子宮は 「浄化 」をする必要がありませんので、タマネギ茶で子宮筋腫や嚢胞、生理不順などの婦人科疾患を治すことは出来ません。
【主張】
嚢胞や 子宮筋腫がある人、生理が重い人、全く来ない人は、このハーブティーを用意して、早く体を浄化し、病気にならないようにしよう。
生理が来なければ来るようになる。
生理が頻繁に来る場合は、このハーブティーが生理を調整する。
嚢胞や子宮筋腫を取り除く。
子宮を病気から浄化する。
【詳細評定】
裏付け不十分:
タマネギが子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮頸部嚢腫、生理不順といった婦人科系疾患を除去出来ることを示す臨床的エビデンスはありません。
【キーポイント】
子宮は自浄作用のある臓器で、月経時に子宮内膜が剥がれ落ちたり、粘液を分泌して細菌を洗い流したりといった自然なプロセスによって健康を維持しています。
子宮嚢腫、子宮筋腫、生理不順といった婦人科系の不調は、ホルモンバランスの乱れや成長、その他の健康状態によって起こることがありますが、「浄化」の必要性によって起こるものではありません。
これらの症状には、ホルモン療法、薬物療法、手術といった治療が必要な場合があります。
【レビュー】
2024年12月、FacebookとInstagramで共有されたSNS上の投稿では、赤タマネギを水で煮出したハーブティーが子宮を「浄化」し、嚢胞、子宮筋腫、月経不順といった症状を治すと主張されていました(例はこちらと、こちらと、こちら)。これらの投稿は合計で100万以上のインタラクションを獲得しました。
一部の投稿には、2019年にニューサウスウェールズ州医療苦情委員会からオーストラリアでの医療サービス提供を永久に禁止された自然療法士であるBarbara O'NeillのAI生成コンテンツが使用されていました。Science Feedbackは、経口避妊薬が多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や子宮筋腫を引き起こすという彼女のデマ主張やマンモグラフィーが乳癌の一因であるというデマ等、過去に数多くのレビューでO'Neillについて報告してきました。
以下で説明しますが、子宮を「浄化」する必要はありませんし、タマネギ茶の自然療法で嚢胞や子宮筋腫、月経周期の不順がなくなるという臨床的エビデンスもありません。
子宮に 「浄化 」は必要ありません
子宮や膣のような女性の生殖器官は 「浄化 」されなければならないという考え方が以前から広まっています。
2023年にナショナル・ジオグラフィックが発表したこの主張を否定する記事の中で、婦人科医のCheruba Prabakar氏は「子宮をデトックスすることなどあり得ない」と述べています。記事は更に、「子宮には毒性はなく、『洗浄』する必要はありません」と伝えています。
詳しく説明しますと、子宮には健康を維持するための自然なプロセスがあるため、「浄化」する必要はないのです。例えば月経周期では、妊娠に備えて内膜(子宮内膜)が厚くなり、妊娠が成立しなければ月経によって剥がれ落ちます。また、子宮頸管は粘液を分泌して細菌や異物を洗い流し、子宮内膜は定期的に再生して妊娠に備えます。
同様に、膣は洗浄液や 特別な石鹸等で 「洗浄 」する必要があるという俗説がありますが、膣は自浄作用のある器官です。おりものが自然に分泌されることで、死んだ細胞や細菌、その他のゴミが取り除かれ、健康が維持されるのです。また、膣は健康な細菌によってpHバランスが調整され、感染症から守られています。刺激の強い洗浄液や ドーチングを使用すると、このバランスが崩れ、刺激や感染症、骨盤内炎症性疾患といったその他の健康合併症を引き起こす可能性があります[1]。
つまり、子宮と膣は自浄作用があり、解毒剤や洗浄剤を使う必要はないのです。
タマネギやタマネギ茶が人間の子宮筋腫、嚢胞、生理不順を治すというエビデンスはありません。
子宮筋腫は、子宮の筋肉組織に発生する非癌性の腫瘍です。平滑筋細胞や結合組織の異常増殖によって形成されます。子宮筋腫は自覚症状がないことが多いため、子宮筋腫があることに気づかない人もいます。子宮筋腫は通常、ホルモンの変化と遺伝によって引き起こされます。
卵巣嚢腫は、卵巣内または卵巣に形成される液体で満たされた袋で、多くの場合、通常の月経周期の一部として形成されます。大部分の卵巣嚢腫は良性で自然に治りますが、大きくなったり破裂したりすると痛みや合併症を引き起こすものもあります。
子宮頸部嚢胞の一種であるナボチア嚢胞は、粘液産生腺が閉塞して液体が貯留すると子宮頸部に発生します。これらの嚢胞は通常無害で、多くの場合無症状であり、不快感を引き起こさない限り治療の必要はありません。
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮の外、一般的には卵巣、卵管、骨盤内膜に増殖する疾患です。これが卵巣子宮内膜腫(チョコレート嚢胞)の形成につながり、古い血液で満たされ、骨盤痛、生理痛、不妊症といった症状を引き起こすことがあります。
これらの疾患はそれぞれ、その重症度や健康への影響によって、経過観察から薬物療法、手術まで、様々な治療が必要となります。
生理不順とは、月経周期の長さ、月経周期間の日数、生理症状の重さといった「標準」から外れていると考えられる月経周期の不順を指します。生理不順は、ストレスレベルの上昇やウイルスから、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や甲状腺疾患といった疾患まで、様々な医学的・生活習慣的要因によって引き起こされる可能性があります。生理不順は通常、ホルモンによる避妊によって対処されます。
タマネギやタマネギ茶が子宮筋腫、嚢胞、生理不順を解消するという主張を支持するエビデンスがあるかどうかを調べるため、米国国立医学図書館が主催する生物医学論文のリポジトリであるPubMed#で検索を実施しました。その結果、タマネギをヒトのこれらの婦人科疾患に使用することを支持する科学的エビデンスは見つかりませんでした。
但し、ラットを対象に実施されたある動物実験では、PCOSをシミュレートするためにレトロゾールという薬物を投与した結果、ウェールズオニオン(Allium fistulosum)エキスを投与されたラットは、投与されなかったラットと比較して、ホルモンバランスが健康的になり、エストロゲンレベルが上昇し、卵巣機能が改善したことが示されています[2]。
要するに、これらの知見は、ウェルシュ・オニオンエキスがPCOS患者のホルモンバランスを回復させ、卵巣の健康状態を改善するのに役立つ可能性を示唆しています。しかしながら、動物実験から得られた知見をヒトに外挿することは出来ないということを心に留めておくことが重要です。例えば、げっ歯類の月経周期はヒトのそれを反映していません。そのため、これらの予備的知見を補強したり反論したりするには、ヒトを対象としたより大規模な臨床試験が必要になります。
結論
タマネギ茶が子宮を「浄化」し、嚢胞、子宮筋腫、生理不順といった症状を治すという主張がSNS上で広まっていますが、これらの主張を裏付ける科学的エビデンスは存在しません。
子宮と膣は、自然のプロセスによって健康を維持する自浄作用のある臓器であり、タマネギは一般的な健康効果をもたらす可能性はありますが、これらの婦人科系の問題に対する治療法として確立したものではありません。
# PubMedの検索クエリー:
((allium cepa[Title/Abstract]) OR (onion[Title/Abstract])) AND (uterine fibroids[Title/Abstract])
((allium cepa[Title/Abstract]) OR (onion[Title/Abstract])) AND (fibroids[Title/Abstract])
((allium cepa[Title/Abstract]) OR (onion[Title/Abstract])) AND (ovarian cysts[Title/Abstract])
((allium cepa[Title/Abstract]) OR (onion[Title/Abstract])) AND (endometriosis[Title/Abstract])
((allium cepa[Title/Abstract]) OR (onion[Title/Abstract])) AND (polycystic ovary syndrome[Title/Abstract])
((allium cepa[Title/Abstract]) OR (onion[Title/Abstract])) AND (menstruation[Title/Abstract])
引用文献
1 – Martino and Vermund. (2002) Vaginal Douching: Evidence for Risks or Benefits to Women’s Health. Epidemiologic Reviews.
2 – Lee at al. (2018) Welsh Onion Root (Allium fistulosum) Restores Ovarian Functions from Letrozole Induced-Polycystic Ovary Syndrome. Nutrients.