M2
ver0.50
(C)1999 Jotunn All rights reserved.
Original comic "The Holy Motemote Kingdom",
illustrated and written by Ken Nagai.
”地球人には、トンマな思想に対する免疫がない”
───カート・ヴォネガット・ジュニア
はじめに
ながいけんの『神聖モテモテ王国』は週刊少年サンデー(小学館)に平成8年15号から連載されているギャグ漫画である。現在単行本として少年サンデーコミックスに収録されて1巻から5巻まで発売されている。第2部が唐突に終了した後、第3部スタートが待ち望まれていたが、先日ついに再開してファンを喜ばせたことは記憶に新しい。
「ナオンと彼等だけの蜜あふれる約束の地、その名もモテモテ王国。これは、モテモテ王国を目指す彼等親子の物語である。」というのがこの作品の首尾一貫したテーマになっている。具体的には、ファーザーという正体不明の怪人と、ファーザーによってオンナスキーと呼ばれるメガネの少年が、女性にもてるために仮装したりして各種のナンパ作戦を繰り広げるドタバタの数々。テーマの曖昧さといい、キャラクターデザインのでたらめさといい、ふとした落書きと思いつきを冗談半分に作品化した感じの漫画である(当たってるかも)。
ギャグ漫画として、それなりに高い評価を与えられてしかるべき作品だと思うが、もうひとつこの漫画には特徴がある。文学的な正しいタームは知らないが、ある巨大な秘密を背景として物語が進行するという手法を用いていることである。具体的には、たとえばファーザーの正体である。またオンナスキーは、謎の記憶喪失にかかっているし、いろいろと不明というか疑惑を持たざるを得ない点を多く抱えている。それ以外の登場人物も、ほぼ全員が、読者に対してなんらかの秘密を隠したまま行動している。そしてそういった各種の設定はほとんど読者には明示されず、ときおりその一端がほのめかされるばかりである。
ここではそういった背景の秘密について、多少の想像力を駆使しつつ、作中のデータを拾い集めて考察してみたいと思う。
ただし、この漫画が週刊連載作品であるということには留意しなければならない。その性質上、当初からすべての設定がきっちり決まっていたとは考えにくいのである(作者の頭の中にはなんらかのイメージがあったとしても)。 あるいは正反対に、何も決まっていないままに思わせぶりな伏線を張り散らしているだけ、すなわちファッションとしての伏線であるということも考えられる。 そしてその伏線を生かしてみせることすらも、創作法の一環としての器用さのアピールに過ぎないのかも知れない。
ともあれ、 それを言い出したらきりがないしこの作業にも意味がなくなるので、 作者のビジョンがある程度までは明確なものであることを信じるしかない。張り散らした伏線に、説得力とドラマ性をきちんと持たせてみせる、というほうが、エンターテインメントとしては当然上なのである。作者がそちらを意図していることを期待するばかりである。
もともと登場人物が少ない漫画なので、キャラクター順に述べていくこととする。
凡例
文中では引用を多用している。その際の表記は基本的に
「せりふorト書き」(巻数/巻内での話数/話内での数えページ)
とする。
(例)「わしのひとり勝ち・・・?/・・・なぜかナオンにまで勝っちまった様じゃぜ。」(5/9/5)
省略、列記することもある。
せりふが複数の吹き出しやコマにまたがるときはスラッシュ(/)を入れている。
長音符は長さに関わらず「ー」、点々は長さに関わらず「・・・」に、しちゃった。
ファーザー
ファーザーは突然空から降ってきた怪人物である。ある日、ナオンに声をかけられずしょげかえっていたオンナスキーのそばに墜落して爆発を巻き起こした(1巻16話)。その際、通行人が「でも死んでるぞこいつ・・・」(1/16/4)と死亡を確認し、ついで「だめだ、心臓動いてねえし・・・」(1/16/5)と追確認しているのだが、オンナスキーが顔をのぞき込んだ直後、生き返った。そしてオンナスキーに、もてさせてやる、といい、どういうわけかオンナスキーと同居するようになったらしい(オンナスキーの項で詳述)。
さて、ファーザー本人は自分の正体について「わしの正体については諸説あるが、代表的なものをあげてみよう」(1/16/6)とし、
謎の宇宙人。
モテモテ王国を神に約束されている。
23の秘密がある気がした。
オンナスキーの父。
謎の組織に追われている。
耐熱性に優れている。
死んでも死にきれない。
3つのノウハウがある。
ある帝国から優れた何かを感じた。
にこやかな白人男性の夢を見た(正体か?) (1/16/7)
と列挙している。順に検証することとする。
謎の宇宙人。
ファーザーは宇宙人であると自称している。そもそも1巻1話で「あと、わしは謎の宇宙人じゃあ! 23の秘密があるんじゃよー。」(1/1/5)といっているし、その後も頻繁に、自分が宇宙人であるという趣旨で発言している。
しかし、ファーザーが宇宙人であると明確にされている例はとりあえず見あたらない。デビル教団の使徒がファーザーのDNAを鑑定し、「ファーザーさんのDNAは左巻きなんです。そのほかにも、例えば変わったアミノ酸でタンパク質が構築されてます。それから細胞内に、ミトコンドリアのかわりに、なんだかよく分からないオルガネラが存在しますし・・・」(4/5/23)と報告しているから、少なくとも生物学的には人類ではないとして差し支えなさそうである。当然、宇宙人であると考えることもできなくはないが、そこのところはまだ謎のヴェールに包まれている。 SF的に考えるとファーザーの素性の主な可能性としては、宇宙人、過去人、未来人、改造人間、人工生物、未知生物、超自然的存在、突然変異などといったところだろうか。 この使徒の報告については「・・・といっても、まだ調べ始めたばっかりですが」(4/5/23)という枕が付いているから、ファーザーの生物学的分析についてはいずれ、さらなる情報が期待できるかも知れない、と思っていたのだが、5巻で使徒同士が「でも・・・結局あの人、何なのかな。」(5/14/5)という会話をしており、結局、という言い方をするからには調査はうち切ってしまったのであろう。有効な結果が得られないまま終了したのか、それとも何らかの圧力がかかって中止に追い込まれたのかは不明である。
モテモテ王国を神に約束されている。
これはこの漫画の主要なテーマである。モテモテ王国、神に約束されている、といった漠然とした要素は考察しづらいのでとりあえずパス。いずれ機会を改めて。
オンナスキーの父。
ファーザーは自分がオンナスキーの父であると思っており、その認識は終始一貫している。これに関してはオンナスキーの項で詳述する。
謎の組織に追われている。
ファーザーは謎の組織が自分をねらっているという認識を何度も表明している。
「も・・・もしや謎の組織が、わしをめぐるなんらかの秘密を追って、激しい諜報戦を繰り広げに訪問したんじゃろかー」(1/20/3)、「謎の組織が暗躍しているんじゃよー/悪の魔の手が伸びているんじゃよー」(2/5/3)、「ええい、一体どこの諜報機関(インテリジェンス)じゃろうかー/わしのスペースノウハウをねらう各国が、ついに動き出したんじゃろかー」(3/1/4)、「う・・・嘘じゃろ。なぜあの優しかったいとこさんが・・・ハッ、ま・・・まさか謎の組織に洗脳された?」(4/9/6)、「あの御仁、まだその様な世迷言をー/おそらく背後に組織が動いているので警戒を緩めるな!」(4/15/3)など。
もともとファーザーは謎の組織の管理下あるいは保護下にあったと思われる。それは10年前までのことで、10年前からながらく行方不明になっていて、物語の開始と同時に空から降ってきて再登場した。そしてファーザーの再登場そのものが、何らかの計画・アクシデントの産物であるという可能性も示唆されている。こういったことは主にアンゴルモア大王の言動から分かる。すなわち、 「これまでの経緯から言って、奴には強力なバックがある可能性が高い」(2/6/4)、「待て・・・だがこいつなんで今ごろ現れた? 何かがある・・・監視下におかねば・・・」(2/6/13)、「汝は一体どこで何してたんだ?」(2/12/6)、「別にわたしだって正体までは知らんよ。/10年ぐらい前のことだったと思うが・・・ただ、写真か何かで見せられただけで・・・/こいつが行方不明になったとか・・・騒いでて・・・/ただ10年もこんなやつが暮らしていけるなんて・・・てっきり何かバックがあるものと思ってたが。/でも・・・10年前は知らんが、今は単なるバカなのではないかなあ。」(4/5/5,6)。
ここでひとつ押さえておくべきポイントはファーザーが「行方不明になったとか騒いでて」という部分である。逃げた、とはアンゴルモア大王は言っていない。ファーザーを管理ないし保護していた謎の組織にとって、ファーザーが行方不明になったことが予期せぬアクシデントであったことは疑いないが、ファーザーが自発的に組織から逃げたのかどうかは判然としないということである。ファーザーが自発的に組織から逃亡した場合以外の事態としては、別種の勢力によって拐取された、何らかの事故によって偶然に組織の管理範囲外に出てしまった、ファーザー自身には逃亡というつもりはなかったのだがファーザーの性質や能力のために結果的に組織の管理範囲外に出てしまった、などが考えられる。つまりどうとでも取れるのである。この曖昧さが、謎の組織とファーザーの関係がいかなるものであるかを推測する上では障害となっている。とにかくここでは保留としておくしかない。
物語の内容から分かるとおり、ファーザーには生活能力や自活能力が明らかに欠如している。組織の管理下を離れてからの10年間、ファーザーの生存を保障したものがあるとすればそれは何か? むろんファーザー自身が10年間、ファーザーとして一般的な環境にいなかったと考えることもできる。例えば冬眠していた(させられていた)とか、ファーザーではないまったくの別人格として生活していたとか、そういった状態であった場合がそうである。だがこの10年間、ファーザーがファーザーのまま一般社会に紛れ込んで生存してきたとすると、そこには何らかの組織的な干渉があったと考えても不自然ではない。
そしてオンナスキーはおろかデビル教団の知らないところで、その組織的な干渉は現在に至るまで続いていると考えるべきである。というのは、ファーザーはよく警察に捕まるが、オンナスキーが「でもお前だってすぐ警察からかえってくるじゃないか。」(3/10/9)といっていることから分かるとおり、すぐに帰ってくる。これについてファーザーは、「ボケーッ、わしの場合ほとんどが何かの勘違いで捕まるだけじゃろがー」(3/10/9)と答えてはいるが、重ねて「でもお前だって警察を出るには身元なんとか人が必要なんじゃないのか?」と質問されると「うるせー」と、はぐらかしている(3/10/10)。この3巻10話は、2巻18話でファーザーによって武装ゲリラに仕立てられ警察に捕まったアンゴルモア大王の謹慎が解けて、デビル教団に復帰してくる話だが、元々金持ちでもあるアンゴルモア大王が金力ないしアンダーグラウンドな権力によって裁判及び法的制裁を逃れているらしい、ということをふまえてファーザーの警察沙汰について会話が振られているので、ファーザーがすぐ警察から帰ってくることに関して何らかの力が介入しているということを意図的に示しているのだと判断してよい。身元保証人がいないのに警察から解放されているということは、いずこからか警察に対する介入があると考えるのが妥当である。
もっとも、ファーザーには人間を操る能力があると思われるので(後述)、こういった特殊能力によって警察から逃れているのかも知れない。 また、このオンナスキーとの会話に見られるファーザーのはぐらかし行動は物語中、随所に見られる。ファーザーの各種の振る舞いが確信犯的なものであるかも知れないという可能性があるのである。これについても後述する。
逆にファーザーが張本人あるいは当事者として発生する事件もある。武道館爆破(1/6/8)、飛び降り心中(1/12/8)、ビル火災(2/3/5)、公園爆破(2/4/6)、市街地爆破(2/18/6)などがそうである。最初に空から降ってきたときも市街地を破壊している(1/16/3)。これらの事例においても本来なら警察の追求があるはずだが、それがあった形跡は見られない。ここにも何らかの力が介入していると見るのが妥当であろう。
ファーザーをバックアップする謎の組織力の成果をもうひとつ挙げる。ファーザーはケダモノと呼ばれる素性不明の中年男に惚れられ、レイプされかけたことがある(1巻10話)。このときはオンナスキーが警官を呼んできたので事なきを得たが、そのときの恐怖による後遺症にしばらくさいなまれた(1巻11話)。 このときの後遺症というのは、オンナスキー以外の男がみなケダモノに見えるという重症であり、不死身のファーザーをして三日も寝込ますほどであった。しかし、すぐに次の回で「フッ、すでに日本警察を動かしておいたのじゃよー。/もう奴はとっくに逮捕もしくは射殺されてるはずじゃよー。」(1/12/3)という謎の発言をし、完璧に恐怖を忘れてオンナスキーと外出している。そして実際ケダモノは以後、物語に全く登場してこなくなるのである。拳銃を振りかざしたり、レイプという犯罪行為に訴えてまでファーザーをものにしようとしていたわりには、このあっけない退場は不自然であるといわざるを得ない。つまりファーザーの発言が正確かどうかはともかく、ケダモノは肉体的に、あるいは少なくとも社会的に抹殺された可能性が高い。つまり、警察力によってにせよ、あるいは他の力によってそうなったにせよ、ファーザーの身の安全のために、人間がひとり消されたということである。これについては謎の組織がじかにケダモノを抹殺した、という線も十分考えられるし、単に警察が逮捕したのだとしても、警察が動いた背景にはやはり謎の組織の圧力があったと考えるべきだろう。そして、ファーザーはなぜそれを知っていたのか? もう安全だということについてファーザーに直接の通知があったとは考えにくい。とすれば、ファーザーは経験則に基づいて発言したのである。つまりファーザーに真なる危険を及ぼす存在は何らかの処置によって排除される、という事例が、過去にもあったのではないかと考えることができる。
しかしこういった監視及び干渉があるにしても、これでは追われているということにはならない。 さらに、追われているとしても、オンナスキーのアパートの界隈では「これもしかして例の宇宙人じゃん。/この辺にすんでるっていう親父。」(3/9/6)と有名になっているくらいであるから、すでに捕捉されているはずである(実際、早い段階でデビル教団に発見されている)。そしてそうでなければ警察沙汰におけるすばやい干渉も受けることはできない。つまり、仮にファーザーを追跡していた謎の組織が存在するとすれば、ファーザーはすでに彼らに捕捉され監視されていると考えるべきである。もしくは、実は10年前から現在に至るまで、監視がとぎれた瞬間すらなかったのかも知れない。そしてファーザー自身はそれにおそらく気づいていない。気づいているとすれば先述の通りの高い警戒心を持ち続ける理由すなわち追われていると感じる理由がないし、ことさらに謎の組織に言及することのメリットもない。 また、このことから、ファーザーをねらっているという組織とファーザーを監視・庇護している組織が別物ではあり得ないことも分かる。ファーザーへの加害や身柄の拘束等をねらっているのであれば、捕捉は容易なのだから、ファーザーに対して何らかの直截な行動が取られるはずだからである。 それがないのだから、ファーザーの身柄を単にねらっている組織というのは存在しないことになる。現在のファーザーを監視している組織はどちらかというと、まるで水戸黄門を陰ながら守る風車の弥七のような存在なのである。だからもしかすると、ファーザーを追う謎の組織とは、ファーザーに仕える、ないしファーザーをあがめる組織であって、ファーザーはそれを嫌って逃げ回っている、ということなのかも知れない。実際この考え方を当てはめると、かなりいろいろなことを説明できる。
「でも命を保証されてるなんて例はいままで聞いた事もないし・・・/大王にだってそんな特権はないのに・・・」(5/14/5)と使徒がいっており、たとえ謎の組織に不利益になる行動をとったとしても、ファーザーが抹殺されることはあり得ないようである。ファーザーが生きている、そのこと自体に意義があり尊重すべきことなのであろう。そしてその中には、警察からの身柄の保護なども含まれていると思われる。ただ、この使徒のせりふは、実際にそういう保証があると確認した上でのものなのか、あるいは各種の事例を総合した結果、使徒自身がそのように判断して発言しているのか、どちらなのか分からないので、さほど信を置いて考察の材料にすることの出来るものではない。
ひるがえって、ファーザーが現在にまで至る謎の組織の監視・干渉に気づいていないのならば、警察に連行されてもすぐ帰ってこれることについては、その仕組みがファーザー自身よく理解できていない可能性が高い。だからオンナスキーの疑問に対する「うるせー」というはぐらかしは、自分でも分かっていないということの現れであるとも考えられる。ファーザーが繰り返すこのはぐらかし行動については後述するが、核心に迫る疑問に対してそのようなはぐらかし行動は、自らの正体や諸事情を隠そうとする本能的あるいは直感的な行動であるということなのかも知れない。
ちなみに、組織、として明確に物語に登場している団体は、男と犬ないしファーザーの妄想から生まれた各種団体は論外として、ふたつある。デビル教団とトーマス団である。このうちデビル教団はそれなりに整備された組織である。資金力や軍事力を備えており人材もそろっている。一方トーマス団はトーマスが首領であり、配下の構成員としてヘビトカゲがいることしか判明していないので考察のまだ対象にはできない。かなり貧弱な組織ではありそうだが。
ではファーザーを追っている謎の組織=デビル教団なのかというと、それはない。先述のとおりアンゴルモア大王はもともとファーザーのことを知っていたが、それはあくまでも写真を見せられたりファーザーの逃亡を聞かされたりしただけであって直接関与していたわけではない。正体すらも知っていない。つまりもともとアンゴルモア大王およびデビル教団はファーザーについては第三者だということである。第三者が正体やその利用価値すら知らない怪人を追うべくもない。もちろんアンゴルモア大王はファーザーの存在やその姿形を知っていたわけだから、これに関する報告を受けて監視に動き出し、オンナスキーの部屋の隣の部屋にデビル教団の駐留となったのだが、 これはもともと持っていた断片的な情報に基づく興味本位の行動であると思ってよいだろう。大王が持っているのは、もちろん謎の生物としてのファーザーに対する興味なのだが、基本的には「・・・まあいい。/とにかく、/今はこいつを手離したくない。/こいつはわたしのワナの最高の標的だからな。なにしろ何やっても死なないんだから」(4/1/6)といった程度の思い入れである。よって、やはり謎の組織は別個に存在すると思われる。
以上をまとめると、まずファーザーはもともとアンゴルモア大王と一定のつながりを持つ謎の組織の管理下ないし監視下にあった。そして10年前に一度行方不明となり、組織には騒ぎが起きた。追われている、と主張し警戒するからには、不本意な干渉を受けていた可能性が高い。
その後の10年間については今のところ知る由もないが、焦点はオンナスキーとの出会い、すなわち空から振ってきたという点にあると思われる。それについては次の項目でも触れる。
逃亡後のどの時点からかは分からないが、ファーザーに対する監視は復活した。
そしてその監視は現在のところ、ファーザーとオンナスキーの同居、ファーザーの存在の一般人の認知、さらには第三者的同類組織であるデビル教団とファーザーの接触や使徒によるファーザーの科学的分析すらをもよしとしていることになる。だがファーザーの警察沙汰については、ファーザーを解放せしめる処置をすばやくとることから、ファーザーの行動にかなり密着した監視体制が取られていることが分かる。このような、むしろ放置に近い監視の目的とはどのようなものなのか? 10年前もこのようにしてファーザーに接していたのか? どれほど力のある組織なのか?
そして、その組織とファーザーとの関係とはどのようなものなのか?
はっきりいって不明点だらけである。だが謎の組織は確実に存在しており、現在もファーザーを監視・庇護し続けている、ということはいえるのである。
耐熱性に優れている。
基本的には不死身性に含まれる話である。
4巻背表紙の折り返しの「ファーザーズ裸足」の中に、「●裸足でかけてく愉快なわし。●優雅にペタペタその辺をほっつきまわるわしも、夏、アスファルトが熱い。●じゃがそれに耐えてこそ宇宙人じゃないか。」とある。これも耐熱性といえば耐熱性といえなくもない。
またファーザーは空白の10年間について、アンゴルモア大王に「汝は一体どこで何してたんだ?」と聞かれたとき、「遠い宇宙の果てから光に乗って、次元をこえて彗星帝国に拾われたバスカービル家の勇者ファーザー・ド・グランバザールOK?/生き別れの息子を求めての大気圏突入は、古今例のないことである。」(2/12/6,7)と答えている。また知佳さんにオンナスキーから紹介されたときも「宇宙からブラリと飛来しました。/じゃが、大気圏突入時にシャアが古今例のない攻撃をしかけてきましてな。」(3/19/6)といっているので、大気圏突入にこだわっていることは分かる。そしてこの「大気圏突入」という表現は、オンナスキーとの出会いの時(1巻16話)に、空のかなたから降ってきたという事実と平仄が合う。このとき実際に大気圏外から地表に墜落してきたのかどうかははっきりせず、まず登場寸前のコマではヒュウウという音が空から聞こえるのみで(1/16/2)、その次のコマではいきなり地表に落下して住宅街に小爆発を巻き起こしている(1/16/3)から、それなりの高度からそれなりの速度で落ちてきたということはいえる。とりあえず、大気圏突入と考えても不自然ではない。とはいっても、このときの速度や爆発について厳密に科学的考証を行うのはナンセンスであろう。
大気圏突入に耐熱性が必要なのは明らかであるし、オンナスキーと出会ったときのファーザーは現在と同じ宇宙第一種礼装のいでたちであるから、大気圏突入に際しては特殊な技術ないし能力を用いて耐熱性を保持したと思われる。
5巻2話で発行されたモテモテ銀行券10000ラブに載っている衝撃スクープ「わしはUFOを見た!!」に、「わしはUFOを見た。そのUFOは空を飛んでいた。わしのUFOは太平洋に沈んだままなので、それはわしのUFOではない。それにわしのUFOはもっとかっこいいのでわしのUFOではない。」(5/2/6)とある。ファーザーはかっこいいUFOを持っており、それは太平洋に沈んだままである、ということをファーザー自身が表明しているわけである。仮にこれが本当であるとすると、UFOに乗って移動すればファーザー自身の耐熱性など問題にならないはずである。だがファーザーの口振りからすると、どうも自分自身に耐熱性があり、大気圏突入を敢行している感じである。実際、オンナスキーのところに墜落してきたときは身体一つである。こういったことからも、どうもファーザーの過去には複数の段階に渡る物語がありそうなのだが、現時点でそれをうかがい知ることはほとんど不可能である。
ちなみにファーザーがUFOを持っているとして、それはどういうものなのか。3巻16話でエスパー戦隊にナオンを勧誘する際、「さらにこちらの商品もお付けしましょう」といってUFOキーホルダーを出し、「このUFOキーホルダーさえあれば、カギを開けながらUFOが目撃できるし、本物そっくりの偽物なので、これならエスパーも大混乱ー」といっている(3/16/6)。本物そっくりの偽物、といっているので、本物のUFOすなわちファーザーの所有すると思われるUFOは、このUFOキーホルダーのフォルム(円盤形)に近いのではないかと思われる。ただしファーザーの、そっくり、という感覚が非常に融通の利くものであることは、1巻14話におけるオンナスキーへの変装(1/14/8)、4巻2話におけるアンゴルモア大王への変装(4/2/6)を見れば分かる。このことを念頭に置いて受け止めておく必要がある。
ところでファーザーは10年前は謎の組織の庇護・監視下にあったのだから、おそらく地上にいたのである。 ファーザーは飛行できる(後述)くらいであるから自力で宇宙にいけるとしてもおかしくはないが、10年前に地上にいて、謎の組織のもとから離れ、どこかの時点で宇宙にいき、再度大気圏内に戻ってくるというのはどのような事情なのか。 まったく不明である。ファーザーの正体という大きな謎の一端がこれである。
ファーザーはオンナスキーのことを自分の実の息子としてとらえているが、これがどういう意味なのかはまだ明かされていない。本当に息子であるか、実の息子とはいかないまでも何らかの意味で同類であるか、あるいは全くファーザーの思いこみに過ぎないのか。事実が判明するにはファーザーとオンナスキー、双方の正体が明らかにならねばならず、それはまだまだ当分先のことになるだろう。もしくは最後まで不明のままで終わるかもしれない。実際に息子であったり同類であったりする場合以外の可能性としては、インプリンティング=刷り込み現象のパロディではないかと考えることも出来る。動物などに見られる、生まれて初めて目撃したものを自分の親だと思いこむという現象が刷り込み現象であるが、ファーザーの場合は逆に、空から墜落してきて初めて目撃したものを自分の子供だと思いこんだという設定なのかもしれない、ということである。実際、墜落してきたファーザーの顔を最初にのぞき込んだのはオンナスキーである(1/16/5)。
仮にファーザーがオンナスキーを息子だと思いこんでいるのが刷り込み現象の一種であるとした場合、墜落してきたときのファーザーは非常に特別な状態にあったことになる。というのは、墜落してきたときファーザーは死んでいる。次の項で述べるようにファーザーにはある程度の不死身性があり、このときも蘇生しているのだが、ファーザーは作品中繰り返し死んでおり、生き返ったことによって刷り込み現象の一種が発生したとすると、毎回そういう現象が起きることになる。よって、蘇生して初めて目撃したものを子供だと思いこんだ、ということにはならないのである。したがってこの場合、墜落してきた、という点に特殊性があるわけだが、この通りの刷り込み現象が発生したとすると、ファーザーの何らかの特殊な性質により、同時にオンナスキーのもてたがりな性格が刷り込まれたということも考えられる。ともあれ、これらはすべて仮定の話であるから、なんともいえない。
死んでも死にきれない。
ファーザーの不死身性については繰り返し確認されている。
がんじがらめにされて全身を犬にかまれたうえ口と鼻をガムテープでふさがれたり(1巻20話)、首を吊って腹に包丁が刺さったり(3巻10話)しても、死なない。正確には一度死んでから蘇生する。どんな致命傷を負っても、きわめて短時間で自己治癒してしまうのである。
「完全自殺マニュアルにもわしの死に方が書いてねー」(3/18/7)と自らいっているくらいなので、相当の不死身である。オンナスキーはファーザーが死ぬのに慣れっこになってしまい、ファーザーが切腹するときに「勝手にしろ、お前がその程度の事で死ねるか。」と無視し、実際にファーザーが切腹して血だらけになっている横で平然とトンカツを食べている(2/14/10)。
これらの不死身性からも、ファーザーが尋常の生物ではないことが分かる。
もちろん漫画における誇張表現としての「死ぬ」という表現、すなわちぐったりするまで暴力を加えられるということも、作中しばしばある。
また、使徒がファーザーについて「でも命を保証されてるなんて例はいままで聞いた事もないし・・・/大王にだってそんな特権はないのに・・・」(5/14/5)といっている。この「命を保証されている」というのは、不死身であるということではなく、謎の組織に抹殺されることはない、という意味であろう。たとえ謎の組織に不利益となる行動をとっても、とりあえず殺されることはないのがファーザーなのである。そしてこの特権にはおそらく警察からの保護なども含まれている。
3つのノウハウがある。
曖昧な表現なので詳細は不明である。
作中、それっぽい意味でノウハウという言葉が用いられる例は一カ所だけある。「ええい、どこの諜報機関(インテリジェンス)じゃろうかー/わしのスペースノウハウをねらう各国が、ついに動き出したんじゃろかー」(3/1/4) というのがそれで、これはデビル教団町田支部に宅配便らしき青年がやってきたときに発言したせりふである。ちなみに、この青年が本当に宅配便だったのかどうかは不明。大王のプリクラが送りつけられるはずだったと使徒がいっているので、本当に宅配便だったと考えてもよいが、 宙返りを披露したり逃走が速やかだったりと、不審な点がないこともない。もしも何らかの機関の人間だったとしたら、使徒を見て驚いているところから考えて、ファーザーかオンナスキーを対象としていると同時に、デビル教団を知らない、もしくはデビル教団のアパート駐留を知らない機関の人間であることになる。
ほかにノウハウという言葉はブタッキーがもてる秘密として使われている。「とにかく奴の謎にせまるため、優れたノウハウを奪うため、昨日出会った地点にもう一度行ってみるんじゃよ。」(2/14/2)。立場的に、謎にせまられたりノウハウを狙われたりするのはファーザーのほうなのだが。
それはともかく、このスペースノウハウがおそらくは3つのノウハウと関係しているのだろう。3つのノウハウのうちのひとつなのか、それとも3つのノウハウを総称してスペースノウハウと呼ぶのかは不明。
スペースノウハウの内容を強引に推測すると、思い当たる部分が、一応はある。それは、ファーザーがいろいろな武器やコスチュームをどこかから入手することについて、オンナスキーとファーザーが「・・・しかしこいつ、こんな武器とかどこから・・・」「じゃから無限に広がる大宇宙のじゃなー」「いいよもう・・・お前の説明は何度聞いても分からん。」(4/17/16)とやりとりするところである。つまりスペースノウハウとは物資の特殊な伝送方法だと考えることもできる。だがこの「無限に広がる大宇宙」という言葉は、基本的には、迂遠なストーリーを物語ろうとしているというギャグだと解釈するのが妥当である。そして同時にファーザーによるはぐらかしの一環であるとも解釈すべきである。
とはいえファーザーの物資調達について謎が多いのは事実である。謎の組織による供給と考えることもできるが、中性子爆弾まで入手している(4巻17話)ことを考えると、もっと形而上的な手段が使われているということも十分あり得る。だとしたらやはりスペースノウハウが絡んでくることになる。
ちなみに4巻17話で「ふむう・・・あまり見覚えがねーにゃー。こんなかっこいいピストル。」(4/17/17)とファーザーが言っている未来的なデザインのピストルだが、これはもともと第2回モテモテ王国侵攻のさいに大王が持っていたもので、「いいかげんにしろっ、こんなおもちゃ何が怖い!!」(2/6/6)といってオンナスキーがもぎとったものである。そのあとオンナスキーの部屋にそのままあったのをオンナスキーも忘れていたのであろう。
それはさておき、もうひとつ、ブタッキーがもてることに怒って「いくぜあのブタ、宇宙パワーでキャトルミューティなんとかしてやりてースキー」(2/16/2)という発言もある。宇宙パワーという言葉がスペースノウハウと関連がありそうだとも思えるが、これはまあ、無視してもよいだろう。
ある帝国から優れた何かを感じた。
これまた非常に曖昧な表現なので詳細は不明である。
一応、耐熱性の項で引用したファーザーのせりふの中に「彗星帝国」という表現があるが、これには意味はあるまい。
少なくとも、神聖モテモテ王国はファーザーを国王とする王制であり、皇帝はいないので、ある帝国というのは神聖モテモテ王国ではない。
にこやかな白人男性の夢を見た(正体か?)
作中に、にこやかな白人男性はひとりしか登場していない。したがってこれはキャプテントーマスのことであると断定できる。そしてキャプテントーマスの夢を見たということが、ファーザーの正体に深く関わっているという点が重要である。くわしくはキャプテントーマスの項で考える。
ところでこの「白人男性の夢を見た」のは誰なのだろうか。作者ながいけん自身ということもあり得る。というのは 3巻12話、独裁者マーチの歌詞の中で、「そういえばこないだ/金田正一が乗ったヘリが墜落した/夢を見た(実話)/死ぬな金田。」(3/12/3)という部分があるが、このヘリが墜落した夢を見た、というのはおそらく作者自身であろう。こういう記述の例から考えても、白人男性の夢を見たのは作者であると考えられなくもないが、ここでファーザーが並べているファーザーの正体についての諸説というのは、すべて主語がファーザーということで統一されているようであるから、この条項についてもやはり主語はファーザーということで考えることにする。
23の秘密がある気がした。
1巻1話で「あと、わしは謎の宇宙人じゃあ!/23の秘密があるんじゃよー。」(1/1/5)といっているのに呼応しているのだが、これも曖昧な表現で、具体的には不明である。秘密といってもファーザーに関しては何もかもが秘密なので、なんともいえない。とりあえず、これまで述べた以外の考察を列記することとする。
骨格。
四肢が妙に細長く、ゴムで出来ているかのような曲がり方をする。「お前ちゃんと骨格入ってんだろうな。」(2/14/8)とオンナスキーにいわれている。
また、1巻17話でファーザーが書いた文通希望の内容を見たオンナスキーがファーザーをそれに沿ったキャラクターに仕立てようとするが、 身長が173cmと書いてあるのに対して「問題は身長だな・・・だいたい30cmくらいのシークレットシューズをはく事になる。」といっている(1/17/4,5)ので、ファーザーの身長は143cmくらいであるとわかる。くらい、といっているので、正確な数字は140cmから145cmの間であろう。
手足。
一応5本指だが、特に手に関しては作者の気分次第で3本指や4本指に描かれる場合もある。爪も生えている。
裸足(後述)なので歩くときにペタペタという音がする。のみならず、手を地面についたときも同様にペタという音がしている(2/10/8)(2/16/9)ので、ファーザーの皮膚の構造が特殊なものなのだと思われる。ブタッキーとの顔ファイトでも、「お肌つるっつる。」(2/14/7)といっている。
皮膚の構造が特殊であることについて、これに関連した事柄はアンゴルモア大王の項でも述べる。
右手に箸を持ってトンカツを食べている (1/5/1)(3/2/4)(3/21/1)(3/21/4)。他にも右利きである証拠は多数ある。したがってファーザーが右利きである事がわかる。ただ箸の持ち方は知っているが皿の持ち方は知らないようだ。
目。
1巻裏表紙の折り返しにある「ファーザーズ アイ 三つのちかい」には平行四辺形の定義が書いてある。実際、「そして目はずばり平行四辺形。/わしの目の面積を求めてごらん。」(2/14/7)といっているので平行四辺形であることは確かである。
そして、この平行四辺形の目には人を操る能力があると思われる。
1巻2話、妖精としてナオンの前に現れたファーザーは、謎の眼光をカッと発し、それを浴びたナオンがへたり込んだ(1/2/3)。
また1巻18話、建国活動の手助けを断ったオンナスキーに対しファーザーが平行四辺形の目を向けた。3コマ後、オンナスキーの態度が「・・・今回だけは建国活動とやらを手伝ってやる。」と豹変している。しかもちょっと頬を赤らめている。同時に「何があったのか不明。」というト書きがついている(1/18/3)。これについては一応、モテモテ王国に関するうれしい妄想を吹き込まれただけと解釈することも可能だが、それであれば1巻3話ですでに描かれているし、何があったのか不明ということはない。ここではおそらくファーザーによって何らかの洗脳操作を受けたのである。
前述の「わしの目の面積を求めてごらん」というのはブタッキーのオプションであるナオンにいったせりふだが、これも洗脳を踏まえてのせりふであると受け取れる。また知佳さんに向かって自分のことを説明するのに、「いとこさん、わしがいかに芸人というよりもむしろ国王であるか、わしの目をジロジロ見たり、そのほかの部分も鑑識にまわしてくれー」(3/19/9)といっており、これも同様の意味合いを持っているといえる。
また、ファーザーの目は殺気をはらんで異様に光ることがある(2/16/8)(2/20/9)(3/20/3)。
珍しい例としては、立体的に飛び出たこともある(2/16/9)。
鼻。
落とし物のかわいいハンカチに対し、「ぶ・・・分析開始。」(1/10/3)といってにおいをかいでいるので、鼻も鼻としての機能を持っていると思われる。分析の結果、「うおお間違いねー。事件の裏にナオンあり!!/やったぜ、イエーイ!!」(1/10/3)といっているが、実際にはこのハンカチはケダモノのものだったらしい(1/10/5)ので、あてにならない。従って嗅覚の鋭さは普通の人間並みか、それ以下である。
耳。
角のようにとんがった耳については、耳と呼ぶこともあるし突起物と呼ぶこともある。「王様の耳は突起物。」(4/5/12)という表現がすべての事情を物語っているといえよう。
「突起物がやたらてれるにゃー。/わりと自慢の一品ですよ?」(1/14/8)、「あと、この魅惑の突起物は変装じゃよ。/皆さんおほめくださいます。」(2/20/4)、「やっぱ男は突起物じゃよねー」(3/17/3)などといっているように、ファーザーは耳=突起物を自分のチャームポイントとしてとらえているようである。
3巻15話で、耳に聴診器をはめてナオンを診察しようとし、聴診器に向かって「やめてってば!!」と叫ばれ、「ギャアア!!」と痛がっている(3/15/7)ので、耳としての機能は実際にあると思われる。
ファーザーは耳をなでると快感を得ることができる。「そんな時突起物をなでてみる。/するとあら不思議。/赤色灯の罪があがなわれて、わしはもう夢うつつ。」(3/18/4)など。すなわち少なくとも突起物の表面近くにまで神経が通っているので、この耳=突起物は、肉体の一部であると考えなければならない。さらに、ファーザーの回想(ないし妄想)に登場する宇宙人も皆耳がファーザーと同じ突起物状になっている(2/1/7)ので、耳=突起物はファーザーの生来の部位であると思われる。
また2巻1話では、オンナスキーに耳をもがれそうになり、苦しんだ。そして「調査チームの報告では・・・/わしの耳には、賞味期限のきれたプリンが入っとると思うが、とったら死ぬ。」(2/1/8)と説明している。プリン云々はともかく、耳=突起物が取れることに対しファーザーが恐怖心を抱いているのは間違いない。
以上のようなことは2巻裏表紙の折り返し「ファーザーズ イヤー 三つ以上のよさ。」にも書いてある。
「(1)取れません(2)なでると幸せな感じがしてくる。(3)妙にうれしい(4)みんなの希望(5)空にそびえる黒金の耳(6)憎いあんちくしょうの耳めがけ(7)突起物よ永遠なれ!」
耳=突起物を布でキュッキュッと磨いて、指ではじいてキーンという音を出し、「いい音色じゃろ?」(5/18/2)といっているので、「黒金の耳」という表現と合わせて考えると、この耳=突起物の材質は金属であろう。
カップルバスターズになったとき、突起物から直接ゴーグルが生えている(2/11/4)。恋愛シミュレーションマシーンになったときも同様(5/20/2)。一見、ゴーグルと耳が一体化しているのだから、この突起物は耳の上から付けているものなのではないかとも思えるが、二度目のカップルバスターズの時にはちゃんと手でゴーグルを突起物から外している(4/10/7)ので、そうではないことが分かる。
ファーザリオンの必殺技の紹介においては、顔ロケットと耳ロケットがそれぞれ別物であり、耳ロケットが取れたあとの顔の相当部位には穴があいているのが見て取れる(2/17/3)ので、耳=突起物には耳としての役割はあるが、それなりに特別な意味のある部位だということが分かる。神経が通っているらしいことと合わせて、半生体組織とでも考えておきべきだろう。
ミッションインポッシぶった時は耳=突起物が倍ぐらいに伸びている(2/4/2)。耳=突起物が肉体の一部であることを前提とすると、このときは付け耳をしていたのだろう。
テクノポリスに扮装したときも、耳=突起物からアンテナが生えている(5/1/3)が、どのように取り付けられているのかは不明である。このときはやくざ殿に、キャプテントーマスもろとも血だるまにされ、アンテナは取れて消えた(5/1/9)ため、詳細を観察することは不可能になった。
宇宙の棋士テッカマンになったときも耳から鋭い飾りを生やしているが(5/8/2)、これもくっつけただけのものであろう。
耳=突起物からは、その先端からガスのようなものを吹いたこともある(4/7/4) 。
口。
ファーザーの口は常に半開きである。屁理屈を言えば「まみむめも」や「ばびぶべぼ」は唇を閉じなければ発音できないので、閉じる瞬間もないわけではないだろう。
口が開きっぱなしになることによって歯が見えっぱなしになっている。「そうかわかったぞ、わしのここは唇でなくて歯なんじゃよ。/フフフ・・・見るだけでなく、観察すれば容易にわかったはずじゃよ。ワトソンスキー改めヘイスティングスキー」(2/20/2)。1巻表紙の折り返しに描いてある高橋留美子によるファーザーのイラストでは、この歯は唇として描かれているように見受けられる。
この歯は葉巻をくわえるのにちょうどいい開き加減である。「そ・・・/それにしても葉巻ってわしの口にピッタリとはまりこむわい・・・」(4/8/3)。
丹後わし之丞になったときは、乱杭歯になっている(5/15/3)。入れ歯であろう。
口に関しては、マウスピースのようなものという謎もある。それについては後述。
舌。
1巻19話でボディービルダー養成ギプスを着けたとき、身体の自由がなくなったが、びょろろーンと舌をのばして食事をし、 オンナスキーに「器用に適応するな!!」とつっこまれている(1/19/4)。このときの舌の長さと動きは異様である。
俗物くんになったとき、空っぽの酒瓶に向かって舌を付きだしているが、ただそれだけである(5/7/4)。
犬によく襲われることについて、「しかしなぜ、お前なんか襲うのかなあ。」「香ばしいにおいを発してるんじゃろか。/わしっておいしいのか?」という会話をオンナスキーとして、ペロッと手をなめている(5/19/2)。味を確かめているので、ファーザーの舌には確かに、味覚が備わっていると思われる。
おおむね、この漫画には食事のシーンが多いのだが、ほとんどの場合トンカツを食べているだけであり、あまり舌を活用する場面が出てこないため、ファーザーの舌を観察する機会にも恵まれないのが現状である。
トンカツしか出てこない食事シーンというのも、謎ではある。
首。
ファーザーの首は伸縮膨張が自由自在である(1/16/5)(2/3/3)(2/15/8)(2/20/9)(4/10/10)など。主に感情の起伏に応じて変化するようだ。
興味深いのはオンナスキーも首を伸ばすという特技というか体質を持っているということである(1巻16話)。 この共通点は何を意味するのか? もてたがり体質、とでもいうべきものを象徴しているのか、あるいはもっと深い意味がある、すなわち伏線としてとらえるべきものなのか。 どうも後者のような気がするのだが、確たる証拠はない。これに関連したことは、「耐熱性に優れている」の項でも述べた。
赤色灯。
ファーザーの頭頂部に付いている赤色灯。これに関するファーザー自身のコメントは「そして頭部の我が赤色灯は、危険を探知すると光るらしいですが、見えません。/それにわしが死ぬ時も光ってくれなかったようです。わしがもっとも忌み嫌う部位です。」(3/11/4)、「おお神よ、なぜわしにはこの様に呪わしい赤色灯が、頼んでないのに標準装備でついてきた!?/それにこれ、壊れてるみたいですよ?」(3/18/4)などである。独裁者マーチの歌詞にも「いつか光るぜ赤色灯、でも/光ったときは危険だぜ?」(3/12/3)とある。
この赤色灯はおそらく実際に壊れている。まずファーザーのコメントを総合すると、危険なとき=死ぬときであり、本来ならば危険なときに赤色灯は光るはずである。しかし危険なとき=死ぬときに赤色灯が光ってくれなかった。したがって、壊れている、ということになる。
赤色灯が実際に光ったのは、1巻7話である。このとき服が耳に引っかかって頭が通らないだけでピコーンピコーンと光り、ファーザーは「うわああ世界が見えねー!!/うわ!!/うわああああ!!/エ・・・エマージェンシー。/全てが見えねー。/ハ・・・ハサミー!!」(1/7/7) とうろたえている。これよりも危険なシチュエーションはほかに数多くあるのだが、これ以後、赤色灯は二度と光らない。
さらに、「もっとも忌み嫌う部位」「呪わしい赤色灯」といっているが、そのわりにはなぜか、隠そうという努力をほとんどしていない。唯一、4巻4話で二枚目ハーンになったときにハンカチのような布で赤色灯を隠しているが、赤色灯の露出によって加算される(2枚目から遠ざかる)のはわずかに0.2枚目であり、 ピエロ鼻の0.3、ピエロ口紅の0.4、頬に3本線の0.3のいずれにも及ばない(4/4/3,4,5,6)。つまりファーザーにとって赤色灯のかっこわるさというのはさほどのものではないということになり、だからこそ常時露出して生活できているのである。「もっとも忌み嫌う部位」という表現とは明らかに矛盾していることがわかる。では「忌み嫌う」「呪わしい」というのは、「壊れてる」という状態に対していっているのかというとそれもおそらく、ない。「呪わしい」ということに加えて「それにこれ、壊れてる」という言い方をしているからである。「壊れているから呪わしい」ではなく「ただでさえ呪わしいのに、その上壊れている」というのが妥当な解釈であろうということである。
とすると、なぜファーザーは赤色灯を嫌っているわりには放置しているのか? なぜならば、この赤色灯はおそらく着脱可能なのである。肉体の一部ではないのだ。だからあまり気にしていないのではないかと考えられる。
まず2巻1話で、宇宙のおきてにまつわる議論についてファーザーが説明するとき、宇宙人らしき人々による会議の様子が描かれているが、彼ら宇宙人には赤色灯が付いていない(2/1/7)。彼ら宇宙人を一応の実在のキャラとして扱うべきか、あるいはファーザーの妄想として扱うべきかは微妙なところだが、いずれにしても通常の宇宙人には赤色灯はないものとなる。ファーザーの妄想だとしてもファーザー自身が通常の宇宙人についてそう思っているということになるからである。ではなぜファーザーには赤色灯が付いているのだろうか。ファーザーが何かしらの意味で特別な宇宙人だからだと考えるほかはない。モテモテ王国の国王だから、とか、 そういった理由である。あるいは謎の組織に付けられたということもありえる。
そもそも赤色灯はファーザーの頭部を覆うヘルメットのようなものにくっついている存在である。このヘルメットのようなものもまた着脱可能なものだと思われるから、必然的に赤色灯も着脱可能であろうと考えることができる。これについては次に説明する。
警官にパンツを取り上げられたとき(1/1/13)と、フラレナオン祭りが警官によって解散させられたとき(1/4/8)、パリーンと割れたこともある。
ヘルメットのようなもの。
ファーザーの横顔の絵をよく見るとわかるが、ファーザーのうなじから頭頂部にかけてのラインにはわずかな段差があり、一見坊主頭のように見えるこの頭部がヘルメットのようなものであることがわかる。またファーザーが頭部にけがを負ったときの流血の仕方も、つねにこのヘルメットのようなもののラインから流れ出ているので、これによってもかぶりものであることがわかる。
2巻9話でオンナスキーにバットで殴られてひびわれたり(2/9/7)、2巻14話でブタッキーたちがファーザーを置き去りにして去ろうとしたときもひびが入り(2/14/9)、ブタッキーの予備兵力の存在にショックを受けたときもひびがはいっている(2/16/6)ので、案外もろいものであると思われる。また1巻10話でケダモノから告白を受けたときに、頭のどこかからプシューとガスのようなものが吹き出ている(1/10/5)。このときヘルメットのようなものにひびか穴が開いているのかというと、次のページではそういった傷らしきものは見あたらないので(1/10/6)、ガスのようなものは傷から吹き出たわけではなく、このヘルメットのようなものがある程度の通気性を持つ素材でできているということがわかる。穴が開いているとしたらファーザーの頭自体の該当する個所にである。
このヘルメットのようなものはつねにかぶっているのだが、「・・・それよりあのヘルメットみたいなの取ると、どうなってるんでしょうか?」ということで大王と使徒に脱がされそうになったとき、「ダダダダメっすよダメっすよ うおおー/ちぎれるー、大岡越前助けてえー」と嫌がっている(4/5/6)。その理由は不明である。
だが脱ぐことによってファーザーに何らかのダメージがあるとは考えにくい。ファーザーはよく様々なキャラクターに扮装というか仮装するが、その際このヘルメットのようなものを脱ぎ換えていると思われるからである。2巻7話ではナオンをアパートに連れ込んで淀川長治やクリントンの物まねをして見せている(2/7/7,8,9) が、このとき明らかにヘルメットのようなものを別のカツラに脱ぎ換えている。生え際がナチュラルな上に、赤色灯までなくなっているからである。アンゴルモア大王に女装して迫ったときも同様(3/17/5)。4巻14話における由井小説の場合も同様である。また赤色灯がなくならないまでも、繊細居士になったときは髪の毛のついたヘルメットのようなものをかぶっている(3巻18話)から、このときも脱ぎ換えていると考えてよいだろう。3巻3話ではMG部隊=男子校生たちに半殺しにされ、このあとヘルメットのようなもののかぶり方が斜めにずれているのが確認できる(3/3/8)。これも着脱可能である証左である。5巻12話でスピーディーワンダーになったときはヘルメットのようなものにウイングとマフラーを装着しているが、マフラーからは実際にガスのようなものを排気しており(5/12/8)、単にヘルメットのようなものにくっつけただけではなく、排気性も考えて直づけされていることがわかる。すなわち通常のヘルメットのようなものではなくスピーディーワンダー専用のヘルメットのようなものをかぶっていると考えられる。一方、1巻17話では文通相手に会うために、サターン星人のような高さ約30cmのシークレットヘルメットのようなものをかぶっている(1/17/7)が、このときはオンナスキーとの共同作業で変装を行っているので、ここではふつうのヘルメットのようなものの上にさらにかぶっているだけとも考えられる。
まとめると、このヘルメットのようなものは、比較的自由に着脱ができ、さらに赤色灯の付いているものと付いていないものがあるということになる。そして赤色灯はこのヘルメットの付属物である。
自由に着脱できる以上、 脱がされるのを嫌がるのは、見られたくないものがその中に収まっているからだということになる。そしてそれがなんなのかは、ほかの秘密と同様、不明である。中から流血する以上は肉体の一部なのだろうが。
パンツ。
ファーザーの下半身は常にパンツで覆われているのみである。「しかしお前やはりズボンはくべきじゃないのか?」「断固断る!」(1/6/3)、「しまった、こいつやはりズボン買ってない!」「あったりめえじゃろ?」(1/7/6)、「それにお前どうしてもズボンは・・・?」「うむ、拒否する」(1/9/4)などといっているので、ファーザーにとってズボンを穿くのは論外らしい。
なぜズボンを穿かないのかについては、宇宙のおきてのせいであるとファーザー自身はいっている。「どうもこうもあるか、天下国家を語る前にズボンぐらいはけ!!」「じゃから、これは宇宙のおきてにもとづいて・・・」(2/1/3,4)。それを無視してオンナスキーが力ずくでズボンを穿かせようとしたところ、「ギャアアア」と絶叫し、青ざめて背中を丸め、ガタガタとふるえた(2/1/5)。ズボンを穿くことに対する抵抗は徹底しており、オンナスキーにズボンを穿かされそうになって逃走し、三日後、「ズボン着用だけは許してください。」と嘆願書を携えて戻ってきたり(2/1/11)、デビル教団に「今度ズボンはかせてみよう。」ということで無理矢理穿かされそうになったときも「人殺しいー」と叫んで逃走(4/5/7)。同様に知佳さんとオンナスキーに穿かされそうになったときも「いいからはきなさい!/いっちゃんも手伝ってあげて!」「ハアアア!!」「あっ、」「・・・やっぱり逃げた。」という具合に逃走している(4/9/6)。
ファーザーは宇宙のおきてについても説明している。「いいか? そもそも本来の宇宙のおきてなら、フルチンであるべきなのじゃよー/五十年ほど前に登場した白いパンツ合法論で、ようやくフルチン法が死文化しつつあるのが宇宙の現状じゃよー」(2/1/7)。事実、落とし物のしすぎで全裸になったとき、内股になって股間を隠していたり(1/1/13)、パンツを穿かずにアパートに戻ってきたとき股間を手で隠している(3/1/6)し、二枚目ハーンになったときはパンツを穿くのを忘れるという誤算を犯して「ギャアパンツがねー/た・・・大変だあ。」(4/4/3)と股間を隠し、「しまった、そういえばパンツの有無の確認を怠っていた。/ええい、道理でさっきから腰に夏の夜風が心地よく、不思議な開放感と背徳性が、股間からたち登っていた。」(4/4/4)といっている。普通の紳士になったときは、パンツを忘れてナンパにでかけ、「ギャア、パンツがねー/し・・・失態だァーッ。」とあわてている(5/11/5)。このときは反省して「フフッ、まったくわしって奴は・・・/パンツを失ってみて、初めてパンツの大切さがわかるなんて・・・」(5/11/7)ともいっている。フルチン=下半身露出については、恥ずかしいという認識を持っているのである。一方、オンナスキーにズボンを穿かされそうになったときも「ダ・・・ダメーそれだけは許してー恥ずかしくて死んじゃうー」(4/15/4)といっている。つまりパンモロは基本的に折衷案だということである。
ズボンを穿くとどうなるかというと、「前にも暴れて・・・/ズボンなんてはくと地球の重力に魂を奪われるって・・・」(4/9/7)とオンナスキーがファーザーの言い分を証言している(このファーザーの言葉はこれまでの物語には登場しないので、オンナスキーがファーザーにズボンを穿かせようとしたのは一回だけではないことがわかる)。また「ズボンなんかはいたら空間と時間の歪みにはさまれてわしは・・・/いや・・・全宇宙が吹き飛ぶかもしれません!」(4/15/5)とファーザー本人がいっているが、前者の証言とは全然内容が違うので、おそらく両方ともでまかせであろう。
そしてついに、実際にズボンを穿かされてしまう事態になる(4/15/6)。そのときのファーザーのリアクションは「うぶぶぶ・・・/ぶおええー」とうめいてビチャーときれいな液を吐き(このきれいな液については後述)、「ううう・・・し・・・死ぬ・・・/うっ・・・く・・・くる! イセリナが走ってくる!/イセリナが音もなく走ってくるー/く・・・来るなあ! ギャアア!!」とうなされ、最後にガクッとくずおれる(4/15/6,7)というものである。このときは単に気絶しただけでなく「完全に気を失ってる。/いや・・・死・・・死んでる?」(4/15/7)とオンナスキーが観察しているので、どうやら実際にズボンを穿いたせいで死んでしまったと考えられる。このときファーザーとオンナスキーは知佳さんと一緒なので、オンナスキーは取り立てて「死んだ」と騒ぎ立てることは出来なかったのだろう。死んだとしてもファーザーが短時間で蘇生するのはいうまでもない。
そもそも、なぜズボンがいけないのか? ファーザーがズボンを穿かせられたとき、実際に穿いてしまってから穿いていることに自分で気づいて苦しみ始めるまで、数秒間のタイムラグが存在しているという事実がある(4/15/6)。ズボンを穿くと死ぬほどの苦痛があるというのが単純に肉体的な特徴にすぎないならば、自覚のあるなしに関わらず苦痛を感じるはずだが、そうではなく、ファーザー自身が認識することで初めて苦痛を覚えているのである。とすると、ファーザーはズボンに恥ずかしさを覚えているのだから、この恥ずかしさというのが死ぬほどの恥ずかしさであり、実際に死に至るほどの強烈な恥ずかしさであるか、もしくは恥ずかしさとは別種の強烈な精神的ショックということになる。「なんか強烈なトラウマがあるみたい。」(4/15/7)と知佳さんはコメントしている。宇宙のおきて=フルチン法=ファーザーのトラウマ、ということになる。トラウマかどうかはわからないというのが実際のところではあるが、とにかく単純に肉体的な理由ではないということははっきりしている。
ここでまず、フルチンになっても死んでおらず、肉体的なダメージはまったく負っていないという事実に注目する。つまり危険度としてはフルチンよりもズボンのほうが遙かに高い。フルチンは恥ずかしいだけだが、ズボンは恥ずかしい上に死ぬのである。ということは、宇宙のおきて=フルチン法というのは実は本来は「フルチンでなければならない」というものではなく、もともと「ズボンをはいてはならない」というものなのかもしれない。もしくは「ズボンをはくと死ぬので、フルチンでなければならない」ということなのかもしれない。 だとすると「白いパンツ合法論」 は「ズボンをはかなくてもパンツならば死ななくて済む上に下半身完全露出を免れるので、これでいいのではないか」という論理だということになる。この場合、ズボンを穿くと死ぬというのは、ファーザーの性質がそういうふうに元々出来ている、という事実を導くことになる。
逆に、宇宙のおきて=フルチン法というのがあくまでも「フルチンでなければならない」ということを究極の理念としているものだと考えると、「フルチンでなければならないが、フルチンは恥ずかしいので何か穿きたい」というジレンマがまず存在することになり、「しかしズボンも恥ずかしいし、なんといってもフルチンからかけ離れすぎているので、穿いたら死んでしまうほどの苦痛を感じる。そこで最大限フルチンに近く、なおかつフルチンを免れる手段として、パンツを穿けばよい」というのが白いパンツ合法論だということになる。この場合、ズボンを穿くことによってファーザーが死ぬのは、恥ずかしさもさることながら、フルチンという理念から極限まで引き離されてしまったという精神的ショックによるものであることになる。
ではどちらが正しいのか。ポイントは「白いパンツ合法論」の「白」にあるだろう。パンツを白一色=白ブリーフに限定することにはどんな意義があるのか? ファーザーはオンナスキーの出した「たとえばパンツをトランクスにして、短パンっぽく見せるとか・・・」という提案に対して「ばかかおめえ、それじゃ何の意味もないじゃろがー」といっている(2/1/5,6)ので、白いというだけではだめで、ブリーフ系でなくてはならないということがわかる。続いて、宇宙のおきてを最大限に拡大解釈した結果として股間にドクロのプリントを入れている(2/1/6)。さらに「黒いパンツはいて、足を黒く塗りつぶせば、黒いスパッツに見えるかも。」「まじめに考えろ貴様ー」(2/1/6)というやりとりもしている。これらからいえるのは、どうやら「フルチンに近づく」ではなく「ズボンから離れる」という方向性をファーザーが目指しているらしいということである。短パンっぽく見えるトランクスは全く無意味であり、スパッツに見せるために黒いパンツを穿いて足を黒く塗るのは論外であるといっているからである。したがって、宇宙のおきて=フルチン法というのは本来、フルチンを絶対的価値とするものではなく、ズボンを穿かない、さらには穿いているように見せることもしない(出来ない)ということに主眼を置くものであろう、となる。そして極端な必然としてフルチンが奨励されたのだが、さすがにそれは恥ずかしいので行き過ぎだ、ということで白いパンツ合法論の登場になったのだろう、という筋道が成り立つ。
簡単にいうと、「ズボンからできるだけ離れようとした結果のパンツ」なのか「フルチンにできるだけ近づこうとした結果のパンツ」なのか、ということで、ズボン着用のほうが危険度が高く、フルチンそのものは嫌いらしいので、前者なのだろう、という判断をしたのである。
とはいえ、フルチンは恥ずかしいしズボンも恥ずかしいということは、その中間のパンツだっておそらく恥ずかしいのだろう。しかしそれ以外の選択肢がないので、やむなく開き直ってそれで生活しているのだと考えられる。ブタッキーとのスタイルバトルのとき「どうよ嬢ちゃんこのスタイル・・・スリムじゃしパンモロもセクシーじゃろ?」(2/14/8)とはいっているが、バトルの性質上、これはおそらく開き直りというか強引な美化であろう。Jリーガーになりすましたときは「フフフ・・・このようにわしは全日本級の男じゃが・・・/パンツ丸見えなのが非紳士的行為とぬかしやがった。」(2/2/7)、上半身も裸になりパンツ一丁になったときは「この姿では、国王の品位を疑われてしまう」(4/16/10)といっている。常識で判断すればパンツ姿は恥ずかしいものだということを、自覚してはいるのである。
裸足。
ファーザーはつねに裸足である。しかし自分が裸足であることは忘れがちで、たばこの火を踏み消そうとしたり(1/5/4)、マキビシを踏んだり(2/7/4)、ドアを閉められるのを防ぐために隙間に足をつっこんだり(3/14/5)、牛乳瓶を指の上に落としたり(4/7/3)して、たびたび痛い思いをしているので、裸足はパンツ同様、不本意なものだと思われる。
そして「じゃがわしは宇宙のおきてで裸足なんじゃよー?/じゃからこんな変なくつはかんのじゃよー。」(1/17/6)、「がっはっは、下駄はけないのが残念じゃぜー 宇宙のおきてをわしは恨む。」(2/15/3)といっているので、裸足も宇宙のおきてによるものであることがわかる。ファーザリオン誕生の際も「当然裸足。」(2/17/2)というト書きが付いており、ファーザーにとって裸足は当然のことなのである。ただパンモロよりは通常生活において見た目の問題が少ないので、裸足についてことが荒立てられたことはない。
また、オンナスキーが凍え死にしそうになるほど寒い路上でも平気で裸足でいる(3/20/8,9)ので、ふつうの人間の足とは構造が違うのである。しかし先述の通り痛みは感じているので、構造がどのように違うのかという点については何ともいえない。
加えて、 ファーザーは飛行能力を有しており、飛行のためにそもそも足が露出している必要があると思われる(後述)。
宇宙第一種礼装。
ファーザーは自分の通常の服装を、宇宙第一種礼装ないし第一種礼装と呼ぶ。「お前こそへっぽこスペースロマンふうの悲しい着こなししやがって!」「きっさまあーわしの宇宙第一種礼装に対してっ・・・/乱心したかオンナスキー!!」(1/7/4)、「わしの第一種礼装がねー/わしのスペースロイヤルっぽさを際立たせた、珠玉の一品がー」(4/17/10)。
第一種礼装の主な中身は、以下の通りである。
マント(表地:赤、裏地:白。1巻表紙のみ裏地:緑)。風もないのになびく。 木の枝に引っかかって破れたことがある(4/4/6)ので、材質はごく普通のものだろう。
洋服(白。襟は黒。1巻表紙のみ本体、襟ともグレー)。ジオンっぽい襟になったのは1巻11話からで、たぶん1巻9話でザビ山兄弟が登場した影響であろう。
ベルト(黒。1巻表紙のみ茶色)。 バックルがハートの形。
メダル(ベルトがブルー系の紫。1巻表紙のみピンク系の紫)。何も刻まれていない。
腕ハート(?)。腕時計型で、文字盤にハートマーク。時計としての機能はおそらく、ない。「何だこれ?」というト書き(1/1/15)。横に竜頭が付いているのだが、これでハートマークをどうしようというのだろう。この腕ハート(?)は、その後も常に着用しているのが確認できる。
扇(新・旧バージョン)。初出は1巻8話。 3巻21話で旧バージョンをオンナスキーにプレゼントした。この旧バージョンに付いているマークは何だろうか? 4巻1話で新バージョンをいつの間にか入手済み。旧バージョンよりも凝った造りとなっている。扇は、手に持っていないときは、腰の後ろでベルトに差していることが多い。
ファーザーはよく、この第一種礼装を無視していろんなキャラクターに扮装するので、 第一種礼装は宇宙のおきてとは無縁のものであることがわかる。宇宙のおきては少なくとも、原則としてのフルチンと、裸足の2項目だけを指定するもののようである。
ただし厳密には、キャプテントーマスに盗まれた第一種礼装が清原のユニフォームに偽装されて戻ってきたときに確認できるのは洋服、マント、メダル、ベルトだけ(4/17/12)なので、腕ハート(?)と扇については除外して考えるべきである。とりあえず、ここ以外に入れる場所がなさそうなので一緒にしておいた。
ハートマークについては、ファーザーのマークというよりも神聖モテモテ王国の紋章という扱いらしい。男子校のMNOたちにMG部隊創設の檄を飛ばしたとき、勅令を収めた封筒にハートマークがプリントされている(3/3/3)。
1巻1話では胸に小さな勲章らしきものを下げているが、1巻2話でナオンに拾わせるために外した(1/1/12)後、二度と登場しなくなった。 ちなみにこの勲章のようなものは、観察すれば、キャプテントーマスが配ろうとしている優秀メダル(4/17/5)(5/16/5)とは別物であることが明白である。念のため。
マウスピースのようなもの。
オンナスキーに殴られたとき、マウスピースのようなものがファーザーの口から外れて飛んでいるのが確認できる。(2/3/7)(2/6/11)。
しかしこれはあくまでもマウスピースのようなものであってマウスピースではない。というのは、3巻2話でボクサーに扮したときオンナスキーと「第一、その半開きの口でマウスピースはどうする気だ?」「フッ、さあな」「大事なことだぞ?」「それより二人ともヘビー級でエントリーするんじゃよ。」(3/2/3)というやりとりをしているからである。
ファーザーの口からマウスピースのようなものが飛んだとき、殴った当人のオンナスキーもそれを目撃しているはずである。そしてオンナスキーの判断ではファーザーの口というのはマウスピースが使用できるような代物ではない。常に半開きなのでマウスピースをくわえる意味がないということだろう。ということはファーザーの口から飛び出したマウスピースのようなものがマウスピースではないということを、オンナスキーが独自に判断しているか、あるいはファーザーに聞くなり実物をはっきり観察するなどして確認を取っていると考えるほかはない。
ではこのマウスピースのようなものとは何か? もちろん不明である。
飛べる。
ファーザーはふつうに歩いたり走ったりすることもできるが、明らかに運動力学的に無理のあるフォームで走ることがたびたびある。実際にはこのときは走っているのではなく、飛んでいると考えられる。地面から浮かび上がって滑走しているのである。ここではこれを仮にホバリング走行と呼んでおく。また、ホバリング走行だけではなく、明らかに空中に浮かび上がって飛行している場合も確認できる。これらの2種類の飛行能力はそれぞれ別物である。
ホバリング走行に際しては足から何らかのガスを強力に噴射して浮力を得、さらに推進力にしているのが見受けられる(2/15/9)(2/17/9)。急ブレーキをかけるときは腰を落として足で踏ん張る(3/11/8)。速度としては、人間が全速力で走るよりは遅い、ということがいえる。宅配便風の青年を追撃したとき(3/1/4)も、背広姿の大王を追いかけたとき(3/10/4)も、追いつけていないからである。しかしこの足からのガスの噴射による飛行も、最大限まで高めるとそれなりに派手な飛行能力になるようだ(4/14/8)(5/18/6)。とはいえ、ファーザリオンになってナオンを追いかけたときも結局追いつけず、ハアハアハアと息を切らせて「重いんじゃよーこの姿はー」(2/17/8)といっているので、基本的には貧弱な飛行能力であることが分かる。スタミナの消費具合としては、人間が走るのと同じくらいであろう。スピーディーワンダーになったときは、足に車輪をつけているが、実際の走行は足の裏で行っている(5/12/6,7)。ここでもホバリング走行を行っていることがわかる。このときは追いかけられており、コーナリングさえうまくいけば逃げ切れる可能性もあった。
要するにホバリング走行というのは、スピードも、必要なエネルギーも、人間が走るのとほとんど同程度のものである。あまり意味がないといえば意味がない能力なのである。
ホバリング走行のためには足からガスを噴射する必要があるので、当然、裸足でいなければならない。ファーザーが常に裸足でいることには実用的な意味合いもあるのかもしれない。
もう一方の飛行能力というのは、ガスの噴射などには頼らず、何らかの神秘的な力で宙に浮かんで移動するというものである。アパートの訪問者がナオンかどうか反射的に確かめようとしたり(2/5/8)、やくざから逃げようとしたり(2/10/6)、知佳さんを尾行するのに専念したり(4/5/15)、ズボンを穿かされそうになって逃げたり(4/9/6,7)、婦警から逃げたり(4/13/7)、すねるオンナスキーをナンパに誘いたい一心で追いかけたり(5/13/4)したときは、どうやらこの能力を用いているようである。これらの事例の共通点は、いずれも反射的というか無意識のうちに能力を発揮しているという点である。したがってふだんはなるべく使わないようにしているか、無意識的にしか発揮できない能力なのだろう。包丁を持ってデビル教団を飛んで追いかけたとき、ハアハアハアと疲れている(2/10/3)ので、この飛行能力はたとえばマントにそういう機能があるというわけではなく、ファーザー自身の肉体に備わった能力であり、それなりにスタミナを消費するものであることがわかる。
この2つの飛行能力のうち、どちらを使っているのか判然としない箇所もある。(3/5/7)(3/20/3)(4/5/8,9)など。
犬に襲われる。
ファーザーはよく犬の群れに襲われる(1/19/5)(2/2/5)(3/9/4)(3/20/4)。逆に猫が集まってくる(2/13/6)。「犬には襲われるくせに猫には好かれるのかなあ。お前の存在はこの辺の生態系を乱している様だ。」(2/13/6)とオンナスキーにいわれている。
結果、ファーザーは非常に犬をおそれており、「奴らの中でも恐ろしい勢力は犬・・・/相手勢力を食べようとするのはここだけじゃよ。」(5/19/2)、「いつの日か、犬に食べられない世界を実現したい。/フフ・・・わしって夢想家じゃろか。」(5/19/3)と発言している。
犬に襲われるにしても猫が集まってくるにしても、どちらも群れで来るということは、特定の犬や猫がファーザーに反応しているのではなく、あらゆる犬や猫にファーザーが影響するということである。音、におい、ないしそれ以外の何らかの物質や現象をファーザーが発しており、犬や猫の感覚に訴えるのだろう。これについてはファーザーも不思議がっており、「しかしなぜ、お前なんか襲うのかなあ。」「香ばしいにおいを発してるんじゃろか。/わしっておいしいのか?」という会話をオンナスキーとして、ペロッと手をなめている(5/19/2)。
ところが、犬によく襲われるという現象については、キャプテントーマスが裏で糸を引いているのではないか、という疑いがある。これについてはキャプテントーマスの項で述べる。
犬に襲われるのがキャプテントーマスの関与による現象だとしても、猫が集まって来るという現象の説明にはならない。犬に襲われるのと猫に好かれるのはおそらく表裏一体の現象であり、ファーザーの何らかの性質がもたらす両面の結果なのだと思われるから、やはり犬に襲われるそもそもの原因はファーザーにあることになる。
生理現象。
睡眠(2/1/9)、排便(3/13/8)、汗(1/1/11)、全身の出血(1/3/7)、鼻血(1/2/5)、鼻水(1/3/2)、涙(1/1/11)、よだれ(1/5/2)など、ひととおり確認できる。ひげも生える(1/1/14)ので普段は剃っていると思われる。夢を見たり(2/19/2)、寝ぼけたり(3/13/6)もする。
嘔吐もする。ファーザーの嘔吐物はきらきら光るきれいな液である。血や汗が人間のそれと変わりないのと比べて、このきれいな液だけは見た目が異常である。嘔吐しているのは、排泄をとことん我慢したあげくにオンナスキーに蹴り倒されたとき(3/2/7)、高速回転に失敗して目が回ったとき(3/11/9)などであり、人間でいうところのゲロと考えて間違いない。
また、嘔吐物がきらきら光るきれいな液であるということは、ファーザーの食事の消化方法、すなわち内臓系が人間のそれとは異なるものであることを意味している。「バカな・・・宇宙人のおなかの方が、不思議な器官がありますよ?」(4/17/6)とファーザー自身もいっている。
人間と同じように消化しているのではない以上、実際に食事からエネルギーを摂取しているのかどうかも不明である。というのは、3巻2話の事例ではよく見ると下半身からもこのきれいな液体を垂れ流しており、人間の大小便に相当するファーザーの排泄物もまた、きれいな液であることがわかる。つまりものを食べて胃で消化した後、人間であれば腸における栄養摂取のプロセスを経て大小便になるのだが、ファーザーにはそのプロセスがなく、消化し終わったものをそのまま排出してしまっているのである。
闘気のようなもの。
ファーザーは戦闘意欲が高まると闘気のようなものを発することがたびたびある。(1/4/6)(2/11/3)(2/16/2)(2/20/8)(3/10/14)(3/11/3)(3/18/3)(4/5/8)(4/7/4)(4/8/7)(4/10/8)(5/19/1)など。そのときはファーザーの周囲の空気が渦を巻き、小石などが巻き上げられる。
この闘気のようなものの正体は何か。おそらくこれは、ファーザーがホバリング走行する際に足から噴出するガスのようなものを、拡散的に噴出したものである。つまり足から噴出しているのではないかと思われる。さらに、1巻10話でケダモノから告白を受けたときに、頭のどこかからプシューと煙か湯気のようなものが吹き出ている(1/10/5)し、スピーディーワンダーになったときはヘルメットのようなものに付いたマフラーからガスのようなものを排気している(5/12/8)。闘気のようにガスを噴出しながら耳=突起物の先端からもガスのようなものを噴いたこともある(4/7/4)ので、このガスのようなものはファーザーの身体の任意の場所から噴出することのできるものなのではないかと思われる。浮遊移動に利用するためには足から強力に噴射して浮力と推進力を得るのだが、高ぶった精神状態の時はその制御がままならず、無駄に放出しまうのではないだろうか。このことは5巻18話で、ボオオオオとガスのようなものを噴出した後に飛び去っている(5/18/6)ことからも類推できる。
戦闘意欲がさらに高まると必殺技を出す。ザビ山兄弟になってコンビの間に差が付いたとき、「コンビ解散!!」と叫んで、『ドラゴンボール』のかめはめ波のような技を発射している(1/9/8)。このとき一瞬、ちぎれて血が吹き出たオンナスキーの足が見えているが、これは単なるギャグのようで、次のコマでちゃんとオンナスキーは生きている。ただオンナスキーはそのとき、口から血を流して泣きながら「このバカ! 相方に必殺技あびせるとは殺す気か!?」(1/9/9)とファーザーを締め上げているので、殺傷能力を持つ技であることは確かである。
この技に関しても、ファーザーが身体の随所から噴出するガスを、手のひらから高圧で噴射したものと考えれば合理的に説明できる。手足の項で見ているようにファーザーの皮膚の構造は手足を問わず、ぺたという音を立てる特殊なものである。それにくわえて、任意の箇所からガスを噴出できるような、独自の通気性を確保した構造になっていると思われる。
若者文化成功型コンピューター。
ブタッキーの家の前で張り込んでいるナオンを見つけたとき、「・・・まさかあのナオン、ブタッキーの遠隔操作型スタンド? ようし、コンピューターで分析してやれ。」といい、ヒュウウウブーッブブーッという奇妙な音を出し、「アノなおんハチョベリ/ぶたっきーニフラレタノデ/ダカラクヤシイノデ怒ッタ /ダカラブッ殺ソウト思ッテ/ブッ殺シニ来タ(ぶたっきーヲ)/ッテイウカ?」という出力を得ている(4/13/3)。そしてこの自称コンピューターについて「若者文化成功型コンピューターの解答は99%確実なんじゃよー/弱点・・・人間の気まぐれ。」(4/13/3)と説明している。
ザビ山兄弟になったときも「コンピューターの計算によると・・・/お笑い芸人がもうもってもてじゃよ?」(1/9/2)といっているので、コンピューター云々はその場だけのギャグではなく、何らかの設定として存在しているという可能性もある。
食事。
「チョコってこげ茶色でトンカツじゃないやつじゃろ?」(3/5/2)というようにチョコレートを知らなかったり、喫茶店に入って「店主、コーヒーってなんだ?」(3/11/11)、「このコーヒーってどんなのかね?」(5/10/10)と聞いたりしているところを見ると、ファーザーには、食べ物全般についての知識がまったくないようである。張り込みの時牛乳とあんパンを食べている(4/7/3)(4/11/3)が、これは張り込みには牛乳とアンパンが付き物だという先入観にしたがって食べているだけであり、腹一杯になるまで際限なく食べてしまっている(4/11/4)ところから見ても、牛乳やアンパンを味わって食べているわけではないだろう。つまりファーザーは、食事や味という概念そのものをもともと知らなかったのではないかと思われる。つまりトンカツをおいしい、うまいといって食べている(2/3/1)(2/3/8)(4/6/2)のは、別に好ましい味覚として感じているわけではなく、トンカツとはおいしいものだ、という定義にしたがってそういう態度をとっているだけなのである。ファーザーはトンカツを好きな理由について「トンカツとはトンにカツ・・・つまり己に克つ事じゃよ。/それを食べちゃうのだから、つまり何かに勝った様な気になるわけよ。」(4/6/2)というふうにいっている。味については一言も触れていない点も、この推測を裏付けている。ではトンカツについて「おいしい」という定義を吹き込んだのは誰かといえば、同居者であるオンナスキーであろう。
ただし喫茶店でコーヒーを注文する際、「まあいい、そいつを大量にもらおう。ソース味でな。」(5/10/10)といっている。これは、ふだんトンカツにソースをかけて食べていることから来ているのだろう。味を指定しているので、ファーザーの他の器官が人間のそれとおおむね同様に機能しているのと同じように、味覚(舌)も実際に機能していると思われる。犬に襲われる理由について考えたときも、「香ばしいにおいを発してるんじゃろか。/わしっておいしいのか?」といってペロッと手をなめている(5/19/2)。
つまりファーザーはもともと味を感じることはできるのだが、食事についての知識がいっさいなかったのだということになる。オンナスキーとトンカツを食べることによって、ソース味を含むトンカツの味わいというものは覚えたのだが、他の食べ物を知らないために、味のいい悪いや嗜好について比較検討することを知らず、味といえばソース味しか出てこないのである。
一方、オンナスキーに追い出されてデビル教団にやっかいになっている期間、デビル教団の留守によって食事にありつけず、「あのどぐされ教団、ひんぱんにどっかに行きくさって。おなかペコペコというのに。/トンカツ不足が深刻化している。」(4/4/2)といっているので、腹が減ると苦痛であるというのもまた事実のようである。人間と同じように、食事をエネルギー源としているのだろうか。
しかし、食事をしないと生きていけないのであれば、オンナスキーと出会う以前も食事をしていたはずであるから、食べ物についての知識がほぼ皆無であるというのはおかしい。この矛盾を解決できる説明としては、もともとファーザーは人間とは違う形態の食事(食べ物)を摂取していた、というものが考えられる。
さて重要な問題がある。ファーザーは自分の正体や事情について追求されると、はぐらかす傾向がある。これがたびたびのことなので、どうもファーザーは実は、諸事情をあらかたわきまえた上でふざけた行動に出ているのではないか、と勘ぐりたくなるのである。列記してみよう。
「ありゃだめだ! 人類と別進化したようなお前じゃ無理だ。/ダーウィンが見つけたんだろ、お前?」「・・・忘れた。」(1/1/8)。
「・・・お前まさかぼくをそうやってあやつり人形にして、食いものにしてるんじゃあるまいな。」「別にそんな事違うですよ?」(1/16/7)。このときは、とぼけるファーザーをさらにオンナスキーが締め上げようとしたのだが、「オンナスキー・・・あのナオンお前にぞっこんみたいじゃよ?」「何だってえー!!/それは本当かあー?」(1/16/8)とオンナスキーの注意をそらしてしまって悠然としている。
「汝は一体どこで何してたんだ?」「遠い宇宙の果てから光に乗って、次元をこえて彗星帝国に拾われたバスカービル家の勇者ファーザー・ド・グランバザールOK?/生き別れの息子を求めての大気圏突入は、古今例のない事である。/さあ皆さん、友好の印にオンナスキーのラジカセ(美品)を五千円から。」(2/12/6,7)。
「お前の耳の中の方が怪しいぞ。両耳そろえて見せてみろ。」「ワハハハーこいつとうとうわしのせいにしだしたか。呆れたね。」(3/6/2)。
「でもお前だって警察を出るには身元なんとか人が必要なんじゃないのか?」「うるせー」(3/10/10)。
「それにしてもあの状態から生き返るなんて・・・/お前ほんとに何なんだ?」「スーパースター!!」(3/11/1)。
「・・・何その耳?」「わかりません。」(3/11/4) 。
「・・・というかそもそも我々、ファーザーさんの正体をまだ教えてもらってないんですが・・・」と使徒が大王に質問するとすかさず、「ザ・大王君、実はわしは例のポーズの大ファンでしてな。/などとわしは大王君をしびれさせる様なセリフでおだてていた。」と話題を変えた(4/1/5)。
「・・・しかしこいつ、こんな武器とかどこから・・・」「じゃから無限に広がる大宇宙のじゃなー」「いいよもう・・・お前の説明は何度聞いても分からん。」(4/17/16)。
「その耳、なんなの?」「科学の勝利です。」(5/1/5)。
これらは、はぐらかしの例ではあるが、逆に考えればファーザーが自分自身についても何にも分かっていないか興味を持っていないという例であるとも取れる。だが次のような例もあるので、やはりはぐらかしであると考えるべきである。
アンゴルモア大王が謹慎から復帰してきたときファーザーに向かって「汝!!/数ヶ月前私を変な理由で急に武装ゲリラにしたてあげ、勝手に犯行声明出しといて、忘れたとは言わさんぞ。」と怒ったところ、ぼんやりとした顔をしたあげく「おお、そういえばそんな事もあった・・・/ですか?」と、忘れてしまっていたようなリアクションをしている(3/10/8)。しかし会話が引き続き、東拘がどうとか警察沙汰の話になると「奴は確か重火器等を所持したまま、ゲリラとして捕まったはずじゃよ?」(3/10/9)と、じつはそのとき(大王を武装ゲリラに仕立てた2巻18話)の出来事を詳しく覚えていることが判明しているのである。つまり最初のぼんやりした顔は、明らかにとぼけてみせているということである。確かな記憶力と、絶妙のとぼけ。少なくともファーザーはこういう芸当が出来るのである。したがって、前述のはぐらかし行為も、きちんと意識してのものであると思われる。
さらにファーザーは実は、本来であれば知る由もない諸事情を、何らかの方法で知っているのではないかと思われる節もある。
3巻19話で、アンゴルモア大王について知佳さんが「あ・・・ねえ、この前の黒ずくめの人・・・その・・・誰?/・・・ここで何してるの?」と質問したときオンナスキーが「名前・・・はなんだっけ? ぼくらはただ大王としか・・・」といい、ファーザーも「確かキン肉大王です。」とギャグで答えている(3/19/7)。オンナスキーの発言から、アンゴルモア大王という名前をこの時点では知っていないということが分かる。実際、ファーザーとオンナスキーの前で大王が使徒から「大王」と呼ばれているのは2回だけであり(2/6/10)(3/1/6)、ファーザーだけの前でも「大王」と呼ばれたことが1回あるきりである(3/17/5)。いずれも「大王」のみであり「アンゴルモア大王」とは呼ばれたことがない。このこととオンナスキーの「ぼくらはただ大王としか・・・」という言葉は辻褄が合っている。オンナスキーとファーザーは「大王」が「アンゴルモア大王」であるということを知らないわけである。
ところが、4巻1話、オンナスキーに追い出されてデビル教団の部屋に転がり込んだファーザーは大王と、「さて・・・あんころもち大王。」「アンゴルモアだ!!」(4/1/7)というやりとりをしている。「あんころもち大王」というのは明らかに「アンゴルモア大王」を踏まえただじゃれであり、つまりファーザーは、知るはずのない「アンゴルモア大王」という名前をどのようにしてか知っているということになる。ちなみに物語の中でアンゴルモア大王という単語が出てくるのはこのときが2回目で、では1回目はいつかというと、なんと神聖モテモテ王国侵攻以前、デビル教団初登場時である(2/5/5)。使徒は通常時は大王のことは「大王」としか呼ばないし、ファーザーとオンナスキーもそれに倣って「大王」と呼んでいたのであって、アンゴルモア大王という正式な呼称は、大王自身が名乗るときくらいにしか出てこないはずである。それを知っているとはどういうことなのだろうか。そしてこの疑問と同じくらい重要なのは、オンナスキーや知佳さんに対しても、自分がアンゴルモア大王という名前を知っていることを隠して、「キン肉大王」などというギャグでごまかしている点である。自分が色々知っているという事実を、なるべく隠そうとしているのである。
これらの例から、ファーザーの知識、記憶力、状況判断力などが、実は外見や通常の言動からは想像しにくい高度のレベルにあり、周囲の人間たちをいいように操っているのかもしれない、ということがいえるのである。
ちょっといい話:宇宙人
これは作品とはあまり関係ない話だが、街中によくある「歩行者用道路」「横断禁止」「横断歩道」などの標識をよく見てみよう。・・・う、宇宙人?
オンナスキー
オンナスキーはファーザーによってオンナスキーと呼ばれるメガネと坊主と学生服の少年である。ほとんど常に学生服姿なので、中学生か高校生であることは間違いない。中学生から高校生であるから、年齢は13から18歳である。コミックス各巻の「知ってて欲しい僕たちのこと」には15歳と書いてあるので、とりあえず15歳ということで問題はないだろう。1巻11話で「軍事力を持たんわが国の現状況では、有事の際亡国は必至である」とファーザーがいうのに対して「中学生に滅ぼされかねん。」といっており(1/11/2)、中学生を低く見ているようである。一方MG部隊創設のため男子高を訪れたときは「・・・こいつらマジか?」(3/3/5)と思っており、こいつらという対等口調である。したがってオンナスキーは15歳の高校一年生、さもなければ中学生をダブっている。
オンナスキーの日常は素っ気ないものである。
髪型は坊主頭。めがねをかけている。近眼らしい。「かわいそうに・・・ド近眼君。」(3/20/3)とファーザーにいわれている。めがねの奥の目は、描かれたことがない。
服装は必ず学生服。学校の制服以外の服を着るのは、ファーザーにつきあってコスプレするときぐらいのものである。ザビ山兄弟のザビ山ガルマになったときは「・・・これはなかなか。」(1/9/4)といっており、三国志同好会の周喩殿になったときも「・・・これでもてるのかなあ。/まあコスプレって事で面白がってもらえるかもしれんが・・・」といって「気に入った様子」とト書きが付いている(4/12/3)ので、どうやらコスプレは好きらしい。だが基本は学生服であり、家庭訪問に来た女教師に、「それにしても何で学生服なわけ?」(1/14/5)といわれて返答に詰まっている。この学生服への不条理なこだわりの理由は不明である。どれぐらい不条理かというと、たとえば1巻17話、鞄を持って学校から帰ってきたときは半袖シャツなのだが(1/17/2)、その後ファーザーと一緒に出かけたときは学生服を着ている(1/17/5)。続く1巻18話でも、「キムタク」の貼り紙をファーザーに渡し、「これ何?」「なんか知らんが玄関に貼ってあった。」というやりとりをしながら、学生服を羽織っている(1/18/1)。つまり学校へは半袖シャツ姿で行き、アパートに戻ってからわざわざ学生服を着ているわけである。同様の例はほかにもある。ファーザーにまで「うるせー、この一生、学ランを着る変態!!」(5/9/7)といわれているのだが、改める気配はさっぱりない。
しかし、常に学生服を着ているわりには、学校にはあまりいっていないらしい。ファーザーとナンパに出かけていることが多いから、というのがその理由のようである。さらにファーザーと出会った1巻16話でも、日中にナンパをしているので、出会いの以前もちょくちょく休んでいたのではないかと思われる。ファーザーとナンパしにいくのには、日中の場合と夕方から夜にかけての場合がある。夜にナンパしているときはおそらく学校に行った日なのであろう。
女教師には「深田君さ・・・/休む時って何してんのか気になって来ちゃったんだけどさ・・・実際休み多いよね・・・何してんの?/まあ・・・いろいろ家庭の事情があるのは分かるけどさ・・・」(1/14/5)といわれている。この「家庭の事情」というのが気になるが、単に一般論として、個人的な事情があるんだろうということは分からなくもない、といった程度の意味合いで用いられたと判断することもできる。あるいはオンナスキーが事故の被害者であり、記憶喪失者であり、それらに伴う複雑な事情の下で生活している、ということを指しているのか、それとも作品の表面にはでてきていないが設定として、何らかの公然たる「家庭の事情」があるだろうか。どうやら女教師はオンナスキーの一人暮らしを知っていたようであるから、オンナスキーに「家庭」と呼べるほどのものがないのは承知しているであろう。とするとこの発言は単なる一般論である可能性が濃い。
オンナスキーとファーザーの食事は必ず、白飯とみそ汁、トンカツ、キャベツというものである。トンカツへの不条理なこだわりの理由も不明。飽きずに食べ続けているからには、好きなのだろうが。当然ファーザーも毎食トンカツにつきあわされているが、トンカツを食べて「もー、すごくおいしいですぞ? ぼうず。」(4/6/2)であるとか「うわあ、またもおいしい。/まさにこのトンカツってやつぁー食べるためだけに生まれてきたよのうー」(4/7/3)といっているので、ファーザーもトンカツが嫌いではないらしい。食事内容について選択権を持っているのはオンナスキーであろうから、トンカツをあえて食べ続けているのはオンナスキーの意志によるのである。オンナスキーはファーザーとは違って他の食べ物についてもちゃんと知っているようなので(当たり前といえば当たり前の話だが)、トンカツしか知らないので食べ続けているということはなさそうである。ただ単に、食事の支度や片づけをルーチン化して手間を省いているだけという線もある。
オンナスキーの社会的な本名は深田一郎ということになっている。名字が判明するのは1巻14話の家庭訪問のときであり、「深田君、いるんでしょ?」(1/14/2)という女教師のせりふからである。さらに知佳さんから「変な人がいっちゃんの事追っかけてきてたよ?」(3/11/7)といわれているが、この時点では、いっちゃんという呼び方が判明するだけであり、まだ名前は分からない。深田一郎というフルネームが判明するのは「ぼくはもう深田一郎だ。/・・・お前はまた、別のオンナスキーを見つけてくれ。」(3/21/5)とファーザーに別れを告げる時点である。
オンナスキーの身寄りとしては、いとこということになっている知佳さんのみが登場している。オンナスキーと知佳さんの言動から、知佳さんには父親がおり、その父親はオンナスキーとも面識があるらしい(知佳さんの項で詳述)。
オンナスキーが自分を深田一郎だと思っている理由はただ一つである。知佳さんと知佳さんの父親、ないし存在するとすればそれ以外の知佳さんの家族にそう教え込まれたからである。 なにせ物心付いたときはすでに知佳さんの家に厄介になっているのだから他に自分の出自を知る手段はない。
「お前なんかじゃなくて、ぼくにはちゃんと両親がいたんだ。/ぼくが物心つく前に死んでしまったが。」(5/3/3)といっているが、これもただ教え込まれただけの情報である。また「両親の写真とかだってちゃんとあるし・・・/そうだ・・・先週、知佳さんにもらったばかりのがある。」(5/3/3,4)といって、夫婦らしき男女と幼児が写っている写真をファーザーに見せているのだが、それが本当にオンナスキーとその両親を写した写真であるということは誰にも証明できない。「写真とか」といっているので、写真だけでなく色々と両親を偲ばせるものをもらっているようである。だがこの写真ひとつ取ってみても、知佳さんから渡されたものだというが、それにしてはオンナスキーの記憶喪失の始まりから相当時間が経っており、奇妙なタイミングで渡されたとしかいいようがない。これに対して「情報操作の疑いがある!」(5/3/5)とファーザーはいっている。ファーザーの言葉が戯言だとは誰にも断定できない。
オンナスキー自身も自分の素性には疑念、あるいは深い不安を持っていると思われる。「こ・・・こらパシリスキー!!/お父さんの食前施政方針演説が気に入らんのかーっ。」「うるさい!!/ぼくはまだお前の事父親だって認めたわけじゃない!!」(1/18/2)。まだ認めたわけじゃない、という言い方は意味深である。そもそもオンナスキーはファーザーと出会った時点で、深田一郎という本名を持っているのだから、ファーザーなどという得体の知れない名前の怪人を父親として受け入れるはずは到底ない。だがファーザーがオンナスキーの父親であるということを、そして自分がその息子のオンナスキーであるということを、基本的には戯言として受け流しながらも、これに100パーセントの否定を示していなかったということは、オンナスキー自身、自分が深田一郎であるということに自信というか確信が持てないでいたということを示している。これは記憶喪失のせいもあるだろうし、自らを取り巻く事情の異様さにもよるのだろう。そしてさらに、オンナスキーがファーザーの顔をもともと知っていた、という画期的な情報が5巻に至って発覚するのだが、これについては後述する。
オンナスキーの一人暮らしもまた謎である。
知佳さん一家に頼って一人暮らしをしているのは確かで、仕送りをもらっているし、壊れた電話代の立て替えもしてもらっている(1/20/8)。仕送りとしては本来一人分の生活費しかもらっていないが、ファーザーの存在によって食費が単純計算で倍かかるため、やりくりしてなんとかしているようである。知佳さんは3巻17話で、オンナスキーのアパートを来訪する前に駅から電話をかけてきているので、知佳さんの家族とは、少なくとも電車を使う程度の距離を置いて一人暮らしをしていることが分かる(3/17/2,7)。
ではオンナスキーが一人暮らしを始めたのはいつからか? そしてそれはなぜか? さすがに生活能力の有無の観点から、小学生のときから一人暮らしをしていたとは考えにくいので、タイミングとしてはそれ以後のどの時点かということになる。現在15歳として、ここ3年ほどの間ということである。そしてそれ以前は、知佳さんの家に同居していたか、あるいは別のたとえば、生活の面倒を見てくれる施設のようなところに預けられていたことになる。「知佳さんの家に厄介になっていた」といっても、経済的に支援してもらっていただけという場合もあり得るので、知佳さんの家に同居していたとは限らない。
一人暮らしを始めた理由はまったく不明である。オンナスキーが希望したのか、それとも知佳さんの家族の方に何らかの都合があったのか。オンナスキーがファーザーと同居していることが発覚したとき、「ぼくはてっきりよそに引っこしでもさせられるものと思ってたのに。」(3/17/3) といっている。常識的に考えて、よそ、という言い方を知佳さんの家に対してはしないだろう。つまり、たとえファーザーがいることがばれたところで、また別のアパートのようなところに引っ越しさせられるだけで、知佳さんの家に戻るということはあり得ない、とオンナスキー自身が思っているのである。いったいどういう事情だというのだろう。
いずれにせよ、オンナスキーが遭遇したらしい謎の事故は、一人暮らしを始めたきっかけには関係していないということだけはいえる。というのは、ファーザーとの出会いを知佳さんに説明するとき、「ねえ、この人とはいつ頃知りあったの?」「あ・・・/・・・いつだったかな?/とにかくあの事故のあとで・・・記憶喪失がまだ完治してなくて、ゴチャゴチャしてた時にこいつが・・・」(3/19/6)といっているからである。わざわざ「あの事故のあとで」と付け加えていることから、事故の前も一人暮らししていたのが分かる。事故によって一人暮らしするようになったのなら、ファーザーと出会った時点を説明するのに、わざわざ付け加える必要はない。事故以前にたとえば知佳さんの家に住んでいたなら、その時点でファーザーがいなかったことは知佳さんにも明白だからである。また「記憶喪失がまだ完治してなくて」という言い方からすると、どうやらこの会話をしている時点でオンナスキーの記憶喪失は回復しているようである。もしも一人暮らしが記憶喪失の治療(単独生活を通してリハビリするとか)と関係あるのならば、すでにオンナスキーが一人暮らしをする理由はなくなっており、アパートを引き払っているはずであるから、記憶喪失と一人暮らしがもともと関係ないのだろうということが分かる。ということは事故によって一人暮らしするようになったということもあり得ないことになる。実際、オンナスキーの記憶喪失の治療は主に通院によって行われているので、一人暮らしとは関係ないのである。通院の都合で一人暮らしするということもないだろう。通院は毎月一度だけであり、遠くまで通わなければならなくなるとしても、そのためだけに引っ越すというのは説得力に欠ける話である。
ともあれ、記憶喪失の15歳の少年を一人暮らしさせておくというのは非常識な話である。
さらにオンナスキーは謎の事故で記憶喪失になっている。「あの事故のあとで・・・記憶喪失がまだ完治してなくて」といっており、知佳さんも「いっちゃんさ・・・事故当時と比べると色んな事、話すようになったなって思ってたの。」(4/5/20)といっているので、記憶喪失はこの謎の事故によるものであると考えてよい。「くだらん妄想育ててないで、おとなしくしてろ。/ぼくは今日遅いからな、病院寄るから。」「病院じゃとー?」「毎月驚くな。/例の記憶喪失だよ。まだ完治してないんだ。」(2/12/2,3)といっており、おそらくは毎月1回ずつ、病院にいっている。記憶喪失の治療というのがどういうものなのかはよく知らないが、薬物療法とか催眠療法とか使うのだろうか。
この謎の事故についての記述は作品中にはほとんどない。オンナスキーはよくファーザーの起こす事件に巻き込まれてけがを負うが、記憶を失ったほどであるから、少なくともそれ以上の大きな、あるいは劇的な事故だったと思われる。それにしては作品中でもっとも過去の出来事であるファーザーとオンナスキーの遭遇(1巻16話)の時点で、オンナスキーは五体満足でナンパしているので、仮に事故で怪我をしていたのならこの時点ではそれは完治しているのである。しかし繰り返すが、事故というのは大きな事故だったはずなのである。そしてファーザー登場の時点で、まだ記憶喪失で頭がゴチャゴチャしていた。「あの事故のあとで・・・記憶喪失がまだ完治してなくて」という知佳さんへの説明は、ファーザーと出会ったタイミングについての説明であり、時期的にもっとも近い出来事を使って説明しようとしているのであるから、事故とファーザーとの出会いは、時期的にわりと近いものと考えることができる。
とすると、記憶喪失を伴うほどの大きな事故というのは、たとえば骨折であるとか、その他の外傷をともなうものではなかったのではないかということになる。むしろ生理的あるいは精神的に強烈なショックがあるものだったのではないか。知佳さんもオンナスキーの回復について「事故当時と比べると色んな事、話すようになったなって思ってたの。」といっており、外傷についてはまったく触れず、事故(とそれに伴う記憶喪失)によってオンナスキーが無口になった、すなわち精神的ダメージを負ったらしいことのみを強調している。
となると、事故というのはかなり特殊なものであったことになる。そして、そもそもそんな事故が存在したのかどうかもあやしい、といったら勘ぐりすぎだろうか。オンナスキーはほとんどの記憶を失ったのだから、事故についてもおそらく覚えておらず、単にあとから自分の記憶がないことについて、医者や周囲の人間から「事故のためである」という説明を受け、それを鵜呑みにしているだけなのではないだろうか。
オンナスキーの記憶喪失というのはどの程度のものだったのか。 知佳さんについて説明するとき、「・・・ぼくは物心ついた頃から、どうもあの家にやっかいになってたみたいなんだ・・・」(2/1/3)といっているので、「物心ついた頃から」の記憶のほとんどをなくしてしまっていたのである。そして逆に、物心ついていない頃、というのは、物心がついていないのだから記憶もほとんどないだろう。ということはオンナスキーの記憶喪失というのは、要するに自分についての一切合切を忘れてしまったというもの、ということになる。一応、記憶喪失の種類によっては、言語や基本的生活習慣すら忘れてしまうものもないわけではないようだが、とりあえずここではそこまでは考えなくてよいだろう。
前出の「記憶喪失が完治してなくて」という言い方は、すでに記憶喪失が治ったということを踏まえてのものであると考えられる。この発言は3巻19話におけるものであり、2巻12話では「例の記憶喪失だよ。まだ完治してないんだ」といっているのだから、記憶喪失が治癒したのはこの間のいずれかの時点ということになる。だがこの間に、不意に記憶が完全に戻った、ということを読者に示す言動はないので、月々の通院によって徐々に記憶を得ていったということになる。
結局、5巻2話で「ああ・・・/というか・・・/とにかく先生が来いっていうんだから行かなくちゃ。/もうずいぶん思い出してはいるんだが、少しずつだから・・・/こうなるといつ完治したといえるのかもわからん。」(5/3/2)といっているので、オンナスキーの記憶喪失は一気に治ったのではなく、徐々に記憶を得てきて、ほぼ完治したといえるくらいまでに回復してきたのだということがはっきりする。完治という言葉を使うようになったということは、絶対的な完治とはいかないまでも、そう呼んで差し支えない程度には回復したということを指すのだろう。
だが、まだ医者には通えといわれている、というのがオンナスキーの言い分である。作品中、オンナスキーの通院シーンはまったく描かれることはなく、「学校に行ってくる。今日は例の遅くなる日だが、つつがなく暮らせ。」(5/2/2)のように、帰宅が遅れることをファーザーに朝のうちに予告して、そのままその日は遅くに帰ってくるだけである。したがって、本当に病院に通っているのかどうか、ということについては、厳密には確認することはできない。つまり、ひょっとするとオンナスキーの通院というのは実は、「記憶のない少年が何らかの医学的施設に通い、毎月少しずつ記憶を植え付けられている」というシチュエーションである、という可能性もあるわけである。そしてもちろんこの場合、植え付けられている記憶が偽りのものであるという場合だってあるのである。「とにかく先生が来いっていうんだから行かなくちゃ。」(5/3/2)というふうにオンナスキーは医者のいうことを鵜呑みにして通院している。むろん記憶喪失者として、医者のいうことに従わざるを得ないのは無理のない話だが、それにしてもオンナスキーの盲従ぶりには多少引っかかるものがあるといわなければならない。
さらに、記憶が戻ってきているということが分かりづらいのには、オンナスキーの言動や態度が、物語の当初からまったくといっていいほど変化していないという理由もある。記憶が戻るにつれ、本来そうであったところのオンナスキーの人格というのも戻ってくるはずだが、別に変わったところはない。最初と同じように、ナオンにもてることを夢見たり、ファーザーのギャグにつっこみをいれているだけである。行動半径や交友関係も変化していない。変化していないというよりも、ほとんどゼロからゼロのままなのである。これでほんとうにオンナスキーの記憶は戻ってきているのだろうか。
記憶が戻ったことで変化があったとすれば、それはファーザーに対する態度に関してである。もともとはファーザーを、ひょっとすると父親なのかも知れないと思っていたようだが、記憶が戻り、かつ知佳さんから両親の写真や情報を得たことで、それはない、という結論に落ち着いたようだ。3巻21話で「ぼくはもう深田一郎だ。/・・・お前はまた、別のオンナスキーを見つけてくれ。」(3/21/5)とファーザーに決別を告げたのは、そういうこともあっての判断だろう。
しかし4巻5話で知佳さんが、ファーザーとの同居を認める理由として、ファーザーやアンゴルモア大王達と生活することがオンナスキーにとって必要なことなのかもしれない、ということをいっている。これはオンナスキーの状態がいまだ完璧とは言い難いということを前提とした発言であるから、かりにオンナスキーの記憶が戻っているとしても、オンナスキーの負った精神的ダメージはそれだけではない、ということも考えておかなければならない。
オンナスキーはファーザーの正体についてどう思っているのか。
「黙れ、このへなちょこニセ宇宙人!!」(1/7/4)、「お前・・・宇宙人だとか建国だとか、バカな話はするなよ。/知佳さんはぼくがお前とつるんでる事を、しぶしぶ認めてるに過ぎないんだからな。」(4/9/2)などといっているので、基本的には宇宙人だとか神聖モテモテ王国といった話は、ファーザーの与太話だと受け取っているようである(常識からいえば当たり前の話だが)。しかし同時に、「そんな事より問題なのは・・・/未だにお前が何者なのか、分からないって事だ!」(1/16/6)といっているように、ファーザーの正体がなんなのか、気にしていないわけでもない。ファーザーが異常な生物であることを示す証拠はオンナスキーも多々目撃しているのだが、それをもとにファーザーの正体を考えようとしても、どうにも想像の枠を越えているので、とりあえず保留ということにしているようである。「いや・・・もういい。/お前が誰だって。/・・・というよりお前の正体なんて知りたくない。なんだか知ってしまったら終わりって気もするし・・・/ぼくにとって昔の事ってまだあいまいだし・・・/その上、今の生活がなくなっちゃったら・・・困る。」(5/3/7)というのがオンナスキーのファーザーの正体に関する全体的な見解であるとして間違いないだろう。
ファーザーを同居人として受け入れた理由については、1巻16話でファーザーとの出会いについて回想し、「あのまま何だかわからんうちにお前のペースに乗せられて一緒に暮らすはめに・・・」「もてさせてやるっていっただけじゃよ?」「べ・・・別にそれだけが理由じゃない。」(1/16/6)というやりとりをしている。「それだけが理由じゃない」という言葉の真意については、3巻21話において 「ただ・・・もててみたかったんだ。/・・・でも一人じゃナオンに声もかけられないし・・・一緒にナンパする友達も・・・/・・・というか友達自体いなかったし・・・/ただ一緒に飯食ってくれる生き物がいるだけでも、いいかなって感じで・・・」(3/21/3,4)とオンナスキー自身がいったん告白している。
しかし精神的な面に限った話としても、オンナスキーが告白している以上の深刻な理由があると思った方がよい。なぜならオンナスキーは友達がいないどころではなく、記憶もなく、家族もおらず、学校にもろくに行く気にならず、当然ナオンにももてない、という、精神的に深刻な状況にとらわれていたからである。「いっちゃんさ・・・事故当時と比べると色んな事、話すようになったなって思ってたの。」(4/5/20)と知佳さんにいわれているように、おそらくは事故を機に、精神的に負の状態に陥ったのだろうと思われる。知佳さんが「色んな事話すようになった」というからには、以前は記憶がないから話題もない、という状態だったのだろうし、それだけでなく、精神状態そのものが落ち込んで口数が減っていたという意味にも取れる。ともかく、「お前がこの部屋に住みついてからぼくの生活はどうなった!?/ここん家はすでに回覧板の流通経路からも外されてんだぞ!!」(1/1/4)、「しかし・・・丸見えはやはり色々とまずいんだが・・・・・・もう近所の人も僕にあいさつしてくれなくなったし・・・」(2/1/5) というような目に遭ってまでファーザーとの同居を続けているという事実は、オンナスキーがファーザーをいかに好きかということよりは、オンナスキーの抱える心の傷あるいは心の虚ろさが、いかに大きなものであるか(あったか)ということを示しているといえるだろう。つまりたとえいかなる異常な人物であっても、同居を求めてくる=自分を必要とする存在がいるということは、精神的に健全とは言い難い状態にあったオンナスキーに対し、拒否しがたい魅力となって彼を従わせたのである。逆をいうと、そういう少年を突き放して一人暮らしさせているという、知佳さんと知佳さんの家族の態度の不自然さも浮かび上がってくることになる。
ファーザーのもてたさぶりは異常だが、それに付いていき、ファーザーの発案する突拍子もないナンパ作戦に荷担するオンナスキーも、異常なもてたさを抱えているのである。このもてたさはオンナスキーの抱える精神的な飢餓感から来るもの、といえないだろうか。同様に、ザビ山兄弟や三国志のコスプレを気に入った様子なのも、キャラクターに扮することで、たとえ表面上だけでも、そのような飢餓感がわずかでも満たされることに安心感を覚えるからではないだろうか。
ところが、である。5巻3話に至って、ファーザーやオンナスキーを巡る謎は一気に急展開を見せる。
「しかし・・・一つだけ気になる事がある。/それがお前を父親かもしれないって思ってしまった理由なんだが・・・/その・・・/とにかく初めてお前を見た時びっくりして・・・/いや・・・つまり・・・/お前の顔・・・/なぜだか知らないが、覚えていたんだ。」(5/3/6)
とオンナスキーがいっているのがそれである。オンナスキーは少なくとも、ファーザーの顔を知っていたのである。そしてこれを単に知っていたという理解で片づけることはできない。なぜならこのときオンナスキーは「とにかくあの事故のあとで・・・記憶喪失がまだ完治してなくて、ゴチャゴチャしてた時にこいつが・・・」(3/19/6)という状態であった。すなわち、記憶を持たない少年の唯一の記憶がファーザーの顔だったということである。このことと、ファーザーがオンナスキーの前に突然降って現れたということは、無関係ではありえない。すなわち、ファーザーとオンナスキーの出会いが偶然のものである、という見方は、この一点をもって完全に否定できるのである。
ファーザーの顔に見覚えがあったというのは、いわゆる既視感(デジャヴ)だったのではないか、という考え方もあるだろうが、既視感だけで「父親かも知れない」とは思わないだろうから、この考え方は却下して差し支えあるまい。
オンナスキーがファーザーの顔を知っていた、という事実の判明によって、主要登場人物の相関関係が非常に密なものになった。すなわち、
ファーザー
オンナスキーをもともと知っている(何らかの理由で息子だと思っている)。
キャプテントーマスをもともと知っている(見覚えがある)。
オンナスキー
ファーザーをもともと知っている(見覚えがある)。
知佳さんをもともと知っている(いとこだ、と聞かされているが・・・)。
知佳さん
オンナスキーをもともと知っている(いとこだ、と言い聞かせているが・・・)。
アンゴルモア大王をもともと知っている(顔と何らかのプロフィールを)。
これは知佳さんの項で詳述する。
アンゴルモア大王
ファーザーをもともと知っている(十年前写真か何かで見せられた)。
キャプテントーマスをもともと知っている(何者なのかよく知っていると思われる)。
これはアンゴルモア大王の項で詳述する。
キャプテントーマス
ファーザーをもともと知っている(妙に詳しい)。
アンゴルモア大王をもともと知っている(何者なのかよく知っていると思われる)。
これはキャプテントーマスの項で詳述する。
このように、5人の主要登場人物はそれぞれ、最低でも他の2人と、何らかの表面的ではないつながりを持っていることになる。こうなってくると、それぞれのキャラクターがそれぞれのポジションで行動していることについて、偶然の入り込む余地はなく、それぞれの背景と目的にきっちり従って登場し行動しているのだ、という確信がいっそう強いものとなってくるのである。
話をオンナスキーに戻すと、ファーザーの顔を見覚えていることについて、それを見たのはいつなのか、という疑問が湧いてくる。
これまで判明している情報を踏まえてオンナスキーのこれまでの人生を時期・タイミングで整理してみると、
1 物心付く前に両親が亡くなった。
2 物心付いたときから知佳さんの家に厄介になっていた。
3 一人暮らしを始めた。
4 事故で記憶喪失になった。
5 ナンパに出歩ける程度に回復し、ファーザーと(ふたたび)出会った。
という具合である。ただし1から4まではすべて、知佳さん及び周囲の人間からの伝聞であると思われる。時間的には1から4までの間に、オンナスキーの15歳という年齢を考えて、おおよそ10年前後の期間が過ぎている。
ファーザーの顔を見覚えたタイミングがあるとすれば物語的に考えて、1か4である。この2つの可能性についてそれぞれ考えてみる。
1の時点、物心つく前に見たのである場合。
この場合、ファーザーを何らかの状況で目撃してしまったということと、オンナスキーの両親がそろって亡くなっているということが無関係であるとは考えにくい。ファーザーを見るような何らかの状況に置かれたせいでオンナスキーの両親は死に至った、と考えるのがもっとも無理がないだろう。短絡的にいえば、ファーザーのせいでオンナスキーの両親は死んだことになる。そしてなぜかオンナスキーだけが生き延び、この幼少時の記憶を抱えたまま成長したということになる。一人暮らししたりしているのもそういった事情によると考えられるだろう。いわばファーザーは親の仇である。
しかしこの場合、その10年後、すなわち最近になって謎の事故に遭い、記憶喪失になったということの理由が浮かびにくい。
先述のとおりオンナスキーの遭った事故というのは通常の交通事故のようなものではなく、精神的ショックの大きい特殊なものだったのだと思われるのである。ファーザーが行方不明になっていた10年と、何か関係がありそうなスパンではあるが、実際にはファーザーが再登場したのは事故からしばらく後の5の時点であり、直接関連づけて考えることは難しい。なぜ事故に遭い、なぜ記憶喪失になったのか。この場合、そういった疑問に納得のいく解答を見つけることが、少なくとも現時点で判明している事実からは不可能なのである。
4の時点、記憶喪失の原因となった事故の際にファーザーを見たのである場合。
この場合、1の時点でオンナスキーの両親が亡くなっているのは、少なくともファーザーとオンナスキーの関わりという見地からは無縁の理由であることになる。4の時点に至るまでお互いにまったく見知らぬ存在だからである。とすると、一人暮らしをするようになった理由も先述のとおりの不可解かつ不自然なもののままである。
つまりどちらの場合も、不自然な点は残るのである。
しかしこれについては、実は、考えるまでもなく不自然なのである。
というのはオンナスキーは通院による治療や、知佳さんから色々と教えられたりもらったりすることによって自分の過去をだいぶ埋めることができているようなのだが、埋まった記憶の中には、ファーザーに会ったことがあるという記憶は存在していないからである。
ファーザーの顔に見覚えがあるというのはオンナスキー自身がいっている、確かな記憶である。オンナスキー自身、ファーザーの顔を見覚えているということについては「まあ顔だけだが。いやしかし気のせいかな。あの頃の事はぼくにもよく・・・」(5/3/7)といっており、自信がなさそうであるが、突飛なスタイルの怪人を父親かも知れないと思ってしまったのだから、墜落してきたファーザーの顔はよほど確実に記憶と合致していたのだと考えるしかない。実際、ファーザーの顔をのぞき込んだときのオンナスキーの態度は「・・・こいつ!?」と驚くというものである(1/16/5)から、ファーザーの顔に見覚えがあったというのは事実と考えて間違いない。そしてそれ以外の記憶というのは教えられたり病院で引き出されたりした(とオンナスキーが思っている)記憶である。この両者が矛盾していることになるのだが、矛盾したふたつの記憶のうち一方が確かなものであるのならば、もう一方に何らかの虚偽があると考えるのが当然であろう。
つまり、記憶喪失の治療や知佳さんから与えられている「深田一郎の過去」には、紛れもなく、どこかに嘘があるのである。もしくは、最悪の場合、すべてが嘘なのである。
そして、伝聞による過去に虚偽が含まれている可能性がある以上、ファーザーとオンナスキーが過去に出会ったのがいつなのか、という問いは意味をなさないことになる。前述の1から5などというリストアップが無意味になり、すべてを空白に戻して考えねばならないからである。
オンナスキーがファーザーの顔を見覚えているのだから、ファーザーがオンナスキーを「息子である」と言い張ることについても、それなりの意味がある可能性が俄然強くなってくる。つまり偶然出会った少年を、むやみに息子だと言い張っているわけではないということである。二人の間には確実に何らかのつながりが存在しており、それがファーザーをしてオンナスキーを息子と呼ばせているのだということである。
息子と呼んでいる以上、ファーザーが子供というものをどのように考えているかを知る必要がある。「だいたいお前、父親だって言いはるなら母親はどうした、どこの誰だ!?」とオンナスキーに訊かれて「はあ?/いねーが?」と答えている(5/3/5)のと、「じゃが、わしの勘ではおそらく赤ちゃんは・・・/科学者が造っている。」(5/3/5)というのがそれである。これを受けてオンナスキーは「・・・お前、その程度の認識でナオンナオンって騒いでたのか?」と呆れているが、なぜかファーザーのリアクションは「はいはい、そーですよそーですよ。/まったくバカとしゃべると疲れるにゃー」(5/3/5,6)という醒めたものである。実際、ファーザーが人間の子造りについて無知なのかというとそんなことはない。007の映画について「スパイがもつ危険な香りに誘われたナオンが、お互いもう大人なんだからいろんな事をして任務完了。/仲間が殺されるがまたいろんな事をして任務完了。」(2/4/2)といっているからである。このときはさらに「そういうとこしか覚えていない。」(2/4/2)というト書きまで付いている。つまり、科学者が造っている、という言葉には、通常の人間の子造りとは別の意味がある可能性がある。
科学者が造っている、というせりふから思い出されるのが、2巻19話でファーザーが見た初夢である。この夢の中にオンナスキーは、巨大ロボットとして出てくる。「しっとロボ ビッグメガネ。もてないので亡命して巨大化してせめてくるとは。」(2/19/4)と夢の中のファーザーはいっている。この夢は、神聖モテモテ王国の建国に成功したファーザーがナオンたちと楽しく遊んでいると、巨大化したオンナスキーに街を破壊され、悪魔鬼ファーザー一世も歯が立たず、最後はオンナスキーに踏みつぶされてファーザーが死ぬ、というものである。つまり基本的に、ふだんのファーザーが妄想し描いているモテモテ王国のビジョンと矛盾したものではない。その中に登場するオンナスキーがロボットになっているのはどういう意味なのだろうか。ファーザーは「亡命して巨大化した」とはいっているが、「ロボットになった」とはいっていない。まさかファーザーはオンナスキーをロボットそのものだと思っているとは考えられないが、少なくともそう思わせる何かが、オンナスキーにあるということなのではないだろうか。
本当は、この条はもうちょっと突っ込んで述べたいのだが、いかんせんデータが不十分であるし、これは物語の謎の核心部分であることもあり、現時点で断定的な書き方をしてしまうのは危険であるから、とりあえず現在ある実際のデータを提示するにとどめたい。
最後に、ファーザーの項で述べたとおり、オンナスキーもファーザーもともに、首が伸びるという奇妙な体質を持っていることをふたたび指摘して、オンナスキーに関してはここまでとしておく。
ちょっといい話:ダブルミーニング
ダブルミーニング(double meaning)というのは、同じ言葉やアクションに二重の意味を持たせるという創作上のテクニックであり、わかりにくいので通常、少年漫画では使われない。ギャグ漫画であればなおさらである。
しかしこの作品では用いられている。たとえば、1巻15話のタイトルは「運命の出会いは近い」というものである。この1巻15話はファーザーが占い師ルネ・バンチュータ先生に扮し、街角でナオンにそのものずばり「運命の出会いは近い。」(1/15/4)と告げ、そのナオンをしてオンナスキーに声をかけさせようとする話である(当然失敗するが)。ところが続く1巻16話のタイトルは「出会い」であり、内容はファーザーとオンナスキーのまさに運命的な出会いを回想するというものである。この漫画がファーザーとオンナスキーがすでに同居している時点から唐突に開始されており、二人の出会いをそれまでまったく描いていなかったことを踏まえると、1巻15話の「運命の出会いは近い」というタイトルは、1巻16話を予告したものであると受け取れるのである。すなわちこのタイトルは、ダブルミーニング、ということになる。この漫画はそういうことをする作品なのである。
そしてダブルミーニングはしばしばミスリーディング(misleading=読者の錯誤を誘うテクニック)を伴う。要注意である。
知佳さん
知佳さんはオンナスキーのいとこ、ということになっている。だがオンナスキーの項で述べたように、オンナスキーとの関係には不明瞭な点が多いので、必ずしも鵜呑みにはできない。
知佳さんの初登場は1巻19話である(1/19/8)。ただしこの1巻19話での登場は、次の1巻20話のための前振りであり、実際にまともにしゃべったりするのは1巻20話からである(1/20/4)。知佳さんは若い女性ではあるが、実際に何をやっている人物なのかはいっさい明かされていない。服装もありきたりなものでこれといった特徴がない。学生なのか社会人なのかも、年齢も、ほとんど分からない。「昨日のいとこさんはどこにお住まいじゃろか?/大学生ですな?/男は?」とファーザーがオンナスキーに訊いているが、「お前がそんな事知る必要はない。」と質問を却下されている(3/12/1,2)。大学生程度に見えたということは、年齢は20歳前後だろう。またこのときオンナスキーはファーザーの質問に対して、知らない、とはいっていないので、作品の表面上で明かされていない知佳さんのプロフィールもある程度は知っているようである。ただその知識がどの程度のものであるかは分からない。正月には、「お正月が到来したのに、いるだけスキーは親戚とやらの所に行ってるし、/うろたえデビルは例の事件いらい戻ってこないんじゃよなー」(2/19/1)とひとりきりになったファーザーが言っており、親戚とやら、というのは知佳さんのと知佳さんの家族のことだと思われるので、少なくとも知佳さんの住所はオンナスキーも知っていることになる。
オンナスキーといとこというからには知佳さんの名字は深田かもしれないが、はっきりしていない。オンナスキーが腹痛を装うキャプテントーマスに対して「腹なら、わが深田家の秘伝で治してやる!」(4/17/5)といっているが、深田家、という言い方は自分以外の深田姓の人間もひっくるめて表現しているのであり、オンナスキーにとって身近なそういう人物は知佳さんと知佳さんの家族しかいない、ということを踏まえると、知佳さんも深田姓である可能性が高い。
知佳さんとオンナスキーの間柄については、以下のような会話から読みとれる。
「ふざけるな! 仕送りをやりくりして何とか生かしてやってんだぞ。/だいたいお前食費だけでいくらかかると思ってんだ。」(1/15/1)。
「父が様子を見てこいって・・・仕送り足りてる?/何か困ってることはない?/なんでも言ってね。いとこなんだから遠慮しないで。」(1/20/5)。
「それより、さっきの訪問者はナオンの様じゃったが?」「・・・いとこだ。/せっかく心配して来てくれたのに・・・」(2/1/2)。
「・・・ぼくは物心ついた頃から、どうもあの家にやっかいになってたみたいなんだ・・・/今も仕送り受けてるし・・・あの人はお姉さんの様なものなんだ。」(2/1/3)。
「・・・あれはぼくのいとこだ。/ただ時々ぼくの事心配して会いにきてくれてただけで・・・」(3/11/13)。
「・・・大体あの人はぼくのお姉さんの様なものだ。/・・・恋愛対象じゃない。」(3/14/2)。
「あっ、あの・・・おじさんは元気ですか?」「え・・・うん。」(3/19/6)。
「両親の写真とかだってちゃんとあるし・・・/そうだ・・・先週、知佳さんにもらったばかりのがある。」(5/3/3,4)
いとこであること、姉のような存在であって恋愛対象ではないこと、ときどき様子を見に来てくれていたこと、知佳さんには父親がおりオンナスキーとも面識があるらしいこと、知佳さんの家から仕送りしてもらって生活していること、などが分かる。
彼女はときどきオンナスキーの様子を見に来ている。そのペースは、もともとは数ヶ月置きだったと思われる。実質的な初登場が1巻20話であり、その時点でファーザーの存在を知らないし気づいてもいないからである。つまり初登場時以前にオンナスキーのもとを訪れたのはファーザーとオンナスキーが出会う前だったのであり、そこから知佳さんが物語に初登場する時点までの間、オンナスキーがファーザーと出会ってあれこれと出来事が起きていた期間は数ヶ月はあると考えるべきだから、知佳さんがオンナスキーのもとを訪れていた間隔というのも最低数ヶ月置きだったのだろうということである。そして2回目の登場は3巻11話である。1回目と2回目の登場の間には、少なくともクリスマス(2巻18話)、正月(2巻19話)、バレンタインデー(3巻5話)を挟んでいるので、これもまた数ヶ月が経過している。しかしこの3巻11話で、知佳さんはファーザーの存在を知り、オンナスキーを取り巻く状況に変化が起きていることに勘づき、以降来訪のペースがあがる。
知佳さんがその背景に秘めている謎の存在がもっとも顕著になるのは、アンゴルモア大王との関わりにおいてあろう。
まず知佳さんについて考察する上で大前提となるのは、知佳さんが大王を何らかの形で知っている、という事実である。3巻13話で、大王が廊下に貼ったひもにつまずいて転ばされた。大王はファーザーを転ばせたと思って喜んで出てきたが、勘違いであると分かってあわてて引っ込んだ。このとき、知佳さんに顔を見られたようである(3/13/3)。そしてそれに対する知佳さんのリアクションが興味深い。真剣な表情とも取れる顔で、「嘘・・・/・・・今の、」(3/13/4)といっているのである。 このリアクションから、明らかに知佳さんが大王を何らかの形で知っているということが分かるのである。これは間違いあるまい。ではなぜ、どのように知っているのか。これを考えてみる。
そもそも大王は、別に世間に対して隠れて行動しているわけではないということを考える必要がある。大王は大王のコスチュームを着用して、使徒を引き連れ、ごく当然のようにデビルカーを走らせたり市街地を歩いたり、電車に乗ったりしている(2/5/6,7)。使徒と買い物に出かけ、「フハハハハ、汝ら、次のバイオハザードの舞台って、どこだか知ってる?」と世間話をしながら歩いたりもする(2/10/3)。街角で悪の説教もする(2/18/3)。つまりデビル教団はアンダーグラウンドな組織ではあるが、その存在を取り立てて隠しているわけではない。とすると、ふつうならばたとえば珍しい団体ということで目を付けたマスコミによってその存在が世に喧伝されるということもあり得るのである。しかしそんな様子は見られない。デビル教団は警察に影響力を持っているくらいであるから、マスコミに対しても同じように影響力を働かせられるのではないかと思われる。したがって大王や使徒は、町田支部周辺においては公然とその姿をさらしてはいるが、それ以上のレベルでデビル教団の存在が世に示されることはないのだろうと考えることが出来る(こういった事情については大王の項で詳述)。何がいいたいかというと、知佳さんが一般人として大王の存在やそのキャラクターを知ることはおそらく不可能であるということである。オンナスキーの項で見たとおり、知佳さんはオンナスキーのアパートから少なくとも一駅は離れた土地に住んでいるので、オンナスキーのアパート周辺の地域住民が大王を知るようにして大王を知ることは出来ない。かといってそれ以外のチャンネルで一般人に大王の存在が知らされることもない。つまり知佳さんが大王を知っているとすれば、その事実は知佳さんという人物が大王の情報にタッチできるような、特殊な背景を持っていることを示唆することになるのである。さらに細かく検証してみよう。
まず、オンナスキーの部屋の前で転ばされたあと、オンナスキーが帰ってきたとき「ねえあのっ・・・黒ずくめの人知りあい?」「・・・いっちゃんあの人に何かされたりしてない? 平気?」と尋ねている(3/13/4,5)。「あの」と「黒ずくめの人」との間に一瞬言葉に詰まっていることに注目すべきである。もちろんただ単に表現に詰まっただけとも受け取れる。しかし、大王を、知佳さんがもともと知っているところの呼称で呼ぼうとしたが、裏事情の露見をおそれてそれを思いとどまり、当たり障りのない表現に差し替えたとも受け取れる。さらに引き続いての「あの人に何かされたりしてない?」という言葉も意味深である。知佳さんはまさに転ばされたばかりであるから、そういういたずらのような「何か」をする人であると思った、とも受け取れるが、仮に大王について、ある意味で危険人物であるという予備知識があったのなら、それに基づいた発言であるとも受け取れる。そして、知佳さんが大王を知っているということははっきりしているのだから、これらの2点については、いずれも後者であると考えるべきである。
事実、知佳さんが大王に示す興味は一通りではない。ファーザーがオンナスキーのアパートにいるのを見て「・・・どういう事? この人もさっきの人の仲間?」と訊いたり(3/13/7)、オンナスキーから正式にファーザーの紹介を受けるときも「あ・・・ねえ、この前の黒ずくめの人・・・その・・・誰?/・・・ここで何してるの?」また「その人に・・・その、何かされてない?」と質問し、その不自然さはファーザーに「ええい、なぜ奴の事など気にするんじゃよー/奴なんぞよりわしの方が重大問題でしょ?」といわれるほどである(3/19/7)。その後も「・・・元気そうね、ファーザーさんも。/大王さんは元気?」(4/9/4)と、ファーザーへのあいさつにかこつけて大王のことを訊いている。これらの例から分かるのは、知佳さんは少なくともファーザーよりは大王に興味があるということである。ファーザーは見た目も言動も異様そのもので、しかもオンナスキーの同居人なのに、一応人間であり、隣人であるだけの大王の方により興味を示しているのである。また同時に、「いっちゃんさ・・・事故当時に比べると色んな事、話すようになったなって思ってたの。/それって私じゃなくて、ファーザーさん達のおかげなのかもしれないって・・・」(4/5/20)といっているので、どうやらファーザーのことを大王の仲間だと思っているらしいことも見て取れる。
だが逆の見方をするならば、あれこれ質問するということは、大王についてよく知らない、ということにもなる。たとえば、大王についてはよく知らないが、オンナスキーの隣に住んでいる変人なので気になって質問している、という風にも取れるわけである。しかし、繰り返すが、知佳さんは大王について、少なくとも顔と、要注意人物であるということは知っているのである。ということは、大王について質問を繰り返すということには、大王に関する情報収集、もしくはオンナスキーが大王についてどの程度知っているかという情報収集という目的があると思わなければならない。そしてこのふたつのうちどちらなのか、という問題が生じる。しかし、大王にとっては別にアンゴルモア大王としての生活がすべてではないようだから、知佳さんが大王をアンゴルモア大王として知っているのではなく、大王の別の側面を知っているという可能性もある。とりあえず様々な場合が考えられ、そのいずれも決め手に欠くので、ここでは保留とする。
少なくとも、仮に大王を、敵、として認識しているのであれば、オンナスキーを即刻アパートから引っ越させるはずであるから、とりあえず大王についてはほとんど危険視していないようである。大王がアパートに越してきたのは知佳さんにとっては脅威ではなく、あくまでも予想していなかった事件であるに過ぎないということであろう。そしてこのことは、知佳さんの抱える背景というのは、大王と反対の立場にあるというよりは、むしろ大王と同類のものであるということを示唆している。
大王について知佳さんが「あ・・・ねえ、この前の黒ずくめの人・・・その・・・誰?/・・・ここで何してるの?」(3/19/7)と質問したときファーザーが「確かキン肉大王です。」と答えている(3/19/7)。これを受けて知佳さんは「ホラ・・・そのキン肉大王さんと抱き合ってたじゃないですか。/そういえば、あれコントだよね」(3/19/8)といい、実際大王にも「あの・・・/キン肉大王さん。/申しわけありませんでした。/後ほど必ずお詫びに伺いますので・・・」(4/5/19)といっている。知佳さんが大王のことを何らかの形で知っているという事実を踏まえると、この「キン肉大王」という呼称を素直に用いているのは、あくまでも知らないという外見を装うための巧妙な芝居であるか、それとも大王を大王としてではなく大王の別の側面を知っているだけなのか、どちらかである。しかしその後、「大王さんはお元気?」(4/9/4)とファーザーに訊いており、「キン肉」を省いているので、これはアンゴルモア大王という意味合いで発言しているのではないかとも思える。つまりアンゴルモア大王としての大王を知っているのではないかと。もしも「キン肉大王」という呼称を芝居として使っていたとしたら、知佳さんはかなりのくわせ者と考えるべきだろう。
しかし知佳さんの言動にはまったく矛盾がないかといえばそんなことはない。オンナスキーがファーザーと同居しているのを知ったとき、「・・・とにかく今回の事は・・・そのー/とにかくこの事お父さんに話してみるから。 」(3/13/9)といってそそくさと帰ってしまうのだが、その後オンナスキーと話し合うとき、なぜか一言も知佳さんの父親の反応については触れない。むしろ知佳さんの独断で、オンナスキーとファーザーの同居について悩んだり判断を下したりしたような口振りである。また前述のとおり4巻5話で大王に「後ほど必ずお詫びに伺いますので」といっているのだが、ファーザーにズボンを穿かせようとして一悶着したのち、そのままアパートを出て行ってしまっているので(4/5/24)、実行されていないことが分かる。この4巻5話24頁は知佳さんの正体について示唆する重要な頁であると思われるが、これについては別に述べる。
知佳さんはオンナスキーに、大王についての質問を繰り返している。そのうちでも2回、「何かされていないか」ということを確認している(3/13/5)(3/19/7)。実はここから重大な推理が浮かび上がってくる。単刀直入にいうと、「知佳さんは、デビル教団のアパート駐留の目的がオンナスキーだと思っているのではないか」ということである。なぜなら知佳さんはファーザーのことを知らない上に、ファーザーは大王の仲間だと思っているらしい。つまりファーザーさん達=ファーザーと大王(と使徒)、そしてオンナスキー、という二者でくくって考えているのだから、知佳さんの中で、要注意人物である大王がアパートにいる理由というのは、オンナスキー目当て、ということしか浮上しないのである。そしてそう思うからには、オンナスキーについても知佳さんは何らかの事情を承知しているのである。つまり、大王に目を付けられるような理由がオンナスキーにはある、ということを知っているのである。
オンナスキーはデビル教団の標的が自分だなどとは思ったことがないので、それはオンナスキーには知らされていない事情ということになる。このことと、オンナスキーの奇妙な一人暮らしとは、無関係ではないと考えてもそう不自然ではない。オンナスキーが大王に目を付けられてもおかしくない理由と、オンナスキーが知佳さんと知佳さんの家族との奇妙な関係を維持しつつ一人暮らししている理由、このふたつは、読者には明かされていない事情によりリンクしている可能性がある。
とするならば、大王とファーザー、大王とオンナスキー、というふたつの関係により、間接的ながらファーザーとオンナスキーにある種の接点が生じることになる。大王が監視しているのはファーザーなのだが、知佳さんはそれがオンナスキーなのだと思っているのではないか、ということであるから、ファーザーとオンナスキーにはともに、デビル教団に目を付けられるような事情がある、という点で、接点というか共通点があることになるのである。そしてオンナスキーが大王に目を付けられてもおかしくない理由と、オンナスキーが知佳さんと知佳さんの家族との奇妙な関係を維持しつつ一人暮らししている理由、さらに、オンナスキーとファーザーが出会った理由。この三つはおそらく、読者には明かされていない事情によりリンクしているのである。
それにしても、オンナスキーが大王に目を付けられてもおかしくないような、当人さえ知らない事情とは、一体なんなのだろうか?
ところで知佳さんは微妙な、あるいは不審な「間」を取ることがある。
アンゴルモア大王にひもで転ばされ、大王の顔を一瞥したたあと(3/13/4)、オンナスキーの苦肉の説明「あ・・・あの、知佳さん。/実はこいつ・・・/売れないお笑いタレントでして・・・」(3/19/8) を聞いたあと、ファーザーによる大王の説明「奴はただお忍びで、時々やってきては、わしの体にうつつをぬかしたり、バカなかっこしてる金持ちのドラ息子なんじゃよ。」(4/9/4)を聞いたあと、といったところである。これらの「間」は、知佳さんが知佳さん自身の所属する事情に基づいて、見聞した情報をとっさに吟味咀嚼している瞬間であると考えるのが妥当であろう。
正確には「間」ではないが、知佳さんの思わせぶりな行動が最高潮に達する描写がある。4巻5話24頁である。オンナスキーとファーザーを仲直りさせ、オンナスキーのアパートから出てきた知佳さんは、立ち止まり、意味深な表情でアパートを振り返る。これだけの描写に1頁まるごとが費やされている。展開の速いこの漫画において、このスペースの割き方は非常に目立つものである。これが制作上の都合だけとは思えず、重要な意図がここには表されていると判断すべきだろう。またこの頁の直前の頁では使徒が大王に、ファーザーのDNAの分析結果を報告しており(4/5/23)、物語の背景に潜む謎の一端をかいま見せる構成になっている。ということは知佳さんの単純な行動に1頁がまるまる割かれていることにも、それなりの重みを置くべきである。
知佳さんがファーザーの存在を知り、オンナスキーとの同居を認めるプロセスは以下の通りである。
3巻11話。
新スパイ大作としてオンナスキーを尾行していたファーザーと遭遇し、「・・・ちょっと、/あの子と知りあいなの?」「無論。」(3/11/5)という会話をする。そしてそのあと喫茶店でオンナスキーと話していたところにファーザーが入ってきて、オンナスキーと一緒に出て行ってしまう。知佳さんも追いかけようとしたが、喫茶店の勘定を払わねばならないので引き離されてしまった。この時点で、ファーザーとオンナスキーが知り合いであるということを知佳さんが確認しているのは間違いない。
3巻13話。
オンナスキーのアパートを直接訪れ、大王に転ばされたりしたあと、オンナスキーの部屋から寝ぼけて出てきたファーザーを目撃。このときはファーザーが大王のワナで宙づりにされたまま失禁するというハプニングがあったのであたふたと帰ってしまった(3/13/9)。
3巻17話。
駅前からオンナスキーに、これから行くという電話をいれたが、アパートの前で女装したファーザーと大王が絡んでいるのを見て驚き、帰ってしまう(3/17/7)。夜になってオンナスキーに電話を入れているが、このときはたぶん、今日は都合で行けなかった、とでもいいわけをしたのだろう。来訪前の電話では、ファーザーのことを「変だけど悪い人じゃないはずだ」といっているので、このときはすでに一応、ファーザーとオンナスキーの同居を認める方針が固まっていたのだろうと思われる。そしてそれについて詳しい話をするはずだったのだがファーザーと大王の異様なシーンを見て帰ってしまったということである。
3巻19話。
ついに直接アパートでファーザーと正式に対面。ファーザーが自己紹介。そしてオンナスキーが、ファーザーや大王が実はお笑い芸人であるという嘘を知佳さんにつく。すると意外なことに知佳さんはそれをすんなりと受け入れた。そして3巻20話の冒頭でそのまま帰ってしまったので、ファーザーとオンナスキーの同居については特におとがめなしということで済んだようである。このときはなぜ同居を認めるのかについては、知佳さんは何もコメントしていない。
4巻5話。
アパート来訪。このときはちょうどオンナスキーがファーザーを追い出していた時期であり、知佳さんはそのことを大王と使徒の会話から知る。そしてオンナスキーに、ファーザー達がオンナスキーにとって必要な人間達なのではないかと思っている、ということを説明する。これを物陰で聞いていたファーザーが飛び出てきてオンナスキーと仲直りする。
知佳さんは3巻13話でオンナスキーとファーザーが同居しているらしいことを知ってしまう。オンナスキーがどうしても隠しておきたかった事実である。そしてこのことを知った知佳さんは帰ってしまう。しかし4巻5話までに、知佳さんはどういうわけかオンナスキーとファーザーの同居を認める方針に固まっていた。常識的にいえば、他の住人が全員締め出され、隣の部屋にデビル教団町田支部が設置され、覆面やら黒ずくめやらのあやしげないでたちの人物が出入りしているようなアパートに、人間離れした怪人物といっしょに暮らしている、というような状態を許しておくのは絶対に不自然であり異常である。
この不自然さについてはオンナスキーもくりかえし首をひねっている。「お前の事、変だけど悪い人じゃないはずだって・・・/なぜ、お前なんかかばうのかさっぱりわからん・・・お前を更生させられるとでも思ってるみたいだ。」(3/17/2)、「・・・やっぱりおかしい。お前を許せるのか神だけのはずだ。」(3/17/3)、「・・・しかし信じてくれるとは思ってなかった・・・/・・・何か変だなあ・・・」(3/19/9)、「・・・しかし、何かおかしい。ここんとこ知佳さん何か変だ・・・/あんな嘘に簡単にひっかかるし・・・」(3/20/2)。
「あんな嘘」を「信じてくれ」たというのは、デビル教団もファーザーも売れないお笑い芸人である(だから変わり者なのだ)という、オンナスキーが苦し紛れに考えたいいわけのことである。しかしこれはあまりにも強引ないいわけであり、到底信じてもらえるものではないとオンナスキー自身が思っていたが、なぜかそれが知佳さんにすんなり受け入れられたので、不審に思っているのである。
知佳さんが現状維持を受け入れた理由として、オンナスキーが当初考えたことはふたつある。ファーザーを更生させられるとでも思っているのではないか、ということと、「お前なんかとつるんでるぼくの事が、疎ましくなってもうどうでもよくなったんだ。」(3/21/3)ということである。が、仮にファーザーを更生させられると知佳さんが思ったにしても、それではデビル教団を受け入れる=異常な状態になっているアパートに住み続けることを認めることの理由にはならない。またオンナスキーのことが疎ましくなったのではないことは、そのあとも来訪していることでわかるので、いずれもオンナスキーの誤解であると思われる。
ファーザーとの同居を認めた理由として知佳さんがいっているのは、「いっちゃんさ・・・事故当時と比べると色んな事、話すようになったなって思ってたの。/それって私じゃなくて、ファーザーさん達のおかげなのかもしれないって・・・/いっちゃんにとって、あの人達が必要なのかもしれないって・・・」(4/5/20)というものである。つまり事故によって記憶喪失になったオンナスキーにとって、ファーザーや大王との暮らしがいい意味でのリハビリになっているのではないかということである。
しかし「私じゃなくて」という言い方というか考え方には、ちょっと首をひねらざるを得ない。先述の通り、ファーザーや大王の存在を知る前の知佳さんの来訪ペースは、数カ月置きである。1年に3,4回といったところだろう。あとは時々電話をかけてきていただけであり、これでは、オンナスキーの世話をしているというよりも、どちらかといえば疎遠というほうが適当である。疎遠になっていた間に、オンナスキーにいい意味での変化があったからといって、ふつうなら自分がそれに付与しているとは思うまい。
さらに 知佳さんは「でも、あの人達の事やっぱり不安にも思ったし・・・私、どう対処していいのか今までよくわかんなくて・・・」(4/5/20)、 「でも、あの人達の事私やっぱり心配で・・・だから時々様子見に来たいんだけど・・・」(4/5/21)といっている。「やっぱり不安」「やっぱり心配」「どう対処していいのかよくわからない」というほどの強烈な異常さを備えた状況にオンナスキーをあえて置きつつ、「時々様子を見に来たい」というのは、やはり不自然である。オンナスキーが記憶喪失及び何らかの精神的な問題を抱えていることを思えばなおさらである。しかも言い方から察するに、これらの思考や判断はすべて知佳さんの独断のようである。また先述の通り、「とにかくこの事お父さんに話してみるから。 」(3/13/9)といっていたくせに、知佳さんの父親の意見がまったく出てきていないところも矛盾している。そもそもオンナスキーに仕送りをしているのは知佳さんの父親であって、知佳さんではないはずである。したがってオンナスキーの一人暮らしのあり方について決定権を握っているのも、知佳さんではなく知佳さんの父親のはずなのである。
総合的に見て、オンナスキーのファーザーや大王との共存を認める際の知佳さんの言動には、いまひとつ筋が通っていない、といわざるを得ない。
知佳さんは大王について何らかの背景を承知している。ということは、単にオンナスキーのために現状維持を許すというだけではなく、やはりもっと別の意味がある、と考えるべきであろう。
では知佳さんの真意はどういうところにあるかというと、それを端的に表現している人物がいる。なんとファーザーである。嘘に簡単に引っかかった知佳さんのことをいぶかるオンナスキーと、「まぬけが・・・/いとこさんは貴様の愚策にあえて乗ったにすぎんのじゃよ。」「・・・なんで?」「わしにほれたから。貴様とわしを別れさせると、もうわしと会えなくなるので、貴様の計略にはまったふりをして、現状を維持したってわけよ。」(3/20/3)というやりとりをしている。もちろん、惚れた云々は問題外として、オンナスキーの嘘に乗ったふりをして現状を維持した、という解釈は、知佳さんの奇妙な言動の数々をまさに的確に捉えているといえよう。大王を知っていること、大王とオンナスキーを関連づける材料を持っているらしいこと、この2点から考えれば、それでもアパートに住まわせ続けようとするのは、現状を維持したまま推移を見守りたいと思っているからではないか、ということになる。
そしてそれを望むからには、大王がオンナスキーにとって無害であることを知っていることにもなる。その点についてはオンナスキーにも、危害を加えられていないかどうか確認しているし、もしかすると知佳さん自身がもともと持っている情報も参照したのかもしれない。またファーザーについては、3巻17話で大王と絡むファーザーを目撃しており、ファーザー自身が大王について「とんまなわしの子分じゃよ。わしがとんまじゃないですよ。/野郎、わしにぞっこんなんじゃよね。」(3/19/7)と知佳さんに説明していることもあるから、大王の仲間であると考えているのだろう。
知佳さんが大王の情報を持っているとなると、ファーザーについても何か知っていておかしくない。しかし、先述の通りファーザーにはあまり興味を示していないし、4巻9話や4巻15話でファーザーにズボンを穿かせようとしている、すなわち「普通」にしようとしているところを見ると、ファーザーを単なる変人と考え、それ以上の重要性を持っている相手だとは認めていない節がある。むろん大王の関連人物である以上、マークしてはいるだろうが。
なんにしても、オンナスキーの安全を気遣っているようなので、少なくともオンナスキーに危害の及ぶことのないように事を運びたいと思っているのは間違いないようである。
ちょっといい話:コミックスの表紙
コミックスの表紙には毎回登場人物が描かれているが、実は法則に基づいて描かれている。法則とは、巻数=描かれる人数、というものである。
1巻:ファーザー
2巻:ファーザー、オンナスキー
3巻:ファーザー、オンナスキー、アンゴルモア大王
4巻:ファーザー、オンナスキー、アンゴルモア大王、知佳さん
5巻:ファーザー、オンナスキー、アンゴルモア大王、知佳さん、キャプテントーマス
という具合に1人ずつ増えているわけである(4巻表紙の大王は手しか描かれていないが)。
ということは6巻表紙には5巻表紙の面子に加えて、ブタッキーかヘビトカゲが描かれるだろう。
ちなみに人物の背景に用いられている写真は、1巻から順に、地球、ギザの三大ピラミッド、モアイ、グランドキャニオンとなっており、2巻以降は世界七不思議のシリーズになっているようである。しかし5巻表紙では、CG処理された空の画像になったので、七不思議の法則は覆された。さらに背表紙も大幅にイメージチェンジされ、ファーザーの仮装キャラ大集合といったおもむきのイラストが載っている。したがってこの点について6巻以降がどうなるかは、なんともいえない。
また5巻の中表紙でもキャラクター集合のイラストが描かれているが、そのうち17人は白抜きのシルエットになっており正体が不明である。これらのシルエットになっているキャラクターが今後登場することがあるのかどうか、これについてもなんともいえない。
アンゴルモア大王
皮肉な話だが、ある意味、この作品に登場するキャラクターの中でもっとも裏表のないピュアな人物である。
大王の初登場は2巻5話である。この時点まで、オンナスキーのアパートやファーザーの背中に謎の貼り紙があいついでおり、悪の魔の手が伸びているとファーザーが主張し、「本当に悪の魔の手が伸びていたと仮定してみる。」(2/5/3)とト書きが入ったところで登場する。最初のセリフは「デービール!!」(2/5/4)というもの。
この初登場時、使徒からの報告を受けてファーザーの現在住所を知る。このとき報告の映像を見ながら「あのバカ、平気で一般社会にまぎれこんでいようとは。」(2/5/5)といっており、ファーザーの過去あるいは正体について何らかの知識を持っていることが分かる。そして、「しかも見よ、神に約束された神聖モテモテ王国とくるー/奴と女達のきらめきラブ国家とくるー/神に魂を売り渡すとは。/変態め!!/許せんな、デビルの祝福を受けたこのアンゴルモア大王としては、/ほうっておいては必ずや将来、我がデビル教団に禍根を残す。/直ちにモテモテ王国に侵攻する。」(2/5/5)と述べる。ここでアンゴルモア大王という名前が判明する。また、デビル教団が神聖モテモテ王国を狙うのは元々、神聖モテモテ王国という国が神に祝福されたものであるので、デビルをあがめる悪のデビル教団としては思想的に敵対するものであるから、という理屈によっていたらしいことが分かる。加えて、「ほうっておいては必ずや将来、我がデビル教団に禍根を残す」という言い方からして、神聖モテモテ王国を脅威になりうる存在ととらえているのだが、それはおそらくモテモテ王国をとなえているのがファーザーだからだろう。2巻6話でも「しかし、あいつら本当に我々がつぶす必要があるんですか?」と使徒に訊かれ、「確かに私も前にのりこんだ時はそう思った。しかし・・・/これまでの経緯から言って、奴には強力なバックがある可能性が高い。/今トーマスに調べさせているが・・・あなどってはいかん。」(2/6/3,4)といっている。このとき大王が想定しているファーザーのバックというのは、わりと具体的なものであると思われる。すなわち特定の人物名や団体名、もしくはファーザーのバックがどういうタイプの勢力であるか、そういったことをある程度具体的に念頭に置いて発言していると思われる。しかしそれを発言してはいない。
ところでデビル教団が、ファーザーの出現を知り調査をしていたとしても、オンナスキーのアパートやファーザーの背中に貼り紙をするという行為の理由にはならない。また調査をしていたのは使徒達のようだが、使徒達はそういう幼稚ないたずら行為をするタイプの人間ではないので、貼り紙がデビル教団の仕業であるという可能性はさらに薄れる。とすると貼り紙の犯人は別にいることになる。もちろん単なるギャグで別段意味はないという可能性もある。またキャプテントーマスの項でも述べるが、キャプテントーマスが犯人であるという場合も考えられる。
アンゴルモア大王の本名は、むろん、別にあるだろう。大王がいかなる人物かについては、ファーザーが知佳さんに向かって「やつはただお忍びで、時々やってきては、わしの体にうつつをぬかしたり、バカなかっこしてる金持ちのドラ息子なんじゃよ。」(4/9/4)と説明している。3巻10話でアパートに復帰してきたとき、スーツ姿でリムジンに乗ってアパートに戻ってきた。そして部下のような男に「旦那・・・」(3/10/3)と呼びかけられており、おそらくこれは「旦那様」のいいかけであるから、「ボンボン」という表現は的確ではないかもしれない。大王は10年前にファーザーの情報にタッチしており、そのときすでに謎のコネクションに加わっていたのだから、現在は少なくとも30代であろう。ファーザーが大王に惚れられていると勘違いして「ええい、なぜわしの祈りは中年男性の元に届くんじゃよー」(3/14/9)といっているので、中年男性、ということだけははっきりしている。
2巻5話のモテモテ王国侵攻はオンナスキーが警察を呼ぼうとしたため中止になった。また2巻6話では「うろつかれちゃ困るっていってんだ。/帰れ、変なメーテル。」(2/6/9)とオンナスキーにいってのけられて大王が逆上し、実際にアパートにミサイルを撃ち込もうとしたが、すんでのところでトーマスからの連絡が入り、モテモテ王国にはバックがないことが分かった。そしてモテモテ王国侵攻自体が取りやめとなった。そのかわり、オンナスキーのアパートの住人を追い出しておいたことを利用して、アパートにデビル教団町田支部が作られることになった。大王及びデビル教団が物語に本格的に絡むようになるのはこういう経緯による。
オンナスキーの部屋の隣に設置されたのはデビル教団町田支部である。では他の支部も存在するかというと、おそらくそれはない。
とりあえずデビル教団には本部があることは間違いない。変なメーテルと呼ばれて逆上した大王が「本部に指令ー/秘密ミサイル発射口開け!!/発射準備、攻撃目標モテモテ王国。」(2/6/10)と叫んでいる。そしてそれに呼応して、どこかの山中にある秘密ミサイル発射口が、ズウン、ブウウンと開かれた(2/6/10)。2巻5話におけるデビル教団初登場時、密閉された広い室内で大王が使徒の報告を受けている(2/5/4,5)が、このときはおそらくこの本部にいる。モテモテ王国侵攻に向かうとき、車や電車で移動している(2/5/6,7)し、「途中いろんな事があったらしい。」(2/6/8)ということで大王が血を流しているということはそれなりに時間が経過したということであるから、オンナスキーのアパートからはけっこう距離があることが分かる。ただし、2巻6話で、この施設内部が描かれる直前のコマで、何か建物がちらりと描かれている(2/6/3)ので、山中のミサイル施設と本部は別物であると考えることもできる。
そもそもデビル教団町田支部は、ファーザーの監視のために設置された支部である。ファーザーに匹敵するような重要な理由がない限り他に支部が設置されることもないだろう。単なる一支部に教団の長である大王がいりびたりになっているという状況から察しても、他に支部はないと考えるべきである。 また3巻10話で謹慎から復帰したときに、真っ先に町田支部に来たという点もこのことを裏付けている。
5巻では「そう言えば、君はしばらく本部の方だったな。」(5/14/5)という会話が使徒同士によって行われており、町田支部駐留が交代制で行われていることが分かる。ふだん本部で、あるいは支部で、デビル教団の具体的な活動として何をしているのかは不明である。交代制で使徒が入れ替わっているということは、それなりに活動内容があることはあるのだろう。
ファーザーの項で述べたとおり、大王がファーザーについて知っていることは限られている。「別にわたしだって正体までは知らんよ。/10年ぐらい前のことだったと思うが・・・ただ、写真か何かで見せられただけで・・・/こいつが行方不明になったとか・・・騒いでて・・・/ただ10年もこんなやつが暮らしていけるなんて・・・てっきり何かバックがあるものと思ってたが。/でも・・・10年前は知らんが、今は単なるバカなのではないかなあ。」(4/5/5,6)というのがすべてのようである。
とりあえずファーザーは興味深い対象であり、「これまでの経緯から言って、奴には強力なバックがある可能性が高い」(2/6/4)、「待て・・・だがこいつなんで今ごろ現れた? 何かがある・・・監視下におかねば・・・」(2/6/13)といった理由からオンナスキーのアパートに駐留している。明確なバックは存在しないらしい、ということは2巻6話におけるトーマスの報告、及びデビル教団駐留後のファーザーの監視によって判明しているので、「てっきり何かバックがあるものと思ってたが」ということになったのだが、「何かがある」という疑念についてはいまだ払拭されていない。
また知佳さんが大王をマークしているらしいことは知佳さんの項で述べたとおりだが、大王の方は知佳さんのことは何も知らないらしい。「さっき知らない女の人を間違えて転ばしちゃったんだ。」(3/14/4)と使徒が別の使徒に説明している。
オンナスキーについても、何とも思っていないようだ。第1次モテモテ王国侵攻の際、オンナスキーに対しては「こんにちは悪の者だが。/それよりどけ、」(2/5/9)といって、殴って排除している。知佳さんの項で述べたようにオンナスキーにはひょっとすると大王に狙われるような秘密があるのかもしれないのだが、大王はそのことは知らないようだ。となるとオンナスキーの秘密というのは大王ですら触れることの出来ない、高次のものなのかもしれない。
アンゴルモア大王、及び大王の率いるデビル教団は、単なる趣味の集団ではなく、軍事力、科学力、経済力などを兼ね備えた、しっかりしたというか恐るべき組織である。
「なにしろマジで、東京ぐらいふきとばせる兵力持ってるからなあ。」(2/9/8)と使徒がいっている。実際、2巻6話でカッとなって本当にミサイルを発射しそうになっている。このときはアパートめがけて発射しようとしたのだが、東京を吹き飛ばすとなると、ミサイルの1基や2基では済まないので、相当な軍事設備を持っていることが分かる。
4巻5話では使徒によってファーザーのDNAの分析が行われている。
2巻5話で描かれているデビル教団本部の内部では、空中にビデオの映像が映し出されている(2/5/5)。ハイテクも持っているのである。2巻6話の「デビルカー二世のひみつ」を見ると、デビルウイングで空を飛べるとある。また「●宇宙にも行けるが、乗っている人は死ぬ。」(2/6/4)とある。設定上の事実だとすれば、とりあえず宇宙に行けるだけでも大変なものである。なおデビルカー二世は、2巻5話で出てきた、おそらくデビルカー一世と思われる乗り物と、少なくとも見た目はまったく同じである。
アパートにしかけた鉄球トラップ(3/10/11)、ロープトラップ(3/10/15)、宙づりトラップ(3/13/8)、道路にしかけた強制メイクトラップ(3/11/6)、恐怖デビルブランコ(4/6/7)などにはいずれも精密な設計と設置が必要であるから、そういう場面でもデビル教団の科学技術力および資金力が発揮されている。
このワナについてだが、大王は「実はこの近辺には数ヶ月かけていろんなワナがはりめぐらせてある。/汝にのみ反応するしかけだ。もうすでにさっきスイッチを入れてきたんだぞ!!」(3/10/10)といっている。ファーザーにのみ反応する、というところについては考察を加える必要があるだろう。スイッチを入れた、という表現によって、ファーザーにのみ反応する=ファーザーを識別する方法というのが電気式であり自動式であることがわかる(誰かが見張っていてファーザーが通ったら起動させるのではない、ということ)。ではどのようにしてファーザーを識別しているのか。ワナの発動に着目してみると、すべての場合(3/10/10)(3/10/15)(3/10/16)(3/11/5)(3/13/7)(3/13/8)(4/6/5)(5/20/7)において、ファーザーが何らかのスイッチを足で踏んでカチという音がしていることがわかる。しかし路上に設置されているワナもあるので、ただ単にスイッチを踏むだけでワナが起動するとしたら、一般人も巻き込まれてしまう。スイッチそのものが何らかのセンサーになっているか、スイッチを踏むことでワナとともに仕掛けられているセンサーが起動する必要がある。まずファーザーを識別して、その上でワナが発動しなければならないのである。路上にもワナがあることを考えると、おそらくスイッチそのものがセンサーになっているのではないだろうか。
使徒がファーザーのDNA分析を行うのは4巻に入ってからであるから、3巻10話の「数ヶ月」前の時点では、厳密にファーザーを識別できる科学的根拠はあまり持っていないことになる。考え得るもっとも確実な識別方法は、裸足である。ファーザーはつねに裸足で行動しているので、裸足であることを確認できればだいたいファーザーであると思って間違いあるまい。しかし、それだけでは100パーセント確実というわけにはいかない。ファーザーの皮膚の構造が特殊なものであることはファーザーの項で見たとおりなので、この皮膚を特定できればファーザーを特定できると思われる。(この条ANIさんの指摘による)
2巻6話ではファーザーたちへの嫌がらせとして、「そうそう・・・このアパートはお前らの部屋以外、全て買い取った。」(2/6/7)といっており、これは事実である。デビル教団の経済力からすれば、些細な買い物だろう。
各方面への影響力という意味での力ももちろん持っている。警察にもその影響力は発揮される。2巻5話ではデビルカーが警官に見つかっているが、「・・・とにかく署まで来て。」といわれても「・・・フッ。」という余裕ありげな態度である(2/5/7) 。ただしデビルカー自体は没収されたらしい。使用を自重したというわけではないことは、続く2巻6話で懲りずにデビルカー二世に乗っていることで分かる。いずれの場合にも時間はほとんど食っていないようなので、影響力の行使は速やかかつ確実な威力を発揮するようだ。また2巻18話で大王はファーザーにより武装ゲリラに仕立て上げられ、警察に捕まった。重火器を装備し町中で発砲や爆発を起こしている(実際はファーザーの仕業)ので、かなりの大事件であり、本来ならばニュースにも流れるはずだがどうやらそれはない。大王が捕まったという知らせを聞いても使徒のリアクションは「やっぱり大王捕まっちゃったらしいです。/今警察にいるって。」(2/18/7)と落ち着いたものである。大王は以後、3巻10話まで謹慎ということで登場しなくなるが、それ以上の処分を受けた形跡はない。そして大王が復帰してきた3巻10話ではさっそく、教団のしかけた鉄球がアパートの壁をぶち抜いて道路にめりこむというハプニングが起きているが、「警察の方はなんとかしておきます。」(3/10/12)と使徒がいっており、事実警察の方はなんとかしたのだろう。また、大王自身ではなく使徒が「何とかしておきます」といっているということは、警察に用いる影響力というのは、大王の大王として以外の顔が持っている影響力ではなく、あくまでもデビル教団として用いる影響力なのであると考えられる。ただし、大王はモテモテ王国侵攻の際、「勝手にしろ。/ぼくは警察呼んでくるからな。」とオンナスキーがいったところ「警察う?/ようし、今日のところはこのへんで引き上げるとしよう!!」といって、なぜかファーザーと一緒に逃げてしまった(2/5/10,11)ので、基本的に警察は苦手としているようである。
そもそもミサイル発射施設を持っているような怪しげな団体というものがあれば、即座に国家権力が動いてつぶされるはずだが、デビル教団はそれを免れている。ということはよほど強力な影響力を持っているのだということになる。
大王と使徒たちは、デビルカーで町中を走ったり(2/5/6)(2/6/4、町中を歩いたり(2/5/7)、電車に乗ったり(2/5/7)、観光地で写真を撮ったり(2/9/5)、買い物に出歩いたり(2/10/3)、クリスマスの町で悪の説教をしたり(2/18/3)しているので、別段こそこそと隠れて生活しているわけではないのは明らかである。にもかかわらず、有名になっている様子は見受けられない。ということは、 デビル教団の存在そのものが世の中には伏せられているのだろう。つまり、ふだん生活する範囲で人前に行動をさらすのは仕方がないと割り切り、それなりの手段でフォローするようにしているのだと考えられる。生活圏でのフォローをしつつ、それ以上に有名になることがないように、情報の伝達に蓋をしているのであろう。すなわちデビル教団の影響力は警察のみならずマスコミなどの他の方面にも発揮されるものであることが分かる。
大王は金持ちだと思われるが、このようにデビル教団という組織は、金持ちの道楽にしては明らかに度を超した力を持っている。少なくとも遊び半分で運営できるような組織ではない。
2巻18話において、大王はファーザーに武装ゲリラ「12月のクリスマス」に仕立て上げられ、警察に捕まった。これ以後しばらく登場しなくなった時期があるが、3巻10話で再登場したとき、「汝のせいで私はしばらく謹慎しなくてはいけなかったのだぞ!!」(3/10/9)といっていた。確かに2巻18話からずっと登場していなかったのだが、使徒が「あんなに戻ってくるのを楽しみにしてたのに。」(3/10/5)といっているので、謹慎期間中も使徒らと最低限、連絡だけはとれていたようである。この場合の「謹慎」というのはおそらく、アンゴルモア大王として活動することを自粛させられ、金持ちという表の顔でのみ生活することを余儀なくされていたということではないだろうか。
そして、この「謹慎」をさせたのは誰だろうか。可能性はいくつかある。表の顔のほうで大王よりも上位に立つ人物ないし権力機構。もうひとつは大王のデビル教団の顔の方で大王より上位に立つ人物ないし権力機構である。 あるいはその両方を兼ね備えた人物ないし権力機構。いずれにせよ、大王よりもさらに上位に位置する人物ないし権力機構が存在するということだけはいえる。かなりの力を持つ大王にもやはり、バックボーンは存在するのである。
ここでデビルカー二世について、「●宇宙にも行けるが、乗っている人は死ぬ。」(2/6/4)という情報があることに注目したい。かりに宇宙に行けるのが本当であるとすると、デビルカーというのは本来、宇宙に行ったときに乗っていても死なない人、のための乗り物であることになる。そういう人はひとりだけいる。不死身の自称宇宙人、ファーザーである。すなわちデビルカーとは、実はファーザー(とその同類)のための乗り物なのではないだろうか。まだ単行本化されていないエピソードでは、デビルカーが「レプリカ」と呼ばれる工作物の一種であることが判明している。この「レプリカ」の具体的な意味は明らかにされていないが、察するに、超文明の科学的所産を現行の科学技術を用いて分析・模造したものではないかと思われる。SF小説でよくあるやつである。
また、大王が第2次モテモテ王国侵攻の際にオンナスキーの部屋に忘れていった未来的なデザインのピストルだが、これについてファーザーは「ふむう・・・あまり見覚えがねーにゃー。こんなかっこいいピストル。」(4/17/17)といっており、さほど違和感を感じていない。さらに5巻2話の扉絵には、このピストルを構えたファーザーのイラストが描かれている。とすると実はこのピストルも、「レプリカ」なのではないか。
つまり各種「レプリカ」はそもそもファーザー(とその同類)のためのものなのではないかと思われる。ファーザーの出自がどのようなものなのか、現時点ではまったく不明だが、これらの「レプリカ」の元となるような超文明がそこにはあるのではないかと思われるのである。そして、アンゴルモア大王とデビル教団が属するアンダーグラウンドな社会においては、その超文明の科学技術の解析が行われ、結果として、現代の水準を超えた科学技術を得るに至っていると考えられる。そうしたオーバーテクノロジーは彼らにとっては、資金源ともなりえるし、軍事力への転用も可能であろう。
大王はファーザーに関する情報を知っていたが、もともと直接タッチしていたわけではない。ファーザーを10年ぶりに発見して監視しているが、もともとファーザーに直接関わっていたほうの組織には教えてやらなくていいのだろうか。その組織は10年前にファーザーを見失った時点であきらめた、あるいは解体してしまっているのだろうか。考えられるのは、その組織とデビル教団のパイプが太いものである場合、つまりその組織の目的をある程度独断で肩代わりできるほどの関係である場合である。あるいはすでにもともとの組織に連絡はしてあるとも考えられる。その場合なんらかのリアクションがその組織からあるはずである。そしてデビル教団自身がそれを受けて何らかの反応をした形跡は特にない。
それに該当するものがあるとしたら、キャプテントーマスが登場し、デビル教団の部屋に住みついたことがそうなのかもしれない。
ちょっといい話:使徒
常に覆面姿の使徒はみな、表面上は礼儀正しく、温厚な性格である。最大同時確認数は5人である(2/5/6)(2/12/3)(3/6/6)(3/10/1)。したがって使徒は少なくとも町田支部には5人しかいない。使徒そのものが全体で5人しかいないという可能性もある。
この5人にはそれぞれ役割や担当があるのかもしれないが、全員コスチュームが同じであり覆面もかぶっているので、判別不能である。
キャプテントーマスの項で述べるが、使徒の一人の名前がトーマスである可能性がある。
使徒は なんらかの理由でアンゴルモア大王に絶対の忠誠を捧げている。アンゴルモア大王はかなり子供っぽい無邪気な性格だが、それに呆れながらもサポートしている。 ファーザーからモテモテ王国に勧誘されても「・・・戻ろう。/とにかく我々は大王以外の人間につかえる気はないので・・・」(4/2/5)といっている。
デビル教団に同盟を締結しに来て暴れたファーザーを殺して、アパートの廊下に釘付けした(2/12/8)のは使徒の仕業であろうから、必要とあれば暴力をするのにやぶさかではないらしい。
使徒はかなり優秀な人材揃いだと思われる。ファーザーを発見したり、ファーザーのDNAの分析も行っている。また2巻18話や3巻10話での警察沙汰の処理もしている。優秀な人材が個性を隠して主君に尽くすという点は魔夜峰央の『パタリロ!』に出てくるタマネギ部隊に通じるものがある。
使徒は冷静で、観察力や分析力に優れている。2巻12話でファーザーがオンナスキーのラジカセを安値で提供して男を皆殺しさせようとしたときは「しかも人の物売れば、五千円そのままもうかります。」(2/12/7)と的確な指摘をしているし、4巻1話ではファーザーの扇子が新調されているのにさっそく気づいている。冷静なつっこみや分析を見せているシーンは他にも多々ある。
キャプテントーマス
キャプテントーマスの登場については物語の早い段階で予言されていた。
もともとファーザーの正体の諸説の中に、「にこやかな白人男性の夢を見た(正体か?)」(1/16/7)というのがある。にこやかな白人という記述は非常に具体的であり、キャプテントーマスのことであると思ってまず間違いない。そして初登場は4巻16話である。ファーザーはキャプテントーマスとはじめて対面したとき、「なんじゃろか・・・なんだか奴には見覚えがあるんじゃよにゃー 奴はいったい何者じゃろか?」(4/16/4)といっている。 ファーザーのいう「見覚え」は、この「白人男性の夢を見た」ということを指しているのか、あるいはそれより以前にキャプテントーマスを知っていたのか。そしてなぜ今は忘れているのか。単に見た夢のことを忘れてしまったのだろうか。
ともかく、問題は、これがファーザーの正体に絡む条項のひとつだということである。すなわちキャプテントーマスはこの作品の謎の非常に根本的なところに直接関わってくる重要なキャラクターだと、はっきり認識しておかなければならない。そしてキャプテントーマス自身が謎だらけのキャラクターなのである。
トーマスという名前が最初に登場するのは2巻6話、デビル教団が神聖モテモテ王国に侵攻した2回目である。「これまでの経緯から言って、奴には強力なバックがある可能性が高い。/今トーマスに調べさせてはいるが・・・あなどってはいかん。」(2/6/4)と大王がいっている。そして大王はオンナスキーに「帰れ、変なメーテル。」(2/6/9)といわれて逆上し、アパートをミサイルで吹っ飛ばそうとするのだが、すんでのところで「トーマス」から大王の携帯に連絡が入り、モテモテ王国にバックがないことが分かって、ミサイル発射は中止となる。
このときに連絡を入れてきたトーマスがキャプテントーマスなのかどうかには、疑問が残る。同じ名前ということで、ふつうに考えれば同じ人物なのだろうが、別人と考えることも可能であり、その根拠もなくはない。だとしたら、最初のトーマスは誰だったのかというと、おそらく使徒のひとりである。
まず2巻5話、最初のモテモテ王国侵攻シーン。デビルカー1世に使徒が5人乗っている(2/5/6)。2回目の侵攻シーン。デビルカー2世には使徒は4人しか乗っていない(2/6/4)。この人数の減り方は明らかに何かを示している。つまり1人の使徒が座をはずしているということである。何のために使徒が座をはずしたのかというと、答えはひとつ、その使徒こそがトーマスであり、そのトーマスが神聖モテモテ王国についてバックの有無を調査していたのである。
キャプテントーマスが登場するのはこの時点からだいぶ後である。 キャプテントーマスのことを念頭に置かずに考えてみると、モテモテ王国のバックを調べるのが使徒の一人であるという構造は非常に当たり前というか納得のいくものである。
ともかく、いまのところ、トーマスとキャプテントーマスが同一人物であるかどうかについては保留である。
キャプテントーマスは4巻16話の初登場時、ほっかむりをして風呂敷包みを背負い、「待つんだ。わたしは大ドロボウどころか、キャプテントーマス。/正しいみんなの友達さ。」(4/16/3)と名乗っている。白人であることは、「違うんだ。わたしは日本文化にふれるため、安来節の特訓をしていたんだ。/夢の様な白人さ。」(4/16/3)と自分でいっていることで分かる。さらに「やあみんな・・・わたしは平和と自然を大好きなのがうれしいんだ。/平和って最高さ。」(4/16/5)と、偽善者ぶりをアピールしている。キャプテントーマスは折に触れて偽善的なフレーズを口にするが、それが口先だけであることは実際の行動を見れば一目瞭然である。
そもそもキャプテントーマスとは何者なのだろうか?
使徒が「仲間というか、・・・とにかく恐ろしい人です。」(4/16/4)というコメントをしている以外、その素性はいっさい不明である。デビル教団のアパートに住み、「仲間というか・・・」という紹介がされている以上、デビル教団とつながりのある人物であることは確かだが、そのつながりがどういうものであるかは分からない。使徒は「う・・・トーマスさんに後ろからバットで・・・/つい油断して・・・」(4/16/4)ともいっており、キャプテントーマスがいかに油断ならない危険人物であるか、ということは分かっていたようである。しかしその後も5巻8話、5巻14話で使徒の姿が見られる。特に5巻14話では使徒同士の会話に「そう言えば、君はしばらく本部の方だったな。」(5/14/5)というせりふがあり、これを発言した方の使徒はずっと町田支部すなわちアパートにいたことがわかる。したがってキャプテントーマスが登場した後も、大王がアパートを訪れることはないものの、一部の使徒はキャプテントーマスとともにアパートに詰めていたのである。
使徒はほかにも「実は今回、本当にトーマスさんに部屋を貸す事になってまして・・・/どうせ大王もしばらく来れないと思うし・・・」(4/17/19)と説明している。オンナスキーが「おいっ、トーマス!!/大王ん家に何、勝手にあがりこんでるんだ!?」(4/17/13)といっているので、キャプテントーマスが住んでいる部屋というのはアパートの中でも、大王の部屋、デビル教団町田支部そのものであることがわかる。大王の部屋に住むことを許されるというのは、キャプテントーマスの身分がアンゴルモア大王と対等のものであることを示唆すると思われる。
キャプテントーマスは、デビル教団の一員ではない、ということは間違いなくいえる。使徒は仲間という言い方を明らかに避けているし、服装もアメコミヒーローのようなもので、大王や使徒とはかけ離れている。さらに、キャプテントーマスがトーマス団という独自の組織らしきものを持っており、ヘビトカゲという配下が実在することが判明している。ヘビトカゲはキャプテントーマスに輪をかけてデビル教団からはほど遠いキャラクターである。キャプテントーマスが仮にデビル教団の一員であるとすると、デビル教団はアンゴルモア大王が独裁する組織であるから、教団の外部にさらに別の教団に属さない自分だけの団を持っているという構造は不自然であることになる。
そしてファーザー、アンゴルモア大王と同じように、キャプテントーマスも、警察沙汰から身柄を保障される何らかの特権を持っている。下着泥棒の現行犯で逮捕されたことがある(5/16/7)が、このとき手錠をされているのが描かれているので、間違いなく逮捕されたと見るべきだろう。ファーザーはよく誤認で捕まるが、このときのキャプテントーマスは現行犯であり通常の言い訳は立たない。しかし次の回(5巻17話)であっという間に復帰している。トーマスも警察力を逃れるすべを持っているのである。しかし、オンナスキーが警察を呼ぼうとしたとき「ええっ!? 警察はひどく困るんだ。/うーん・・・このままではまずい。/考えろ、考えるんだトーマス!」(4/16/6)といっているので、警察を苦手としていることについてもファーザー、大王と同じである。
キャプテントーマスはファーザーについて詳しい。「すごいぞ、さすがファーザー君。君も地球を守る一員さ。」(4/16/3)というセリフからファーザーの名前を知っていることが分かり、「オンナスキー君が君に嫉妬して、君の金玉を破壊するそうだ。」(4/16/6)というセリフからはオンナスキーの名前を知っていることが、「その上、君の大切な突起物に爆弾をセットする気らしい。」(4/16/7)というセリフからはファーザーにとって突起物が大事な部位であることを知っている、ということが、ファーザーを殴りながら「それっ、悪い宇宙人め、許さん!」(4/17/7)といっていることから、ファーザーが宇宙人ないし自称宇宙人であることを知っていることが、それぞれわかる。これらの情報については、むろんデビル教団から仕入れているということもあるだろうが、ファーザーが「見覚えがある」といい、夢にまで見たことのあるキャプテントーマスであるから、それ以外のつながりがファーザーとの間に存在しており、デビル教団の知らないようなファーザーの情報も握っていると思うべきだろう。
ファーザーに対する接し方はどうかというと、基本的には適当にあしらっているという感じである。物語の表面上、初めてファーザーに対して積極的にとった行動は、ナンパの邪魔をしたファーザーに殴る蹴るの暴行を働く(4/17/7)というものであり、デリケートな接触を図っているとはいえない。あとはおちょくるような会話をしたり(4巻17話)、モテモテ通貨の発行を中途半端に手伝ったり(5巻2話)、妖怪ハンターとしてファーザーのナンパを乗っ取ろうとしたり(5巻17話)しているだけである。要するに、適当に遊んでやっているといった状態である。
一方、ファーザーを適当にあしらうのと似た感覚で、ファーザーに対して陰険なイタズラを働いているのではないかと考えることもできる。
というのは、ファーザーはよく犬の群れに襲われる(1/19/5)(2/2/5)(3/9/4)(3/20/4)。一方、キャプテントーマスがヘビトカゲに怪我をさせられて入院したとき、キャプテントーマスからの連絡を受けた使徒が連絡の内容について「入院中、犬の世話を頼むって・・・/それから、ファーザーさんの事も・・・」といっている(5/8/2)。キャプテントーマスが犬を飼っているというのは初めて出てくる情報である。そしてアパートで犬を飼っているわけではない。アパートで飼っているのならファーザーやオンナスキーが知っているはずだし、だとすれば犬を嫌うファーザーが騒ぎ立てているはずだからである。したがってアパートで飼っているのではないが、アパートから遠く離れた場所で飼っているわけでもない。アパートに駐留している使徒に世話の依頼をしているからである。つまりキャプテントーマスの飼っている犬というのはアパートの近所にいることになる。
アパートの近所でキャプテントーマスが飼っている犬とはなんのための犬なのか? 考えられる答えは、ファーザーを襲わせるための犬、である。すなわちファーザーを襲っている犬はキャプテントーマスに飼われている犬(の群れ)なのである。l
おそらくファーザー自身にもともと犬に襲われやすい何らかの性質があると思われる。そしてそれは猫に好かれるという性質と表裏一体のものであろう。そして当初犬に襲われていたのは、その性質によって自然発生した災いだと思われる。しかし3巻9話での襲われ方はさらに進化している。「犬はファーザーの首と足をくわえ、動けなくしてから腕や腹にかぶりつく。」(3/9/5)というト書きがあり、「こちらが不利と見るや、機を逃がさず攻めてくる犬。すでにわしへの襲い方に以前のような甘さがねー/じゃが貴様らなぜわしをー/トップブリーダーのさしがねか?」(3/9/5)とファーザーもいっている。襲い方が明らかにレベルアップしているので、おそらくこれより少し前の時点でキャプテントーマスが犬に訓練を施したのだろう。しかし2巻2話で襲ったときも、ファーザーのサッカーボールを奪ってしばらくもてあそんでおいてから、おもむろに襲いかかるという知能的な動き方をしているので、もしかするとかなり前の時点で犬は用意されていたのかも知れない。
ファーザーが初めて犬に襲われたのは1巻19話である。仮にキャプテントーマスによる犬の操作がこのときから既に始まっていたとすると、興味深い事実に気づく。この1話前の1巻18話から、アパートの玄関ドアに「キムタク」という謎の貼り紙がされるようになったということである。1巻19話でももちろん貼り紙はされている。もちろん、「キムタク」という作品の愛称が決まったということを踏まえて作品中でもこういう現象が起きるようになったのではあるのだが、キャプテントーマスがファーザーに接近し始めたのが犬の初登場と前後する時期であるとするならば、この貼り紙もキャプテントーマスによるものなのではないかと考えることができるのである。この貼り紙のようなイタズラは、のちの、ファーザーの宇宙第一種礼装を清原のユニフォームに偽装したいたずら(4/17/12)と似通っており、この貼り紙の犯人がキャプテントーマスであるとしてもキャラクター的には不自然ではない。
同時にこの場合、キャプテントーマスはファーザーについて「犬に襲われやすい何らかの性質がある」という情報をあらかじめ知っていたことになり、キャプテントーマスとファーザーの関わりの深さ、あるいは古さを示す証拠ともなるのである。
ところがこの1巻19話の時点というのは、デビル教団の登場よりも先である(デビル教団初登場は2巻5話)。犬がファーザーを襲うことやアパートへの貼り紙にキャプテントーマスが関与していたとするならば、キャプテントーマスはデビル教団よりも速くファーザーを発見していたということになる。デビル教団にファーザー発見の報告を入れたのは「さて、我が出来の悪い使徒たちよ。/今日のこの悪い報告だが、/悪いぞお前ら。よくしでかした。」(2/5/4)というアンゴルモア大王のせりふからして、使徒であろう。ということは、キャプテントーマスはファーザーを発見してはいたのだが、デビル教団には教えていなかったのである。このことは、キャプテントーマス(とトーマス団)とアンゴルモア大王(とデビル教団)というのは、同じアンダーグラウンドな社会の構成要員ではあるけれども、お互いはっきりと独立しているのだ、ということを明らかにしている。
オンナスキーとファーザーが住んでいるアパートは現在、オンナスキーの部屋以外はすべてデビル教団に買い占められており、ほかの住人はいない。そこにあえて住みつくということは、ファーザーかオンナスキーを何らかの標的としていると考えるほかない。 入院することになったとき使徒に連絡をして、「入院中、犬の世話を頼むって・・・/それから、ファーザーさんの事も・・・」(5/8/2)といわせているから、キャプテントーマスの標的はファーザーである、と考えておいて間違いあるまい。
ではなぜキャプテントーマスは登場したのか?
前述のとおり、キャプテントーマスがファーザーに関わったのがデビル教団より先であるとしても、なぜか4巻16話に至るまで、表に顔を出していない。そしてついに登場したわけだが、このタイミングには何か意味があるのだろうか? もちろん漫画作品として展開を広げるため、といってしまえばそれまでだが、物語的にも必然性がないわけではないだろう。
直属の手下であるヘビトカゲと離れてまで、オンナスキーの住むアパートに引っ越してきたということを考えても、キャプテントーマスの登場には何らかの意味があると思わねばならない。
4巻5話で、使徒がファーザーのDNAを調べた結果をアンゴルモア大王に報告している。このとき、「・・・といっても、まだ調べ始めたばっかりですが」(4/5/23)と使徒がいっており、調査をさらに続行することをほのめかしている。しかしその後使徒による報告はなされていない。このことから考えると、DNA分析以上のつっこんだ調査をしようとした結果、いずこからか圧力がかかって中止になったのかも知れない。そしてその圧力の具体的な形として、キャプテントーマスの登場となったのではないだろうか。
キャプテントーマスはどうやらハイテク機器に詳しいと思われる。
ファーザーがモテモテ王国紙幣を発行しようとした際、「さっそく、君の国へ行って発行するんだ。君が原案を作ったら、わたしがコンピュータで仕上げをしよう。」(5/2/5)と話している。
泥棒を働いているとき、シンプルなデザインのゴーグルのようなものを装着している(5/5/2)(5/16/4)が、このゴーグルのようなものにも何らかの特殊性能があるだろう。いずれも時間帯は夜なので、このゴーグルのようなものには、家宅侵入を補助する光学メカニズムが搭載されていると考えられる。
また、5巻13話でニセのファーザーファンがファーザーに渡した板状の通信機器(5/13/13)もキャプテントーマスが大王に渡したものである。この通信機は全面が画面になっていてテレビ電話的に使えるというものである(ただしこちらからは音声しか送れない)。画面に映し出された大王が「向こうの映像は見られないのか?」と質問している相手は、写っている手と「うーん、音だけさ。」という返答から考えてキャプテントーマスである(5/13/14)。この通信機には明らかに、一般レベルを超えた水準の技術力が用いられている。ちなみにこのとき、ニセのファンを送り込んでファーザーをがっかりさせるという作戦を考えたのがキャプテントーマスだとは言い切れない(むしろ大王の発案であるという方が、作戦のくだらなさからして筋が通る)。
またデビル教団本部で、空中にビデオの映像が映し出されている(2/5/5)のだが、5巻表紙ではこれと同じものと思われるスクリーンにアンゴルモア大王とキャプテントーマスのツーショットが描かれている。これはこの空中投影技術が、キャプテントーマスによってもたらされているということを示しているのかも知れない。
通信機、で気になるのが、デビル教団とキャプテントーマスの連絡に使われている携帯電話のようなものである。キャプテントーマスが入院して使徒に連絡を取ったとき(5/8/1)に使われている携帯電話のようなものがそうなのだが、仮にこれが通常の携帯電話ではなく彼ら専用のチャンネルを持つ通信機であるとすると、この通信機もキャプテントーマスからデビル教団に支給されたものである可能性がある。また、大王が神聖モテモテ王国のバックについてトーマスから連絡を受けたとき(2/6/12)にも使われていることから、モテモテ王国のバックを調べていたのはキャプテントーマスであることを確定できる。
とはいえ、この携帯電話のようなものは2巻18話でも使われており、このときは使徒が、大王が逮捕された件について、おそらく警察からだと思われる連絡を受けているので、単なる電話だと考えることもできる。だがこのときの連絡が警察からだと断定することもできない(たとえば大王の弁護士や関係者が使徒に連絡したという線も考えられる)。どちらにしても、積極的に電話ではないと考える理由は特にない。
トーマス団という名前が最初に出てくるのは「自然を愛する心があれば、君もトーマス団の一員さ。」(4/17/19)というせりふである。この時点では特に意味のないフレーズかと思われたが、5巻6話でヘビトカゲが登場したことにより、実在の組織であることが判明した。ヘビトカゲはいがぐり頭、スカーフとトーマスマークのTシャツ、軍手、リュックサックといったいでたちの田舎者である。「わあ、トーマス様ー/会いたかったですターイ」(5/6/1,2)とトーマスに抱きつこうとしたが、キャプテントーマスは全力で抵抗している。ヘビトカゲが怪力の持ち主なのでまともに抱きつかれると怪我をするからか、もしくはヘビトカゲを嫌っているからか、どちらかの理由によると思われるが、おそらく後者であろう。
「トーマス団は世界平和を策謀するいい団さ。/それとか、自然を守るためにうごめいている。」(5/6/3)とキャプテントーマスは述べており、事実ヘビトカゲはこのインチキな理念に賛同してキャプテントーマスに従っているのである。それも「トーマス様こそは・・・し・・・自然と平和を愛する救世主ですターイ。」(5/6/3)、「大変ですタイ。神が地上に遣わしたトーマス様をブッ殺そうとは・・・/そんな悪い人は殺す・・・ですタイ。」(5/6/7)などというほどの心酔ぶりである。トーマスのために牛丼を買ってこようとしたり(5/6/4)、トーマスがファーザー達にぶっ殺されそうになっていると聞くとファーザーを殴ったりする(5/6/7)など、トーマスに対する忠誠心は絶対である。キャプテントーマスに、地球のため、平和のためといわれれば、なんでもやる。
そして「ところでトーマス様、今月も千円納めるですタイ。」(5/6/3)といっているので、ヘビトカゲはトーマスに毎月金を納めていることがわかる。千円なので額面としては大したことはないが、これは逆に、トーマス団というのが我々の想像する以上に多くの人間を抱える団体であることを示唆しているのかも知れない。しかし雰囲気からいってどうやらキャプテントーマスとヘビトカゲ以外のメンバーはいないという印象も受ける。
つまるところトーマス団というのは、キャプテントーマスを首領とする、欺瞞性の高い自称自然保護団体のことであろう。キャプテントーマスとヘビトカゲの服装の共通項から考えると、トーマス団のコスチュームは、スカーフ、トーマスマークのTシャツ、手袋といったところだろうか。ヘビトカゲのTしゃつのトーマスマークがキャプテントーマスのように白抜きになっていないのは、キャプテントーマスがリーダーであることを示しているのだと思われる。資金力や人材のレベルの高さについてはヘビトカゲを見る限りかなり疑問が残るが、そのキャプテントーマスに対する盲信ぶりからして、行動力に関してはデビル教団よりも上であるといえるだろう。
なにかにつけて出現するTという文字、すなわちトーマスマークはキャプテントーマスの特徴のひとつである。これについては「トーマスマーク・トーマスが栄光を示したいときに現れる」(5/2/8)という説明がなされている。
栄光を示したい、という表現がいまひとつ意味不明なので、トーマスマークが現れている場面をリストアップしてみると、(4/16/3)(4/16/6)(4/17/2)(4/17/18)(5/1/6)(5/7/9)(5/16/4)(5/16/7)(5/17/2)といったところである。そしてこれらの事例に共通することがひとつだけある。それは全ての場合においてファーザーが居合わせているということである。オンナスキーにもほとんど同じことがいえるのだが、(5/17/2)だけは居合わせていないのでとりあえず除外できる。
ということはトーマスマークというのは、ファーザーにだけ見えているのではないか。そもそも(4/17/2)で出現しているトーマスマークはファーザーとオンナスキーが遠くからキャプテントーマスを認識したときに出現しており、そのときキャプテントーマスは小さなシルエットとして描かれているだけであり、当然周囲には誰もいない。キャプテントーマス自身にはこのときトーマスマークを出す必然性がないのである。つまり実はトーマスマークというのはキャプテントーマスが意識して出現させるものではなく、ファーザーだけが勝手にあるものとして見ているだけなのではないだろうか。事実、ファーザーには神(1/3/3)、エジソン(1/4/3)、ナポレオン(1/1/12)(4/4/5)や5巻18話の恋愛大将のように、他人には見えないものを見る能力、というか幻視だが、これがあるのである。またファーザー自身、トーマスマークに対抗してモテモテ王国のシンボルであるハートマークを出している(5/16/3)し、謎の重要人物になったとき、謎の重要人物のシンボルである「?」マークを出してもいる(5/10/4)。
すなわち、トーマスマークはキャプテントーマスの特殊能力なのではなく、ファーザーがキャプテントーマスから感じている何かの象徴なのではないだろうか。
ではなぜファーザーはキャプテントーマスからTマークを見て取るのだろうか。ここで思い出されるのが「なんじゃろか・・・なんだか奴には見覚えがあるんじゃよにゃー 奴はいったい何者じゃろか?」(4/16/4)というファーザーのせりふである。ファーザーは夢でキャプテントーマスを見たことがある、あるいは過去にキャプテントーマスを見知っていたと思われるのだから、トーマスマークの意味がどういうものかをはかり知ることが現時点ではできないまでも、少なくともその記憶の残滓がファーザーをしてトーマスマークを感じ取らせているのだろうと考えることができる。つまりここでも、ファーザーとキャプテントーマスの関わりが尋常のものではないということを我々は確認できるのである。
キャプテントーマスはふだんはふらふらしているのみである。
女好きでもあるようだが、「だけど、あいつのはナンパでもなんでもないぞ。/欲望のはけ口を求めてるだけだ。嫌いだ、あんな奴。」(4/17/9) とオンナスキーにいわれているとおり、キャプテントーマスのナンパは露骨で下品である。また、使徒をバットで殴って金品を奪ったり(4/16/4)、ナンパの邪魔をしたファーザーにいきなり殴る蹴るの乱暴を働いたり(4/17/7)、ファーザーの宇宙第一種礼装にいたずらをしたり(4/17/12)、下着泥棒を働いたり(5/5/2)(5/16/4)と、かなりモラルに欠ける人間である。こういったキャラクター像と、ファーザーの謎に関わる重要人物というキャラクターは、どうにも結びつきにくい。
ファーザーとの共通点をあえて挙げてみるなら、ファーザーと同じように(1/19/5)(1/20/4)(3/17/1)(3/19/1)(4/6/7)(4/15/1)アニメソングを口ずさんでいる(4/16/5)のと、「こいつら、なんだか二人して別次元にいる。」(4/16/5)とオンナスキーを呆れさせたように、とんちんかんな会話がファーザーとキャプテントーマスの間では成立すること、双方ノリで路上にごろ寝できること(5/6/5)(5/7/9)、といったところであろうか。つまり強いていえば同類という感じなのである。実際に、具体的な意味での同類なのかもしれない。
キャプテントーマスがアパートに住んでいるのは、とりあえずファーザーを標的としているからだということは間違いないが、ではファーザーに対して具体的には何をしているのかというと、何かしている様子はとりあえず見られない。
使徒に連絡したときの「入院中、犬の世話を頼むって・・・/それから、ファーザーさんの事も・・・」(5/8/2)というくだりからわかるように、まず犬の世話を優先し、ファーザーの監視(?)については「それから」と、もののついでに頼んだような具合である。
総合して、キャプテントーマスはファーザーのとんちんかんぶりと対等につきあえるくらいの、おちゃらけたところのある人物である。
ただしその背景としては、高度な秘密に触れている様子が窺えるし、犬を仕込んだり、ハイテク機器を扱ったり、ヘビトカゲをいいように操っているところから見て、頭の切れる人物である。また各種の犯罪的な行動の数々も、行動力の高さの裏返しであるといえる。そして、おそらく彼の帯びている任務はファーザーに関する重要なものだと思われるが、それは片手間で済ませておいて、ファーザーをいじめて遊んだり、自らの下劣な欲望を満たす努力に余念がない。
とはいえやはり、キャプテントーマスはただ者ではないのである。ファーザーの項で述べたように、ファーザーはあらかたの事情をわきまえた上でふざけている、という受け取り方をすることが可能なのだが、キャプテントーマスに関しては、それはかなり明白に当てはまる事実である。この物語に登場する人物の中で、背景にそびえる巨大な秘密の核心の近くにいることにおいては、ファーザーに唯一拮抗しうるキャラクターだといえる。だからこそ、余裕たっぷりにファーザーをもてあそぶこともできるのである。
握っている情報についてファーザーとキャプテントーマスの間に決定的な差があるとすれば、それはオンナスキーについてであろう。オンナスキーが軽視すべからざる何者かであることは、ファーザーか知佳さんしか知らないからである。
だが逆に、「入院中、犬の世話を頼むって・・・/それから、ファーザーさんの事も・・・」(5/8/2)という連絡が、実はデビル教団に対する偽装である、という場合も考えておかなければならない。キャプテントーマスとデビル教団の持っている情報に差があるとするなら、ファーザーに正体に関する知識についてももちろんだが、そこにはオンナスキーに関する情報も含まれているのではないか、と考えられなくもないからである。デビル教団はどうやらオンナスキーに対してはノーマークのようだが、キャプテントーマスまでもがそうだとは言い切れない。ファーザーに対する雑な対応も、実はオンナスキーを狙っているがゆえのものである、という可能性は、ゼロではない。
ちょっといい話:ブタッキー
作品の謎とはとりあえず関係ないと思われるキャラクターだが、一応主要登場人物のひとりなので、ちょっとだけ。
2巻13話でMG部隊を創設しようとしたとき、「うおお、すごい逸材じゃよー/全てにおいて世界レベルのMNOじゃよー」(2/13/7)とファーザーが絶賛したブタ腹のオタクっぽい少年が、のちのブタッキーである。
しかしMG部隊に勧誘している最中にナオンが2人現れると、「バカ野郎、俺より先に来いって言ってんだろ。/女はおめえらだけじゃねえんだぞ。」(2/13/9)とすごい剣幕でナオンを怒鳴りとばし(怒鳴る直前のコマの、溜めに注目) 、ファーザーを固まらせた。このときは結局MG部隊創設に失敗している。
ブタッキーという命名はファーザーによる。「でえい、待てブタッキー/貴様には過ぎたる物が二つある。/一つわたしにくださいな。」(2/14/4)というのが初出である。
このときプロフィール勝負をしており、ブタッキーの本名が中森学であることが判明(2/14/6)。エヴァンゲリオン好きであるらしいことも分かる。年齢は不詳。 中学生か高校生かも分からない。学という名前から「マーくん」と呼ばれているということが後に判明する(2/16/3)。
ブタッキーをとりまくナオンは分かっているだけでも、アムラー2人(2/13/8)、後(4/10/10)に一方が中村という名字であることが判明する女子校生2人(2/14/3)、会話にのみ登場するランパブの巨乳女(2/16/6)、識別にない新型の女子校生(4/11/6)、後(4/13/5)に山下という名字であることが判明する、ファーザーの後頭部にレンガを投げつけた凶暴なナオン(4/11/7)、識別しにくいナオン2人(4/11/7)、 婦警(4/13/7)、と10人にのぼっている。
中村は「別に・・・一人じめできなくても一緒にいられれば・・・」という名言を吐き、「そ・・それは・・・それはわが国の国民理念・・・/ブタッキー・・・そこまで国体を確固たるものにしていたとは・・・」とファーザーを打ちのめした(4/10/12)。
ただしブタッキーは女には厳しいようだが、ファーザーをバカ呼ばわりした中村を「中村、ひどい事言うな。」(4/10/10)としかったりしているので、別に悪い人間ではなさそうだ。もちろん、そういうところがまたファーザーとオンナスキーにとっては腹立ちの種なのだが。
おわりに
バージョンアップできたのは、ひとえに、前バージョンに対してリアクションを示してくださった皆さんのおかげです。ありがとう。
今回のバージョンアップでは、主にオンナスキーとキャプテントーマスについて大幅な加筆訂正を行った。
文章量としては400字詰め原稿用紙換算で、だいたい230枚。こんなもの、最後まで読み通す人っているんだろうか?
引用に使用したのは現在単行本になっている分、
『神聖モテモテ王国1』
ながいけん、1997年2月、小学館、少年サンデーコミックス、定価407円
『神聖モテモテ王国2』
ながいけん、1997年8月、小学館、少年サンデーコミックス、定価410円
『神聖モテモテ王国3』
ながいけん、1998年3月、小学館、少年サンデーコミックス、定価410円
『神聖モテモテ王国4』
ながいけん、1998年7月、小学館、少年サンデーコミックス、定価410円
『神聖モテモテ王国5』
ながいけん、1999年6月、小学館、少年サンデーコミックス、定価410円
である。そのほかの参考文献はなし。
今後も随時更新したいと思います。
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