抗寄生虫薬であるイベルメクチンとメベンダゾールを推奨する癌治療プロトコールにはエビデンスが不足しています。

  • 既に以下の記事を訳しましたが、

  • Science Feedbackも同種の話をファクトチェックしてくれたようですから、訳しておきます。

【主張】

  • 世界初の癌に対するイベルメクチン、メベンダゾール、フェンベンダゾール投与プロトコールが査読され、2024年9月19日に出版された!

  • 癌治療の未来が今始まる。

  • イベルメクチンとメベンダゾールが癌に効くことが証明 れた。

【詳細評定】

裏付け不十分:


  • Makisが共同執筆した癌治療プロトコールは、前臨床試験、伝聞的症例報告、イベルメクチンとメベンダゾールの癌に対する有効性を評価していないヒトでの研究に依拠しています。

  • これらの研究は、ヒトにおけるイベルメクチンとメベンダゾールの抗癌効果に関する信憑性のある科学的証拠にはなりません。

【キーポイント】

  • イベルメクチンとメベンダゾールは承認されている抗寄生虫薬で、in vitroや動物実験でも有望な抗癌効果を示しています。

  • しかしながら、前臨床試験では、ヒトでの癌に対する薬剤の有効性を確実に予測することは不可能であり、細胞や動物で有効性を示した薬剤候補は、臨床試験ではしばしば失敗することがあります。

  • これらの薬剤の癌に対する有効性を確立するためのヒトでの臨床試験は、将来の癌治療ガイドラインに情報を提供するために非常に重要であると考えられます。

【レビュー】

2024年10月、イベルメクチンとフェンベンダゾールを含む癌治療プロトコールによって癌が治ると主張するSNS上の投稿や記事が登場しました。Instagramで10,000回以上「いいね!」されたそのような投稿の一つは、「査読され公表された」プロトコルを引用し、「イベルメクチンとメベンダゾールが癌に効くことが証明された」と主張する内容でした。COVID-19やワクチンに関する誤った情報を何度も掲載しているGateway Punditも、2024年10月14日付けの記事でこのプロトコルを喧伝しています。

この投稿と記事は、X(旧ツイッター)で現在29万人以上のフォロワーを持つWilliam Makis(別名Viliam Makis)による2024年10月13日のツイートに基づいています。そのツイートには次のように記されていました: 「速報: 世界初の癌に対するイベルメクチン、メベンダゾール、フェンベンダゾールのプロトコールが査読され、2024年9月19日に公表されました!」

Makisは、カナダのエドモントンにあるCross Cancer Instituteに核医学の医師として以前勤務していましたが、2016年10月、職務上の不正行為に対する苦情により解雇されています

COVID-19ワクチンが一般に入手可能になった後、Makisはワクチンに関する誤った情報を広め、ワクチンが「ターボ癌」を引き起こし、80人のカナダ人医師がワクチンのせいで死亡したと虚偽の主張を行なっています。彼はまた、剖検された人の74%がワクチンが原因で死亡したと結論づけた、欠陥のある剖検分析の共著者でもあります。

現在、College of Physicians & Surgeons of Albertaは、Makisの医師免許を無効としていますが、彼のツイートは、彼が患者に医学的助言を与え続けていることを暗示しています(「私がイベルメクチン、メベンダゾール、フェンベンダゾールの大量投与で何千人もの癌患者を助けてきたことは、多くの方がご存知でしょう」)。

我々はMakisにコメントを求め、必要であれば新しい情報を加えてこのレビューを更新する予定です。

イベルメクチン、メベンダゾール、フェンベンダゾールは寄生虫感染症の治療に用いられる薬剤です。イベルメクチンメベンダゾールは共にヒトに使用され、フェンベンダゾールは通常動物に使用されます。メベンダゾールもフェンベンダゾールも、ベンズイミダゾール系駆虫薬として知られる薬剤の一群に属しています。

Science Feedbackでは、以前レビューでイベルメクチンとフェンベンダゾールに関するウイルス性癌治癒の主張を取り上げ、前臨床研究では有望な結果が得られたものの、ヒトの癌に対する薬剤の有効性を結論づけるには十分ではないと説明しています。

Makis共著の査読付きプロトコールもまた、その推奨を支持する十分な証拠を示しておりません。以下で説明します。

このプロトコールは主に前臨床研究と、イベルメクチンやメベンダゾールの癌に対する有効性とは無関係なヒトでの研究に基づいて書かれています

Makisが共著したこのプロトコルはJournal of Orthomolecular Medicine誌に掲載さ れていたものです。オーソモレキュラー医学は、身体的、精神的な病気は栄養補助食品で治療出来るとするもので、代替医療の一形態であり、その裏付けとなる証拠は殆ど存在しません。この雑誌を発行している国際オーソモレキュラー医学会は、Quackwatchの怪しい団体にリストアップされています。

プロトコールの4ページと5ページを読めば明らかなように、イベルメクチンとメベンダゾールを使用する根拠は、実験室内で増殖する細胞を用いたin vitro研究と動物実験に大きく依存しています。

イベルメクチンとメベンダゾールの投与勧告を裏付けるために、プロトコールは幾つかの科学的出版物を引用しています。しかしながら、これらの出版物はいずれも、これらの薬剤がヒトの癌に対して有効であることを示す十分な証拠を示していません。

イベルメクチンに関する2つの発表は、Guzzoらによる臨床試験de Castroらによるコメントでした。臨床試験は、癌患者ではなく健康な成人を対象とし、比較的高用量のイベルメクチンの安全性を検討したものです[1]。コメントでは、ある種の白血病患者における高用量イベルメクチンの安全性が検討されていますが、これは癌患者のCOVID-19を治療するために実施されたものであり、癌を治療するために実施されたものではありません。

メベンダゾールに関する4つの論文の内、1つはDobrotskayaらもう1つはChiangらによる2つの症例報告でした。症例報告は、通常1人の患者、又は非常に少人数の患者における個々の症例について記述し、解釈したものです。症例報告には、しばしばユニークな、或いは異常な観察が記録されており、それが更なる調査の手がかりとなることがあります。

Dobrotskayaらは、メベンダゾール服用開始後19ヵ月間癌が安定していた転移性癌の48歳男性の症例を報告しました。しかしながら、彼の癌は24ヵ月後に悪化し始めました。

Chiangらは、3人の泌尿生殖器癌患者がメベンダゾールの服用開始後、腫瘍縮小などの著しい改善を経験したことを報告しました。しかしながら、3人のうち2人は従来の化学療法も受けていました。このような状況では、彼らの改善をメベンダゾールだけに帰することは不可能です。

これらの肯定的な結果から、両症例報告はメベンダゾールの人に対する抗癌作用について更なる研究を呼びかけました。しかしながら、症例報告だけでは、患者における癌治療の指針となる十分な証拠とはなり得ません。症例報告は本質的に逸話的エビデンスの一形態であり、サンプル数が非常に少ないことから、その観察結果はより多くの集団に一般化出来るものではありません。

メベンダゾール及びその関連薬であるフェンベンダゾールの癌治療を支持する他の2つの出版物は、既存の科学文献の2つレビューでした。どちらもこれらの薬剤の潜在的な抗癌作用について幅広く論じていますが、これらの作用は主に実験室内で増殖する癌細胞を観察するin vitro研究と動物実験で観察されたものです。レビューの一つは、「ベンズイミダゾール系駆虫薬の臨床試験は、癌治療への使用を評価するにはデータが不十分だ」と記述しています[2]。

要約すれば、プロトコールに引用されている科学的エビデンスは、イベルメクチンとメベンダゾールがヒトの癌に対して有効かどうかという疑問に明確に答えることは出来ないということです。そのため、プロトコールがイベルメクチンとメベンダゾールがヒトの癌治療に有効であることを示しているという主張には根拠がありません。

無作為化臨床試験は、前臨床試験や症例報告に比べ、ヒトに対する薬剤の有効性を評価するのに適しています。

だからといって、イベルメクチンやメベンダゾールがいずれ癌治療に使われるようになるとは言い切れません。これらの薬剤が前臨床試験で有望な結果を示しているのは事実です。しかしながら、前臨床試験だけでは、その薬がヒトの体内でどの程度効くかを予測することは出来ません。

2019年のBreastCancer.orgのポッドキャストで、腫瘍学者のBrian Wojciechowski氏は、「研究室ではマウスを使い、マウスで薬剤を試験している時に有望な結果が得られ、最終的にヒトに使えるようになった時、これらの薬剤のうち実際にヒトで効くものは非常に限られています」と述べています。

実際、臨床試験の成功率を調べた研究では、癌関連の臨床試験の成功率は3.4%であることが判明しています[3]。

しかしながら、細胞や動物を使った研究には、主に研究の足がかりとして、最終的にはヒトでの臨床試験への道を開くという用途があります。例えば、現在、乳癌患者を対象に、イベルメクチンと抗癌剤の新しい組み合わせを評価する臨床試験が進行中です。また、ClinicalTrials.govで検索したところ、メベンダゾールの癌に対する効果について、少なくとも1件の臨床試験が進行中であることが判明しました。

無作為化比較試験(RCT)は、薬剤の安全性と有効性を評価するためのゴールドスタンダードだと考えられています[4]。これらの試験のデザインは、偽の結果をもたらしたり、真の効果を不明瞭にしたりするいくつかのバイアスを軽減することが出来ます。

無作為化が適切に行われれば、比較される対照群と治療群が年齢、性別、健康状態といった特徴において類似していることが確実となります。これにより選択バイアスが緩和され、両群間で観察された差が、両群の特性における固有の差ではなく、介入によるものであるという信頼性が向上します。

このような試験には盲検化も含まれます。二重盲検RCTでは、研究者と参加者の双方が、どの参加者が対照群と治療群に属しているかを知ることが出来ません。このため、研究者と参加者が行動を変えたり、誰が介入を受けているかを知ることによって調査結果の解釈が異なる場合に生じうる様々なバイアスが緩和されます

結論

  • イベルメクチンとメベンダゾールは承認された抗寄生虫薬であり、in vitro及び動物実験で有望な抗癌効果を示しています。

  • これらの薬剤の癌に対する有効性を確立するためには、癌治療のガイドラインを作成するためのヒトでの臨床試験が必要不可欠です。

  • このような試験は現在進行中です。

  • しかしながら、Makisが共同執筆した癌治療プロトコールは、in vitroや動物実験、経験的な症例報告、癌に対するイベルメクチンとメベンダゾールの有効性を評価するためにデザインされたものではない研究に依拠しています。

  • これらの科学的出版物は、Makisやその他の人々による、癌の治療にイベルメクチンやメベンダゾールを使用するという呼びかけを支持するための、信憑性のある科学的証拠とはなりません。

引用文献

いいなと思ったら応援しよう!