じられることが、今の私にとっての幸せだと思う。
焼きたてのパンが冷める前に食べるのが一番おいしいように、子どもの今を感じて、大切にしていきたい。
明日もいい1日になりますように。
いつか子どもたちとおいしいパンを食べられる未来が来ればいいな。