CIAはSARS-CoV-2が中国の研究所由来と結論づけたのでしょうか?Daily Mail等の誤解を招く見出しに注意しましょう。
【主張】
CIAは現在、COVID-19は中国の研究所からもたらされたと発表している。
【詳細評定】
誤解を招く情報源です:
Daily Mailの見出しは、SARS-CoV-2の起源に関するCIAの最新の評価を誤って伝えています。
CIAはウイルスが研究室から発生したとは結論付けていません。
CIAは、研究室からの流出仮説は以前より確からしいと考えるようになったと述べているものの、研究室からの流出と自然流出の両方の可能性が残っていることも強調しています。
CIAは、更新された評価を 「信憑性は低い」としています。
【キーポイント】
SARS-CoV-2の起源については、動物からヒトへの自然流出と実験室からの流出という2つの仮説があり、依然として不明なままです。
発表された生物学的分析では前者が有力となっています。
パンデミック初期の臨床検体や動物検体がないため、決定的な結論を出すことは不可能となっています。
どちらの仮説も現在も調査中です。
【レビュー】
2025年1月、The Daily Mailが、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の起源に関するCIAの最新情報を報じています。大文字で 《DID》と目立つように書かれた見出しは、CIAがSARS-CoV-2の起源を中国の研究所に決定的に突き止めたことを示していると思わせるものでした。
The Daily Mailは、誤解を招く、又は不正確な科学的主張を掲載してきた過去があります。ここでも、この見出しは非常に誤解を招きやすく、CIAの立場を正確に反映しているとは言えません。
SARS-CoV-2の起源については、科学的にも政治的にも激しい議論が交わされてきました。パンデミックの初期に発表されたゲノム解析では、SARS-CoV-2は動物から人へウイルスが伝播する人獣共通感染によって自然に発生した可能性が高いと結論づけられていました[1]。
その後、実験室からの流出説を含む代替仮説を比較した結果、自然流出が依然として最も可能性の高いシナリオであると結論づけられました[2]。
とはいえ、誰もがこのシナリオに同意した訳ではありません。例えば、2024年12月、共和党主導の下院委員会は、SARS-CoV-2は中国の実験室から流出した可能性が高いと主張し、委員会の少数派である民主党は反対意見を発表しています。
ニューヨーク・タイムズによりますと、5つの米政府機関が自然流出説を支持し、他の2つの機関は実験室からの流出説を支持しました。これはデータが乏しく、パンデミック初期の検体が不足しているためです。
2023年6月、CIAはウイルスの起源について中立的な立場を維持しました。しかしながら、以前の立場から一転して、CIAは現在、研究室からの流出説を支持しているというのです。
もっとも、CIAはThe Daily Mailの見出しに反して、ウイルスが研究室由来だとは言っていません。実際、CIAは現在、実験室からの流出シナリオの方が可能性が高いと考えているものの、どちらの仮説も可能性があるとしています。
CIAは、自然流出説と実験室からの流出説の両方が依然としてもっともらしいと述べています。更にCIAは、更新された評価を 「低信頼性 」と表現し、不確実性が大きいことを示しています。
CIAの修正見解は、新しい証拠に基づくものではなく、既存の情報を再分析したものであることに注意する必要があります。このことは、データが不完全なままであり、各シナリオの信憑性のレベルが変化し続ける状況において、信頼性の高い評価を下すことの本質的な難しさを強調しています。
結論として、The Daily MailはCOVID-19ウイルスの起源に関するCIAの最近の評価の変化を誤って伝え、ウイルスの起源に関する決定的な判断を誤って伝えています。CIAは、研究室流出シナリオの可能性が高くなったとはいえ、SARS-CoV-2がどのようにして発生したかを理解する上で現在もなお不確実であることを意味しているだけで、CIAの立場は決定的なものには至っていません。
引用文献
1 – Andersen et al. (2020) The proximal origin of SARS-CoV-2. Nature medicine.
2 – Alwine et al. (2023) A Critical Analysis of the Evidence for the SARS-CoV-2 Origin Hypotheses. mBio.