新しい研究では、Patrick Flynnの主張とは裏腹に、方法論的な限界があり、COVID-19ワクチンが疾病負担を増加させることを示すことは出来ませんでした。
【主張】
COVID-19「ワクチン接種者」は病気になり易い。
ワクチン接種者はワクチン未接種者に比べてCOVID-19感染率が高く、筋骨格系の問題が増加した。
COVID-19 mRNAワクチンの作用機序を考えれば、これは驚くべきことではない。
【詳細評定】
情報源での記載内容を誤って伝えています:
ワクチン接種者はCOVID-19と筋骨格系の問題の罹患率が高いと主張しましたが、研究ではこれらの結果についてワクチン接種群と未接種群の間に統計学的有意差が認められなかったことに言及しませんでした。
裏付け不十分:
この研究では、自己申告によるオンライン調査を根拠として用いていますが、この調査は、選択的な参加、医療事象の不正確な想起、臨床的検証の欠如、結果を歪める可能性のある未認識の交絡因子といったバイアスの影響を受けやすいものです。
こうしたバイアスは、ワクチン接種を受けた人の健康状態に関する結論を歪める可能性があります。
【キーポイント】
ヒトの健康は複雑であり、医学的結果に影響を及ぼす多くの要因があることから、バイアスを最小限に抑え、正確な結論を得るためには、十分にデザインされた臨床試験が不可欠です。
大規模臨床試験と実世界のデータのいずれにおいても、COVID-19ワクチンの安全性と有効性は一貫して示されており、重篤な疾患や死亡のリスクを大幅に低減してきました。
【レビュー】
2025年2月付のFacebookへの投稿で、カイロプラクターの Patrick Flynnが、COVID-19のワクチン接種者は未接種者より 「病気になり易い」と主張しました。彼はHarald Walach氏とRainer Klement氏による2024年12月の研究を証拠として引用し、ワクチン接種者は医師の診察回数が多く、COVID-19接種率が高く、筋骨格系の問題が増加していると主張しました。Flynn は、これらの影響について特にmRNA COVID-19ワクチンを非難しました。
Science Feedbackは、ワクチン接種に関するFlynnによるいくつかの不正確な主張を以前にも論破しました。また、Walach氏とKlement氏が以前発表したCOVID-19ワクチンの安全性研究は、方法論に重大な欠陥があったため、後に撤回されたことも報告済みです。
Flynnの最新の主張も誤解を招くものです。研究結果を誤って伝えているだけでなく、研究自体がいくつかのバイアスのリスクを伴う方法で実施されたため、ワクチンの安全性に関する結論の信頼性が損なわれているからです。
この研究では何が行なわれたのでしょうか?
研究者らは、COVID-19ワクチンの接種を受けた人が、受けなかった人よりも健康上の問題を報告したかどうかを調査しました。ドイツで約1050人のボランティアを対象に、ワクチン接種の有無、過去2年間の病状、個人的な信条などを質問しました。回答者の約80%がワクチン接種を受けており、20%が未接種でした。
調査結果によりますと、ワクチン接種者は健康上の問題を訴える傾向が強いことが分かりました。ワクチン接種者の約42%が、過去2年間に健康上の問題で医者にかかったことがあると答えたのに対し、ワクチン未接種者では30%で、この差は統計的に有意であることが明らかになりました。
また、COVID-19の感染率も若干高く、ワクチン接種者の約30%が感染したと答えたのに対し、ワクチン未接種者のそれは約23%でした。
研究では、ワクチン接種者の21%が筋骨格系の問題について言及したのに対し、ワクチン未接種群では15%でした。平均すると、ワクチン接種者は約1.6件の健康問題を経験しており、ワクチン未接種者は約1.3件でした。
著者らは、ワクチン接種者は全体的に健康上の問題をより多く経験していると結論付けていますが、この結果を確認または否定するには、臨床データを用いた更なる研究が必要であることを認めています。
Flynnは研究結果を誤って伝えています。
Flynnの主張では、ワクチン接種者はCOVID-19と筋骨格系の問題のリスクが高いという研究結果を示していますが、この研究でのデータによって裏付けられているものではありません。
この研究の著者は、統計的有意性の閾値をp値0.01に設定しています。この研究の文脈では、p値は、ワクチン接種者と未接種者の間で観察された差が偶然だけで説明可能である可能性がどの程度かを示すものです。p値が小さければ小さいほど、観察された差がランダムな偶然で説明出来る可能性は低くなります。逆に言えば、これは偶然とは別の要因が、観察された差を説明する可能性が高いことを示しているのです。とはいえ、p値だけでは差の原因が何であるかを決定することは出来ません。
有意性の閾値を超えるp値は、観察された差が偶然によるものである可能性が非常に高いことを示唆しています。この研究では、COVID-19(0.0535)と筋骨格系の問題(0.059)の両方のp値が0.01の閾値を上回り、その差は統計的に有意ではないことを意味しています。つまり、COVID-19と筋骨格系の問題のリスクにおいて研究者達が観察した差は、単に偶然によるものである可能性があるということです。
統計的有意性は、観察された差が偶然の結果ではなく、意味のあるものであるかどうかを判断するのに効果的ですが、データの収集方法や分析方法における他の潜在的欠陥には対処することが出来ません。統計的に有意な結果であっても、研究デザインやデータの質によるバイアスがその妥当性に影響を与える可能性があります。この点については次のセクションで取り上げます。
研究の方法論的限界によりワクチンの安全性を結論付けることは不可能です。
この研究には、結果を歪める可能性のあるいくつかの重要な限界があり、COVID-19ワクチンが安全ではないという主張を裏付けるには使えないということです。
大きな問題の一つは選択バイアスで、これは参加者の募集方法によってグループ間に差が生じ、結果が信頼性を欠く場合に発生するものです。ワクチン接種群と非接種群に無作為に割り当てる無作為臨床試験とは異なり、この研究はオンライン調査への自発的な参加に依存しています。
つまり、ワクチンを接種した人と未接種の人では、研究に参加した理由が異なる可能性があるということを意味します。例えば、ワクチン接種で副作用を経験したと考えている人ほど参加意欲が高く、逆にワクチン未接種者で医学研究に不信感を抱いている人ほど参加しづらい可能性があります。その結果、この2つのグループは必ずしも比較可能ではなく、両グループ間の健康結果の違いは、ワクチン接種そのものではなく、こうした根本的な違いに影響されている可能性があります。
もう一つの問題は、人々が過去の健康上の出来事を正確に覚えていなかったり、報告しなかったりする場合に起こる想起バイアスです。この研究は2年間に渡って自己申告された健康問題に依存しているため、このバイアスの影響を非常に受け易いものとなっています。例えば、経験した医学的問題、特にそれが軽度であったり、かなり前に起こったものであったりすると、人々は単に忘れてしまうかもしれません。
しかしながら、過去の健康問題を思い出したり報告したりする傾向は、ワクチン接種者と未接種者で同じではないかもしれません。例えば、ワクチン接種を受けている人は、より健康意識が高く、医学的な問題に気付いて記憶している可能性が高いかもしれません。一方、ワクチン未接種群に多く見られる反ワクチン的な考えを持つ人は、ワクチン接種によって予防することが出来たはずの病気が原因である可能性のある症状を軽視したり、誤認したりするかもしれません[1]。
この研究では、これらの報告を医療記録で検証していないため、報告された健康問題が現実を正確に反映しているかどうかを確認する方法はありません。このため、報告された健康結果の違いが、実際の医療事象の違いによるものなのか、単に参加者が自分の健康歴を思い出し、報告する方法の違いによるものなのかは不明確になってしまっています。
三つ目の大きな問題は交絡バイアスで、ワクチン接種の有無以外の要因が健康結果に影響を及ぼす場合に発生するものです。この研究では、ワクチン接種群と未接種群は同等ではなく、ワクチン接種の有無とは無関係に健康リスクに影響しうるいくつかの重要な点で異なっていました。
表1にある通り、ワクチン接種者はワクチン未接種者に比べ、概して年齢が高く、体格指数(BMI)が高く、より多くの薬を服用している傾向が見られました。これらの差は統計的に有意であり、偶然によるものとは考え難いものでした。年齢、体重過多、既往症はいずれも、受診頻度、入院頻度、心血管障害を含む様々 な健康問題の危険因子としてよく知られているものばかりです。ワクチン接種を受けたグループは、最初からこれらの危険因子を多く持っていたということは、報告された健康問題の割合が高いのは、ワクチン接種そのものとは関係がない可能性があるということです。
最後に、結果を歪める可能性のあるもう一つの要因は、医療を求める行動に関するものです。つまり、より頻繁に医師を訪ねたり、より頻繁にCOVID-19の検査を受けたり、定期的な検診を受けたりすることで、病状の早期診断に繋がる可能性があります。ワクチン未接種の人が医者や医療検査を避ければ、そのグループの健康問題は発見されず、過小報告され、より健康であるかのように錯覚されるかもしれません。
この研究では、これらの違いが十分に考慮されていないため、ワクチン接種者と未接種者の間に報告された健康格差は、ワクチン接種の効果ではなく、単に年齢、健康状態、医療への関与の根本的な違いを反映している可能性があると考えられています。
結論
Flynnは研究結果を誤って伝えており、特にワクチン接種者はCOVID-19感染と筋骨格系の問題のリスクが高いと主張していますが、これは研究そのものにおいて統計的に有意な結果ではありませんでした。
WalachとKlementの研究は、COVID-19ワクチンが健康問題のリスクを増加させるという信憑性の高い証拠を提供していません。対照的に、他の研究ではCOVID-19ワクチン接種後の全体的な健康状態の低下は報告されていません[2]。
著者らは、ワクチン接種者がより多くの医学的問題を経験したと報告していますが、その調査結果は、バイアスが生じ易く、医学的検証に欠ける自己報告式の調査データに依拠しています。年齢、既往症、医療を求める行動の違いが結果に影響を与えた可能性がありますが、研究のデザインではこれらの要因を十分にコントロールしていませんでした。
引用文献
1 – Salmon et al. (2005) Factors associated with refusal of childhood vaccines among parents of school-aged children: a case-control study. Archives of pediatrics & adolescent medicine.
2 – Elisabeth O’Regan et al. (2024) A register and questionnaire study of long-term general health symptoms following SARS-CoV-2 vaccination in Denmark. Vaccines.