風力タービンがワシに害を与えるという事実も認められているものの、それ以外の原因で死亡するワシの方が圧倒的に多いのが現状です。

【主張】

  • 風車はワシを殺す。

  • 風車と風力タービンは環境破壊であり、鳥とワシを殺す。

【詳細評定】

科学的知見を誇張:

  • ワシや他の大型鳥類が風力タービンに弱いことを示す証拠はいくつかあり、風力タービンの建設が少なくとも1種のワシの個体数を減少させたという証拠もあります。

  • しかしながら、その関連性を解明するには更なる調査が必要です。

文脈の欠如:

  • 例えば、感電死や毒殺、銃乱射、そして人為的な気候変動の影響等です。

  • 更に、ワシや大型の鳥だけでなく、全ての鳥を対象とした場合、風力タービンが殺す鳥は、化石燃料や建物、猫が殺す鳥の数百倍から数千倍も少なくなります。

【キーポイント】

  • 決定的ではないにせよ、ワシが風力タービンと衝突して死亡する確率が偏っていることや、ワシの個体数が減少していることを示唆する証拠も存在します。

  • しかしながら、風力タービンだけがワシの死亡要因ではないという文脈で、これらの主張を整理することが重要な意味を持ちます。

  • ワシは自動車や送電線、銃、気候変動の影響でも死ぬ可能性があります。

  • 私達が風力タービンを建設しているのは、化石燃料への依存を減らし、気候変動を緩和するためでもあります。

  • 更に、風力タービンがワシに害を与えていると主張する人々は、悪意を持って行動している可能性があります。

  • 彼らの目的は野生動物を救うことではなく、風力エネルギー開発に全力で反対することなのかもしれません。

【レビュー】

陸上風力発電に対する一般的な批判は、風力タービンがワシを殺すというものです。これは、風力エネルギー支持派で定評のある環境保護団体による主張です。しかしながら、National Wind WatchInstitute for Energy Researchのような明らかに風力発電に反対している団体もこの主張をしており、この団体は化石燃料の利益団体から資金提供を受けており、気候変動における人間の役割を頻繁に軽視しています。Science Feedbackが以前レビューした通り、この主張が全ての鳥に拡大されることもあります

風力タービンがワシを殺すと主張する最も著名な人物は、恐らくドナルド・トランプ米大統領と言えるでしょう。例えば、トランプ氏は2023年、風力タービンが毎年「数千羽」のハクトウワシを殺していると主張しました。例えば、あるSNSユーザーによるこのInstagramの投稿をご覧下さい。「風車は[中略]絶対的な金の無駄であるだけでなく、我々のワシを殺す 」と再主張するために、風力エネルギーに関する無関係なトランプ氏の苦情を引用しています。このInstagramの投稿は、1月16日にアップロードされて以来、20万ビュー以上を集めています。

例えば、ワシは小型の鳥類よりも風力発電の影響を受けやすいという事実はありますが、更なる研究が必要です。以下で説明します。

風力タービンは鳥類殺傷の最大要因にはならないものの、    ワシや その他の大型鳥類には多大な影響を及ぼしている可能性があります。

Science Feedbackが以前に紹介した通り、全ての鳥類に目を向けると、風力タービンが鳥類の死亡原因の極一部であることは科学的に明らかです。2012年の研究の著者は、化石燃料発電所、農薬、ビルの窓、野良猫がそれぞれ数千万羽を死亡させた一方で、2009年には風力タービンが米国で約46,000羽を死亡させたと推定しています。

2015年に実施された研究の著者達も、他のいくつかの研究による推定値を組み合わせて、風力タービンによる鳥類の死亡数は他の発生源よりも遥かに少ないという結論を出しています(図1)。彼らは、米国の風力タービンによる鳥類の死亡数は年間およそ46万羽から68万羽であると推定しています[1]。この数値は、先の研究の数値よりは高いものの、後の研究が推定した感電死による鳥類(米国だけで毎年92万羽から1,150万羽)、建物との衝突による鳥類(3億6,500万羽から9億8,800万羽)、猫による鳥類(13億羽から40億羽)[1]よりも遥かに小さなものです。

図1-2010年代初頭における、ワシだけでなく全ての鳥類の年間推定殺処分数。         出典: Loss et al(2015)[1]。

しかしながら、最大級の鳥類であるワシについては特にそうなの でしょうか?大型の鳥類は、風力タービンの犠牲者に多く含まれる傾向にあります。Renewable Energy Wildlife Institute(再生可能エネルギー産業が一部出資しているシンクタンク)の2021年の報告書によりますと、風力タービンによる鳥類の死亡事故の内、昼行性の猛禽類(ハヤブサ、チョウゲンボウ、ハゲワシ、タカ、そしてまさにワシといった日中に活動する猛禽類)が7%を占めています。報告書にりますと、これは鳥類個体群に占める昼行性の猛禽類の割合からすれば「予想以上」であるものの、報告書では人間がより大きな鳥の死体を見つけて記録する可能性が高いことを示唆しています。

2022年の研究で、米国魚類野生生物局の著者らは、米国西部のイヌワシという種の個体数を追跡し、モデル化しました。彼らは、米国には約31,800羽のイヌワシが生息しており、1997年から2016年の間に人間の活動によって毎年約2,572羽が死亡したと推定しています。その死因の26%が銃撃、23%が「衝突」、20%が感電死、17%が(主に鉛による)中毒死によるものでした[2]。著者らは風力タービンによる死亡を「衝突」に分類しました。彼らは風車との衝突を車両、送電線、その他との衝突から分離していなかったものの、彼らのデータは明らかに1997年から2016年の間の米国のイヌワシの死亡の僅かな部分が風車によるものであるとしているだけです[2]。

しかしながら、アメリカでは2016年以降、風力タービンの数が増えています。ワシに対するリスクも高まっているのでしょうか?いくつかの証拠がそれを示唆しています。2025年の研究の著者は、アメリカ西部でイヌワシが風力タービンと衝突する可能性が高い場所と時期をモデル化しました。著者の衝突推定には大きな不確実性がありますが[3]、この地域に風力タービンが建設されるにつれ、イヌワシが死亡する数は2013年の年間110羽から2024年には年間270羽に増加すると推定しています。より多くのイヌワシが本当に死んでいるのであれば、イヌワシの個体数は減少している可能性がありますが、そうであるかどうかを確認するためには更なるモニタリングが必要です[2]。

ヨーロッパでは、別の種であるオジロワシでも似たような話が展開されているかもしれません。ドイツ北西部で実施されたオジロワシの死亡と風力タービンに関する2019年の調査では、タービンの密度が高い地域でワシが死亡する可能性が高いことが判明しました。有用な生息地として機能していた土地に風力タービンが建設された場合、ワシの死亡リスクは更に上昇することが判明しました[4]。

風力タービンが大型鳥類の個体数を圧迫する可能性があることは、潜在的な将来予測モデルでも裏付けられています。2021年に発表された研究の著者らは、アメリカ国内の既存及び計画中の風力タービンが、イヌワシを含む様々な大型鳥類の個体数にどのような影響を与えるかを推定しています(図2)。彼らは、既存の風力タービンがイヌワシの個体数を僅かに減少に追いやり、計画されている風力タービンが全て建設された場合には急減する可能性があると推定しました[5]。繰り返しますが、減少が起きているかどうかを確認するためには更なる調査が必要であり、これらの推定は1種のワシについてのみです。

図2- 風力タービンがない場合(淡い棒グラフ、「風力なし」)、2021年時点で存在する風力タービンがある場合(オレンジの棒グラフ、「106GW」)、2021年時点でそれらの風力タービンと開発待ちの風力タービンがある場合(赤の棒グラフ、「241GW」)。成長率1.00は鳥の数が不変であることを表し、個体数の増加は成長率1以上、個体数の減少は成長率1未満です。
しかしながら、研究者は風力タービンが特定の鳥を殺す可能性について確信が持てないことが多いため、大きな不確実性があります。
出典 Diffendorfer et al (2015)[5].

とはいえ、研究者達はワシについて断定的なことを言うのは難しいと警告しています。ワシの死骸はいつも見つかるとは限りません。たとえ発見出来た場合でも、ワシは渡り鳥であり、かなり移動しやすいため、死因からかなり離れた場所に死体が落ちている可能性もあるからです。更に、同じ地域内であっても、風力発電所によってワシの死亡数の数え方が異なることもあります[5]。

気候変動もワシに影響を及ぼしています。

風力タービンがワシに害を与えるとしても、風力タービンが死亡の主な原因であるとほのめかし、人間の活動がワシに害を与える他の方法を無視するのは誤解を招きかねない。我々は既に、射殺、毒殺、感電死、タービン以外の物体との衝突といった、そのうちのいくつかについて述べてきました。しかしながら、我々は気候変動の影響も考慮しなければなりません。

気候変動はワシや他の大型鳥類だけでなく、地球上の全ての生物に影響を及ぼしていますが、研究者によりますと、気候の変化によって大型鳥類は病気に罹りやすくなり、繁殖パターンが変化し、渡りをする場所が移動し、これら全てがワシにとって致命的な影響を及ぼす可能性があるとのことです。ワシはしばしば動物の死骸を漁って食料を確保していますが、モデルからは、将来的に動物の死骸を漁ることが難しくなることが示唆されています[6]。

ワシはまた、気候変動の間接的影響にも脆弱な存在です。例えば、特に多くのワシや他の大型鳥類が生息するアメリカ西部では、温暖化により山火事のリスクが高まっています。山火事は生態系を破壊し、ワシの食料供給を妨げる可能性があります。2021年の研究では、山火事後の景観に生息するイヌワシは、巣の中で子供が死ぬ可能性が高いことが判明しました[7]。

全ての鳥類について拡大して考えてみますと、全米鳥類協会の研究者達は、世界の現在の傾向と同じような気候変動シナリオでは、北米の鳥類の3分の2は、変化する状況に適応する能力が制限されることを突き止めました[8]。

我々が風力タービンを建設しているのは、気候変動の影響が悪化するのを防ぐためです。気候変動の最大の要因は、化石燃料の燃焼といった人間の活動による温室効果ガスの排出にあります[9]。そして、全ての鳥類種に目を向けると、化石燃料は風力タービンよりもかなり多くの鳥類を死滅させていることが分かっています。これは、世界が化石燃料からより多くのエネルギーを得ているからというだけのことではありません。前述の2012年の研究では、中規模都市の1年分の電力に相当する1ギガワット時あたりの鳥類の死亡数を推定し、風力タービンが平均0.3羽、原子力発電所が0.6羽、化石燃料発電所が9.4羽であることを明らかにしています。

化石燃料による死亡率が高いのは、物理的な化石燃料発電所による影響だけではないということです。化石燃料に関連した公害によって死亡した鳥類や、石炭採掘や石油・ガス採掘のために自然の生息地を大幅に開墾する化石燃料採掘の影響を受けた鳥類もカウントされているのです。実際、ある研究によりますと、北米ではシェールオイル・ガスの生産によって、地域の鳥類生息数が15%減少しているという結果が出ています[10]。

ワシはしばしば妨害の都合のいい言い訳に使われています。

これまで述べてきたように、風力タービンが林立する風景においてワシがどのような扱いを受けるかを心配するのは当然なことです。風力タービンが鳥類にどのような害を及ぼす可能性があるのかを精査している人々の多くは、真の懸念を表明しています。そのため科学者達はこの問題を研究し、風力タービン事業者達は大型鳥類との衝突の危険性を減らすための措置を講じており、例えば風力タービンを既知の生息地から離れた場所に設置したり、近くのワシを検知してワシが近づき過ぎた場合には風力タービンを停止させる機能を持たせたりしています。

しかしながら、ワシ(或いはクジラ等の他の絶滅危惧種)を保護することよりも、単に再生可能エネルギーを妨害することに関心がある反対派もいるようです。こうした反対派にとって、野生生物の保護は都合のいい言い訳に過ぎないのかもしれません。単に風力タービンを特別視するのではなく、鳥類の利益を本当に考えているのであれば、科学的根拠に従い、送電線の監視強化やネコの規制強化、或いは影響を受けやすいワシの種の射殺(アメリカでは既に違法)に対するより強い取り締まりを要求するかもしれません。

2021年、ブラウン大学の研究者達は、化石燃料の利害関係者と繋がり、資金を提供し、法的支援を共有し、助言者を共有する反風力団体のネットワークを図示しました。このネットワークに含まれる団体の多くは、地域団体や野生動物保護団体のように見えますが、報告書の著者は、「知ってか知らずか、彼らは2012年に気候変動妨害者達によって作られた戦略を実行しているのです」と述べています。

ですから、風力タービンが鳥を殺傷するという主張を見かけたら、その主張に科学的根拠があるかどうかを確認するのがよいでしょう。もし科学的根拠が見つからなければ、誰かが悪意を持ってその主張を推し進めているという赤信号なので注意する必要があります。

結論

鳥類全体について言えば、風力タービンが殺傷する数は、感電死や野良猫のような他の脅威が殺傷する数に比べれば極僅かであるという証拠は非常に明確です。特にワシについて言えば、話は異なるかもしれません。ワシのような大型の鳥類はタービンと衝突して死ぬ可能性が高いかもしれないし、タービンが少なくとも1種のワシの個体数を減少に追いやったという決定的な証拠も存在しないわけではありません。

しかしながら、風力タービンを特別視することは、感電死、毒殺、銃乱射といった、ワシや他の大型鳥類が死ぬ可能性のある他の方法を無視していることに他なりません。更に、我々はワシに危害を及ぼす可能性のある別の要因、つまり人間の活動、特に化石燃料の燃焼によって引き起こされる気候変動の重大な影響を緩和するために風力タービンを建設しようとしているのです。

引用文献:

  1. Loss et al. (2015) Direct Mortality of Birds from Anthropogenic Causes. Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics.

  2. Millsap et al. (2022) Age-specific survival rates, causes of death, and allowable take of golden eagles in the western United States. Ecological Applications.

  3. Gedir et al. (2025) Estimated golden eagle mortality from wind turbines in the western United States. Biological Conservation.

  4. Heuck et al. (2019) Wind turbines in high quality habitat cause disproportionate increases in collision mortality of the white-tailed eagle. Biological Conservation.

  5. Diffendorfer et al. (2021) Demographic and potential biological removal models identify raptor species sensitive to current and future wind energy. Ecosphere.

  6. Marneweck et al. (2021) Predicted climate-induced reductions in scavenging in eastern North America. Global Change Biology.

  7. Heath et al. (2021) Golden Eagle dietary shifts following wildfire and shrub loss have negative consequences for nestling survivorship. Ornithological Applications.

  8. Bateman et al. (2020) North American birds require mitigation and adaptation to reduce vulnerability to climate change. Conservation Science and Practice.

  9. IPCC. (2022) Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability.

  10. Katovich E. (2023) Quantifying the Effects of Energy Infrastructure on Bird Populations and Biodiversity. Environmental Science & Technology.

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