Pro Power Saveは電気代を削減することは出来ませんし、この種の他の詐欺装置も同様です。

【主張】

  • Pro Power Saveの特許出願中の技術により、家庭にスムーズで安定した電流を供給し、効率を高め、汚れた電気を減らし、無駄な電力を減らし、エネルギー消費を劇的に削減出来る。

  • Pro Power Saveは、電気の有害なスパイクを除去し、電化製品や電子機器の損傷を防ぐ。

【詳細評定】

不正確:

  • Pro Power Saveの電気代削減方法は、電力会社からの請求額を殆ど変えないため、実際には効果がありません。

誤解を招きます:

  • Pro Power Saveのマーケティングは、全く事実に反する広告や技術用語を用いて、この装置がサージから保護することが出来るとか、「電磁放射」を減少させることが出来ると偽っています。

【キーポイント】

  • Pro Power Saveのような装置は何年も前から出回っており、どれも余分な電力を削減し、顧客の光熱費を削減し、電子機器を保護するという同じような内容の約束の下に販売されてきました。

  • これらの機器は、顧客の電気代を削減するものではありません。

  • 更に、テストにより、これらの機器は安全上の潜在的危険があることが明らかになっています。

  • 安っぽい作りのものが多く、感電死や電気火災を引き起こしかねないためです。

【レビュー】

電気代の大幅な節約を約束する機器は目新しいものではないし、消えてしまったわけでもありません。実際、Facebookの投稿の多くは、プラグと緑色のライトがついた小さな白い箱を宣伝しています。例えば、イーロン・マスク氏が発明したとされるPro Power Saveという製品の《muskenvironmental.com》によるレビューと思われる最近の投稿を見てみましょう。「この革命的なテクノロジーを使えば、全てのアメリカ人は電気代を90%削減することが出来る」と、このレビューと思われる投稿は主張し、Pro Power Saveが電気サージや 「汚れた電気 」から電子機器と人間の両方を守ることが出来ると主張する別のページにリンクしています。

Pro Power Saveは、《eSaver Energy Saver》、《Miracle Watt》、《Watt Saver》、或いは《Powersave》(Science Feedbackによる2020年のレビューを参照)といった名前を持つ、ほぼ同じ外観のデバイスの最新作です。これらの機器は、Amazonや eBayといったオンラインショップで広く販売されています。最近の主張の多くは、マスク氏を引き合いに出しています。例えば、現在は削除された《msuksavings.com》というウェブサイトは、《muskenvironmental.com》とほぼ同じフォーマットで、米国司法省との法廷闘争に勝利した後、マスク氏はPro Power Saveを販売することが可能になったと主張していました。

この記事で説明する通り、これらの商品は誤解を招くような広告に頼った詐欺商品です。これらの製品をサポートするウェブサイトは、虚偽の情報と詐欺的な画像で埋め尽くされています。更に、このレビューでは、Pro Power Saveが実際には技術的に安全ではないことを示します。Pro Power Saveや類似の装置を使っても、顧客の電気代は削減されません1。また、ウェブサイトの主張とは裏腹に、安全団体は、Pro Power Saveのような装置は安価に作られており、潜在的に危険であることを明らかにしてきました。

Pro Power Saveは虚偽の広告に依存しています

muskenvironmental.com》も 《msuksavings.com》もマスク氏とは何の関係もなく、マスク氏が公に節電装置を推奨したことも一度もありません。Facebookの投稿と《muskenvironmental.com》は、それぞれジョアンナ・ゲインズ氏やレオナルド・ディカプリオ氏といった他の有名人についても言及しています。ゲインズ氏もディカプリオ氏も、節電装置について語ったことは一度もありません(実際、ゲインズ氏はこの広告に出演していることを承知しており、広告への同意を明確に否定しています)。

偽のレビューには、捏造された、或いは誤った文脈を与えられたと思われる画像が多数含まれています。一例を挙げますと《muskenvironmental.com》は、「ドロシー・スミス」というテスラの従業員が「電気代を滞納して」熱射病で死亡したことから、マスク氏がPro Power Saverを開発する気になったと主張しています。記事はこの主張を、ドロシー・スミスとその夫を描いたとされる画像で裏付けています。この画像に実際に写っておられるのは、2022年にワシントンDCで落雷に遭い亡くなったジェームズ・ミューラー氏とドナ・ミューラー氏という夫妻です。この悲劇的な事件も被害者も、テスラ社とは何の関係もありません。

別の例として、《muskenvironmental.com》は、「ある読者 」から提出された2019年のロサンゼルス地域の電気料金請求書の画像を使い、節約の証拠として表示しています。この画像の具体的な出所を特定することは出来ませんでしたが、読者から発信されたものではありません。少なくとも2019年の時点で、同じ番号の同様の画像が他の投稿に掲載されています(例えば、ソーラーパネルを設置することで住宅所有者がいかに電気を節約出来るかを示すと称するものです)。

《msuksavings.com》を巡っては、米司法省が節電発明についてマスク氏を裁判に訴えたことは一度もありません。この特定の主張は、同省が過去にマスク氏の会社と対立した事実を反映しているのかもしれません。同省は現在、顧客を欺いた疑いでテスラ社を調査中であり、雇用慣行を巡ってスペースX社を以前に訴えたことがあります。しかし、これらのケースはいずれも、想定されるエネルギー料金削減装置とは何の関係もないものばかりです。

製品サイトには更に誤解を招く情報が掲載されており、第三者の出版物に「掲載された」レビューが参照されています。これらのレビューはいずれも存在しません。引用された出版物の一つであるForbesは、マスク氏とこの装置との関係を否定するファクトチェックを書いています。もう一つの雑誌Popular Electronicsは、1999年にこの名前で出版されたのが最後となっています

図1-「省エネ」機器を宣伝する投稿のスクリーンショット

つまり、サイトそのものが信憑性に欠ける情報で埋め尽くされているわけです。果たして、Pro Power Saveに技術的なメリットはあるのでしょうか?

正弦波の 「クリーニング 」は電気代削減に微々たる効果しか発揮しません

答えはノーです。仮にPro Power Saveが機能したとしても(後述するように、機能しない可能性が高いですが)、顧客の電気代は減らないでしょう。

Pro Power Saveのマーケティングでは、「全ての電化製品は、電力会社が顧客に過大な料金を請求し、詐欺を働くために作り出した非効率性や正弦波上のノイズにより、稼働に必要な電力よりも多くの電力を消費する」と主張しています。この主張では、具体的な「非効率性とノイズ」については明記していないのですが、《muskenvironmental.com》と《msuksavings.com 》に掲載されている画像では、力率補正とノイズ抑制と呼ばれるプロセスが示されているようです。これらのプロセスは一般家庭の電気には関係ありません。

交流(AC)は正弦波の形で流れています。この波は、実際には電圧と電流の2つの要素で構成されています。理想的には、この2つの波は同位相で、互いに整列しているのが望ましいです。しかしながら、交流電力に依存する機器(扇風機、冷蔵庫、その他モーターを備えたもの等)は、電流波が電圧波より遅れてしまいます。この好ましくない遅れは電力を浪費し、建物が実際に使用するよりも多くの電力を消費することを意味します2。力率補正は、この遅れを補正することで無駄な電力を削減します2。

力率補正は一般家庭のユーザーには関係ありません。2020年のレビューで指摘した通り、大部分の電力供給会社は、一般家庭のユーザーに対して、使用した分の電力しか請求しません。交流モーターで動く重機を動かすために大量の電力を消費することが多い産業用ユーザーとは事情が異なります。電力会社は、力率補正を実施しない事業用ユーザーに対して課徴金を追加することがよくあります。

しかしながら、一般家庭のユーザーはこの心配をする必要はありません。つまり、企業が「顧客に過大な料金を請求し、詐欺を働くために」ノイズを作り出しているという主張にも関わらず、現実には、電気事業者は既にPro Power Saveの仕事の多くを自分達自身で行なっているの です。

一般家庭のユーザーも、通常は電気ノイズを心配する必要はありません。電気は決して完全に滑らかな正弦波にはなりません。回路内の抵抗から稲妻まで、あらゆるもののせいである程度の電気ノイズを全ての回路が抱えているからです。しかしこうしたノイズは、顧客の請求書には殆ど影響しません。アメリカ国立標準技術研究所のTom Nelson氏はScience Feedbackに対して次のように語っています:「正弦波をクリーニングしても、電気エネルギーの使用量が変わるとは考え難いです」

Pro Power Saveはあなたの家をより安全にはしません。

Pro Power Saveのウェブサイトには、このデバイスが家庭をより安全にし、他のデバイスを損傷から守るとも書かれています。このデバイスは、「有害なショックやサージを除去」し、「電気回路からカーボンを除去」し、「有害な電磁波への露出を大幅に減らす」ことが出来るとされています。これらの主張は、「画期的な電気安定化技術」、「先進的なコンデンサー」、「特許出願中の磁気フィルター」といった意味のない技術用語で表現されています。

これとは対照的に、多くのレビュアー(ElectroBOOMBig CliveElectrical Safety Firstを参照)がPro Power Saveのようなデバイスの中身を調べてみた結果、通常はLEDライトと基本的なコンデンサー(電荷を蓄える部品)1つしか入っていないことが判明しました。これは高度な技術ではありません。

この回路は、サージ・プロテクター(コンデンサーを使用することは出来ますが、全く異なる設定が必要です)3としても機能しませんし、カーボン付着物を除去することも出来ません(物理的な力と化学的な洗浄の組み合わせが通常は必要となります)。実際、「電磁放射」とは単に電磁スペクトル上のあらゆるものを指し、その大部分は人間にとって無害であるため、デバイスの光自体が電磁放射を発していることになります。

それどころか、Pro Power Saveのような機器はかなり危険であるという証拠が存在します。英国の地方自治体製品安全チームであるバッキンガムシャー州とサリー州取引基準局が、このような機器を4台テストした結果、低品質の部品で安価に作られており、感電や火災の危険性があることが判明しました。英国の慈善団体Electrical Safety Firstは、このような機器を4つテストし、同様に火災の危険がある粗悪品であることを確認しました。おまけに、どちらの団体も、この装置は電気消費量を減らすことが出来ず、場合によってはむしろ消費量を増やしていることを明らかにしました。

結論

  • Pro Power Saveは、過去数年間にインターネット上に出回った他の商品と同様、詐欺商品です。

  • イーロン・マスク氏は、顧客の電気代を削減する装置を発明したわけでも、販売したわけでもありません。

  • これを宣伝するウェブサイトは、他の情報源から引用した画像や完全に捏造された画像等、虚偽の情報で満ちています。

  • 更に、Pro Power Saveの主張には、実際の電気工学的根拠は殆ど存在しません。

  • たとえ効果があったとしても、大部分のユーザーの電気代は削減出来ません。

  • 同様の装置のテストでは、欠陥や安全性の失敗が分類されているため、機能するかどうかは大いに疑問です。

引用文献:

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