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アイドルマスターのある、くらし

~4:00~

オハヨSUNSUNSUN……オハヨSUNSUNSUN……オハヨSUNSUNSUN
サンシャイン!


……朝が来た。スマホから流れる5人の歌声を止め、薄い敷き布団を畳む。
火曜~金曜の朝はオハヨ○サンシャイン、5年前から変わっていない。ちなみに土曜~月曜は『おはよう!朝ごはん』である。
午前専タクシードライバーの朝は早い。朝一に酔いつぶれた若者でも拾わないと、まともに金も稼げないから。だが、この程度の早起きなんて深夜にちょっと酒を飲んで気の大きくなったジジイの相手をするのと比べれば百万倍マシだ。
窓を開け深呼吸、朝陽を浴びながら昨日の帰りに買ったセブンの安いロールパンを齧りつつニュースを流し見する。俺は基本的に仕事中にスマホをいじるような現代人ではないので、こういう時間にお昼のお客さんとお喋りするネタを仕込むのだ。
髭を剃り髪を整え、スーツを纏う。アイロンがけは前夜のうち、これはアイドルマスターが教えてくれたこと。
ここまで20分。完璧で、いつも通りな時間調整だ。

「行ってきます!」

誰が聞いてるでもないが、言いたいから言う。
俺は、アイドルマスターと生活している。

~5:30~

電車に乗って事務所に到着。タバコを吸ってる同僚に軽く会釈し、簡易的な呼気検査を済ます。
鍵を受け取り、車の点検を済ませる。うちの事務所はいまだにMT車が前線に立っている古臭い……いや、STORYもHISTORYも持ってるとでも言おうか。そんな会社なので、車の点検だけで10分もかかる。
車好きの原田美世ちゃんならもっと手際よくやれるのだろうか?そんなことを考えながらエンジンをかける。
さあ、恐れずに自由の風を身体中にFeeling 飛び出そう。


~10:50~

……疲れた。腹が減った。今ならチンジャオロースにホイコーローまで食える。
いつもの早朝なら朝まで飲んで酔って車内で泥のように眠っている若者を送り届けるだけの簡単な仕事だが、今日は運が悪かった。
タクシーは回転率が命だ。この道ならもっと安く済んだだろ、などとほざくやかましいジジイにかまっていられる時間はないのである、クソが。
少ない売り上げと無駄にした時間に思いを馳せつつ、会社に遅刻しそうなおっさんやいつも俺を指名して予約する通院おばあちゃんを送り届けてこの時間。
朝が早い分、昼も早いのだ。回送サインを出し、脳内を飯食いモードにswitching!今日は中華にしようかな。


~11:30~

腹を膨らせて回送を解除、営業再開。
タクシー業は基本自由だ。お客さん探しのために通るルートも、昼休憩に入る時間も、何なら眠気覚ましに車を止めて1時間眠っていたって構わない。自由にやって減るのは自分の給料なのだから。
昼はお客さんが少ないので同僚たちはかなり自由にやっているそうだが、俺は少しでも金が欲しいので車を転がす。ライブにグッズに円盤やガシャ、金はいくらあっても足りない。
でもまあいないものはいないわけで、虚無の時間が続く。そんな時に、俺はいつもやっている遊びがあるのだ。
今日は……よし、あの2人にしよう。

「お客さん、どちらまで向かいますか?」

もちろん、後部座席には誰もいない。アイドルが自分のタクシーに乗っている、という妄想をするのだ。
アイドルを乗せたつもりになって運転すると、少し背筋が伸びる。今日は綺麗な金髪のお嬢ちゃんと、茶髪ロングでパンクなお姉さんの2人。

「はい、かしこまりました。シートベルトをお願いしますね」

2人ともちゃんとシートベルトを締めてくれる。これだけで、2人が見た目とは裏腹にとてもいい子なのがわかる。
どうやら両者ともホラーが好きらしく、今日の仕事後に2人でホラー映画の鑑賞会をしたいらしい。こういう微笑ましい会話が聞けるのもタクシー運転手のメリットなのかもしれない。
私が存在しないお客さんにほっこりしていると、ナビがけたたましく鳴り響く。無線配車の合図だ。
名残惜しいがごっこ遊びはおしまい、仕事に向かおう……


~14:45~

今日の業務も終わりが近づいている。このくらいの時間になると、オフィス街が狙い目だ。
仕事の関係でちょっと離れた建物に向かうような人が利用してくれる。そういう人はだいたい移動距離が長いこともあって、ドライバーからしたらとてもオイシイ案件なのである。
こういう知識を仕込むこともタクシーで金を稼ぐうえで重要だ。自分のために金を稼いでいるのに、上司からは勤勉でまじめな社員だと思われ評価が上がる。不思議なものだ。
と、言ってるそばから挙手するサラリーマンを発見。どうやら今日は気持ちよく仕事を上がれそうだ……

~16:30~

ああ、残業だ。あのリーマンめ、まさか目的地がこんなに遠い山の中だとは思わなかった。
距離が長いとその分もらえるお金も増える……と思われがちだが、うちの会社はお客さんにやさしいので長距離割引がかかる。さらに、あまりにも遠いと拠点付近に戻るのにも時間がかかるので、その分お客さんを乗せられる時間も減るのだ。先ほど述べた回転率の話。
今回は終業間際なのでそこについては問題ないのだが、ここから事務所まで飛ばしても1時間半ほど……残業である。
回送サインをつけ、ヤケクソになりながらタクシーを走らせる。ああ、やってられん……
こんな時は、カーラジオを消して自分のスマホを取り出す。『シャニ』のプレイリストからランダム再生だ。
どうせお客さんは乗せないし、車内には俺ひとり。仕事中に熱唱できるなんて、人によってはさぞ羨ましかろう。
……まあ、車内には防犯カメラがついてるのでその映像を見られたら終わりだが。事故らなければ大丈夫だろう。

「えびばでぃれつごーーー!!」

アフタースクールならぬアフターワーク。正確には仕事中だがそんなことは気にしない。
今この時間だけは、俺は放クラの紫色なのだから。


~18:20~

帰庫。車両を簡単に洗車し、指定の位置に停車。
今日の清掃はなんだか手早く済んだ。どうやら自分は自分が思っているよりも残業が嫌いらしい。
鍵を返し売り上げを清算、ほぼ3万円は朝勤務なら上出来だ。今月の売り上げランキングにも乗れそうで一安心だ。あのリーマンにも感謝の気持ちは忘れちゃいけないな、と自戒。
上司への挨拶を済ませ、今日の仕事が終わる。明日は5日ぶりの休みだ。

そう、明日は休み。


そして今日は……



『金曜日』……?




テンテンテンテンテンテテテン



な、なんだ……?



テーテーテーテテテーテテテー




意識が……







「Fooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





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「ジリリ!!!!!」

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「Fooooooooo!!!!!!!!!!!!!!」

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「イエイ!!!!!!!」

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「Fooooooooo!!!!!!!!!!!!!!!!」

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「イエイ!!!!!!!!!!」

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~間奏~

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「ウワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」

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「イエイ!!!!!!!!!!!!」

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デン!!!!!!!!

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デン!!!!!!!!

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デン!!!!!!!!

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デデデン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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ワアアアアアアア…………

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~翌8:22~

まただ。光る棒、部屋に散らばる酒瓶、絢爛なドレス。
まるで記憶がないのに、この部屋で宴会が開かれたかのような散らかりっぷり。
俺はたまに、仕事終わりに突然記憶を失うことがある。
そして、気づくといつもこんな状態の部屋で布団も敷かずに眠っているのだ。
病院に行くのも検討したが、貴重なお休みをこんなことのために使ってもよいのか?荒唐無稽すぎて医者からも相手にされないのではないか?などと思ってしまい、結局休日はいつも家で円盤やアニメのBDを見て終わってしまう。
今日もまた少し悩んだが、やはりアイマスよりも優先したい事象などない。
この荒れた部屋を片付けてから、さまざまな事務所のP活動に勤しむことにしよう。

なぜなら俺は、アイマスのある生活がたまらなく好きなのだから。

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