COVID-19ワクチンに含まれる化学的修飾が施されたRNAは癌の発生とは無関係です。

【主張】

  • COVID-19 mRNAワクチンに癌の発生を助ける可能性があることが分かった。

  • 確定事項: 研究者がCOVID-19 mRNAワクチンに免疫反応を抑制し、癌の成長を刺激する成分が含まれていることを明らかにした。

  • COVID-19 mRNAワクチンは癌の発生を助ける可能性があるだけでなく、癌の発生を引き起こし、悪化させる可能性がある。

【評定詳細】

事実誤認:

  • この主張は、Sittplangkoon氏らの研究に基づく文献レビューの結論に由来するものです。

  • しかしながら、このレビューは研究結果を正確に表現していません。

  • 主張に反して、この研究はCOVID-19ワクチンに使用されているような化学的修飾が施されたmRNAが癌の発生を促進することは示していません。

裏付け不十分:

  • この主張は、COVID-19ワクチンと癌の発生との間に新たな関連性があることを示唆するものです。

  • しかしながら、その主張を裏付けるために使用された科学出版物は文献レビューです。

  • この形式の出版物は既存の知識を要約したものであり、新たな結果を提供するものではありません。

【キーポイント】

  • COVID-19 mRNAワクチンには、安定性を高め、強力な免疫反応を誘導する能力を向上させる化学的修飾が施されたRNAが含まれています。

  • このような化学的修飾は、mRNAベースの抗癌ワクチンを効きにくくすることを示唆する結果も報告されています。

  • しかしながら、COVID-19ワクチンが癌の発生リスクを高めるということを意味するものではありません。

  • COVID-19ワクチン接種が癌の発生リスクを増加させるという根拠はありません。

【レビュー】

Science Feedbackファクトチェック機関は、COVID-19ワクチンが癌の発生リスクを増加させることを示唆する根拠のない主張と欠陥のある公衆衛生データ分析に繰り返し反論してきました。また、2024年に米国で予測される新たな癌診断の増加は、COVID-19ワクチン接種とは無関係であり、人口の高齢化とパンデミック時の癌検診と治療の遅れによって十分に説明可能であることも解説しました

しかしながら、COVID-19の偽情報を広めたことで知られる組織America's Frontline Doctorsは、このシナリオを押し進め続けています。最近では、Rubio-Casillasらによる2024年4月の科学論文が「COVID-19 mRNAワクチンが癌の発生を助長する可能性があることを発見した」と主張しています[1]。

以前にもCOVID-19やワクチンに関する虚偽の主張を掲載したことのあるウェブサイトThe HighWireも、この科学論文が「mRNAワクチンが癌の発生を助長する可能性がある」ことを示したと書いています。The HighWireは、COVID-19ワクチンについて誤った情報を広めたことで知られる心臓専門医Peter McCulloughを引用して、次のように述べています。McCulloughは、「COVID-19 mRNAワクチンは癌の発生を助長する可能性があるだけでなく、癌を良くするどころか、癌の発生を引き起こし、悪化させる可能性がある」と述べています。

しかしながら、この主張には根拠がありません。この主張の根拠として提示された科学論文には、それを裏付ける新しい結果は含まれておらず、別の研究の結果を誤って解釈しています。

Rubio-Casillasらによる論文には新しい発見はなかった。

そもそもRubio-Casillasらの論文は研究論文ではありません。新しい実験結果や臨床結果は含まれていません。その代わり、著者らは既に存在する文献のレビューを行なっているだけです。

これが研究と文献レビューの決定的な違いです。研究は仮説を立て、実験、データ分析、臨床試験を実施してそれを検証し、新たな知識を生み出すものです。

これに対して文献レビューは、既知のことを要約し、結果や競合する仮説を批判的に分析するものです。これによって、新たな仮説を立てたり、新たな研究の道筋を見出したりすることは可能ですが、それ自体が何か新しいことを示すわけではありません。新しい仮説が生まれたとしても、実験的、臨床的に確認される必要があるからです。従って、この論文がCOVID-19ワクチンと癌との関連を「発見した」という主張は正しいとは言えません。何故なら、実験や臨床試験でその仮説を検証したわけではないからです。

Rubio-Casillas et al. らの主張立証に重要な研究を誤って解釈している。

Rubio-Casillas らの主な主張は、COVID-19 mRNAワクチンに使用されたmRNAには「癌の増殖と転移を刺激する」化学的修飾が含まれており、「COVID-19 mRNAワクチンが癌の発生を促進する可能性があることを示唆している」というものでした。

これは、COVID-19 mRNAワクチンに使用された修飾ヌクレオチド(RNAとDNAの構成要素)のことです。具体的には、ウリジンというヌクレオチドの代わりに、ワクチンmRNAにはN1-メチル-シュードウリジンが含まれています。

通常のウリジンを用いた未修飾のRNAは炎症反応を引き起こし、細胞内に入ると速やかに分解されます。対照的に、N1-メチル-シュードウリジンを用いた修飾されたRNAでは、細胞のRNA検出システムを回避することが可能であり、炎症を引き起こすことはありません[2]。修飾されたRNAを用いたワクチンは、より大きな抗原産生を誘導することが可能であり、炎症が抑制されるため忍容性が高く、より強力な免疫記憶を誘導することが可能となります[2]。2023年にKatalin KarikóとDrew Weissmanがノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、修飾されたRNAの免疫調節能の発見についてでした。

Rubio-Casillasらは、N1-メチル-シュードウリジンがワクチン効果に有用である一方で、癌の発生を促進する可能性もあるという主張を支持するために、Sittplangkoonらの研究に大きく依存しています[3]。Sittplangkoonらは、この総説で引用されている研究の中で、ウリジン修飾が癌免疫に及ぼす影響を直接的に検討している唯一の研究である。

更に、Rubio-Casillasらはその抄録の中で、「COVID-19 mRNAワクチンが癌の発生を促進する可能性を示唆する証拠が提供された」と主張しています。この文章はSittplangkoonらの研究を指しており、この主張のいくつかバージョンで繰り返されています。

しかしながら、以下に説明するように、これはその研究の誤った解釈です。

Sittplangkoonらは、COVID-19ワクチンが癌の発生を促進するかどうかを研究したのではないことを明確にすることが重要です。実際、彼らの研究は抗癌ワクチン、即ち、COVID-19ワクチンがSARS-CoV-2ウイルスに対する免疫を高めるように、特定の癌に対する免疫を高めるワクチンに重点を置いていました。

そのために研究者達は、オバルブミンというタンパク質(卵白に多く含まれるタンパク質)を産生するメラノーマ細胞(メラノーマは皮膚癌の一種)をマウスに注射しました。同時に、このオバルブミンタンパク質を産生する遺伝情報を持つmRNAを含むワクチンをマウスに接種しました。その目的は、COVID-19ワクチンがSARS-CoV-2を認識し破壊するように免疫系を訓練するのと同じように、オバルブミンを持つメラノーマ腫瘍を認識し破壊するようにマウスの免疫系を訓練することにありました。

Rubio-Casillasらは、COVID-19 mRNAワクチン(ウイルスに対する免疫を構築するスパイクタンパク質のmRNAを含む)が、自然に発生する癌に対する我々の免疫防御を不注意に損なう可能性があるかどうかを議論していました。対照的に、Sittplangkoonらは、人為的に誘発された特定の癌を標的とするワクチンに、修飾RNAと非修飾RNAを使用することが可能かどうかを検討しました。

Sittplangkoonらは、非修飾RNAを用いた癌ワクチンはメラノーマに対する免疫を高める効果があることを発見しました。一方、修飾RNAを用いたワクチンでは、ワクチン未接種の健康なマウスと比較して、メラノーマに対する免疫力は向上させることは出来ませんでした(図1)。

図1-修飾または非修飾RNAを含む抗癌ワクチンが腫瘍増殖に及ぼす影響。
このグラフは、ワクチン未接種、或いは修飾または非修飾のmRNAをワクチン接種したマウスのメラノーマ増殖を示しています。
N1-メチル-シュードウリジンを含む修飾RNAは「100% m1Ψ」で示されています。
灰色の線: 非修飾RNAでワクチン接種したマウス。
青線:修飾mRNAを接種したマウス。
赤、オレンジ、緑の線:ワクチンを接種していないマウス。
出典:Sittplangkoonら[3]

重要なことは、修飾RNAをワクチン接種したマウスの成績は、ワクチン接種していないマウスより悪くなかったということです。言い換えれば、N1-メチル-シュードウリジンの存在は、マウスが癌と闘う能力を妨げるものではなく、抗癌免疫を向上させるものではなかったということです。

要約しますと、Sittplangkoonらの結果は、抗癌ワクチンは修飾RNAを含まない方がより効果的であることを示唆しています。しかしながら、修飾mRNAに含まれるN1-メチル-シュードウリジンが我々の身体の抗癌免疫に有害であることは示されていません。このような知見がない以上、Rubio-Casillasらの主張は根拠のないものであり、Sittplangkoonらのオリジナルの研究を誤って伝えていることになります。我々はRubio-Casillasらの著者に連絡を取り、今回紹介したSittplangkoonらの結果を考慮したかどうかを確認し、新たな情報が得られればこのレビューを更新する予定です。

結論として、Rubio-Casillasらは、COVID-19ワクチンが癌の発生を引き起こす、或いは癌の発生を促進するという主張を支持する新しいデータを提供していません。この主張は、COVID-19ワクチンとは何の関係もなく、Rubio-Casillasらが主張することを示さなかったSittplangkoonらの研究に大きく依存しています。

引用文献

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