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「男女別で利用が区分される施設における女性の安全・安心の確保の促進に関する法律(仮称)」の問題点:自民党及び野党代表者に対して「女性スペース法案」の撤回・修正を要請しました。
当会は、自民党で検討されている「男女別で利用が区分される施設における女性の安全・安心の確保の促進に関する法律案(仮称)」について、特に女性に対して、深刻な問題点があると考えております。
特に、公衆浴場を利用する女性にとって、この法案の影響は甚大であり、普段浴場を利用する女性達からは、このままでは銭湯・温泉等を二度と利用できなくなるとの危惧の声も上がっています。当会は、この法案に関して、撤回または「生物学的性別による区分」への修正を強く要求します。
9月19日に、自民党総裁選候補者、自民党本部、及び野党代表者へ、問題点を指摘し、法案の撤回および修正を求める要望書を送付いたしました。
要請書で指摘した問題点は以下の通りです。
1.新法案の概要:
-背景: 性的被害が多く身体的に弱い立場にある女性に生じていることを考慮。
-内容:
①浴場における男女別の定め
→※男女の『身体的特徴』による利用を区分(法的性別・生物学的性別を問わない)
②男女別施設のうち女性用施設(トイレ含む。その他該当する施設の具体的な例は未定)
→管理者が構造設備、巡回、「利用可能な者の範囲の周知」ほか女性の安全安心のための措置の努力義務を負う。また、これらの措置については大臣が指針を策定する。
-目的:男女別で利用される施設で女性が安全かつ安心して利用できる環境を確保する。
2.現行法との比較:
-現行法:
・性別の定義は明文化されていない(一義的には生物学的性別を指すと解される)。
・浴場においては、基本的には社会通念により男女とは一義的には生物学的性別により区分されると利用者らに認識されているほか、浴場管理者に対しては、公衆浴場法に関する厚労省通知がなされ「身体的特徴により区分」するものとされている。
・トイレその他施設については特に法規制はない。区分等は管理者権限によるが、基本的には社会通念により男女は一義的には生物学的性別を指すと認識されている。
・なお、特例法4条1項にいう「異性とみなす」効果は「民法その他法令の適用について」であり(同法同条)、法令上の性別変更取扱いの変更にとどまるものであって、それ以外の場面(浴場・トイレ等を含む)の性別取扱についてまで定めるものではない(※1)。
・男性の侵入は、浴場・トイレ等の管理者の判断と権限に負うところが大きいが、基本的には社会通念及び管理者の通常意思解釈により侵入を許容されないものと解され、建造物侵入や、盗撮・迷惑防止条例等により処罰されている。
-新法案:
・性別の定義については言及せず、浴場について性別利用区分を「身体的特徴による」とした(なお、生物学性別・法的性別につき言及なし)。
・トイレ等女性施設については、男女区分のある場合に、管理者が「利用者の範囲を決定し、明示・周知」することで、女性トイレその他女性施設の利用範囲を定めることができるものとした。
・浴場については、身体的特徴を女性に近づけた男性の侵入を許可。トイレについては、管理者が許可した範囲の男性の侵入を許可。
※1 本法律が妥当する範囲及びその効力は、性別にかかわる法令を適用する関係で、性同一性障害者の法令上の性別の取扱いを変更することにとどまるものであり、それ以外のところでのその性別の取扱いについてまで必ずしも定めるものではなく、ましてやその生物学的な性別まで変更するものではない。(南野知惠子監修「解説性同一性障害者性別取扱特例法」81頁)
(2024.11.18修正、追記について:特に一部文章だけを見た場合に引用文そのままであると解釈させてしまうおそれがあるため、引用箇所を明確にするため※1につき修正、追記致しました。)
3.問題点の特定:
-性別の定義・区分:
性別の定義そのものに言及はない。しかし、男女の区分につき、法律レベルで区分指標を示した初めての法律となる。この指標が生物学的なものではなく「身体的特徴」に基づくことから、今後の男女の区分・定義に関して、生物学的分類でなく、「身体的特徴」という指標が一定の影響力を持ってしまう可能性がある。
また、議連案においては、性別の区分指標は公衆浴場・共同浴室では「身体的特徴」、トイレ等女性施設においては「管理者が決定し明示する基準」とされるが、このように、将来的に他の法律でも性別の定義や区分が場面ごとに細分化されることが予想される。
場合により、施設により、どの範囲が「女性」として扱われるかが細分化され、異なる範囲となる。これは予測可能性と安定性を欠く事態であり、社会的により脆弱な立場にある女性にとってさらなる困難をもたらす可能性がある。
- 浴場:「身体的特徴」:
法律上の明確な規定が存在しない。そのため解釈に関して争いが起こる可能性、より広い範囲の男性を女性区分とする可能性がある。
なお、類似概念である性同一性障害特例法上の「外観要件」に関し、広島高裁決定(令和6年7月10日)では、外観要件自体は維持しながらも、「他者の目に触れた時に特段の疑問を感じない状態で足りる」と解釈し、陰茎が萎縮した男性につき要件充足とした。
クレームによる自主対応や訴訟による解釈の拡張、また類似概念である特例法上の「外観」との混同によって、広い範囲の男性が女性の身体的特徴を備えていると扱われる可能性がある。
広島高裁の「外観」に関する判断「他者から一見して特段の疑問を感じない状態」が基本となり解釈された場合には、浴場においてはタオルで陰部を隠すのが通常であることから、陰茎があったとしても、隠してあれば他の利用者の平穏を害さないとして、「女性の身体的特徴として問題ない」というような判断となり、本法案においては生物学的性別はおろか、法的性別すら要件ではないことから、相当範囲の男性が女性の区分に含まれる可能性がある。
その場合、女性は恐怖を覚え、浴場施設の利用自体を避ける可能性が極めて高い。
- トイレ等女性施設:管理者による「利用可能な者の範囲の明示・周知」
自民党「女性を守る議員連盟」法案の提案者の一人である滝本太郎弁護士の見解によると、利用範囲の決定は管理者に委ねられており、生物学的性別や法的性別すら問わず、「女性を自認し女性として生活する人々」とすることも許されるとされている。これにより、法的性別や身体的特徴に関わらず、男性の侵入を法の後ろ盾で公認する可能性もありうる。
-診断基準の緩和による身体的特徴を求める男性の増加:
世界基準の疾患リストであるICD-11で性同一性障害は性別違和と名を変え精神疾患ではなくなったが、同時に、反対の性別の身体的特徴を得る医療行為を行うためのガイドラインが大幅に緩められている。この変更により、結果として何らかの女性の身体的特徴を持つとみなされる男性が増加する可能性がある。
-性自認の扱い:
議連案は性自認に関して言及していない。
公衆浴場の利用に関しては、「身体的特徴」のみの規律であり、性自認は無関係のようである。
トイレ等の女性用施設においては、利用者の範囲は管理者の決定と明示によるとされており、「性自認が女性、生活が女性の方の利用も可能」のような決定も妨げないとされている。
-実施の難しさ:
実際には管理者が(特にプライベートパーツにあたる)身体的特徴を確認することは困難であり、確認した場合には人権侵害にあたる懸念がある。対象者は通常確認に抵抗を示すであろうし、職員の心理的負担も大きい。対象者の意に反し無理に確認することはできないほか、一応の同意を得たとしても、後の訴訟リスクを抱える可能性がある。
-制限規定のみ違憲疑いとなり、対象が拡大されるリスク:
特定の身体的要件に基づく規制は、性同一性障害特例法に関する最高裁大法廷決定により違憲判断が示されている(「身体侵襲を受けない権利」の侵害として、5要件のうち、手術を必要とする部分を違憲と判断。)(生殖能力喪失要件:2023年10月25日)・違憲疑い判決(外観要件:2024年7月10日)
→もしも「身体的特徴」が「手術により陰茎を除去していること」を意味する場合には、手術を強要する要件として違憲の疑いがある。その場合、手術を必要とする身体的特徴を要求することは違憲として、特徴がホルモン摂取のみでかなう特徴のみと解釈される危険、ひいては、外科的または内科的処置により 身体的特徴を女性に近づけていない男性にも女湯へのアクセスが許可される結果となる恐れさえある。
-社会的規範の上書き:
公衆浴場の社会的規範を指摘した前記最高裁大法廷決定(性同一性障害特例法に関する2023年10月25日)では、裁判官意見として「公衆浴場の性別区分は、現在、社会的規範とそれを受けた事業者の措置により区分されている」と指摘されている。
浴場の「身体的特徴」による男女区分を法として定めることで、この社会的規範を法で強制的に上書きすることになる。
(なお、公衆浴場法に基づく厚労省通知での「身体的特徴」規制は、この「第一義的には生物学的性別」との社会通念・社会的規範の上に成り立っていたものである。これを完全に「身体的特徴区分」の法で上書きすることは、社会的に混乱を生むほか、従来の規制と異なる範囲の男性の入場公認に繋がる。)
4. 影響評価:
-デメリットを受ける集団:
- 女性: 性暴力の被害や尊厳の毀損。特に女児や高齢女性、障がいを持つ女性など、理解や判断が難しい女性集団にとって影響が大きい。
- 管理者: 「身体的特徴」に基づく男女の判断が困難であり、適切な管理が難しくなる。
-メリットを受ける集団:
- 身体的特徴を女性に近づけたと主張する男性:法的に女性の公衆浴場・共同浴室の利用が可能となる。
5.代替案の提案:
浴場及び女性施設(トイレ等)のいずれについても、生物学的性別による区分と修正する。
あるいは、法案を撤回し、全ての分野において生物学的性別に基づく女性の保護を目的とした※女性保護法を制定する。
(※女性保護法に関する当会のnote:https://note.com/joteikai/n/n12d3451a579a )
6.付記:
なお、現在、浴場の男女区分は、厚労省通知(令和5年6月23日付、薬生衛初0623第1号)により、「身体的な特徴を持って判断する」とされ、その趣旨を「体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要があると考えています」とされています。
趣旨である「身体が男性の者が女湯に入らないようにする」を実現するためには、利用者の身体の性別(生物学的性別)を確認する必要がありますが、昨今、性自認への配慮名目で身分証上の性別記載欄がなくなったり、身分証上の性=戸籍の性と身体の性別(生物学的性別)とが異なるために、現場での判断基準をやむなく「身体的特徴」によるものと定めたものと解しています。
当会では、このように、身体の性別について、実際にその特徴を視認するという第三者に判断の負担を生じることにつき、非常に問題を感じております。今後当会では、生物学的区分につき、第三者による判断の負担をなくすために、身分証に生物学的性別を記載することを求めていく所存です。