【あたおか】2024年8月、「9600万人の市民」から発見された「ナノボット」を巡る非常事態宣言は出されていません。

日本は2024年8月、9600万人の国民から 「ナノボット 」が検出され、緊急宣言を出したのでしょうか?いいえ、そんなことはありません: 日本で非常事態宣言が発令されれば、世界的な大ニュースになるはずですが、それに関する記事は一切ありません。この 「ニュース 」は、でっち上げで有名なウェブサイトからのものです。このウェブサイトがCOVID-19ワクチンに「ボット」が混入している証拠だとする学術誌の論文は、専門家からは「この分野の正当な専門知識を持っているとは思えない」著者らによって「本物の学術誌ではない」ものに掲載された「素人の戯言」だと評されています。

この主張は、The People's Voiceが2024年8月10日に発表した記事(アーカイブはこちら)に掲載されていたもので、タイトルは 「日本は9,600万人の市民から 『ナノボット』が発見された後、非常事態を宣言する」 でした。記事の冒頭は次の通り:

日本は、COVID-19 mRNAワクチンの悲惨な結果について国民に謝罪し、真相究明と加害者処罰のため、広範囲に渡る科学的調査と犯罪捜査を開始した。

グローバリストのエリートや大手製薬会社はパニックに陥り、日本の調査結果を恐れて恐れており、日本から発信されるいかなるニュースも報道しないよう主要メディアに命じるなど、これらの調査の信用を失墜させるためにあらゆる手を尽くしている。

Japan Declares State of Emergency After 'Nanobots' Found in 96 Million Citizens - The People's Voice (archive.org)

以下は、執筆時のThe People's Voice (TPV)のウェブサイトに掲載されたものです:

( 出典:2024/08/15 木曜日 15:15:49 UTCに取得されたThe People's Voiceのスクリーンショット)

The People's Voiceはまた、2024年8月10日にX(旧ツイッター)上で、同じタイトルの投稿と動画(アーカイブはこちら)においてこの記事をシェアしました。

執筆当時は以下のような感じでした:

( 出典:2024/08/15 木曜日 15:28:30 UTCに取得されたXのスクリーンショット)

緊急事態宣言

Lead StoriesがGoogle Newsでキーワード検索した結果はこちらであり(アーカイブはこちら)、2024年8月15日現在、日本政府が「ナノボット」に対して何らかの非常事態宣言を出したという主張を裏付ける、信憑性のある報道はありませんでした。そのような宣言があれば、広く報道されるはずですが、我々のインターネット検索では何も見つかりませんでした。

検索結果のスクリーンショットを以下に掲載します:

(出典: 2024/08/15 木曜日 21:48:47 UTCに取得されたGoogleのスクリーンショット)

研究

People's Voiceの記事は、2024年7月18日にInternational Journal of Vaccine Theory, Practice, and Researchに掲載された、韓国の産婦人科医であるYoung Mi Lee博士と日本の沖縄キリスト教大学の応用言語学教授であるDaniel Broudy氏による論文(アーカイブはこちら)を引用しています。

彼らの論文の「要旨」では次のように結論付けています::

我々の観察結果は、COVID-19ワクチン内に何らかのナノテクノロジーが存在することを示唆している。

(PDF) Real-Time Self-Assembly of Stereomicroscopically Visible Artificial Constructions in Incubated Specimens of mRNA Products Mainly from Pfizer and Moderna: A Comprehensive Longitudinal Study (archive.md)

The People's Voiceの記事には「ナノボット」という用語が使われていますが、YoungとBroudyの論文ではそこまでは言及されておらず、代わりに彼らが観察したものを「ナノボットのような」構造物、或い、は螺旋状構造物と呼んでいることに注目して下さい。

専門家のコメント

Lead Storiesが接触した2人の感染症専門家は、この論文に疑問を投げかけています。ネブラスカ大学医療センター感染症科のJames Lawler博士は、この論文が掲載されたInternational Journal of Vaccine Theory, Practice, and Researchは 「本物のジャーナルではありません」と2024年8月15日付の電子メールにてLead Storiesに回答しています。彼は続けて次のように語っています:

このようなセンセーショナルな報道で引用された論文は、偽情報を見破る方法のケーススタディになるべきです。その内容は、実際の生物学や科学的な手法に基づかない科学的に出鱈目なものです。正直な話、高校レベルの生物学教育を受けた理性的な人なら簡単に論破することが出来るはずの、比較的素人臭い出鱈目な内容です。

方法と結果の章は膨大で、大量の科学的に聞こえる文章で読者を圧倒する偽情報やプロパガンダの常套手段を反映しています。しかしながら、前述したように、全体的な質は素人の域を出ていません。科学雑誌でクレヨン画を目にする機会はそうそうあるものではありません[1186ページ]。

Fact Check: Japan Did NOT Declare State Of Emergency Over 'Nanobots' Found In '96 Million Citizens' In August 2024 | Lead Stories

2024年8月15日、Lead Storiesとの電話インタビューで、ヴァンダービルト大学メディカルセンター感染症内科のWilliam Schaffner博士は、Lawler氏のコメントと同様のことを述べ、論文の信憑性に疑問を呈しています。彼は次のように述べています:

この論文は、あまり有名ではないジャーナルに、かなり非公式に書かれたものです。もしこれが本当に革命的な発見であり、レフェリーである分子ウイルス学者等によって検証されたものであるならば、主流ジャーナルに掲載さ れると思います。ですから、私は非常に懐疑的です。

Fact Check: Japan Did NOT Declare State Of Emergency Over 'Nanobots' Found In '96 Million Citizens' In August 2024 | Lead Stories

Lawler氏もこれに同意し、「手がかり 」を挙げて、この論文が 「でっち上げのプロパガンダ 」であることを示唆していると指摘しました。彼は次のように付け加えています:

その中には、《International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Research》が実在の学術誌ではないという事実も含まれています。米国国立医学図書館のデータベースを検索して確認した結果、この雑誌は査読付き科学雑誌の目録には載っていないことが判明しました。

第二の手がかりは、著者がこの分野の正規の専門家ではないように見えることです。一人は産婦人科医で、韓国でクリニックを開業しているようですが、ワクチンや毒物学、『ナノボット』(それが何であれ)の専門家である資格は到底認められません。

もう一人の著者は、沖縄キリスト教大学の「応用言語学教授」だということです。繰り返しになりますが、それが彼にどのような専門知識を与えているのか理解するのは困難です。沖縄キリスト教大学のウェブサイトをざっと見てみたのですが、生命科学やその他の科学分野の学部や学科はありませんでした。

Fact Check: Japan Did NOT Declare State Of Emergency Over 'Nanobots' Found In '96 Million Citizens' In August 2024 | Lead Stories

Schaffner氏は、世界中の国々にはワクチン安全監視システムがあり、The People's Voiceの記事のような、9,600万人から 「ナノボット 」が検出さ れたというようなことがあれば、すぐに警告が出るはずだと指摘しています:

ワクチンに含まれる 「ナノボット 」に関する安全性の懸念はありません。

そして、当然ながら、米国FDAや他国の同等の機関は、いわゆる『ナノボット』がこれらのmRNAワクチンに関連する人やワクチンに含まれていることを確認出来ておりません。

Fact Check: Japan Did NOT Declare State Of Emergency Over 'Nanobots' Found In '96 Million Citizens' In August 2024 | Lead Stories

Lawler氏は論文に見られる他の欠点も指摘しています:

この論文で論じられている実験デザイン(この言葉は軽く使っている)は科学的に健全ではなく、正直言って奇妙なものです。

彼らが 「実験 」に使用したと説明している材料には、ビール、焼酎(韓国の蒸留酒)、精液、コードレス携帯電話の充電器等が含まれていました。これは決して作り話ではありません。

ソウルのクレイジーな夜のように聞こえるかもしれませんが、正しい科学とは思えません。何故ならそうではないからです。

Fact Check: Japan Did NOT Declare State Of Emergency Over 'Nanobots' Found In '96 Million Citizens' In August 2024 | Lead Stories

Pfizer社

以前からそうであるように、Pfizer社は自社製品に「ナノボット」が含まれているという見解を否定しています。2024年8月15日にLead Stories社に送られた電子メールで、同社の広報チームは次のように述べています:

Pfizer-BioNTech社製のCOVID-19ワクチンにナノボットは含まれていません。

Fact Check: Japan Did NOT Declare State Of Emergency Over 'Nanobots' Found In '96 Million Citizens' In August 2024 | Lead Stories

但し、Pfizer社のCOVID-19ワクチンには、脂質ナノ粒子(脂肪分子である脂質から作られた微小粒子)は含まれています。Pfizer社のウェブサイトに掲載された記事には、ワクチン接種後にmRNA分子を細胞内に送り込む仕組みが説明されています。

この場合のナノとは、100ナノメートル以下の大きさのものを意味します。つまり、そのサイズのものはナノ・サムシング(ナノ粒子、ナノボット等)と呼ばれることになります。ナノメートルは1メートルの10億分の1です。

メールの結びで、Lawler氏はThe People's Voiceの記事の主張について次のように付け加えています。次のように語っています:

米国FDAが承認したCOVID-19ワクチンには、ナノボットやその他の邪悪で謎めいた添加物は含まれていません。

米国FDAの品質管理、文書化要件、独立研究所の検証要件は世界で最も厳しいものです。

私達のCOVID-19ワクチンは優れた安全性プロファイルを有し、世界中で何十億人もの人々に投与され、何千万人もの命を救ってきました。

私達は、それらが象徴するアメリカの科学における素晴らしい功績を称えるべきです。

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The People's Voice

The People's Voiceは、フェイクニュースを最も多く発信しているオンラインメディアの一つです。同サイトの記事は、しばしば他のサイトからのリンクや引用を多用し、正当性があるように見せていますが、各記事の見出しや最初の段落の主な主張は、提供された情報源によって裏付けられていることは滅多にありません。このサイトは日常的に、人からの引用をでっち上げたり、科学的研究結果を誤って伝えています。

2014 年にYourNewsWireとしてスタートし、2017年にNewsPunchとしてリブランディングしました。2023年には再びThe People's Voiceにブランド名を変更しました。The People's Voice / NewsPunch / YourNewsWireは過去に数多くのフェイクニュース記事を掲載しているため、このサイトに掲載されているものは全て疑いの目で見る必要があります。Media MattnAmericaの2018年の報告によりますとThe People's VoiceのFacebookページは検証チェックマークを失いました。

更に詳しくは

これが書かれた時点で、Vaxopediaも同じ主張を検証していました。

ワクチンとナノボットに関する主張についてのLead Storiesのファクトチェックは、こちらこちらにもあります。

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