【おかしな縄文】人面付岩版1
奥三面遺跡群元屋敷遺跡の人面付岩版
岩版とは
みなさんは、岩版と聞いて、どんなものを想像するでしょうか?
岩ってついてるからゴツゴツしたもの?
版ってなに?
岩で出来た版
そうですよね。縄文の道具って、見た目で名付けられたものが多く、本来の目的にかなったネーミングではないものがありますよね。
岩版とは、縄文時代晩期(約3000年前)の東北地方を中心に、関東甲信越
、東海地方で出土する、小判形、円形、たまご形をした板状の石製品です。左右対称になる文様が表裏に施されています。
「版」は、エドワード・S・モースが大森貝塚での出土品を「Tablet」と命名したことに由来しているらしいです。
奥三面遺跡群元屋敷遺跡からは、顔の表現を持つ岩版が出土しました。
そう、人面付岩版です。
人面付岩版は、岩版の中でも、割合的には少ないです。
岩版は、仲間の土版とともに、土偶とは違う意味合いを持つ道具と考えられています。貫通した孔をもつものが多いことから、携帯するお守りのような道具と推測されています。
元屋敷遺跡の人面付岩版1
写真の人面付岩版1は、文様から縄文時代晩期初頭(約3000年前)のものです。
素材は、凝灰質泥岩。高さ12.6cm、幅8.0㎝、厚さ3.9㎝、重さ336.0g
お持ちのスマホよりちょっと厚いくらいの感じです。
扁平なタマゴ形で、顔面表現が施されています。
頭部全体を表現するためか、表裏につながる横方向の直線を掘りこんでいます。顔面部分や後頭部を円く一段飛び出すように、周りを堀りくぼめています。目を横線で表現し、鼻は小さな孔を二つ並べ、口は大きな円錐状の孔をあけています。
正面側胴部には、中心に、縦方向の二本線で浮き立たせた隆帯を施します。隆帯で対称になるように、左右に同じ文様が使われます。堀りくぼめた三叉文により浮き出たような入組文が中央に施されます。その下部、外側に堀りくぼめた三叉文、さらに下には、三叉文の掘りこみがない入組文が施されています。
裏面側には、ぽっこり浮き出た後頭部表現があります。
また上部には、左右に広がる玉抱き三叉文があります。
上部の玉抱き三叉文より下の文様は左右対称になっています。正面側と同じように堀くぼめた三叉文により浮き出たような入組文が施されます。
さらに下部には、玉抱き三叉文を意識したように入り組む線が掘りこまれています。線の組み合う場所には、孔があり、玉抱き入組文と呼ばれる文様です。
変形行為
人為的に、元の形から変えた痕跡があります。このような変形行為が行われた場所は、正面側に2ヶ所、裏側に4ヶ所の連続的な敲打痕が確認できます。つまり、この人面付岩版を手に持って、クルミの殻なんかをコンコンと敲くという行為をしたということです。
また、文様に関係ない位置に回転穿孔されている所があります。
終わりに
人面付岩版は、顔面表現があるだけに、土偶との対比を意識してしまいます。人面付岩版には、顔面表現はあるものの、手足の表現はしていません。土偶祭祀で考えられている手足の破壊ができないことから、土偶とは違った役割があったと推測されます。
なにかを敲いて、変形させていることから、縄文人は、破壊することで、得られるものがあるという考えがあったのかもです。
形而上学的世界へ、壊すことで、送り返し、また戻ってきてもらうという循環する世界観が、縄文人の考えにはあったのかも知れません。
また、敲打痕は、磨石類の使用痕として残っていることから、この人面付岩板で、クルミなどを敲いて、下ごしらえしたものを食べるなどの行為により縄文人に安心を与える道具ということも考えられます。
縄文人のつかった道具には、まだまだ謎があります。謎を紐解くためには、土器、石器、木製品といった普段使いの道具との関係などもよりよく理解しなければなりません。
あせらず、みなさんと楽しみながら、縄文時代がわかるといいなと愚考するかぎりです。
参考文献
八木勝枝2002「第Ⅴ章 遺物 5石器・石製品 C(29)岩版」『朝日村文化財報告書第22集 奥三面ダム関連遺跡発掘調査報告書ⅩⅣ 元屋敷遺跡Ⅱ(上段) 本文編』 PP.305・306 新潟県朝日村教育委員会・新潟県
斎藤和子2001「岩版・土版の身体表現についてー土偶との関りからー」『人類学雑誌』108巻2号 pp.61~79 日本人類学会
稲野彰子1983「岩版一研究動向」『縄文文化の研究』9 pp.102~113 雄山閣
稲野彰子1990「土偶と岩版・土版」『 季 刊 考 古 学』30 pp.75~77 雄山閣
ここまで、お読みいただき、ありがとうございました。奥三面遺跡群のことを通じて、あなたの縄文ライフの一助になれれば、幸甚です。
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